おつかれさま

葦原さとし

 

帰り道、ちょっと一服したくなってチャリで公園に向かった。

もう日付も変わろうという時刻だし、人気もないだろう。

広々とした場所で一息つきたい。


そこは近頃珍しく、大きな樹が多い、遊具などはまばらな古い庭園風の公園で、わたしのお気に入りだ。

まだ、日本が豊かだった時代に造られたんだろうな。


……ん?


誰かがチャリで公園の中を走っていく。


あ、お巡りさんか。深夜の巡回か。

しかし、なぜこんな時間に誰もいない公園を?

最近、公務員は義務付けられているらしい、あのヘルメット夜でも目立つよな。


まあしょうがない、面倒だけど反対側に回り込もう。

目の前で一服するのもなんかアレだし。

向こうも立場上なんかひとこと言わなきゃならんだろうし。

結構広い公園なんだよな。

反対側にもお気に入りの場所はある。


……?


なんだ?


あのお巡りさん、こっちに向きを変えたぞ。


なんだよ、わざわざこっちが避けてあげているのに。


おいおい、こっちは単に一服したいだけなのだ。

時間の無駄だって。


んんっ?人数増えてないか?

それになんか急に強烈な尿意も催してきたぞ。


あ、そういえばあそこにトイレがあった、とにかく急がねば。


スピードを上げる背後から、なにやらペダルを踏む気配が追って来る。


勘弁してくれ。


逃げてるんじゃないって。


単に急いでるだけなんだって。


推し迫ってくる気配を敢えて無視したまま疾走し、わき目もふらず公衆トイレにチャリを横付けして、鍵をかける。と同時に、お巡りさんたちがバラバラと押し寄せてきた。


三人?

また増えたのか?


まあいい、とりあえずトイレだ!

駆け込もうとするわたしを遮るように、脇から先頭のお巡りさんが歩み寄り、

「あのぅ、すみません、番号確認させてもらっていいですか?」


ちょっ……漏れそ…


「ああ、どうぞ、どうぞ、すみません、いま、ちょっと…」


「ああ、お小水ですね、どうぞ、……一応お名前だけ聞かせてください」


名前を告げ、慌ててトイレに駆け込む。



間に合った……


背後から番号を問い合わせる声が聞こえてくる。


まぁ、そんなことだろうと思ったけど、ちゃんと登録はしてあるから。

にしても何故三人?

三人組は初めて見たぞ。


「どうも失礼しました。」

手を洗っているわたしに、先ほどのお巡りさんは笑顔で言う。


「お疲れ様でした」何故か笑顔でわたしも返した。

あとの二人は既に走り去っていた。


本当にお疲れさまだ。

お巡りさんを見送り、いつものお気に入りの場所まで移動した。


ここは見晴らしがいい。

目が慣れてくると、こんな時間だというのに結構人出があることに気が付いた。


ベンチに寝転んでいる人もいる。なにやら小声で話し込んでいる人達もいる。ゆっくり散歩している人も。

寝苦しい夜、皆、私同様涼を求めてここに来たのだろう。

大きな樹が多い場所は、それだけで空気が清々しい。

何故か今夜は蝉も静かだ。


なるほどね。

深夜に人出のある公園、それでか。

お巡りさんも大変だな。


わたしは一服させてもらうよ。




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おつかれさま 葦原さとし @satoshi_ashihara

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