第11話
「さて、まずはここを安全な場所にしよう」
冴島は控え室のドアを開けて外に出ると、首を切断されて脳が破壊されていないゾンビの頭に対して
愛梨たちの脳で待機していた術が簡単に解除できたから予想はしていたが、思った通り
・・・魔術を知らない地上が対象だったから基本のみなのか。それよりもなぜ期限を設定している?・・・
冴島は記憶を探って自分で考えるのではなく、頭の中にいる擬似人格の
「おい、
独り言のように呟くと、頭の中に擬似人格の
【
「28日という期間に地上を混乱に陥れて、一定の被害を与える必要があるということか...」
擬似人格の
術に期限が設定されている理由を考えながら、冴島は
「このフロアのゾンビは全て無効化しました。この部屋に近づくとゾンビの術が解けるようにしたから安心してここに閉じこもっていられます」
自分の身の安全が確保できたことで2人の身体から力が抜けたように感じた冴島は、
「ご家族に連絡した方が良くないですか? 携帯が繋がるかわからないですけど連絡したらどうでしょう?」
と、2人に提案した。
2人は冴島の意見を聞いて、ハッとして各々スマートホンで家族に連絡を取ろうとした。
「ちょっと待って!」
電話をかけようとする2人を冴島は静止した。
「今、日本ではこのゾンビ騒動は東京と
愛梨はスマートホンの住所録から大阪にある実家の電話番号を検索しながら問いかけた。
「それじゃあ遠い場所に住んでいる人達や、東京と大阪から離れたりすれば安全なんですね」
「必ずしもそうではないです。ゾンビにはなっていないけど東京で術が脳に
「それじゃあ結局はどこも安全じゃないんですね...」
伊吹が不安そうに呟いた。
「この術自体の拡散スピードはとてもゆっくりなんです。一気に広がるよりもゆっくり広がることで恐怖心を
「あの、私の家族は千葉県に住んでいるんですけど...」
「それならギリギリ間に合うでしょう。急いで北に逃げるように伝えてください。いっその事北海道まで行ってしまえばより安全だと思います」
「
愛梨の言葉に冴島は元妻の居場所が大阪だと知った。
・・・今は大阪に住んでいるのか。実家は熊本のはずだが・・・
だが、それを知っても冴島には特に感じるものは何もなかった。
「それだったら九州に逃げ込むのが良いでしょう。どうせだったら鹿児島辺りまで行ってしまえばさらに安全だと思います」
愛梨と伊吹の様子を見ると、2人は家族に一刻も早く電話をしたくてウズウズしているようだった。
「それから移動先で4週間ぐらい閉じこもっていられるぐらいの食糧と飲み物を確保するように伝えてください。この術はあと25日ぐらいで無効化されるからです」
「期間があるんですか?」
「理由はわからないですけど、この術には期限が設定されていました。その期間を耐えればゾンビはいなくなるし、脳に待機状態の術があったとしてもそれも消失します」
その言葉を聞いて2人は自分の家族に電話をかけ始めた。
冴島はふと尾上を見ると、彼は家族に電話をしようともせずに何かを考えている様子だった。
愛梨と伊吹が家族への電話をし終わるのを待っている間、冴島は
だが、
だが、さらに考えなければいけないのは、ヘリポートの
伊吹は電話を終えると
愛梨は伊吹にだけ聞こえるぐらいの小いさな声で、
「イブさん...もしかしたら
「えっ? そういう風に見える?」
伊吹はちょっと驚いた顔をする。
「はい、ずっと見てるじゃないですか。いつものイブさんと雰囲気違うし」
伊吹は少し恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「命を助けてもらったからなのかな...すごく気になっちゃう」
「でも、何者か全然わからないんですよ? 銃を撃ちまくって魔法を使うとか...それにゾンビのことやけに
「だけど助けてくれたじゃない。愛梨ちゃんのこと助けに来てくれたんだよ?」
「でも、私、あの人とは初対面ですし、助けるように頼んだ人だって名前も聞いたことないんです。何か企んでるんじゃないかって思っても不思議じゃないですよね」
「愛梨ちゃんは湊さんのことカッコいいと思わない?」
「う〜ん...私、イケメンな人ってタイプじゃないし...」
「愛梨ちゃんは
伊吹は小さく笑いながら愛梨の顔から視線を
家族には北海道の方に逃げるように指示をしたし、今いる場所を湊大地は安全なところにしてくれた。少し気が楽になると、彼と話をしてみたくてウズウズしてきた。愛梨にも言われたが
自分は面食いではないと思っているが美男子が嫌なわけではない。伊吹は
ゾンビに噛まれた傷が治るどころか新しくなった腕を治した魔法について質問をしたら
「あの...
「ええ、良いですよ」
「この腕に仮に手術
冴島は伊吹の疑問に感心した。
「沢田さんは着眼点が素晴らしいですね。その場合、2つのパターンがあるんです」
冴島は右手でVサインを作り、2つパターンがあるというのが可視できるようにした。
「2つのパターン?」
「ええ、2つあります」
「あの、なんだか敬語みたいなのだと話しづらいし普通に話してください。年も近い感じですし、私、仕事以外はそういう方が落ち着くので」
「わかりました。それじゃあ、少し
「手術は後天的なものだからですね」
「その通り。もう1つのパターンは...皆さんは知り得ないことなのですが、別次元にある自分の
「別次元...?」
「私たち生命体は別次元に自分の魂や記憶、肉体の情報が保存されていて、それらが次元を
冴島は少しずつ
尾上は何を言っているのか理解できないという顔をしながらも興味があるのか真剣に聞いている。
「その別次元のミラーコピーは定期的に情報が書き変わって、身体が成長すればミラーコピー側も成長に合わせて更新されるし、記憶も同じように新しいことを覚えれば更新されていくわけです」
伊吹が何か思いついたような顔をした。
「わかりました! 手術をした後の情報がミラーコピー側に更新された後にミラーコピーを基に腕を再生したとしたら、再生された腕には手術痕が残るわけですね」
普通の女性なら必ず美男子というであろう
「正解!」
伊吹は得意げな顔で嬉しそうに微笑んだ。
「その生命体が死ぬと、その強固な糸が切れるのですか?」
尾上は理解が及ばないながらも
「そうです。生命体が死ねば肉体は滅びます。そうなると肉体のミラーコピーは削除されて次元を
「
「そうなのかもしれないですね」
「でも、どうしてそんな風になっているんですか?」
伊吹が不思議そうな顔をして冴島に訪ねた。
もっともな疑問だった。
「それは俺を含む魔法使いや魔導師という人たちも誰も知らなくて、その仕組みを魔法を使って利用できるということを知っているだけなんだ」
「でも、そういう仕組みで失われた腕が簡単に元に戻るのだったら死んだ人も生き返らせたりできそうですよね...」
と、
「俺は見習い魔法使いだし、死人を生き返らせる魔法は知らないなぁ。それにそんな魔法があっても
愛梨にも友達のような感じで話しかけてみる。なるべく
「はい、職場で仲が良かった人もたくさん目の前でゾンビになって死んでしまったから...」
冴島は
「でも言えることは、それをやったら全員生き返らせなければならないということかな」
尾上は
「生き返る人を選別することになるかもしれないということですよね?」
「そういうことです。それと
そのように言うと、冴島は頃合いと判断してヘリポートへ向かうために立ち上がった。
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