第12話
「それじゃあ、俺はやることがあるから3人はここにいてください」
「えっ! 行っちゃうんですか?」
伊吹は驚きの声を上げた。
「さっき言ったようにヘリポートに行く用事があってね」
子供相手にするようにおどけた感じ言ってみる。
・・・
先ほど彼らに説明した記憶や魂といったものも、正直自分でも理解できていない。しかも今の自分は別人の肉体を借りている状態だけに、湊大地の影響を大きく受けても不思議ではないと冴島は思った。
この部屋は安全だと言われても、湊大地がいなくなることに伊吹は不安を覚えた。
「でも...あの...ついて行ってはダメですか?」
「この上はどうなっているかわからないし、今まで以上に危険なのは確実だから連れていくことはできないかな...用事が済んだら必ず戻ってくるから」
「あの...私も行きます」
「いえ、あなたもここで待っていてください」
「ヘリポートに行くには鍵が必要だし、途中のドアも権限がある社員の社員証じゃないと通り抜けできないんです。私、これでも管理職だから権限あるんですよ」
首から下げている社員証を得意そうに冴島の目の前に差し出す。
冴島としてはそんなドアは破壊してしまえば良いだけなのだが、なるべく音を立てず、魔術も極力使わずにヘリポートに近づきたいのは事実だった。
魔術を極力使いたくない理由。それはヘリポートに魔術師がいた場合、敵の近場で魔術を使うことによって自分の存在を気づかれる可能性があること。こちらは1人。敵は何人いるかわからず、しかも魔術師以外がいる可能性がある。直前までこっちが魔術師であることを知られたくない。そのために術を使う時も
ここまでくるのに魔術の練習を
冴島は湊大地の肉体にある
・・・ヘリポートに行くまでは魔術を使うのは控えた方が良さそうだな。胸の
しかし今使えるカードで今後の戦い方を考えなくてはならない。銃でドアを破壊すれば良いのだが尾上が行きたいというのなら、使えるカードと考えて連れて行くのも良いだろうと考えた。
・・・まあ、ドア開け要員として連れて行って、途中で追い返せば良いか ・・・
そのように考えて尾上の申し出を受け入れた。
「それじゃあ、ちょっと向こうのオフィスにある総務部のところから鍵を持ってきます」
そう言うと尾上は部屋から出て行った。
ここが安全だと言われても、さすがに自分がいなくなるのは
「ドアに鍵をかけて、ここにいて音を立てずに立てこもっていれば大丈夫。1、2時間ぐらいで戻ってくるから」
・・・戻ってこられる自信なんてないが、愛梨のためにもなんとしても戻ってこなければ・・・
「絶対戻ってきてくださいね」
悲壮感が漂う表情で伊吹は
「2人をここから助け出さないといけないから必ず戻る」
伊吹が自分を頼っていることが痛いほどわかった。
・・・愛梨を助けるだけでも大変なのに、もう1人なんてどうかしてるな俺は。やはり
そんなことを考えながら、冴島はどうしてここにいるのか改めて考えた。
自分は
冴島は病魔に侵され
尾上が部屋に戻ってきた。手には赤いプラスティックのタグがついた鍵が握られていた。
「ヘリポートに出る鍵です。そこまでは私の社員証で行かれますから」
冴島は頷いた。
本来であれば魔術を使って空からヘリポートに行けば良かったのだが、愛梨を助けることを優先したためにビル内部から屋上に行く羽目になってしまった。屋上で待ち構えているであろう敵はビル内部でゾンビ連中相手に魔力を使って
・・・地底世界の魔術師は飛行魔術を使って空からヘリポートに登ったのだろうし、敵対する魔術師も同様だと考えるだろう。だがビルの中に空間転移できなかったことを考えると空中からの接近も無理だったかもしれないな・・・
愛梨を助けることを優先した結果だと冴島は考え直すことにした。
控室を出る時にドアに伊吹に鍵を閉めさせる。そして冴島は
冴島は20階に近づくほどゾンビが多いことに気がついた。下の階よりも明らかに多かった。ヘリポートで
意図的としか思えなかった。
・・・やはり上にいるな。下層階でゾンビが多くなるのは理解できる。外からビルにゾンビ達が入ってきて仲間を増やすからだ。だが上層の各階に大量にいるのはやはり不自然だ・・・
20階に到達するとフロアに通じる防火扉の前で
「考えていても仕方ないな...尾上さん、20階は通路をゾンビ達が埋め尽くしています。階段を少し降りて離れていてください」
「は、はい...」
尾上は冴島に言われた通りに階段を降り、踊り場で待機する。
冴島は小銃を構えるとセレクターのボタンを押して実体弾から風魔術に変更して、もう一つのセレクターのア・タ・レのアの”安全”からレの”連射”に切り替えた。右
だが
冴島の
吹き飛んだ扉は目の前にいたゾンビ達を巻き添えにするように通路の壁に激突すると、壁を突き破って突き刺さった。扉と通路の壁に挟まれたゾンビ達は原型を
連射された風魔術は銃口を向けた方向でゾンビ達をバラバラに切り裂いていく。狙いをつける必要はなかった。辺り一面、かつては人間だったものが風魔術でバラバラになり、肉塊とどす黒くなって粘度の高くなった血液や体液が床一面を
弾切れを起こすことのない魔術の連射は、視界に入る範囲のゾンビ達を全てバラバラにし、ゾンビ達で埋め尽くされていた通路をスプラッター映画の一場面のようにグチャグチャにした。飛び跳ねた肉片や血が飛び散り通路の壁にへばりついている。
冴島は尾上に声をかけた。踊り場で待機していた尾上は階段を駆け上がり20階に上がるや否や、あまりの惨状に耐えきれず通路上に
尾上の姿を冷静な顔をして横目で見下ろしていた冴島は、戦場の死神と呼ばれていた時の自分に戻っているような気分になっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます