第4話
「まず聞きたいのだが、その練習や制御に費やせる時間はどのぐらいなんだろうか」
冴島は疑問を口にした。
「まずは魔術や魔法を発動させるエネルギーを取り入れ変換する
「長男の
ニッコリと微笑んだ美しくも可愛らしい
「そんなに短期間でなんとかなるものなのですか?」
「いえ、普通は子供の頃から何年もかけて19ある
・・・5日を1ヶ月相当にする魔法なんてものがあるのか。それはそれで助かるがかなりの詰め込み学習になりそうだな・・・
「まあ...お手柔らかに頼みます...なんて悠長なことは言っていられないでしょうね」
「はい、残念ながら・・・術が使えるようになったら次は私や私の護衛たちと実践経験を積んでいただきます。大怪我や腕や脚が吹き飛んだり...みたいなこともあると思いますけど、私が責任をもって魔法でちゃんと治しますから安心してください」
「腕が吹き飛ぶ? そんなものが治るんですか?」
美しい顔立ちから恐ろしい言葉が飛び出してきて冴島は驚いた。
「魔術では治せません。でも魔法なら可能です」
冴島の眉間に皺が寄った。
「先ほどから魔術と魔法という言葉が出てきているのですが、どう違うのですか?」
「今お話しした部分で言うと魔術は生物の肉体を制御したり修復したりできません。せいぜい細胞の自己治癒能力を増幅するぐらいなんです。逆に魔法は可能なんです。怪我の痛みをブロックして痛みを感じなくさせたり、欠損した四肢を完全に修復することもできます」
「そんなことができるんですか?」
「はい、ある意味魔法は万能に近いんです。もちろんできないこともありますけど・・・」
冴島は魔法には言いにくいことがあるということに気づいたが気づかないふりをした。
「それ以外には何が違うのですか?」
「原理的な部分でいうと、魔術も魔法も別次元のエネルギーを
「そんなに大きな違いには感じないのですが...」
「そうでしょうね。でも魔術と魔法は体系や仕組みが根本的に異なっているんです。冴島さんは
「要するに、魔術師は魔法使いに勝つことはできないということですか?」
「そうです。魔法使いの魔法防壁を魔術は破ることはできないし、魔術師の使う魔術防壁は魔法を防ぐことができないんです。しかも威力も圧倒的に異なります」
なぜ湊大地が選ばれたのか、冴島はやっとその理由がわかった。
「もしかしたら、湊大地君以外にも地上世界には魔法を使える可能性のある人は少数ながらいるのですか?」
「はい、でも
冴島は突然自分が魔法を使うことのできる肉体を持っていると言われたことに驚きを隠せなかった。
「私が? 魔法を使える?」
「はい、眉間の
「そんなことはどうやって調べたんですか?」
「魔法です。地上世界に向かって地下世界から魔法を使ったんです」
「地上にいるすべての人に対して?」
「はい、人工衛星も利用したみたいですけど」
「人工衛星?」
「地上世界の人工衛星をハッキングして魔法を転送して放出するハブとして利用したんです」
「人工衛星のコンピュータをハッキングして魔法を放出? ダメだ、私の頭では理解できないな・・・聞くだけ無駄なようだ」
冴島は困ったような顔をして頭を掻いた。
「魔法はほぼ万能と言ったじゃないですか。物理的、化学的、電気的な制御を魔法が制御できない理由がないんです。それに
冴島の思考を遮るように加多弥は続ける。
「冴島さんが選ばれたのは精神力だけが理由ではないんです。冴島さんの精神部分が別次元のエネルギーを法力に変換して制御する仕組みを利用できるから・・・」
「そうか、元々の自分の肉体が魔法を使うことが可能だからなのか」
「はい、その通りです」
「それと...人を殺しても耐えられるメンタルの強さかな・・・湊君は無理だろうし・・・」
「それは戦争で自国を守るために仕方なくやったことなのではないですか?」
「理由はどうであれ人殺しに変わりはないですよ。自分には家族がいて守りたい人がいて攻めてきた相手を殺した。でもその殺した相手にも愛する人や家族がいたんです。それはどんな言葉を使っても変えることのできない事実ですから。今回のこともそうです。あなたの弟とその配下が私の守りたいものを壊そうとするかもしれない。だから私は戦う。あなたのもう一人の弟は私のそういう気持ちを利用しようとしている。それだけのことです。守るべきもののない湊大地君にはできないでしょう」
「申し訳ありません...私の弟の仕出かしたことの始末を全く関係のない冴島さんと湊さんに押し付けてしまって...」
「いや、私は私で不治の病を治してもらうことを目的としているんです。
「弟は国王であり実の父親を殺した犯罪者です。私の国では死罪です。国の法律で裁かれても死刑は確実です。自国で死刑になっても、冴島さんの手にかかったとしても結果は同じです」
床を見ていた
「わかりました。今の国王には生きたまま捕らえてくれてもいいし、殺してもいいと言われています。約束はできないですが、生きて捕らえられるように努力しましょう。いくら結末は同じでも貴女にとって弟さんと話ができる時間は必要でしょうから」
「さてと、まずは機械で
綿津見は加多弥を一瞥すると、冴島を促した。
「それでは私についてきてください」
冴島は先を歩く綿津見について行くと、先ほど通ってきた通路の別の部屋に通された。冴島のそれこそ命をかけた特訓が開始された。
1週間後、
冴島は筋力トレーニングを終えると、疲労やトレーニングで破損した筋肉などの肉体の損傷を回復させる回復用タンクの液体に2時間程度入って疲れを癒した。タンクから出てシャワーを終えた後に自分にあてがわれた部屋から出たところを部屋の前で待っていた綿津見に声をかけられた。
「加多弥様が至急おいでくださいとおっしゃっています」
綿津見に連れていかれたのは謁見の間を小さくしたような部屋だった。部屋の奥に加多弥が座っていて左右には護衛の者たちが立っているのはいつもの通りだった。
「急ぎの用事と聞きましたが...」
加多弥が頷くと同時に冴島の正面上方に突然横長の映像が表示された。
「これを見てください」
空間に表示されている映像は目を疑うものだった。映画としか思えないその映像では人が人を襲い引き裂き食いつき食い殺していた。
「これはなんですか? 私たちの世界の映画のようにも見えますが」
「違います。これは日本だけでなく他の国でも同時多発的に起きている現象です」
『惨跛だな、これは』
「ザンビー・・・?」
疑似人格の宿禰の言葉を繰り返す。
「そうです。惨跛という魔術によって引き起こされていると思われます。魔術の知識がない敵国を混乱させるための魔術です。敵の兵士以外の国民までも殺戮対象として、戦意を喪失させ、インフラを破壊し敵国に壊滅的な被害を与える術です」
加多弥の目が悲しげな色を浮かべている。
「戦略級の魔術ということなのかな・・・こんなことをするのはあなたの弟ということで間違いないのかな? 未知の伝染病とかではないのですか?」
「私の知る限りこのような病気はありません。死んだ人間が蘇って人を襲うなんて病気は存在しないでしょうね」
「でも惨跛という魔術ならありうると?」
「はい、惨跛はそういう目的で創られた魔術ですから」
『おい、あんたには俺の記憶があるんだ。思い出せるだろ?』
疑似人格の宿禰に言われて記憶を探す。
惨跛の術の詳細が自分の記憶のように思い出されてくる。
惨跛の術を発動させると周囲に術がゆっくり広がり、呼吸や目、耳、口、傷口などの開口部から術が体内に侵入して脳に到達すると術は待機状態になる。死ぬと術が発動して肉体を操作される。術が発動した動く死体に噛まれたり引っ掻かれると発動した状態の術が体液に乗り脳に到達するとその肉体を死に至らしめ身体を乗っ取る。生きた人間の肉体を食べるのは相手に恐怖を植え付けるということと術を継続させるために死んだ肉体を動かす燃料とするためである。ただし肉体の腐敗を防ぐ効果はなく肉体が崩れ落ちたり術を継続する燃料がなくなるか術の指定期限になると、動く死体は動作を停止する。
惨跛の魔術式、詠唱文そして魔術陣が術の詳細と同時に脳裏に浮かび上がってきた。
「まさしく映画のゾンビだな...」
「おそらく地上で惨跛の術が使われたことがあるんでしょう。それが口伝として残ったものを映画というものに使ったのではないでしょうか」
「地上に魔術が存在したんですか?」
「説明していなかったですね。昔、地上の人々はあらゆる天災から逃れるために地下に避難して、そこに地下帝国を築いたんです。地下に行かなかった人たちが天災を生き延びて今の地上世界が出来上がったんです。その時代には魔術も魔法も存在していましたし、
喋る
「弟さんを探すよりもこの術を止めるのが先か・・・いや、待てよ・・・術を発動した者がいる可能性があるな。綿津見さん、日本以外でも起きているんですよね?」
「はい、国土の大きさに関係なく起きているようです。インターネットを調べ、軌道上の衛星をハッキングして調査解析していますが現在13カ国で発生しているようです。」
「ほぼ同時に?」
「はい、ほぼ同時期に発生しています」
眼前の映像の横に世界地図が表示される。地図には複数の赤い光点が明滅している。
「東京、大阪、ニューヨーク、北京、ロンドン...先進国で人口が多い都市で発生しているようだが...何か理由があるのだろうか」
「冴島様のおっしゃる通り、人が密集していてエネルギー分布が集中している場所で発生しています」
冴島は右手で顎を掴むようにして考え込む。
「世界中の大都市で惨跛の術を行使する必要性があるということでしょうね。綿津見さん、何が考えられますか?」
冴島は異世界の超科学力を頼るのが一番だろうと考えた。
「申し訳ありません。データが少なすぎて分析が難しいのですが...世界中で同時多発的に起こしているということは自分達がやろうとしていることの邪魔をされないようにということなのではないかと...」
綿津見の反応はとてもコンピュータが搭載されたヒューマノイドには見えなかった。わざと人間のような反応をするように創っているとしか思えない。
「現状、世界中で惨跛の術が発動していることぐらいしかわからないなら、ここで考えていても仕方ないでしょう。私が現場に行って何か気づくことがないか見てきます」
「わかりました。弟の部下たちがいるかもしれませんから気をつけてください」
加多弥は背後に控えている護衛の一人に声をかけた。
「
「お言葉ですが、私は
優しげで少し垂れ目の可愛らしい
「私のお願いが聞けないのですか?」
・・・命令ではなくお願いというのか。やはり少し変わってる感じがするな・・・
二人のやりとりを見ながら冴島は思った。
「ここにいれば私は安全ではないかしら?
「犯罪者たちの
「でも、ここは地下100mの空洞にあるのだし、欺瞞技術で存在すらわからないはずよ。それでも危険かしら?」
もう一人後ろで控えている若い女性に視線を向ける。視線の先には10代中頃のウェーブがかかった赤毛で童顔の白人の少女が立っていた。しかも彼女の耳は通常の2倍ぐらいの長さで先端が尖っている。
「私も
「
「あー、私は最初から1人で行くつもりだったから気にしないでくれ」
冴島は護衛全員に否定されて困ったような顔をしている加多弥に視線を送りつつ護衛達に声をかけた。
「ですが、まだ冴島さんは訓練中ですし阿修羅は役に立ちますから」
「いえ、どうせ遅かれ早かれ独りで行動しなければいけないんです。今がその時ということです」
「でも...」
「さっきの映像は日本のどこですか?」
「東京の新宿駅近辺です」
「ここから新宿駅へはどうやって行けば良いですか?」
「冴島様がここにきた時に使った空間接続装置を使って新宿駅近辺の空間と、こちらの空間を接続してあちらに移動していただきます」
「病室のトイレがこちらの施設のドアにつながっていたような感じで移動するわけですね」
「はい、その通りです」
通路の方に向き直り肩越しに
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます