第7話 理由
あとから思い出すと、鳴海はずいぶんと、ばつが悪かったの違いない。目の前で女の子が泣いている。たぶん離れた席にはクラスの連中がいたはず、どう見ても別れ話。こうなることを予想していて、鳴海は奥の離れた席をとっ他に違いなかった。
「じいちゃんさ、警察のまあまあ偉い人だったんだ。それもあって俺も小さいころから剣道習っててさ、知ってた」
ここあは首を横に振った。サトシさんそんなこと、一言も言ってくれなかった。でも当然かもしれないとここあは思った。もし知っていたらすぐにブロックしたはずだ、どう考えても補導されるに決まっている、そう思うのが普通だと。
「あ、ごめんな、話があちこち行くけど。じいちゃん、肝臓がんだったんだ。多分、原田さんと知り合ったころにわかったはず。原田さん高校の制服の写真をその……」
ここあは顔が真っ赤になるのを感じた、自分のしてきたことがばれている。
「ま、いろいろあるさ、俺は気にしないし、詳しくは知らないから、そこは飛ばそう」
鳴海はやっぱりサトシさんに似ている。確かこういうのを血は争えないっていうんだっけ。ここあは不覚にも優しいなと思ってしまった。
「それで、昔の部下に調べさせたんだって。偶然にも俺と学校一緒だってわかって、自分が死んだ後のこと俺に託そうと思ったんだとさ」
そんなこと勝手に思われても困るというのがここあの本音だっ。第一託された鳴海も困るに決まっている。
「あ、託すって言ってもねえ、俺は何もできないけど。まあ君みたいな美人だと知ってがぜんやる気にはなってるんだけどね」
ここあは思わず笑ってしまった、話し方とノリがサトシさんにそっくりだからだ。
「あ、やっと笑ったね。笑顔のほうが可愛いよ、これじいちゃんから。君に渡してくれって」
鳴海はカバンの中からレターバックと取り出すと、ハイとここあに差し出した。住所も何もなく原田ここあ様とだけ書いてある
「どうする、帰って読むかい。それともここで読む、俺としてはここで読んでくれた方がいいんだけど、もう少し話もあるし」
ここあは頷くとレターパックを開けた。中には数枚の白い紙、手紙だろう、それと茶封筒、あけると数十枚の紙幣が入っていた。表に卒業そして就職祝いと書いてあった。どっちもまだなのにと思うと笑顔とともに涙が出てきた。それを見て鳴海はだまってハンカチを差し出した。
手紙はこれを読む時には私はもうこの世にいないだろうという書き出しで始まり、これからも頑張れ、しあわせになれ、孫はいい奴だから頼ってもいい、ざっくり言うとそういうことが書いてあった。そして最後にありがとう最後の生きがい楽しかったとしめられていた。
それを読んで耐え切れずに、ここあはまた泣き出した。鳴海はちょっと汗臭いかもと言いながら、今度はタオルを差し出した。彼の匂いがする。サトシさんも同じ匂いだったのかと思うと、ここあはまた泣いた、泣いてばかりだと思ったが仕方がなかった。
ひとしきり泣いたここあが落ち着くのを見計らって、鳴海は何か頼もうかと言た。大丈夫じいちゃんから必要経費でもらっているからと付け足し、笑った。
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