第5話 転換点
そんな時にサトシがメールをよこしてきた。最初は写真を買ってくれたが、すぐに日常の話になり、すぐにかなり踏み込んだ話をするようにもなってしまった。そんなところはここあもおなじだった。サトシさんて話の持っていき方がうまいと思いませんか、もかの意見だけれどここあもつい頷いてしまった。
今もまだ裏をやっているのと尋ねたら、予想通り残しているだけという答えだった。因みにここあのアカウントは凍結されたのでそのままだ。
もかとサトシが話しているアプリはここあも同じものを使っている。そのことを話したら、モカは私ともお話してもらえませんかという返事をよこしてきた。ここあもそう思ったからこそアプリの話を持ち出したのだ。なんとなく、もかとは友達になれそうな気がした。
「もかさんと話をしましたよ。サトシさん私以外にもいろいろやってるんだ」
「いろいろやってるってのは人聞き悪すぎだろ。そうか、もかもいい子でしょ。友達になれそうかい」
ここあはサトシとメールでやり取りするうちに、少しづつ今までの生活を見つめなおすようになった。家を出よう、高校を卒業したら寮のある会社に就職しようと思っている
「あと数か月、高校卒業するまでは、どうするの」
「バイトします。もちろん普通の」
それでうまくいくはずだった。しかしここあの母親はそれほど甘くはなかった。急に家賃を払えと言いだしてきた。全額といわなかっただけましかもしれない。それでも三分の一、金額にすればそれだけで五万を超える。そんなお金払えないと言ったら、体を売ればいいと真顔で言われた。久々に言われた言葉だ。反射的にこぶしを握った。ここあが家を出る前に、有り金全てを巻き上げるつもりだということがわかった。
「何とかするさ、諦めないで」
サトシはたしかに頑張ってくれた。何があっても体を売ってはいけない、そういってとりあえずのお金を送ってくれた。でもやっぱり体を売らなければ、ママの要求にはこたえ切れない。ここあはあきらめようと思った。
「いいのかそれで、とめはしないけれど、一生そうやって生きていくのか、金ぐらい出してやる、ここあがそれじゃ申し訳ないというなら、働き始めたら返せばいい」
ここあはバイトを始めた、幸いなことに既に卒業に必要な単位は足りている。朝から晩までここあは働いた。
今回も母親の話は一過性のものだったようだ、もちろん家賃を払えと言うのは本気らしかったが、とりあえずいくばくかの金を入れると猶予期間が生まれた。そういえば、母親のこの態度は、今に始まったことではないとここあは思い出した。
不思議なことにやればなんとかなった、確かにサトシからの援助は必要だったが、それでも卒業までには、母親の要求にもこたえられそうだ。希望が見えてきた、本当はもともとどうもなかったのかもしれない。ここあが楽な道に走っていただけ、だったのかもしれない。
そんな日常が穏やかに過ぎ、卒業まであと二か月、いつの間にかサトシのメールは減ってきていた。朝と夕それだけは欠かさずきていたが、ある日を境に全くメールが来なくなったのだ。こちらから連絡をしたくても、ここあにはサトシに連絡する方法がなかった、住所も電話も知っているでも、なんて言ってかければいいんだ。ここあは急に寂しくなった。サトシからも見捨てられたのか、どうしよう、なんとなく頑張る気力がなくなった。
もかに連絡した、彼女の方も連絡が途絶えたらしい、そしてここあと同様に悩んでいた。そして二人が出した結論は、自分たちはもう大丈夫と思われたんだろう。ということだった。
そんなの勝手すぎるとここあは叫びたくなった。まだ何も大丈夫じゃないよ、見捨てないで。
「私、もう一度裏やってみる、彼から連絡来たら文句言ってやる、うん、そうする」
もかは、どうするか悩んでいるみたいだけれど、とりあえずここあはアカウントを復活させた。連絡が来たら、もかにも話す約束をしたのは言うまでもない。
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