第3話 なんで

中三の夏に、男に聞いたらあっさりと答えてくれた。一回当たり三万、ほとんどが母親のものになっていると知って、ここあは母親に詰め寄った。


 その時の母親の言葉をここあは今も覚えている、あんた客探せるの、ホテル代どうするの文句があるなら勝手にしなさい。それで高校の学費も生活費も、すべてここあが自分で払うことになったのだ。自分で客を探して寝ることもあるが、もう少し楽に稼がなきゃ体がもたないと思って始めたのが動画販売だった。


 でも動画が売れないとなると、体を売るしかなかった。ここあにはほかに選択肢は考えられなかった。


 けれどもサトシは、体も求めては来なかった。何の見返りもなく、泣きつくと金を出してくれた。そうなると不思議なもので、徐々にここあはどうしてもサトシと寝たくなった。そうして、カッコつけた彼の仮面を、はがしてやりたいとも思った。どうすればサトシが自分のものになるか、ここあは考え抜いた。


 ことさらお金をねだることにした。罪悪感はなぜかなかった。実際食べる物にも電気代にも困っていたからかもしれない。昼ご飯代がない、ナプキンが買えない。どれも嘘ではない。サトシはメールすればお金を送ってくれた。


 サトシはどこまでもわがままを聞いてくれた。それでも彼は何の要求もしてこない。それはそれで気味が悪い、そこまでは言わなくても落ち着かない。それまでそんな男にあったことが、なかったからだ。


「私とやりたくないの、私のこと嫌いなの、逢ってよ、抱いてよ 」

 とうとうここあは自分から言ってしまった、演技以外で心から言ったのは初めてだ。

「高校生とエッチをしてはいけないってしらないの、卒業したらいくらでも抱いてあげるから」


 からかわれている、そんな気がした。でも何のために。サトシがここあのために使った金額は、もう二十万円を軽く超えている。クリスマスプレゼントといってキックボードを買ってくれた。ここあが生まれて初めてもらったクリスマスプレゼントだった。イヤホンを片方落としたと言ったら買ってくれた。どう考えても普通じゃない。


「その人のアカウントあるんだよね。じゃあここあ以外の人もフォローしてると思うなあ。その人たちに連絡してみればわかるんじゃないの」

 小学生の時からの友人に相談したら、彼女は笑いながらあっさり言った。ここあのことをみんな分かっていてよく食事なんかに呼んでくれている子だ。ふだんはおとなしいのだけれど、時折とんでもないことを言う。

「できるわけないよ、そんなこと。それにばれたら、みんなぶち壊しになるかも」

「壊れたら、ってお金それともその人との関係、どっち」


 聞かれてそりゃあ、お金と言いかけて言葉に詰まった。違うかもしれないと思った。サトシそのものを失うのが、怖いのかもしれない。

「でしょ、じゃあ信じなよ、まあなんかばれても壊れないような気もするけどね、そんな人なら」


 あ、私もそんな人が欲しいと言って彼女は笑った。

「あ、でも冗談は置いといて、一応は気をつけなさいよ。そのうちどっかに売り場されるかもしれないから。国内ならいいけどさ、海外だったら」


 こいつ、さらっとものすごいことを言う。信じろと言ったり気をつけろと言ったり、まあどっちもその通りなんだけれど。それならそれでもいいと思う。どうせ今までも体売っているんだし、サトシに裏切られるんなら世の中ほんとにどうでもいい、これからも楽しいことなんてないに決まってる。

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