旅路、での雑念

 いつの間にか列車はS市の郊外を走っていた。この辺はあまり降りた事はないが……一か所だけ何度かお世話になった所がある……我が県の運転免許試験場だ。

 車は今は持っていないが、これでも10代後半から数年前まで数10年間運転はしてきた。E市の専門学校時代、就職の必要にかられて取得したが、当時は今に輪をかけて不器用で……今思えば当時から精神・発達障害の気もあったかもしれぬ……免許取得期限ギリギリまでかかったのを記憶している(一応専学の実習で1か月以上ブランクがあったが言い訳だな)。

 逆に言えばそれ以外思い入れもない土地で、特に電車内からその思い出の自動車学校や試験場が見える訳でもない。

 

 ……その当時いた教官とか職員さんとか、もうほぼ定年退職してるんだろうな……。


 当時から今まで、不器用な人生を歩んできたと思う……正確にはもっと前、中学の時虐めに会ってからずっと僕の人生は狂っていたな。

 いや、もっと前……小学生の時にロクに外に出ずファミコン等ゲーム・漫画・アニメ等インドアな趣味にはまっていた時から、だったかもしれぬ。

 無論今に続くオタク趣味を否定する訳ではないが……この当時同時に拳法も習っていた筈だ。

 もしそれを例えば高校位まで続けていれば、中学の時の虐めにも遭わなかったかもだし、現実は高校から専門学校に行き就職に失敗したが、例えば空手部等に入部してそれなりに華やかな高校生活を送り、大学等にも入ったかもしれぬ。

 そしてそれなりの企業に入り、恋人も家族も出来、「普通」の生活も送れたやもしれぬ……。

 繰り返すがオタク趣味を否定しないし、今まで出会ってきた人々も勿論素晴らしき出会いだったと思える人も多い。


 だが、それでも考えてしまうのだ……もっとより良き人生もあったのではないだろうかと。


 こういっちゃあ何だが僕の人生は、全日本人にランキングを付けたとして確実に下から数えた方が早い。

 とある古典小説の「恥の多い生涯を送って来ました。」という奴だ。まあ僕からしたら、あの作者は最低な人間だが僕よりも10は若く、少なくとも自身の作品が評価され金にも女にも困った様子がないという点が羨ましい。

 しかも僕の場合、人生の大半の選択を他人任せにしてきた。

 専門学校も亡き父親の紹介あっての入学だし、オタク趣味だって姉のアニメ・マンガ好きの影響、ゲームですら弟がその友達と遊ぶ為に買ったものに弟以上にはまったせいだ。

 自分で選んだ会社は長続きせず、しかもそのうち一つはそれなりに不満は持っていたが知人の言葉に後押しされ、無断欠勤しての首というありさまだ。

 最後の仕事……15年前のアルバイトですら、定年退職後の父親が自分がいた会社に頼み込んで入社という……思えば人生、ほとんど僕の意思で決定した事がない気がする。

  

 まぁ最低に落ち込んだ人生だが、そのお蔭でどれだけ辛い事があってもどうにかなる、と思えるようになったのは不幸中の幸いか。今の日本は僕のような奴でも

 「生かさせてくれる国」

 だからな……。


 そんなネガティブな思いを引き連れ列車は走る。もうS市最後の駅だ。

 ここから列車はO市に入り、目的の志路見駅までは二駅12,3kmほど、時間にして10~15分ほどだろう。そろそろ海も見える頃だ。


 この雑念が少しでも晴れてくれればいいのだが……。

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