旅路 その3
此処から電車はE市と、この県随一の大都会で県庁所在地であるS市を経由し、O市へと向かう。
1時間半ほどの旅路で見所も幾つかはあるのだろうが、この辺りからS市やO市に向かう人たちが増え、E市を越えたくらいから多分に空いている隣の席に人が座り、のんびり外を見ている事も出来ないだろう。
E市にある専門学校に通っていた事もあり、しょっちゅうS市にも電車で遊びに行っていたので、30年ほど前の話とはいえそこまでがらりと印象が変わる事もなく、都会らしく武骨な住居やビルも見え始め目を見張る光景もない。
まぁ何も説明しないのも味気ないが、元々人も苦手なのだ。最近でこそやっと電車に乗れるほどに回復したが、15年ほど前仕事の失敗で溜まりにたまっていたどす黒いモノが爆発し、10年近く鬱症状だった時と比べれば、人混みを客観的に見る事でモニター越しに見るが如く接する方法を見つけてからはそこまで苦手でも……ぶっちゃけどうでもよくなってきている。
だがまだまだ人が多くなると外を見る余裕もなくなり、スマホ画面を凝視するようになるのは治りきってない証拠だな。
そうこうしている内にE市の駅に留まり、混み合ってきた。
空いていた僕の横にも、20代後半くらいだろうか? 若い女性が隣失礼しますと腰かけて座ってきた。
よく出来た読み物ならここで彼女と話をし、そこから恋愛関係に発展するかもしれない……だが先ほど言ったように自分は混み始めただけでいっぱいいっぱいで、若い女性が横に坐る事で途端に自分の状態がどうなっているのか気になり始めた……汗臭くないだろうか? 加齢臭が気にならないだろうか……。
今朝シャワーを浴びているとはいえ、朝の駅までの徒歩や先ほどの天気雨での湿気により冷房の効いた車内でも汗をかいているかもしれない。冷静に考えその様な事を指摘する様な豪胆な女性が早々乗ってくる事はないだろうが、一度思い込むとその様な負のループに陥るのが今の僕だ……よくぞ同じ県内とはいえ一人で旅行する気になった物だ。
横目で女性をちらりと見る。僕と同じ様にスマホを凝視し、こちらを気にしている素振りは見えない。じっくりと見る事も出来ないが肩までのショートカットで華美な化粧やアクセサリーをしている様子はない。まぁごく普通の「普段着の女性」だ。
顔をじっくり見た訳でもない(見れない)が、僕の様な中年の肥満体系の横にただ普通に女性が座ってきただけで、そこまで心乱される……まだまだ社会復帰は遠いな、と思う。
彼女はS市の少し前駅で降りていき、替りに50台ほどの女性が座ってきたが、匂いを気にしたりは相変わらずで……風景を気に出来る様に落ち着いたのはその女性も降りたS市駅を数駅過ぎてからだった。
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