旅路 その2

 幾つかの駅を過ぎ、電車は30分ほどで群最大の都市である乗り換え駅に到着した。

 乗り換え、といっても別の切符になるので僕の街からこの駅まで乗り、改めてこの駅始発O市行きの切符(一日散歩きっぷだが)を買うという事になる。


 O市までは30分に1便ほど列車が走っている。手前のS市内終着便も含めれば今の時間、7時台だと4本もある。この暑い日に目的地・海岸沿いの志路見駅に数時間もいるつもりもないので焦る必要もない。

 切符を購入後、駅にあるコンビニエンス・ストアに立ち寄りおにぎりとお茶とおつまみを買う。

 次の列車まで30分ほど、駅2Fの待合室でまた小説投稿サイトを覗いていると……


 ポツ…… ポツ……


 急に外が暗くなり、急にザアア、と音が聞こえるほどの雨が降り出した!

 うわっ、ちゃんと天気予報を見てきたのにな……雨の中での海水浴など最悪だ……と思いつつ天気予報サイトの雨雲レーダーを見ると……幸いにもこの市を覆う程度のピンポイントな真っ赤な雨雲、いわゆる天気雨だった。

 最近こういう雨が多いな、と霹靂する。これが半日程も続いてくれれば実際の気温と憂鬱になる気分は兎も角少しは過ごしやすい感じになるのだが……その願いも空しく、雨は次の列車を待つ事もなく止んでしまった……勿論今回の旅行的には有り難い事なのだが、残念な気分になる。この程度の雨では逆に湿度が上がり更に暑くなるだろうな。


 そうこうしているうちにアナウンスが鳴り響き、O市行きの列車の改札が始まった。この駅始発なので焦る必要はないのだが、周りを見るとこの列車に乗る乗客は多そうだ。座れないのも最悪なので心持ち早く切符を自動改札に通し、ホームへと歩く。

 先程の雨の影響かむわりとした湿気交じりの空気が立ち込める。不快な気分になるが、このホームからも色々と僕好みの史跡が見られるので気分を切り替えデジタルカメラを持つ。


 少し遠くに見えるのはこの県の鉄道レールの製造加工を一手に引き受けている工場だ。既に100年以上の歴史を持ち赤煉瓦の三角屋根の外観に国鉄よりも前の時代の鉄道会社の社章が付いている。近くに行ってみた事もあるがこんな古い時代の巨大煉瓦建造物というだけでも圧巻だ。残念ながら現役の工場なので内部見学はそうしていないらしいが機会があれば死ぬ前に見てみたいものだ。

 列車にはさほど興味はないが、遠くに懐かしい凸型のディーゼル列車が止まっているのも見える。現役ではないらしいが転車台もあるらしいし、鉄道ファンにはそれなりに垂涎の駅なんだろうな。


 工場と反対方向を見ると、吃驚するほど大きなクレーン車が見えた。今僕の町も役場の新築工事をしているので巨大クレーン自体は見るが、此処まででかいのは初めてだ。

 力強い6つの巨大タイヤを支えに、100mを優に越えていそうな紅白の支柱をコンパスの様に横に伸ばし、作業開始を静かに待っている。

 恐竜の竜脚類が若し現代にいたらこのように迫力があっただろうな……と思うと目の前の骨組みのクレーンに肉が付き、長い首を擡げた巨大恐竜が咆哮した……様に見えた。目の前にある武骨な作業車はそれらより更にでかく重い訳だが。


 電車が来て席に座った後も、10数分程カメラの小さな液晶で撮影した先ほどの工場・クレーン車を見て、その工場が出来た明治の時代・クレーン車から想像した恐竜の時代へと思いを馳せる……

 今はVRでもそういう世界への旅も出来る訳だが、それよりも空想で文明開化したての和洋入り乱れる人々の喧噪、

 そして巨大蜻蛉が飛び交い、ブラキオサウルスやディプロドクスが椰子の様な葉を食み、ティラノサウルスとトリケラトプスが死闘を演じる……昔見た映画の様な世界を妄想した方が楽しいのは、僕が古い人間だからかもな。

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