第2章 魔導師
1節 学園最後
第55話 新年と護衛
年が終わり新たな年が始まる。この世界では新年と同時に学生の学年も新しくなる。普通ならば新しい学年に少し心躍らせるか、長い休み明けの学園に一喜一憂したりするものだが…
「私はいいですよ。彼、クリットはこの国の人ですから」
「ふざけるな!護衛として王を守れる力があることは認めよう。だがあまりにも信用できない!何故騎士団の団長より強いやつが騎士団に入っていないんだ?何故さほど訓練をしていないやつが副団長より強いんだ?明らかにおかしい!」
「彼の素性についてはそうだが、力は信頼できる。それで護衛はできるから問題ない。」
「王サマがいいって言っているから良いんじゃね?」
「お前は議論の邪魔だ!喋るな!」
「いつもやっていた護衛を決める議論をもうしなくていいのであれば、他のことに手を回したいので助かります」
「これが多少の強さを持っているだけなら裏切ったときに殺しやすいですが...」
「…信用を示してほしい。君は裏切らないと神に誓えるか?」
なぜか今、王宮内にある会議室に俺らはいる。
「えっと、正直に答えたらいいんですよね?」
「嘘を言って信用が取れると思っているのか?だとしたらお前は馬鹿だな」
さっきから俺らが王の護衛になることに強く反対していた男が大きな声で言った。
「分かりました。誓えません」
!?
「はぁ?お前は何を言っているんだね?」
「だから裏切るかもしれないと言っているんです。余程の不満が出たら流石に裏切って別のところに行きます。だってそのまま居たくないですから」
「ふ…」
ふ?
「ふざけるなよ!王の護衛だぞ!お前が裏切るのは人じゃない!国だ!それが分かっているのか!」
「ホウラ大臣落ち着いて」
「ホウラ」
と俺らの真正面にいて、今まで議論を聞いているだけだったノルワール王が口を開いた。
「クリットは余程の不満さえ出さなかったら裏切らないっていっているんだ。いつ裏切るかわからんやつより扱いやすい」
「最初から裏切るつもりだったら…」
「だったらこっちの方がいいと思わせるまで。…ホウラ、お前嫌なんだろ?学生のクリットが自分より頼られるのが」
「そんなわ…」
「俺はいくら若かろうといくら年を食っていようとも俺が欲しいと思えば報酬を払ってこっちに引き抜く。逆にいらないと判断したらいくら長い間やっていようとも追い出す。…ホウラ、お前はどっちがいい?」
「…」
沈黙があったが1人の男が手を上げた。
「なんだ?」
「報酬は彼がやる仕事の分だけきっちり払っているのですか?もし多く払っているのであればこっちから不満がでますよ」
「もちろんだ。護衛の分と俺の依頼の分を含めて土地をくれてやった」
「学生に土地ですか?」
「クリットから商会をやるための土地がほしいと言われたんだ。もう商会の建物も建て始めているんだってな」
「はい、そうです」
「こいつは言うなれば金のなる木だ。木なら丁寧に育てないといけない。育ったらこっちが得をする。報酬の多少の多い少ないは目をつぶれ」
「もし育たなかったら?」
「土地を取り上げるまでだ」
====
「話がズレたな。クリットが俺の護衛をするのに反対するやつはもういないか?」
「私は最初から反対していません。不安ではありますが…」
「自分もそうです。騎士団の団長が認めているのであれば護衛自体は務まるでしょう」
「いいんじゃない?」
「分かった。でだ、いつもなら護衛のことを他の国に伝えるのだが、クリットのことは伝えない。正確には「護衛は1人」ということだけを伝えてくれ」
「…確かに伝える必要はないですが、他の国が何と言うか…」
「俺が集まりの中でなんとかする。それとお前たちも護衛がクリットであることをばらすな」
「それは護衛とクリットを結びつけるようなことはするなということ?」
「あぁ」
「分かった」
「「分かりました」だろう!」
「はいはい」
====
会議が終了した後 廊下
「なんか…いろいろ凄かったですね」
「…あぁ、ホウラのことか。あいつはああいうやつなんだ」
「そうなんですか?」
「いつもとは言わないが、議論になると大体反対してくるのがホウラだ」
「あれで大臣ですか?」
「優秀ではあるからな。まぁ、もう少ししたら大臣の席から降ろすが」
「優秀なら降ろさなくてもいいのでは?」
「古い考え、人にその考えを押しつける、すぐに
「じゃあ、ホウラ大臣の部下を次の大臣にすればいいのでは?」
「勘違いするな。後任は後任でも議論でも容赦無く反対する後任が欲しいんだ。反対すればそれだけ反対された議論の内容を見直すことが出来るからな。優秀であれば尚よい」
「そんなもんですか?」
「見直してやらかしが見つかったこともある」
「あ、そうだ。お前には今度やる国家魔導師の最後の実技試験の試験相手になってもらうぞ」
は?
「え?それはどういう…」
「そのままだ。国家魔導師の最後の実技試験、受けに来たやつと魔法で戦えってことだ」
「それは僕じゃなくて「お前」?」
「そう。魔法だしな。ちなみに護衛と同じく正体を隠したままでいいぞ」
ちょっと変われ!
「(はいはい)」
「ちょっと待てください。その試験の内容もさっきのように議論しなければいけないのではないですか?」
「いや、俺が勝手に決められる。今日決めた護衛の依頼で国家魔導師たちも試験の相手になることを認めてくれるはずだ」
「はぁ。分かりました。その代わりに練習する時間をください」
「分かった。後で手紙を送る。面倒だろうが報酬は楽しみにしておけ」
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