第53話 火力

シュテイルでクリスの部屋に入った日からしばらく経ったある日 王都


クリットはアキリーナに呼ばれていた。

「(なんで呼ばれたのか?)」

そりゃ、頼んでいた火属性魔法の成果が出たから呼んだんだろ。

「(あ、すっかり忘れてた…)」


「クリット!」

とアキリーナが手紙に書かれていた場所に来た。

「今日で良かったの?学園は長い休みに入ったからいつでも良かったのに」


学園は次の学年になる、年の変わり目の60日ぐらい前から完全に休みになる。


「いろいろ用事があったのよ」

「そうなんだ。今日は魔法のことで呼んだんだよね?」

「そうよ。温度をある程度自在にするようになったからクリット望む温度に出来るかどうか見てもらわないと」

「わかった」


とファブライト家の庭に来たのだが…

「なんかごつくなってない?」

前まで石畳しかなく、周りに物が少なかった場所だったのだが…

「石やれんがなんかの火に強いものを使って壁や火が周りに飛び散らないような建物を作ってもらったわ。他にも燃やすものや火を消す水なんかも準備出来るようにもしたわ」

「凄いですね」

「これもコーエンさんとの繋がりが出来たおかげね。前だったらこれだけ用意するのにどれだけかかったのやら」


「で、見せてもらえる?」

「じゃあまず、体に火を纏う魔法ね」

アキリーナは袖をまくり、魔法を使うと腕が赤い膜に覆われた。

「…腕だけ?」

「服が燃えちゃうからよ。それに纏う部分が多くなると魔法を操りにくくなるのよ。…でも腕だけでも」

アキリーナは石畳の上にある落ち葉の山を掴もうと手で触れると、触れた場所から炎が上がり少しすると落ち葉の山を炎が飲み込んだ。

「…十分よね?」

「温度はどのぐらいまで上げられる?」

「鉄は魔力を追加しなくても溶かせるぐらい。白金はまだ無理ね」

「まぁ、十分だよね」

「そうね。盾や武器を溶かせるわね。…長い間当て続けないといけないけど」

「で、どうやって温度を上げたの?」

「式を見直して魔力を温度を上げることに多く使えるようにしたのよ。サリナリが魔法の式について詳しかったから出来たことね」

「へぇ~」

「…なにその顔。意外な方法だったのかしら?」

「まぁ、僕が考えていた方法とは違ったかな?(そうだよね?)」

そうだ。


「じゃあ、その方法はなに?」

「…火属性魔法に関しては答えを他の人から知りたくなかったんじゃないの?」

「私、いや私たちは火属性魔法の温度を上げる1つの答えにたどり着いた。だけどこれには限界がある。服が燃えるのがいい例ね」

「私たちの魔法の知識としてやれることはやった。遠回りの道の最後までいった。だからクリットの知識でその道を完成まで繋げてくれないかしら?」


「(交代だね。アキリーナはサクロウの知識が欲しいみたいだよ)」

分かった。約束だもんな。


「分かった。じゃあ使えるかもしれない知識をあげよう」


====


「鍛冶屋に聞きに行ったんだよね?サリナリと2人で」

「そうよ。ただ鍛冶屋の人も詳しくは知らなかったわ。「なんで温度が上がっているのかは分からない。けどこの方法で金属は溶けているから知らなくていい」って言っていたわ」

「その方法は?」

「袋のようなもので火に風を送る。そうすると何故か激しく燃え上がるの」

ふいごだな。

「僕が想像してた方法と同じだ。もちろんなぜ火が強くなるのかも知ってる」


「この空気の中には見えないけど火を作るため、燃やし続けるための重要な材料があるんだ」

「…でも燃やす材料の木を多くしたって火は強くならないわよね?」

「そう。でもその重要な材料は風で送り続けることによって火を強くすることができる。詳しいことは色々難しいから言わないけど…」

ふいごで空気、その中の酸素を送ると火が強くなるのは十分な酸化が出来ずに不完全燃焼になっているところに酸素が来て完全燃焼に近づくから。酸素、酸化、不完全燃焼、完全燃焼の概念を今説明して理解させるのは流石に難しい。


「じゃあ風属性魔法を使えばいいってこと?」

「それはやってみないと分からない。火属性魔法が普通の火と同じとは限らないからね」

「う〜~ん。風属性魔法が火属性魔法の温度を上げるのに使えるか使えないか分からない以上、試すしかないわ。まぁ、どっちにしてもサリナリにも相談するわ。ちなみに…」


ボッ ドゴォォォン


アキリーナが手を壁に向けて使った魔法は壁に当たると爆発し、壁を大きな音と共に粉々にした。


「これだけ火属性魔法の力が上がったわ」


髪が爆風に揺られ、服が土埃で汚される中こっちを見たアキリーナがとても頼もしく見えた。

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