第48話 地下の天才
「あなたは?」
「僕はウミラ。見た目から分かるように女だ」
「それは分かりますけど、ここは?」
「ここは僕が住んでいる場所。それよりもあなたに聞きたい。なんでここを調べようとした?」
「最初にからくりを作った人がいるかもしれないからです」
言っていいのか?
「(たぶん…大丈夫)」
「…もうこの世にはいない。今地上に売っているからくりを作っているのは僕」
「え…」
まぁ、そうだろうな。普通1人の人間が何百年も生きている訳がねぇ。何人かでからくりを作り続けていると考えるのが自然だ。
「あなたの探している人はもういない。あなたはどうするの?」
「…僕は出来のいいからくりを作った人。つまりウミラを探していたんです」
「なるほど」
「ここもウミラが作ったの?」
「違う。ここを作ったのは僕の師匠の師匠。あなたが言う最初にからくりを作った人。手入れの方法は伝わっているから手入れはしているけど作り方は分からない」
「そうですか」
「…がっかりした?」
「いや、してないよ」
「そう。たぶんあなたは僕のことに関して聞きたいんでしょ?だからゆっくり話が聞ける様に飲み物を用意する。座って」
ウミラはクリットを椅子に座らせて台所で飲み物の準備をし始めた。
「そういえば、あなたは誰ですか?」
その暇な時間を利用してクリットは後ろで立っている女性に話しかけた。
「私はクロカラです」
「僕が作った」
「作った?」
「その話も後でする」
ということは…
「クロカラさんはからくりってこと?」
「はい。そして主人の代わりにからくりを地上に運んでいます」
そんな会話をしていると飲み物が出来たのか、ウミラがコーヒーの入った3杯の木製のコップを持ってきた。
「客に出せるのがコーヒーしかなかった。どうぞ」
ん?
「ありがとう。ところでクロカラさんも飲むのですか?」
「飲めます。飲める様に主人が作ってくれました」
「うん、僕がそういう風に作った」
そんなこと、出来るのか?
「改めて自己紹介。僕はウミラ。ここに住んでいてからくりを作っている」
「で、地上でからくりを作る天才って言われているのも…」
「たぶん僕。昔から言われているなら師匠や師匠の師匠も」
「ここから出てないのですか?」
「そんなことない。
「…外で罪を犯した人を捕まえているからくりは…」
「僕が作った。なんなら毎回僕がからくりに指示を出している」
…どうやって人の居場所を地下にいながら把握しているんだ?
「どうやって指示を出しているんですか?」
「それは僕のスキル[共有]で指示を出している」
「[共有]?」
「[共有]は相手といろいろな実在しないものを共有することが出来る。感情、考え、感覚をね。僕はクロカラともいろいろなものを共有している」
「例えば?」
「見ているものだったり、考えていることだったり。なにも全部僕に筒抜けという訳じゃなくて、お互いに共有できるもの、僕だけが知ることができるもの、僕に送られないものを僕が決めることが出来る。クロカラとだったら、お互いの考えはいつも送られない様にしているけど、送りたいと思ったら送れるようにしている。逆に痛みは絶対に送れないようにしている。ようは知りたくない、知らせたくないものは送れないようにしている」
「…それは人も相手に出来ますか?」
「出来る。僕が送るもの送られて来るものを決めることが出来るから、相手に良くない考えも植え付けることが可能。だけどする意味はあまりない」
「なんで?出来たら便利だと思うけど…」
洗脳はあかんやろ。
「人には自分だけの考えが元からある。その考えを変えるのは難しい。それこそ洗脳みたく長い間、[共有]を使い続けなければならない。だったら、普通に良い関係を作れば良く、何より普通のからくりなら最初から何もないから道具の様に使うことができる」
「普通じゃないからくりがクロカラさんってことね」
「そう。クロカラとの[共有]はクロカラ自身の許可を貰って使っている。クロカラにも考えはあるから僕はクロカラを道具の様に使わない。ただお願いは聞いてもらっている」
「お願い?」
「食材の確保やからくりを隠して売ることです。これは私が主人のために考えたことです」
「そう。便利」
「そうしなければ主人は死にかねないですから」
「…冷たい…」
「はぁ…」
「僕のことは話した。だから次はあなたの番」
「分かった…」
クリットは俺のことを伏せてウミラに自分のことを話したが…
「話してないことがあると思う。クロカラのことを話したときのあまりの驚かなさは異常。クロカラのことをすでに知っていたか…。いや、僕だけでなくクロカラについても聞いてたからそれは違う。クロカラ以上に普通じゃないことがあなたにあるのかな?」
と目の前で推測されてしまったので結局俺のことも話すことにした。
「なるほど。スキルじゃない存在…。クロカラ、他に知ってる?」
「主人が知らないなら知りませんよ」
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