第35話 本気の訓練

「魔法ですか…」

「答える必要はないですよね?」

「そうですね。ではいきます」

クリット!

「(分かってるって)」

ガッ、ギン


騎士がクリットに急接近し斬りかかりクリットが受け止める。


クリットは受け止めてそのまま力任せに騎士の剣を弾き飛ばそうとするが、その勢いを使われ後退させてしまい距離を取られた。

「じゃあ…」

クリットはすぐさま接近し、剣を横薙ぎに薙いだ。しかし


ギャリギャリ

「ふん!ぬぅぅ…」


騎士はさらに少し後退し、剣を使いクリットの剣の軌道を鎧に掠る程度に逸らされた。

逸らされた影響もあってクリットの体勢は崩れ、前屈みになってしまった。

その隙の逃さず騎士は剣を振るうが…


ガキン!


クリットがその無理な体勢から騎士の剣に向かって剣を振ると、騎士の剣が剣身の半ばから折れた。

折れた剣身は空中で回転し、地面に転がった。

「これはこれは」

と言いながら騎士は両手を上げ降参の意を示した。…とすぐさま

「勝者はクリット!」


おお~…ザワザワ…

いつの間にか増えていた多数の観客から歓声とどよめきが出てくる。


「剣を受けた時点ですでにこの勝負は決まっていたようですね。剣を逸らした時に気づきましたよ」

兜を取った初老の騎士が言う。

「…偶然ですよ。力任せに振っていただけです」

「どうだか。剣を振るえば剣の同じ場所に必ず当たるというのですか?」

「逆にそんな器用なことが出来たなら剣を折らずに勝ってますよ。...剣は折った罰として買わなきゃいけませんか?」

「そんなことはありません。折れてしまったのは私の判断に間違いがあったからです。なので気にしなくて大丈夫ですよ」

「借りていた方は…」

「それに関しても気にしなくていい」

とアウグトラ団長が近づいて言ってきた。


「元々騎士団のもので、訓練の途中で折れたのだから騎士団の金で買いなおすだけだ」

「そうなんですか…」

「まぁ、訓練所の壁は別だがね」

「えっ」

アウグトラ団長の視線の先には騎士を弾き飛ばした際に崩れた壁があった。

まぁ、[創造]で直せるからいいでしょ?


「騎士には壁を直すような技術は無いから専門の職人に頼まなきゃいけない。すぐにでも直せる職人を呼ぶには金がかなり必要でね。まぁ、要するになるべくなら金をかけたくない」

「そこで提案だ」

「どのような提案ですか?」

「私と戦え」

「…はい?」

「私と戦えば勝ち負けに関わらず壁は騎士団で直す。だがもし戦わないというのであれば壁は直して帰ってもらう。どうだ?」

「金をかけたくないんだったら僕が勝った時だけ騎士団で直すようにすればよいのではないですか?」

「これは執事が提案したものだ。戦えば直す金は王宮から出してもらえるという約束をした。つまり執事は私と君の戦いにそれだけの価値があると思っているからこそ勝ち負けに関わらなくなったんだ」

「(どうする?)」


普通なら戦うしか無いだろうが[創造]であれば簡単に直るからが選ぶなら戦わない方を選ぶが…


クリットが決めろ。

「(……じゃあ戦う。壁も直す。これなら騎士団と王宮に恩を売れないかな?)」

売れなくは無いが弱いだろ。まぁクリットがそういうなら直すよ。

「戦います」

「そうか、じゃあお互い全力でいこう。も魔法も使った戦いにしよう」

気づいているな。

「審判は…、フルール!頼んだぞ!」

はい!と観客席から元気の良い返事があった。

「審判は客席からだ!降りてくるなよ!それと始めの合図は空気を読んでやれよ!」

分かりました!

「これで邪魔は入らないから全力が出せるな。では位置につこう」


====


アウグトラ団長は全身に装備をつけ、剣を持って位置についている。

「(作戦はさっき伝えたように。後、剣が使えなくなったらすぐに代わって剣を作って戻る。いい?)」

大丈夫だ。むしろクリットは判断を間違えるなよ。

「(分かってる。分かってるって)」


「では2人とも位置についたので始めさせていただきます。アウグトラとクリットの一対一……始め!」


ドッゴォォォォン


突然目の前が砂煙でいっぱいになった。


大丈夫か?

「(うん、大丈夫。けど…)」

あぁ、これは予想外だったな。


クリットの横にはたくさんの瓦礫があり、地面が捲りあげられた跡があった。その跡はある場所から続いており、その場所には…


「避けたね。期待通りだ」


アウグトラ団長が剣を持って立っていた。

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