第32話 浄水

ここか

素材が用意された場所は井戸から近い場所にある部屋のだった。

「こちらの部屋であれば自由に使ってかまいません」

「…壁に傷をつけるときは伝えた方がいいですか?」

「そうですね。ちなみに壁に傷をつける予定がありますか?」

「必要があればやります。もし壁に傷をつけてほしくなければ、壁に手を加えない方法を考えます」

「分かりました。では傷をつける際に外にいる使用人にお声かけをお願いします」


そう言うとメイドは部屋を出て行こうとしたが、

「ちょっと待ってください」

「はい。まだ何か?」

「部屋の中にいてください。使うのは使用人の方でしょうし、いろいろ意見が聞きたいです」

「かしこまりました。では用が出来ましたらお声かけください」

「では井戸の水を持ち運ぶものを持ってきてください」


しばらくするとメイドが木で作られたバケツを持ってきた。

「持ってきました。…そのような材料はなかったはずでは?」

メイドの目の前には大きな透明な器があった。

「そうですね。元は持ってきてもらった鉱石ですが自分にしか出来な方法で作りました。探るのはダメです」

「…かしこまりました。鉱石が消費されたことが分かっただけでも十分です」

「追加で木材を持ってきてもらえますか?」

「かしこまりました。綺麗に切り取られたものでよろしいでしょうか?」

「別に木のままでも構いません。自分で切るので」


そんなことを言ったので丸太で来た。まあ、[創造]で木材に加工したけど…

「これ、乗れますよね?」

「そうですね」

「水の入った桶をもって上がってこれますか?」

「はい、このように大丈夫です。…ここに水を入れるのですね?」

「そうですよ。まだ完成していませんが」

木材を使い石英ガラスで出来たものを空中で固定させ、上から水を注げる様に階段もつけた。

「で布ですが…目が粗いですね」

「そうは見えませんが、問題でしょうか?」

「問題です。目が粗いのは使えませんから。ですが目を細かくしたので問題ありません」

石英ガラスで出来たものは上と下に穴が空いていて下の穴付近は上と比べてすぼんでいる。

目を細かくした大きな布でガラス容器の内側を覆い、布の目を通ることが出来ないものが下の穴から出てこないようにした。


「次は、っと」

入れた布の上から木炭を入れる。その際に[創造]で細かくし、活性炭にすることも忘れない。その次に布を敷き、石を砂よりも大きくなるように砕く。ここは[創造]で細かくせずに、残った鉱石から金槌を[創造]で作り砕いていく。その後砕いて作った砂利を入れ、布をもう一度敷き砂を入れる。

最後に念には念を入れて下の口を下から目の細かい布で塞いでおく。

「これでいいかな。こっちに井戸の水を持ってきてもらえますか?あと水を受ける綺麗な桶も」

「かしこまりました」


メイドは空の桶と井戸の水の入った桶を持ってきた。

「この程度なら持てるのですね」

「はい。水が必要な時は厨房と井戸を何回も行き来するので慣れています」

「ではこれに上から少しずつ井戸の水を入れてください」

そう伝えるとメイドは木製の階段を水の入った桶を持って上がり、ガラス容器の砂の上から水を注いだ。

「すべて入れました。これでよろしいですか?」

「はい。時間があるのでその桶にまた井戸の水を入れてきてください」


「入れてきました」

「…じゃあ待ちましょう」

「このままですか?」

「はい」

「どのぐらいですか?」

「下の桶に入れた水が全部落ちるまでです」

「時間かかりますよね?この調子だと」

「はい。なので落ちるまでこの部屋に自分たち以外の人は入れない様にしてください。余計なことはされたくないので」

「かしこまりました。ではクリット様は休憩してはいかがでしょうか?」


ということで休憩のための部屋に案内されている。ノルワール王は仕事のため付き合うことは出来ないらしく、本人はとても悔しくしていたらしい。曰わく俺と話したかったとのこと。

「(あれはなに?水を綺麗にするものなのは分かったけど…)」

水を綺麗にするもの。逆にそれ以外にはなにも無いんだが…。綺麗にすると言っても完璧には無理だ。安全に飲みたいんだったら加熱するのは絶対だ。完璧に綺麗にするのも出来ないことはないがそれはノルワール王の要望とは違う。

「(…手入れが出来ない?[創造]で作るもの重要で手入れに必要だから?)」

そうだ。完璧に綺麗にするには塩素という人にとって毒であるものが必要だ。さらに毒にならない程度の水を作るためには大量の水がほしい。

「(なんで?)」

手に掬える程度の水でも塩素は使えるが少し塩素を多く入れてしまうと毒になる。だがもし家ほどの水であったなら同じ量だけ塩素を多く入れてしまっても人に与える影響は手に掬える程の水よりも少ない。だから大量の水があった方が安全だ。

「(なるほど)」


大量の水を得るためには部屋よりも大きな桶が必要だし、その大量の水を塩素を使う前の状態にするにはそれよりも大きな、少なくともこの王宮ぐらいの場所が必要だと思う。だから少しずつだが部屋でも作れる簡単なものにしたんだ。

「(それに[創造]を直接使った炭と布以外は普通に用意出来るもんね)」

布は変える頻度は少ないだろうし、炭は用意してくれればすぐにでも活性炭できるから手入れの作業自体は王宮の人でも出来るはず。入れたものを変えるだけだし…。

「(綺麗な水が出来るまでが長いのがなぁ~)」

正確には分からんが少なくとも普通に水を桶に注ぐよりも遙かに時間がかかる。


…いざ使うとなったときに面倒とか言い出さないか心配だ…

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