第26話 褒美

「そういえばわたくしを気になって追ってきた以外に理由がありましたよね?」

「そうですね。良い服がある店を探しているんです」

「良い服ですか…。詳しく言うとどんな服を探しているのですか?」

「貴族の家に行っても恥ずかしく無い服です。後値段なるべく安いといいです」

「そうですね…。安いと言えるかはどうか分かりませんがわたくしがよく行くお店があるのですがそこなら紹介できます。なんなら今日はその店に行く予定だったので丁度いいですし行きませんか?」

「じゃあ、お願いします。…これを飲み終わったら」

「もちろんです」


そうして喫茶店で食事を終え、ファルについて行くと


あれ?ここって

「ここがわたくしがよく行く服屋です。質が安いものでもかなり良いんですよ」

朝に訪れた店だった。

「いらっしゃいませ」

「いつも通り見てもいいですか?」

「はい、構いません。!?そちらのお客様は…」

「彼にこの店を紹介しようと思って」


「…朝方来ていましたよね?」

「はい、そうです。あのあと彼女と会話して安くて良い店を紹介してもらえるとのことでこちらに来ました」

「そうだったのですね。わたくしは余計なことをしましたね」

「いえ、元よりお金が貯まったらこのお店の服を買う予定でしたから。この店が良い店と分かっただけ良かったです」

「それならよかったです。それと申し訳ないのですが荷物持ちをお願いしてもいいですか?」


[空間収納]がバレる訳にはいかないからな。

「(そうだね)それぐらいならいいですよ」

そうしてファルの服屋での買い物は始まった。


「これはどうでしょうか?」

「えっ、どうって?」

「似合っているかどうかです」

「いやぁ、自分には分からないです」

「純粋にどう思いますか?」

「素敵ですよ」

「…店員さんはどう思います?」

「とても似合っていますよ。色合いも髪に合っていますから」

「…そうですか。買います」

「ありがとうございます」

「じゃあ、持ってもらえますか?」

「はい」

といってクリットはファルから服を受け取り持っていた店のかごに入れた。

「じゃあ、次に行きますよ」


そんな風にしばらく買い物をしていると

「…こんなに買うのですか?」

「はい、わたくしが気にいったので。…まぁ、このぐらいでいいでしょう」

クリットが持つかごの中は服で山盛りになっていた。貴族ってスゲーな。

「では、」

「はい。全てご購入でよろしいでしょうか?」

「それはそうですけど、彼にどこに行っても恥ずかしく無い正装を見繕っていただけませんか?」

え?

「それは…」

「もちろんお金は全てわたくしが払います。彼に似合うのであればお金をいくらかけても大丈夫です。出来ますか?」

「かしこまりました」

「いやいやいや。なんで僕の正装を買うという話になっているんですか?」


わたくしの荷物持ちをしていただいたので、褒美は必要でしょう?」

「褒美ってそんな大げさな…。それに僕は必要だから荷物持ちをしただけなので…」

「確かに褒美は大げさですね。ですが働いたのですから受け取ってもらいたいです。働いたことに対する報酬が無ければわたくしの格が疑われてしまいます」

「そんなことを言われると…」


まぁ、断れないな。俺も無償の労働は勘弁だし受け取っておけ。

「(でもそれが高価な正装って…)」

…宝石でも貰っても知らんぞ。格とか言ってはいるが何か受け取るまで譲らないと思うぞ。

「(…そうだね)…分かりました。受け取ります」

「良かった!では早速彼に似合うものを選んでください」

「かしこまりました。お客様、ではこちらに」


クリットは店員につれて行かれて着せ替え人形になりながら正装を選んでいった。


====


「今日はありがとうございました。クリット様はまたのご利用をお待ちしております」

正装を1着選んだ後、ファルが会計をして店を後にした。ちなみに荷物は複数の上質な袋に分けており、全てクリットが持っている。

「じゃあ、行きますか。ごめんなさい、荷物を全て持たせちゃって」

「いえ、大丈夫ですよ。むしろ買ってもらった分の働きをしないと」

「そんなに気にしなくても…。とりあえずついて来てください」


そうしてファルについて行くと人通りの全くない路地に着いた。


「ここなら大丈夫です。わたくしの荷物をください」

「はい」

クリットが荷物を差し出すと荷物が消えた。[空間収納]、便利だな。


「では、今日はありがとうございました。そしてすみません、面倒なことに巻き込んでしまって」

「むしろ僕が自分から巻き込まれにいったようなものなので」

「分かりました。秘密に関してはあまり気にしなくても大丈夫なようにしますのでこれからも普通に過ごしてください」

「…僕のことは後で調べるんですよね?」


「…勘が鋭いんですね」

「それじゃあ、普段通りにいかないんですけど…」

「ふふっ、大丈夫です。あくまでも軽くです。クリットさんを危険な目には遭わせませんから」

「本当ですか?」

「本当ですよ」

そこまで慎重にならなくてもいいだろ。それよりも当初の予定も済んだし、向こうも用事は済んだみたいだし帰ろう。

「(そうだね)分かりました、普通に過ごします。今日はありがとうございました」

「さようなら」


そうして俺たちは家に帰った。







「…」

「…いますよね?」


「はい。毎回言っていますが、このように勝手に何も言わずに出歩かれるのは困るのです。特に今日は話した人が害のない人で良かったですが、もしなにかあったとなると…」

「大丈夫って言っているじゃないですか。それに何かあっても武器は持っていますから。それよりも…頼めますか?」

「彼のことですね。希望通り軽くということでよろしいですか?」

「それが彼の希望ですから。わたくしの知っている情報としては彼の名前はクリット、平民で貴族と関わりがありそうということぐらいです」

「…それだけ分かればである限り調べられます」

「よろしくね」

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