第23話 馬鹿と阿呆

しばらく会話していると

コンコン

「いいわ」

「失礼致します。契約が終わり鉱石の買い取りが終わりましたので、ご報告させていただきました」

「分かったわ。鉱石はどこに?」

「現在倉庫にありますが、お嬢様の命令があればいつでも持ってこさせることが出来ます」

「それなら数個だけ昨日の場所に持ってきてもらえるかしら?」

「かしこまりました。それとミルド様、コーエン様は荷車を引いて帰りましたのでそのまま帰って良いと」

「分かりました」

「では、失礼致します」


もぐもぐ

「ん、じゃあ、帰るので。いろいろ話せて楽しかった!あと紅茶もお菓子も美味しいかった!取引の時にはうちが来ると思うので今後もよろしく」

「えぇ、今度は違う物を用意させるようにするわ」

「まぁ、おんなじ物でもいいですけど。じゃぁ、お疲れ様でした!」

と言って部屋を出ていった。


「…凄い人ね」

「否定はしない」

「でも話しやすかったわ。多分私に合わせてくれていたのね」

そう言う意味ではミルドとアキリーナを会わせて良かったのかもしれない。

「これからは昨日と同じように?」

「えぇ、何度も魔法を使う、ただそれだけよ。だから今日はクリットに付き合わせる訳にはいかないと思うの」

「何で?別に一緒にいてもいいと思うけど」

「何度も同じ魔法を打つ姿を見るのは退屈だろうし、流石にこれ以上火属性魔法に関してあなたの知識に頼る訳にはいかない」

「別に頼ってもいいけど」

「そうね。頼るときは頼るわ。でも火属性魔法の才能をもつ私が火属性魔法に何もかも頼り切るのはダメだと思うのよ」

「…」

「あなたの知識は凄い。小さな鉱石商にあの量の鉱石を1日で掘らせ、慣れればその量を安定させることの出来るほど。まるでこれからのことが見えている様な知識」

あながち間違いではないな。

「どのようにその知識を得たのかは聞かないわ。ただきっと火属性魔法の関する知識もあるのでしょう。聞けばすぐさま今やるべき答えが分かるほどの」


「でも、私は火属性魔法に関しては単に答え得たいんじゃない。努力をして、失敗をして答えを得たい。例え長い時間が必要だとしても」

「もちろん他のことに関しては容赦無く頼るわ。流石に目の前に近道があるのに通らない阿呆ではないからね。だけど火属性魔法に関してだけは近道を通らずに馬鹿みたいに遠回りをする阿呆になりたい」

「…」

「ファブライト家の一員として、いや私がである限り」

「単に私のわがままよ。それでもこんな私にあなたは付き合いきれるかしら?」


目の前の少女の目は赤く、真剣な目をしていた。

「(どう答えればいい?)」

…クリットがそのまま思ったことを答えてくれ。

クリットならきっと

「付き合いきれるよ。それに僕はわがままなんて思わないよ。僕は君が知識を欲しいと言っているのであればあげるし、いらないのであれば無理にあげようとはしない」

「…」

「まぁ、今日はおとなしく帰るけどね」

「そこは「今日は付き合うよ」って言うところでは?」

「ハハ、アキリーナが先に言ったんじゃないか」

「そうね」


「話は戻るけど馬鹿みたいになってみるのはいいと思うよ。完璧な人なんていない。学園にいる先生だってずっと威厳があるわけじゃない。多分お酒でも飲んで酔っ払っている日もあるんじゃない?」

「騎士団だって敵の兵相手に逃げ出す時だってある。魔導師だって魔法が上手く出せない時だってある」

「全員が全員同じじゃない。学園の一部が出来るから学園の全員が出来る訳じゃない。そう思ってさえいれば気が楽になると僕は思ってるよ」

「それに馬鹿みたいにやっているときに真面目にやっているとき以上の結果が出るかもしれないからね」

「じゃあ、帰るから。特訓頑張ってね」

と言ってクリットはアキリーナを残して部屋を出た。


「(まぁ僕には馬鹿みたいにやりたいことなんて無いんだけどね)」

…本当に今日の特訓に付き合わなくて良かったのか?

「(アキリーナが自分から言ったことだし、なんとなくサクロウの知識は余計だと感じたから。サクロウは付き合いたかった?)」

いや。それにクリットに判断を任せたんだ、そのクリットの判断に俺は従う。

「(そっか。じゃあ、帰って早めの明日の用意でもしようか)」



「「頑張ってね」ねぇ。あなたに自慢できるように頑張るわ」





====

(三人称視点)



数日後 ある日 とある場所


黒を基調としたきっちりとした服を着た年配の人物が部屋に入ろうとしている。

コンコン

「失礼致します。出そろいましたのでお持ちしました」

「入れ」

ギィィ


扉を開けると机があり椅子には茶髪の良い服を着た男性が座っていた。

「失礼します。30日分のものを日ごとに分けて書き記しました。ご高覧ください」

「ふむ」

ぺらぺら


「おい」

「はい」

「ここ数日のここは異常ではないか?間違っているのではないか?」

「いえ。自分も数人と数を再度確認しましたが間違いはありません」

「そうか。この者に事情を聞けるか?」

「はい。すぐに手紙を出します。…その際に名前は」

「君の名前で頼む」

「かしこまりました。では」

ギィィ、ガチャ

「…もしかしたら、面白くなりそうだな」

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