第20話 努力と試行
「まぁ、そのことはいいとしても。少なくともクリット君の前では遠慮しなくていいんじゃない?全部知っている訳だし」
「流石に全部は言い過ぎだと…」
「いや、これから私が教えれば全部になる。アキリーナはクリット君から人との付き合いに慣れていけばいいさ。クリット君を中心として学園で気楽に馬鹿みたいな笑い話を話せる人を作る。いいじゃないか」
「それでは…」
「まず貴族である前に人として仲のいい人を作る!まぁ、あと2年もないけどそれが目標。わかった?」
「…本当に大丈夫なの?」
「私がファブライト家の当主なんだ。噂の一つや二つぐらいは相手方に説明できるさ。もちろん危ない道に行くのであれば止めるけどね」
「…」
「どう?」
クリットがそう言う。すると
「分かったわ、できるだけ努力する。クリット、次から学園ではよろしくね」
「今もじゃないの?」
おいおい
「言うねぇ。これだったら任せられそうだ」
そんな2人からのあおりにアキリーナが顔を赤くしていると
コンコン
「失礼します。料理の準備が整いました」
そんな言葉が扉の外から聞こえてくる。
「もうそんな時間か。2人とも行こうか。アキリーナもしっかりして」
「ううぅ、分かったわ」
====
広めの部屋、食堂に着いた時点で料理が用意されていた。
流石に静かに食べるのがいいと思ってクリットはしばらく食べていたが、
「クリット君、そういえば君はどこに住んでいるのかな?」
むぐぅ、ゴクン。
「…トクル村です」
「いやいやごめんね、突然聞いて。あぁ、ちなみにうちでは静かに食べなきゃいけないなんていう規則はないよ。もちろん時と場合によるけど」
「分かりました。ところで、なぜ聞いたのですか?」
「君の住んでいる場所は知っていないといけないと思ってね。今日のように想定外のことあったりしたときには申し訳ないからね。あとは知っていれば馬車で送ることもできる」
「そうですか」
「まあ、そんなに警戒する必要もないよ。もし君が私に頼むのであればトクル村をファブライト家の兵に守らせることもできるよ」
「そうですか。なぜそこまで良くしてもらえるのですか?」
「ファブライト家の当主としては君に価値があると思っているから。アルトとしては君と仲良くしていきたいからさ」
「分かりました。これからもよろしくお願いします」
====
食事が終わった後、予定通りにアルトさんと別れた。
その後は元の部屋までアキリーナさんと戻った。
「さてと、本の内容をまとめたら早速魔法を試そうか。どこでなら魔法を使える?アキリーナさん。…アキリーナさん?」
「ねぇ、さんを付けて呼ばないで」
「えっ」
「「アキリーナ」でいいわ。私も「クリット」って呼ぶから。同じ年だし大丈夫でしょ?」
「あぁ、アキリーナがいいなら」
「で、魔法が使える場所ね。庭ならどこでもいいわ」
「わかった。ところで時間はあるよね?」
「…クリットとの用事があるのに他に用事を入れる人がどこにいるの?」
「アルトさん」
「お父様は別だわ。今日以外には変えられない用事だから」
====
ファブライト家の庭
庭は屋敷に入る前に分かっていたように屋敷より広く、植えられている草木や花はよく手入れされているのか美しく見える。
そんな庭でも俺たちは草などの燃えやすいものが周りに少なく、地面は石畳になっている場所にやってきた。
「ここなら火属性魔法を使っても問題ないわ。魔法を使うときはここを使うことも多いし、なにか会った時の用意もあるから」
付近を見ると井戸があることが分かる。
火がついても消火できる設備があるってことか。
「じゃあ、本の内容を試してみようか」
しかし、
「なかなかできないね」
「それはそうよ。初めて使う上に見たこともない魔法なんだから、すぐに使えないのは当たり前だわ」
「そうなんだ」
そんなもんだろ
「特に渦にするのは難しいわ。これは後回しした方がいいわね」
「じゃあ、魔法を纏うのは?」
「危ないわよ。いきなり初めて使う魔法を自分に向けて使うのは」
「もちろん全体に使わないで、今日は指先ぐらいでいいんじゃない?失敗しても指先ぐらいなら傷の治りも早そうだし」
「…そうね。回復する魔法薬を使えばきれいにもなりそうね」
魔法薬なんていう物もあるのか…
「(魔法の効果が使えるようになる薬だね。魔導具との違いは効果が強くなる代わりに無属性魔法でしか作れないことかな)…意外に自分を傷つけるのにためらいはないんだね」
「いやな訳ではないわ。痛いのはいやだし、傷が残るのはもっといや。だけど、そうでもしないと魔法が使えるようにならないのであれば痛みぐらい我慢するわ」
…強いな。
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