第19話 歴史とツンデレ

「範囲は狭いが非常に高温で敵の盾を溶かし無意味なものにする、敵を火の渦の中に閉じ込め焼き殺す…あとクリット君が見つけた火を自らの身体や武器に纏わせる魔法ぐらいかな。役に立つものは」

「そうだと思います」

「…クリット君はなぜこの魔法を選んだのかい?見たところ高温にすることとは何も関係なさそうだが…」

「身体に火を纏わせられるってことは何らかの方法で温度を調整していると思ったのです。普通身体に火が触れると熱いですから。もちろん我慢しているだけかもしれませんが…」

「なるほど…」


「お父様。もうお昼を過ぎていますわ。ご飯を食べなくては」

「もうそんな時間か」

「では自分は帰った方がいいですね」

「いや、クリット君も一緒に食べよう。ここまで時間を取らせたのはこっちのせいだからな」

「…分かりました。ご一緒させていただきます」

アルトは扉に近づき

「3人分の料理の用意を。いつもの食堂で頼む」

「分かりました。準備ができ次第、お呼びさせていただきます」


「すまないが、料理を食べた後は用事があるのでね。今日はもうほとんど協力できない」

「そうですか…。時間を取っていただきありがとうございました。結構本の数も多くて、多分2人で全部見るのにも時間が2倍ぐらいかかっていたかもしれませんでしたから本のことを教えていただいた分も含めて助かりました」

「それなら良かった。本の数は、まぁ「ファブライト家の歴史はニリストスと共にある」っていうぐらいにはこの家の歴史は長いからね、どうしても多くなってしまうものさ」

「そうなの?」

とアキリーナが驚いたように言う。

「あれ?教えていなかったっけ?ファブライト家はニリストスという王国ができたと同時に貴族としてできた家なんだ。初代当主は王族と深い関係にあったと伝えられているし」

「アキリーナさんは知らなかったの?」

「そこまで歴史があるとは知らなかったわ。でも薄々「ファブライト家が凄い貴族なのでは?」とはいろいろな貴族と関わり合う時に感じてたけど」

格が違うってことかな?

「どうしてそう思ったの?」

「明らかに違うのよ。同じ貴族でもどこか気を遣ったような、腫れ物に触るような感じで話すの。学校でも同じだわ」

それは…

「それはアキリーナさんが近寄りがたい雰囲気を出すからじゃないかな?」

「…」


俺が初めて会った時に思った「周りに「話しかけるな!」みたいな雰囲気を振りまいてない」というのは正しいと思う。実際本人も話しかけられたなら対応するし、何より話すことが嫌いじゃないように見える。

ここでクリットが言った「近寄りがたい雰囲気」っていうのは…

「緊張しているんじゃないかな?」

「えっ?」

「自分が王家とも関わりがあるかもしれない歴史の長い貴族の一員なんだって思ってるから緊張する。緊張して自分が思っている以上に周りが見えていないんだと思うよ。周りから見れば何かに一生懸命で関わったら殺されるとでも思われているんじゃない?」

「そんなはずは…」

「じゃあ、授業を一緒に受けている人の顔は思い出せる?顔じゃなくても名前は?学園にいる僕以外の同じ学年の人の1人ぐらい覚えている?まあ、無理だろうね。なんせ魔法を使えないのに学園にいるすら知らなかったみたいだし」

「…」


そうだな。実際にあった日の帰り際にアルトさんに話を通すために必要ということで名前は伝えた。クリットのことを知っていたなら魔法が使えないっていう話が出た時点で気づくと思うが、明らかに名前を聞いた時点では知らなかったように思える。別の学年のマリーですら知っていたのにだ。


「多分誰もアキリーナさんが凄い貴族なことを気にしている人はいないと思うし、大体、ほとんどの人がそのことを知らないと思うよ。僕も知らなかったよ。…あぁ、もちろん多分ね。中には気にしている人がいるかもしれないから多分だけど…」

「もちろん周りの人が気にしていないから何でも好き勝手にするっていうのはダメだけど、少しぐらい、いやアキリーナさんの場合は大分気を楽にしていいんじゃない?」


「そう思いませんか?アルトさん?」

「そうだね。私に迷惑をかける、迷惑をかけないっていうことじゃないと思うんだ。アキリーナがどう思うか、アキリーナが楽になるどうか。楽になるために迷惑をかけるなら私は迷惑をかけた人たちに説明はするし、時には頭を下げて謝るよ。むしろ貴族の地位を守るために度が過ぎる程の無理をするのであれば、殴ってでも無理をするのを止めるよ」

殴ってでもって…

「もちろんこれはアキリーナが緊張するほど無理をしている場合の話だ。無理をしていないっていうのであれば私は止めないよ」

「無理はしていません!」

「今、アキリーナのやりたいことはできているかな?私が知る限り最近まで学園での話は授業のことだけだったが、今日のためにクリット君としたことを話してくれたし何よりそのとき、昔のまだ小さいころのメイドと遊んだことを話したようにうれしそうだったよ」

「!?」

「僕に言ってくれたよね?「うれしかったから」って」

「へぇ~。そんなこと言ったのかアキリーナは」

「違う!言ってない!」

ツンデレか?

「(ツンデレ?)」

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