第17話 親との面会と貴族について

扉が開けられた部屋は応接間になっていて、その中の1つのソファには先程返事をしたと思われる男性が座っていた。


「やぁ、初めまして。君がクリット君だね」

「はい」

「どうやら火属性魔法に関していろいろやりたいそうだが…まずは自己紹介をするためにも座ろうか」

そう言われるとクリットは男性に向かい合わせになるようにソファに座り、アキリーナはクリットの隣に座った。

「じゃあ、自己紹介を。私はアルト・ファブライト。ファブライト家の現当主でアキリーナの父だ」


「クリットです」

「君のことはアキリーナから聞いているよ。同じ授業はほぼ無いが学園で同じ学年だとね」

「そうです」

「今日ここに来たのは火属性魔法に関してやりたいことがあるとか」

「はい。アキリーナさんがファブライト家の協力が欲しいと」

「詳しい内容を聞かせてもらえるかい?内容次第では断らなきゃいけないからね」

「では…」

アルトさんにやりたいことを話した。火属性魔法の威力や範囲の強化ではなく単純に温度が高い火属性魔法を開発したいことを。この魔法は装備の強化によっていずれか役に立つことを。

「なるほど。威力ではなく高温とは…」

「…大丈夫ですか」

「あぁ、大丈夫。火属性魔法の温度を高めることは我々がしてこなかったことだから不安だが、未来で役に立つのではあれば協力を惜しまない。もちろん我が家に受け継がれている今までの火属性魔法についてまとめた本などの秘蔵のものも使っても構わない」


「アキリーナ、試しに数冊持ってきてくれないかな?」

「私が?」

「うん、彼とは少し話したいからね。」

「分かったわ」

そう言うとアキリーナは部屋から出て行った。

「さてと、2人で少し話をしようか」

「何についてですか?」

「あぁ、そんなにかしこまらなくていい。少しだけなら言葉使いを崩してもいいよ」

「分かりました」

「では、あの子についてどう思う?」

「アキリーナさんについてですか?」

「そう。あの子はかなり堅くてね、行く先を言わなくてもいいって言っているのに報告してくるんだ。だから同じ年の君から見てあの子がどう見えているか気になってね」

「あまり話していないから、なんとも言えません。ただ…」

「ただ?」


「学園では気を張りすぎなように見えます。真面目です」

実際、周りの評価を気にしすぎな気がする。それが貴族であるせいかは分からないが。

だからより一層クリットに心を許したのが不思議だ。

「(そうだね)僕と会うときも周りの目を気にしていましたし…。もちろん気にすることが悪いとはいいませんが…」

「なるほど…」


「時にクリット君。貴族についてどう思う?」

「…先程の話と関係あります?」

「意外と毒があるねぇ。もちろんある。アキリーナはの貴族のように振る舞いがちなんだ」

「むかし?」

「あぁ、昔の貴族は周りの評価を気にしていた。すこしでも貴族らしく、美しく見せるためだ。だが、今の貴族はそうする家が減ってきている。なぜか分かるかな?」

昔は貴族らしく振る舞っていたが、今はそうじゃない。っていうことは周りから貴族らしくないと思われてもいいってことだ。

「(すると…)貴族らしく見せないため?でも貴族らしく見せなかったんじゃ、周りからは前より汚らしく見えて評価は下がるんじゃない?」

「まぁ、それが普通さ。だから今でも一部の貴族では昔の様に振る舞っている」

「あくまでも周りから貴族らしく見えないのは結果そうなっただけ」


「正解は貴族自身の心の問題さ」

「心?」

「そう。貴族と平民と分けられているが貴族も平民も人なのは変わらない。君に貴族についてどう思うか聞いただろう?」

「そうですね」

「どう思う?」

「…あまり関わってきたことがないので正直どうも思わないとしか…。アキリーナさんを除いて関わった人も変わった人でしたし…」

「へぇ、ちなみにどの家の子か聞いてもいいかい?」

「はい。ハーヴェスト家の子で年は1つ上です」

「ハーヴェスト家ね。貴族の中では歴史が短い家だから昔の貴族のような考え方がほとんどない家だね。実際、子供達に関してよくも悪くも噂になるが、それに対しての対応の仕方が平民に近くて領地の平民の間では評判になっている」

「そうなんですか」

やっぱり、異端な方だったか…。

「話を戻そう。君は貴族との間にあまり距離を感じていないっていうことだね」


「貴族も人だ。平民のように泣き、笑い、時に悔しがり、うれしく思う。平民のように怪我をしながら身体を動かしたいという貴族もいれば、平民のように他の人と酒場ではしゃぎたい貴族もいる」

「だが、それは昔の貴族の理想とは遙かにかけ離れている。常に冷静で、平民と軽々しい関係を持たず、はしたない姿は見せてはいけない、それが昔の貴族の理想だ」


「やりたいことができないのは君もつらいだろ?」

「はい」

そうだな。それにストレスがたまるからあまりいいことではない。


「だからお金とあまり意味のない地位を持っているになろうとしているのだよ。私たちは」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る