第6話 道具の改良と契約
コーエンは鉱石を持って帰ってきた。
「これで十分か?」
「…大丈夫。じゃあいくよ」
思い浮かべる。3本の木の柱で四面体を作るように、柱の交差する場所に滑車をつける。地面と接触する場所など要所要所を金属で補強したものを。
すると。
「おお!スゲェなぁ」
そこに想像したものが出てきた。
「これはどう使うんだ?」
「これは…」
崖の上でさっきよりも簡単な構造のものとロープを作り、ロープをそれぞれの滑車に通した。
「これでロープを引くと引いた方にロープが動く。ロープにかごを付ければ引っ張って荷物を動かせる。そして、これはロープを引く力さえあれば荷物の重さ、運ぶところまでの高さは関係ない。これで崖の下の鉱石を上に持って帰れる。逆に忘れた物を崖の下に運ぶことも出来る。問題は…」
「問題は?」
「ロープが運んでいる途中でちぎれる危険があること。だから試しに実験してみないと」
「そりゃやらなきゃな。ロープが必要だな」
「ロープなら僕が作れるけど?」
「いや、お前が毎回ちぎれる度にロープを準備するのか?それよりも自分で準備出来た方がいいだろ」
「それはちぎれないように魔法で…」
ふと考える。
ちぎれない魔法をかけたところでいつまでその効果が続くかどうか分からないし、その効果がいつまでも続くことを証明する術もない。それは悪魔の証明に他ならないからだ。だったら効果の続く期限をわざ設定して効果が切れる前にロープを交換すれば安全は確保されるし、それを見越してのロープを調達すればいい。だったら
「…ロープはどのぐらいで準備できる?」
「長さ次第だな。この崖の上と下をつなぐんだったら少なくとも30日ぐらいは必要かな?まあ、商人に聞いてみないと正確なところは分からん」
「じゃあ、やってみようか。降りてもいいよね?」
そうして崖の下に降りて試しに設置した。
「ここなら邪魔にならないよね?」
「あぁ、ここまで崖から離れるとはな。じゃあ鉱石を採ってくるからな」
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滑車の位置とロープの長さ、そもそもの構造を調整しながらちゃんと動作するか確認を行った。その結果
「ずいぶん最初は変わったな」
元々3本の木材で構成された四面体は4本の柱と筋交い、その上に取り付けた梁に囲まれた六面体のような形になり、滑車は六面体の天井に木材を交差させた部分に取り付けた。ロープは2本にし1本は別に設置した柱に固定、もう1本でかごを動かすようにすることでかごを安定させた。安全性を保つために六面体の外側に斜めに木材を取り付け、一度上げたかごが間違って滑り降りないように金属のストッパーと取り付けた。
「まぁ、安全のためだからね。これでも何があるか分からないけど」
「いや、これで十分だろ。なにが起こっても1人で崖から落ちるよりはマシだな」
「これで契約してくれるよね?」
「あぁ、問題ない。じゃあ帰ろうか。ここだと暗いし、もう日が暮れる」
「分かった」
「(内容はサクロウの考えから僕が決めた方がいいよね?)」
あぁ
そうして洞窟を後にし、コーエンの店に帰る。
ちなみに俺とクリットで役割分担はあらかじめ決めてあり俺は[創造]を使う、クリットは普段の生活と近接戦闘、交渉する時に身体を使うことにした。それに応じてお互いの考えを邪魔しないように考えが伝わらないようにした。
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コーエンの店に着いた時には夕方になり、昼ご飯も食べずにやっていたので契約の内容の相談は軽食を食べながらやることになった。
「で、契約はこれでいいのか?」
「うん。これでいいでしょ」
契約の内容は要約すると
・コーエンは優先的に俺らに鉱石を売ること
・俺らは鉱石採集に有利に働く道具を作るか、鉱石に対してそれ相応の金額を支払うこと
・道具の手入れは定期的にやり、材料はコーエンが準備し俺らが魔法を付与すること
というもの
1個目の内容に関して、あくまで優先的に売ってほしいというだけでコーエン側が鉱石がないときは俺らに売らなくてもいいし、逆に俺らが鉱石を買えないときは他に売ってもいいっていうこと。これにはコーエンは了承してくれた。
ただ2個目の内容の「鉱石採集に有利に働く道具を作る」という部分が初めは「必ず」という言葉が入っていてコーエンはこれに難色を示していた。
俺ら側としては掘れる鉱石の種類や量が増えるのだからいいのでは言っていたが年下だし学園生に無理をさせるわけにはいかないということで今のようになった。
この内容は紙に書いたが複製はしなかった。コーエンのの手元にあればいいと思ったのと、そもそもコーエンに複製してそれぞれ持っておくという考えがなかったからだ。
「魔法を使う時にはお前のところに行ったらいいんだよな?住んでる場所は?」
「王都から少し離れたトクル村だよ」
「ロープはどのぐらい持つ?」
「75日は持つようにしているけど契約通り60日で交換すれば大丈夫。ちなみにロープは3本あればいいと思うよ。ロープさえ大丈夫だったら魔法を何回でも使えばいいだけだからね」
「なるほどな。じゃあ予想より金は使わなくていいのか」
「…あ、後でなにか相談するかも知れないけどそれはこの契約とは別だからそのときは断ってもいいよ」
「じゃあ、契約の話はこれで終わりだな。それはそれとしてだ」
「?」
「うちの嫁の料理はうまかったか?」
「ミルキーさんの料理ですか?おいしかったですよ。特に肉の味付けが僕の好きな味でした」
「それは良かった!もしまずかったなんて言ったら契約を変更することころだったよ。まぁ、うちの嫁の料理がまずいなんてことはないがな」
ハハハと笑いながら言う。部屋の扉のところにはミルキーさんがいて、とても笑顔で立っていた。…とても夫婦間の仲はよろしいようで。
契約が終わり家に帰ってきた時には月がある程度昇ってきたところだった。
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