第5話 採掘の道具

「ここが俺が鉱石を採っている場所だ」

王都を出発し着いたのは小さい山のそこまで大きくない洞窟のような場所だった。ただ、周りには最低限の柵が置いてあり明らかに洞窟が人の管理下にあることが分かる。

「そういえば、ひとりでやっているの?」

「あぁ、そもそも店も広くないし、鉱石を採るのにかなり苦労するから人気ないんだよ」


「割に合わないの?」

「ちゃんと売れればそんなことはない。だけど有名なところに全部客が取られるから…」

「…うん?じゃあどうやって店を続けているの?稼ぎはほとんどないんでしょ?」

「そこは嫁も別なところで働いているからだな。後は冒険者がたまに買っていくからだな」

「?なんで冒険者?」

「有名なところは量も質も信用されているが、人気で商品が無くなった場合は買えない。そのときは質が少しぐらい悪くても急ぎだったら小さな店に行く。買われるのは大抵銀や金、それに投げ物になる大量の石だからな。でもそれだけだから小さいところはすぐに商売を辞めちまうんだ」

へぇ、例え小さな店でも冒険者にとっては有事の際に利用する必要なものになるのか。ただ収益の見込みがないから店自体を辞めてしまう、すると必然的に大きな店に人が集まるからさらに格差が大きくなる。

「じゃあ、有名なところは長いこと商売をやってるの?」

「そうだな。さらに有名なところは伝手もあるからな。それだけ店を大きく出来る」


「で、何をするんだ?」

交代だ、ここからは俺がやる。

「(ふふ、サクロウにしか出来ないが正しいだけどね)」

「困っているのは、鉱石を洞窟から持ち帰れないってことだよね?」

「そうだな。もちろん俺が掘り出す鉱石の数が少ないっていうのもあるが、一番は俺が持ち帰れる鉱石が掘り出した数よりも少ないってことだな。何回もいったりきたりするのは流石に疲れる」

そうだと思った。なんせ手押し車を使ってもせいぜい男が3~4人が両手で袋を担いで持ち運べる程度だからな。足場が不安定で暗い洞窟内だと安全に持てる数がさらに減るはず。

「だから、洞窟内に少しでも持ち運びが楽になるような道具を作る」

そう言って洞窟内に入る。


洞窟内に入るとすぐに開けた場所となり、その奥は今持っている明りですら光が届かない暗闇になっていた。いや、正確には崖になっている3次元的に広い空間があった。

「いつもここに来てるの?」

「あぁ、いつも明りを持ちながら崖を降りていくんだ。ちなみに鉱石を採る時には火の明りではなく光魔法を発する魔導具を使う。どこかで鉱石を採る時に火の明りを使って人が死んだことがあったらしい。そこから鉱石を採る時には光魔法、具体的には火の明りは洞窟の入り口からしばらくしか使えないことになったんだ。光魔法の魔導具は高いんだが命にはかえられねぇ」

「そうですか。これから火は使わない方がいいよ」

「そういわれてもねぇ」


おそらくガス爆発のことだろう。たまたま可燃性ガスのあるところを掘り当てて火で燃焼し爆発。俺の世界では何があるか分かっていたからまだいいが、この世界では何があるか分からないから危ない。

「この崖の下には上り下りがつらい場所はない?」

「ないな。せいぜい坂があるぐらいで崖はここだけだ」

ならば崖の上に鉱石を安全に運べればいいな。

「1人で使うにはちょっと難しくなるけどいいかな?」

「…それは相談だな。流石に何人も雇う余裕はないぞ」

「一番少なくて1人雇えば簡単に使える。ねぇ崖の下の明りはこっちから見える?」

「分からん。今やってみるか?」

「いいの?」

「必要ならやるさ、魔導具の明りでいいか?」

「うん」

そういうとコーエンは火をつけて崖を降りていった。


合図が出せるならロープウェイのような形にすれば簡単に崖の上まで荷物をあげることができるはず。…ロープの耐久性はどうしよう。

「(ロープウェイ?なにそれ?)」

それは見ていれば分かる。なんか案ないか?ロープに重い物をくくりつけてもちぎれないようにしたいんだ。

「(それこそ[創造]の出番じゃない?ちぎれないロープを作ればいいんだし)」

それはできるのかなぁ。俺の世界では壊れないものなんて無かったわけだし、そもそも原子を使って作る訳だから…。いや、魔法なら可能か。物に壊れないという性質を与える魔法を作ればいける。ただ、いつまで効果が続くか分からん。

「(そうだね。永遠に効果が続くなら学園で使った魔法もずっと出てないとおかしいもんね)」

そんなことを考えていると、洞窟の奥の暗闇に夜に輝く一等星のような明るさの光ができた。

「ふむ、あれぐらいなら合図は出来るかな」

そう思ったので大きな声で

「コーエンさ~ん。明りはみえてま~す。戻ってきていいですよ~」

すると明りが消えた。声も届くが、崖の下なら明りの方がいいだろう。

魔法の方は要検証だな。

しばらく待っていると

「ふぅ~。明りの方は大丈夫だったか?」

「うん。明り自体は見えるからあらかじめ決めておけば崖の上の人に合図をだせると思うよ」

「そうか。で、道具の方は?」

「それは今からだね。ちょっと試しながらだけど…、ねぇ今鉱石はない?」

「崖の下にある。持ってくるか?」

「お願い。無くても作れるけど、あったら楽になるんだぁ~」

「じゃあ、行ってくる」

そう言うとコーエンは再び降りていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る