第364話 カッコいい二つ名

「いやいや、相手はこの男で間違いないよな?」


 写真を見せてくるが……。


「たぶん……」


 自信がないな。

 もっとぐったりした顔しか覚えていない……。


「コイツはでは有名な冒険者らしい。それが弱いってことはないだろう?」


 向こう?

 ソイツの国ではってことね。


「なるほど、有名な冒険者。納得しました」


「お?やっぱり強かったのか?」


「いえ、有名な冒険者だからモンスターとばかり戦っていて、対人の経験がなかったんじゃないかな、と思いまして」


 実力がわからない相手が3人に、3対1になった時点で逃げるべきだったと思う。

 相川は怪我をしていたし、全員では追ってこないはずだ。

 もし1人だけ追ってきたなら、各個撃破できるぞ。

 それとも有名な冒険者と言うことで、仲間を置いて逃げれなかったのかな?


「そんな馬鹿なことがあるのか?元プロボクサーだぞ!」


「そういうの教えていいんですか?まあボクサーって言うのも納得ですね。目の前の1人にしか集中してなくて、俺のことが頭になったのかもしれないです」


 いい仲間がいて1対1でしか戦ったことがないとか?

 いや、モンスター相手には原則、数的優位を取って戦うモノなんだよね。

 固まって近づいて来た奴から倒していく感じなんだと思う。

 ウチは皆さんやる気勢なので早い者勝ちなんですが……。


「そういうものなのか?地上ではそうだろうけど……。ダンジョンでもそうなんですか?」


 また支部長の方に話を振る。


「春樹よ。相手はトリプルランクの冒険者だぞ?しかも名前を調べればすぐに出てくるような奴だ。誰と比べて弱いと判断した?」


 あー、そっか。

 トリプルランクなのか。

 ダブルの俺達が倒せたらマズいってこと?

 でも実際に倒しちゃったしね。

 そんなに強くないのは本当だし。


「そう言われても霞さんとか『黄緑さん』に比べたら弱いですよね。石川さんでも勝てるんじゃないですか?協会の職員の方が強いじゃないですか」


「『黄緑』?」


 弓使いの『黄緑さん』。

 名前を聞いたような聞いてないような?

 うっ、頭が……。


「えっと、この前桑島さんの護衛で来てた女の人です。弓の人。あと偶に冬海さんの護衛についてる『岩なんとか』さん。ハンマーの人。あの人も強いですね」


「阿久津と岩田か。アイツ等より強い奴はそうはいない」


 まあそうだろうね。

 『ハンマーのおっさん』は梅本さんより強いかもしれないからね。


「あと相川の親父さんとか槇原さんも。アネゴさんよりは強いと思うけど……、本堂さんとだったらどっちが強いかな?」


「『飴と鞭』の本堂ですか……。それはかなり強いと言うことになりますよ」


 本部の人が呟いた。

 『飴と鞭』ってなんぞ?

 むしろ鞭の雨の方がしっくりくるんですが……。


「言っておくが、東雲美月しののめみつきも日本のソロ冒険者では一番強いと言われているんだ。それよりも強いとなると名前が出たトップ層の冒険者達しかいない。つまりお前達が捕まえたのはのトップ層ということだ」


「しの、のの?誰ですか?」


 ミツキって綺麗な名前だね。

 でも男でも使われる名前か?


「お前がアネゴと呼んでる女冒険者達のボスだ。名前も知らんのか?」


 ひゃっ。

 アネゴさんミツキさんなの?


「東雲美月、『聖騎士のアネゴ』ですか。そういえば最近千葉に移籍していましたね。今回の新ダンジョンの調査は千葉支部にはずいぶんなトリプルランクが集まっているとか?」


 お?なんか本部の人がチクリとやってきたぞ。

 それにしても『聖騎士のアネゴ』とかカッコイイ呼び名だね。

 そのミツキさんは今日は茜さんについて某遊園地にできた『新しいダンジョンゲート』に向かったと、朝来た時にオウボウさんが言ってた。

 オウボウさんは房総半島の先っちょにできた『新しいダンジョンゲート』に行かないといけないらしい。


「ウチは本部と違って人手不足なので助かってますよ」


「最近までトリプルの冒険者どころか、職員もいなかったはずですよね?だが実際は【槍王】という隠し玉を持っていた。彼らもそうなんじゃないなんですか?」


 おう、こっちに飛び火した。

 と言うか、トリプルだと疑われてる?


「それは私が聞きたいくらいですよ。そうなのか?」


 支部長がこっちに振ってくる。


「違いますね。残念ながらトリプルではありません」


 まさかまさかですよ。

 ランクで言ったらクアドラプル相当なのでトリプルではないのです。

 自信を持って違うと答えられるね。


「じゃあそのダブルランクが3人いたとして、トリプルランクに勝てるものなんですか?しかもトップ層でしたか?ソレ相当の」


 ここで警察の人が話を戻してくる。

 ああ、それを聞きたかった訳か。

 なら答えは簡単だ。


「無理に決まっています」


 と本部の人。

 支部長はダンマリだ。


「勝てますよ。この前、平松さんが『剣聖ちゃん』に勝ってたので、ダブルがクアドラプルに勝ったってことになりますね。しかも1対1で」


「その動画なら私も見たぞ。平松が木刀を斬られて負けていたはずだ!」


 本部の人も出回った動画を見ていたらしい。


「それはダンジョンの外の動画ですね。中で戦った時は平松さんが勝ちました」


 ダンジョンの中の方は動画は撮ってなかったね。

 あの場には俺達以外は職員しかいなかったから当然なんだけど。



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