第363話 カツ丼でお願いします

「それで人質を取られて相川が怪我をしてしまって……」


『そんなことが?むむ?相川さんも一緒だったんですか?』


 その日の夜、霞さんから電話が掛かってきたのは22時を過ぎてからだった。

 忙しかったようで、ニュースは見ておらず、俺達が外国人を捕まえたことも知らなかった。

 特に空港に現れた『新たなダンジョンゲート』が問題で、建物の中でも滑走路の上でもない場所なのだが、空港の敷地内と言うことで原則武器の持ち込みは出来ない。

 つまり簡単には調査に入れないのだ。

 『ダンジョンゲート』を囲う建物を作るのにも色々と許可が必要なようで、マニュアル通りにはいかず四苦八苦したのだとか。

 しばらくはそのまま放置して人の目による監視と警備になるそうだ。


「ええ、まあ」


 霞さんは疲れていそうなので説明を短くした。

 総司と偶々通りかかったら、同級生に助けを求められて『新たなダンジョンゲート』に入ったと。

 それで犯人を使えたんだけど相川が怪我をしましたよ、と話したところだ。


『相川さんの怪我は大丈夫なんでしょうか?』


「白石さんが来て治療してくれたました。その後は元気そうだったので大丈夫ですね。ただその後が大変で、警察と協会本部の人が来て、どっちの場所で話を聞くか揉めて外に放置されたんですよ。しかもそのダンジョン、雨が降ってるダンジョンでぬれた状態ですよ?」


『むむむ、許せませんね。受験生が風邪を引いたら大変です。今夜はちゃんと温かくして寝てくださいね。しかし雨ですか、珍しいダンジョンですね。寒いと言えばこちらも風を防ぐ物がなくて……』


 霞さんは明日も成田に行かないといけないらしいので夜の電話は早めに切り上げた。

 ちなみに成田のダンジョンの1階層は草原のフィールドで出てきたのは犬のようなモンスターだったらしい。

 1階層だけなら普通のダンジョンだね。

 武器も持ち込めないし、まだ入れないはずなのだが、目を離した隙に新人ちゃんが勝手に入って見てきたのだとか。

 新人ちゃんは明日からは支部でお留守番をさせられるらしい。

 人手不足なのにね。

 『吠えられたっすー』じゃ、ないです、と霞さんがボヤいていた。





「どうしてそんなところにいたんだ?初詣?そんな馬鹿な。近くに神社はないはずだぞ?」


 ここは取調室、ではなく千葉支部の小会議室である。

 狭目の会議室には警察が2人に支部長と本部から来たらしい職員、そして俺。

 机を挟んで俺に正面に警察の人が座り、横の壁際でもう一人の人が記録を取っている。

 反対側の壁際には支部長と本部の人が座っていて偶に口を挟んでくる。


「ち、地域の清掃活動です」


「元日からか?まあ他の奴らそんなことを言っていたらしいな」


 アイツ等そんな嘘をついてるのか……、許せんな。

 水木の家には近づかないという取り決めがあるらしいが、初詣に出てきた姿を一目見ようと集まっていたのだ。

 初女神とかなんとか言ってたぞ。

 あわよくば振袖姿を写真に収めようとしていたらしいが、そこに怪しい外国人たちが現れて追いかけたらしい。

 取り決めに違反しているが、緊急事態だという免罪符で水木の家に近づいていったのだが、まさか本当に不審者だったのでビックリという訳だ。

 まあアイツらがいなかったら俺達ももう少しゆっくりにして様子を窺っていたかもしれないし、お手柄と言うことにしておいてやろう。

 実際に運転手と車を見つけてるしね。


「何故そこにいたのかはどうでもいいのでは?犯人という訳でもないんです。それとも警察は彼のことを何か疑っているんですか?」


 本部の人が横槍を入れる。

 味方なのかな?

 まるで弁護士のようだね。

 お昼はカツ丼にしようかな?


「これは皆さんに聞いてることなので、一応ですよ。まあ次に進みましょうか。……ダンジョンの外にいた男が銃を持っていたのは知っていたんだよな?知っていて突っ込んだのか?」


「そこは俺じゃなくて総司……、もう一人の奴に言ってください。アイツがもう突っ込むって言ったので俺は仕方なくついて行っただけなので」


 総司カッコよかったね。

 うまくいってよかったよ。


「もう一人の子、夏目総司だったか。彼は今日は来てないんだったな」


「はい。昨日はダンジョンで雨に打たれたのに、警察の人に外に放置されて風邪を引いたみたいです」


 あ、あのダンジョンに雨降ってたって教えてよかったんだっけ?

 まあ警察にはいいか……。


「それは問題ですね。後で正式に抗議させて頂きましょう」


 いや、パトカーに乗るなって言った協会の人のせいなんだけどね。

 その人は今日は来ていない。


「その話は聞いてないな……」


「現場にいた警察官が2人を署に連れて行こうとして引き留めたらしい」


 支部長からも援護攻撃。

 風邪を引いたのは支部長の説教のせいかもしれないけどね。


「それは申し訳ないことをした。確認して改めて謝罪しますので……。えっと、ダンジョンの中にその男も押し込んだんだったか。その後はどうやって男達を取り押さえたんだ?4人いたんだろう?」


「入った時点ではもう3人でしたね。相川に1人倒されてたので」


「ふむ、3人な。それで3人をどうやって倒したんだ?」


 3人だって知ってて確認した感じか。

 昨日も現場で警察の人に話してるからね。


「揉み合ったままダンジョンに入ったので、力の加減が利かなくてそのまま手足を握り潰しちゃった感じですね。グシャって。1人をそんな感じで倒したところで、中にいた1人が銃を向けてきたのでその手を掴んで引っ張ってボキッとやりました。ついでに動けないようにボキボキッと。それで2人倒して……」


「待て待て、話について行けないぞ。今の仕草だと軽く握ったり踏んだりしただけだよな。そんなに簡単に骨が折れるのか?グシャってなんだ?」


 それが出来るんですよ。

 怖いよね。


「えっと、その二人はたぶん冒険者じゃなかったので……。レベル差があると簡単に折れちゃいます。グシャってなったのはダンジョンに入る前に思いっきり力を込めてたので、入った時にステータスの補正が掛かった状態で全力で握った形になったので……。グシャっとなりましたね」


「そういうモノなのか?……ですか?」


 警察の人が支部長達に確認する。


「そういうモノです」


 支部長が肯定する。


「そ、そうですか。確かに資料とは一致する。の複雑骨折……。何か特別なスキルとやらを使った訳ではないのか?」


 この人そんなにダンジョンに詳しくないのかな?

 調べては来ているみたいだけど……。

 なんでこの人を担当にしたんだ?

 いや、結構な事件だからね。

 実は偉い人なのかもしれない。


「普通に握っただけです」


「うっ……。もう1人いたな。ソイツはどうやって?」


 握る仕草をしたら、ちょっと引かれてしまった。


「総司の攻撃を回避スキルで躱したのでそこにしました。ドーンって」


「ドーンってお前……。回避スキルって絶対に躱せるんじゃないのか?」


「だから総司の攻撃を躱したんですよ。そこにドーンってやったんです。それに回避スキルも絶対じゃないです。必中スキルみたいなのがあって、使った回避スキルの速度が遅いと追いつかれて当たりますね」


 スキルの精度とでも言うべきだろうか?

 【エイミング】なんかは回避しても追いかけるので、攻撃の範囲外に逃れないと躱せないのだ。

 その際に回避して範囲外に逃れる前に追いつかれると当然当たることになる。

 だから、どっちのスキルが速いか、つまり精度が高いかの勝負になるね。

 『青影スケルトン』の回避スキルはもう瞬間移動レベルですよ。

 パっと消えてパっと現れる。

 正に忍者。

 予めどこに現れるかからなんとか対処できたのだ。


「だからドーンってなんなんだ。それで?その後はどううしたんだ?3人掛かりで倒したんだろう?」


「いや、それで終わりですよ?総司と2人で倒しました。まあ相川を攻撃してたのみたいなので3対1と言えば3対1ですけど」


 向こうは4人いたから3対4かな?


「なっ……。一撃だったのか?」


「はい。あんまり強くなかったので、一撃でしたね」


 むしろ加減をミスったので、オーバーキルしてしまうところだったのだ。


「え?」


「ん?」


「は?」


 お?

 何?

 記録を取っている人以外が反応した。

 支部長と本部の人まで……。

 どうかした?


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