第359話 【悲報】犯罪組織だった

 1月1日、元日。

 総司を連れていつもは利用しない駅で降りた。

 この駅は学校を挟んで反対側にあるので、俺が普段来ることのない駅である。


『年が明けたら水木沙織の家に行け』


 夢で見た女神はそう言っていた。

 なるべく早くとも言っていたが、まさか0時を過ぎたら向かえと言うことはないだろう。

 そしてダンジョンにいる女神が言ったのならそれはダンジョン関連の出来事ということ。

 今年の元日で、ダンジョン関連の出来事と言えば新ダンジョンの発生である。

 時間は午前9時、くしくも標準時での0時、年明けとなる。

 ならばそれを目掛けて水木の家に行ってみることにしたのだ。


「って言うことなんだよ」


「じゃあ何か?夢で見たダンジョンの女神が水木の家に行けって言ってたから俺達は今水木の家に向かっているのか?」


 そういうことになる。

 俺一人で行くと問題になりそうなので、総司を誘って初詣と言うテイで水木の家の前を通り過ぎる。

 向こうには相川がいるし、総司が相川と一緒に初詣をしたがったという言い訳も利く。


「ダンジョンで見た夢だからな、バカには出来ん。『剣聖ちゃん』でさえ夢で見たって理由で霞さんをパーティーに誘いに来てるんだぞ。家の前を通り過ぎて何もなかったらそれでいいんだよ。その後でお前から相川の安否確認をしてもらえば任務終了だ。それこそ初詣でもして帰ろうぜ」


 まあ何もないと言うことはないだろうけどね。

 だぶん『ダンジョンゲート』が出来ているのだろう。

 水木の親は反ダンジョン派で有名である。

 最悪『ダンジョンゲート』のことを秘密にするかもしれない。

 変な勢力に目を付けられる前にそれを通報しろと言うことなのだろう。

 匿名ででも通報して、協会の職員か誰かが来るのを待ってその場を離れる……。

 そう思ってたんですけど、総司君が遅刻しましてね。

 すでに9時を過ぎているのだ。

 女神がなるべく早くって言ってたのにね。


「それで『剣聖ちゃん』が何回も来てるのか……。なるほど、夢か……」


 夢に何か思い当たることがあるのか、総司は考え込んでしまった。

 そう言えば総司と相川はどんな夢を見てるのかな?

 特に相川なんか毎日ダンジョンで夢を見てるだろうし。

 霞さんは50階層の夢を見ていないって言ってたけど、相川が見ているならもうクリアしてる可能性まである。

 『剣聖ちゃん』の【次元斬】を【ダンサー】の回避スキルでうまく2回躱せれば……。

 うーん、2回って言うのが難しいんだよね。

 たぶん回避したところにもう一撃飛んでくるし……。

 1回は自力で躱さないと駄目か……。

 もう一つ回避スキルを取るとかしないと難しいかな?

 いや、相川の場合は相手は『剣聖ちゃん』じゃなくなるのか?

 4人で行ったらスケルトンって何体出てくるんだろうか?

 1人で行ったら1人か?

 それなら簡単にクリアできないか?

 まあリッチの対策が出来てればだけど……。


『大変なことになりましたぞ』


『け、警察には電話しました。た、助けに行きますか?』


『正気でござるか?相手は銃を持っているでござるよ?』


 水木の家の近くに来たところで見覚えのあるダンジョンオタクとその他数名を発見した。

 なるほど、こいつ等を排除せよと言う女神のお達しだったのか。

 正月から人の家に押し掛けるとは、女神愛好会とやらは犯罪組織だったらしい。

 早速警察に電話しよう。


『一旦冷静になるんですぞ。兎に角、会長に連絡して指示を仰ぎますぞ』


 むむむ。

 ついに女神愛好会の会長の正体が正体が?

 現場を押さえたぞ!


『ピリリリッ、ピリリリッ』


 警察に電話しようと取り出した俺の電話が鳴る。

 相手は目の前にいるダンジョンオタクである。


「「「「「か、会長!」」」」」


 ダメ押し。

 振り返った犯罪者集団がこちらを見て叫ぶ。

 いや、総司が会長っていう可能性も……。


「会長、大変ですぞ。女神様の家に銃を持った集団が押し入って、女神様を『ダンジョンゲート』に押しやったんですぞ」


 銃?

 え?

 何言ってるのコイツ?


「4人の外国人だったでござる!」


「じ、銃をもって女神様達を『ダンジョンゲート』に入るように脅してました!」


「犯人は3人はダンジョンに、一人は『ダンジョンゲート』の前に待機ますぞ!」


 口々に状況を説明し出すが、よくわからん。


「相川!」


 総司が走り出した。


「く、どうなってる。お前らは警察に電話、あと協会にも!」


 予想外の事態に慌てる。


「アイツ、銃持ってるのか?」


 水木の家の前で止まっている総司に追いついた。

 庭には『ダンジョンゲート』があって、その前には男が一人。


「らしいな。どうする?」


「……俺がアイツを押さえるから春樹はダンジョンに入れ。ダンジョンに入ればお前ならどうにでも出来るだろ?最悪みんなを千葉支部の方に……」


 囮になるってっことか?


「落ち着け。相川がダンジョンの中なら自分でなんとかしてるかもしれないぞ。でもアイツのせいで出てこれないでいるかもしれないからな。2人でアイツを『ダンジョンゲート』に押し込む。いいな?」


 中に入ったら相川に何しにきたとか、遅いとか言われるかもね。

 そうだ、ダンジョンに入りさえすれば銃も怖くないのだ。

 入る前に撃たれてもダンジョンに入ればHPが続く限りは死なないはず。

 【ゲート】を使えば千葉支部のダンジョンにも移動できるのだ。

 そこで白石さんに治療してもらえばいい。


「わかった。でも俺が先に行く」


 そこは譲らないのか。

 先手は譲り、飛び出した総司の後に続く。


『ん?なん……』


 男が懐に手を入れようとしたところで総司が組みついた。

 そこに後ろからタックルをする。

 景色が切り替わるのと同時にビシャッと水溜まりに落ちた。

 肌に感じる温度も変わる。

 よし!ダンジョンだ。

 力が漲る。

 漲り過ぎて押し倒した男の足を握りつぶしてしまうところだった。

 総司も同様に懐に入れた手を握りつぶしたのか、拳銃が男の懐から落ちる。

 ひぇっ、本当に銃持ってた。


「夏希ー!」


 総司が相川の名前を呼んで走り出す。





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