第357話 【相川夏希】熊の子のパンダ困った子【その2】
SIDE:相川夏希(春樹のパーティーメンバー)
「これが『ダンジョンゲート』だし?」
「ね?生で見たのは初めてだよ。シロさんはこの先にも行ったことあるんだっけ?」
「まあ、通らないと夏希の所に行けないからね」
冷えるので着替えてから庭に出てきた。
私は見慣れてると言うか、これを通らないと家に帰れないから毎日みてるけどね。
一般人には珍しいのかもしれない。
まあ今はシロさんみたいに遊びや観光目的で冒険者のライセンスを取る人も多いので一生『ダンジョンゲート』を見ないと言う人は少ないと思う。
「とりあえず通報するよ」
「お、流石現役の冒険者」
沙織から茶化されつつ、スマホを手に取る。
とは言ったものの、どこに連絡すればいいのか?
まさか自分で新ダンジョンを見つけるなんて思っても見なかった。
渡辺さんは忙しいはずだ。
すでにここのように各地に現れた『ダンジョンゲート』の保持に回っているはずである。
そうでなくても、渡辺さんにここに来られても困る。
電話するなら白石さんかな?
出なかったら支部に……。
「あ、沙織。お客さんだし」
「誰だろ?って入ってきてる。なんですか?勝手に、あ……」
「え?銃?」
は?と思って顔を上げた時にはもう遅かった。
銃を構えた男を先頭に4人。
「ハイレ。ソレニハイレ」
銃口は私の方に向いている。
「え?え?え?」
何が起こっているのかわからない。
カタコトの日本語……。
でも4人とも日本人じゃないっぽい。
ニュースでやってた『ダンジョンゲート』を悪用しようとする外国人……。
(怖い……)
足が震える。
銃を突きつけられるなんて初めての経験だ。
ダンジョンでモンスターと対峙した時とはまた違った怖さがある。
ダンジョン……、そうだ。
(ダンジョンの中ならこんな奴等なんてことない!)
こちとらレベル40を超える上位ジョブ2つ持ち。
ランクこそダブルのままだが、実力はクアドラプルの冒険者なんだ。
「ハヤクッ!ジュウミエナイカ?」
「な、夏希」
「大丈夫、中に入ろう」
みんなは私が守る。
みんなに頷いて見せて先に入る。
謎の集団もそれを見てか、何か話し合って1人が家の方に向かったのを横目に見えた。
家の中に誰かいないか調べるつもりなのだろう。
「雨?」
「あれ?寒くないし」
「これがダンジョン?」
雨……。
このダンジョン、雨が降っているダンジョンだ。
しかも外は1月の朝らしくとても寒かったのに、ダンジョン内は暑いくらいだ。
『雨?当たりのダンジョンじゃねえか。もったいなねぇな』
『拠点にしたいところだが、こんな住宅街の真ん中だとな。住人が消えたらすぐに周りが気付く』
『おい、サッサと済ませて出るぞ』
日本語じゃない。
それに英語でもないから何を言っているのかわからない……。
(もう襲い掛かるべき?)
足の震えはもう止まった。
仕掛けるか?
でもコイツ等の目的がニュース通りなら【収納】から物を取り出したらすぐに逃げるはずだ。
放っておけば何もされないかも?
すでに銃口も向けられてない。
私に向けられていたのはスマホを持っていたからだ。
ダンジョン内では電波はないのでその必要もなくなった、と……。
「何語なの?」
「なんかこのダンジョンは当たりとか言ってるし」
「エッコわかるの?」
あ……。
『コイツ言葉が通じてるぞ!』
3人は身を寄せ合あって、小さい声で話していた。
それでも聞こえていたようで私に銃を向けていた奴がエッコの指差して激高し出した。
コイツは日本語がわかるんだ……。
『何?今までの会話も聞かれてたのか?』
『消そう!』
別の男が懐から銃を取り出してエッコに向けようとしたので割って入る。
もうやるしかない。
(【身体強化】【部分獣化】)
腕だけ『獣化』させて、エッコに銃を向けて近づいて来た奴を殴りつける。
(ヨシ、いける!)
殴った奴は吹っ飛んで動かない。
次はもう一人の銃を持っている奴を、と思った瞬間だった。
「がっ」
横っ面を思いっきり殴られた。
ダンジョンに入った3人の内の一人、銃を持っていない奴だ。
「夏希ー!」
沙織たちから悲鳴が上がる。
大丈夫、大丈夫だけど……。
『お?今ので倒れないのか?トリプルか……』
コイツ、強いかも……。
『あーあー、ソイツを守るのがアンタの仕事だろう?ありゃりゃ、完全にノびちまってる。しばらく起きないぞ。【収納】持ちがコレだと仕事にならん。どうする?』
『チッ、ソイツが勝手に近づいて勝手にやられたんだ。一旦外に出て様子を見るか……。ダンジョンの中にいると袋の鼠だしな。でもその前に……』
「ぎっ」
また殴られた。
ボクサー?
来るってわかっていたのに躱せなかった。
でも威力自体はそんなでもない。
顔を守っていれば……。
『仕事の邪魔をされたんだ。コイツ等は殺しておくか』
「ぐっ」
見透かしたのようにボディブロー……。
息が……。
それでも踏ん張って倒れない。
負けられない。
私が負けたらみんなが……。
『これも耐えるのか?タフな奴だ。盾職か?』
油断してる。
今しかない。
爪を伸ばして全力の一撃を繰り出す。
(あ……、回避スキル……)
スカッ、と。
不自然な動きで躱された。
『おっと。今のは危なかったな。まだまだ元気そうじゃないか』
「げっ。ごっ」
上下に綺麗に打ち分けられて、膝を付く。
こんな時に敵を褒めるのもなんだが、うまい。
『どうした、どうした?もう終わりか?立って向かって来い。今は回避スキルは使ってないぞ?』
言葉はわからない。
でも挑発されてるのはわかる。
「このやろー!」
ブン、ブンと、私の左右の攻撃は虚しく空を切る。
『残念。そんな大振り当たる訳ないだろ』
「がっ、ぎっ、ぐっ、げっ、ごっ」
お返しに5発貰う。
対人戦闘の経験値の差。
私は人相手に戦ったことはない。
ちゃんと平松さんの稽古を受けていれば……。
今更なことを思う。
判断ミスが多すぎた。
まず『ダンジョンゲート』を見つけてすぐ通報しなかったこと。
着替えて外に出てから通報しようとして止められてしまった。
通報していれば時間を稼ぐだけで良かったのだ。
次にダンジョンに入ってすぐ不意を突かなかったこと。
平松流ならそこで仕掛けていたはずだ。
そして【ダンス】を使っていないこと。
踊りることさえできれば回避スキルもあるんだ。
今からでも……。
『ホントタフだねー』
「ざっ、じっ、ずっ、ぜっ、ぞっ」
距離を取ろうとしたが更に連続攻撃を貰ってそのま後ろに倒れ込む。
『日本の冒険者は弱いな。レベルだけの雑魚だ。全員こうなのか?』
『日本の冒険者はモンスターとしか戦わないからな。アンタみたいなのは天敵だろうよ』
まだ……、終わってない……。
私が……、みんなを……、守らないと……。
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