第349話 俺の前を歩け
「もしかしたら、無意識下で記憶が戻ることへの拒否反応が出ているのかもしれないね。やめるなら今だけど、どうする?」
どうしよう……。
「はぁ、まぁ、やる方向でお願いします?」
困った……。
「生返事だね。まあしょうがないか。無意識下と言ったの通り自分でも気がついていないのだろう」
「春樹さん……」
霞さんからも心配されてしまう。
どうやら今から俺の記憶を取り戻すための治療を行うところらしい。
うっ、頭が……、いや、マジなヤツだよ?
「いいのなら、さっさと済ませるぞ。病院でやるんだったな?ホラ、進め」
支部長が急かす。
「え?支部長も行くんですか?」
「当たり前だろう。今、ダンジョンは立ち入り禁止中なんだ。監視する。逃げようとしたら撃つからな」
「「ヒェッ」」
支部長が懐の銃を見せてくる。
新年の1月1日には新ダンジョンが地球に現れることになる。
それに伴って人の出入りが少ないダンジョンは消えるらしいので、現在日本では大事をとって全てのダンジョンを封鎖している、んだよな?
中に人がいてもそのまま地上の『ダンジョンゲート』が消えてしまうらしい。
まあ今までの傾向から言って、各支部にあるダンジョンは消えないってわかってるんだけどね。
この機に乗じてダンジョンに入り込もうとかいう輩も出てくる可能性があるし、消えるダンジョンにいれば異世界に行けるとか変な噂もある。
支部長が武装して中で待ち構えている程度には警戒しているのである。
地上でも平松さん始め、職員が『ダンジョンゲート』を固めていた、ような気がする……。
「わかったら、歩け。俺の前をだぞ」
そんな怖い顔で言われたら、どっちが悪い奴か分からないですけど?
あ、俺も悪い奴じゃないですよ?
でもよく考えたら今更そんな拳銃で撃たれたところで痛くも痒くも……、痛いかもしれないが、それだけだろう。
いや、支部長もトリプルランクか……。
何か銃弾を強化するスキルとかを持っているかもしれない。
それに俺と霞さんはともかく他の人は……、ん?
これ白石さんか?
振り向くと俺と同じように銃にビックリしている人が一人……。
(梅本さんが言っていたことが今ならわかる。なるほど、なるほど……)
【気配察知】で大体の強さが計れるようだ。
霞さんは強いってことだね。
これは問題ない。
次に強いのは『聖女様』達の護衛人の2人。
黄緑さん、……この人の名前何だっけ?
今日はスーツ姿で武器も持ってないけど、弓を使う人だったはず……。
もう一人の石川さんも……、あれ?目を逸らされた?今こっちを見てたような?
まあ石川さんもそれなり、2人とも支部長より強いってことになるかな?
支部長はちょっと変わってる気配で、斥候職ともまた違った感じを受ける。
気配的には強くは無そうだけど、銃持ってるから実際はどうなんだろうね?
【気配察知】で見えているのは実際の強さとはまた別なのかもしれない。
秋山さんと桑島さんは一般職らしい感じの気配で、これが弱い気配ってことになるのだろう。
でも眩しいです。
一番弱いのは雨宮先生になるか。
レベルは20近いはずだけど、ジョブ無しとか言う珍しい人だからね。
で、白石さん。
この人の気配、おかしいよね?
白石さんは戦えない人のはずだよね?
これはステータスでいう強さなのか?
……それでもこの人、霞さんより強いってことになるぞ?
「春樹さん、大丈夫ですか?」
支部長が本当に撃たないか心配だったので支部長の隣に陣取って歩き始めたところで霞さんから声が掛かる。
同じように反対側になる支部長の隣を歩いている。
「ええ。あれ?霞さん?昨日、東京タワーに行きましたよね?今日は何日でしたっけ?」
やばい、記憶喪失かも……。
「え?……春樹さん?」
「聞いてたより重症じゃないか……。というかなんで俺を挟んで会話するんだ!?前を歩かんか、前を!」
もちろん、支部長が少しでも動いたら取り押さえれるようにです。
黄緑さんも何気に聖女様達との間に入って射線を切ってるし。
「ちょっと!聞き捨てならないわ!東京タワーって何よ!」
『聖女様』……、桑島さんの方が反応してしまった。
前も思ったけど、この人子供っぽいよね。
テレビで見てる『聖女様』はキリっとしてて大人っぽいのに……。
桑島さんは今日もさっきまで仕事をしていたとかなんとか……。
自分なんてクリスマスは会長と一緒だったのに自分だけズルいと……。
人混みがすごいからミアさん達のところにも行けなかったとか……。
不満が爆発してしまった。
やいのやいのと騒いでいるうちに病院に着いてしまった。
(ホント、どうしよう……)
記憶、もう戻ってるんだよね……。
いやいや、みんな戻そうとしてくれてるから言い出せないでいるんだけど……。
実はさっき地上からダンジョンに入った時点で戻っている。
俺的にはあの夢の世界をクリアすれば外に出れるという感覚だったのだが、こっちでは一ヶ月以上俺は記憶喪失の状態で過ごしたらしい。
いや、夢もあれでクリアなのか?
『黒鎧』から槍を奪って、止めを刺さないで『チャージ』の時間を稼いで、『剣聖ちゃんスケルトン』から『ゲート』で隠れつつ、MPを限界まで溜めて上にぶっ放した。
で、気が付いたらダンジョンに入ったところだったと……。
あのレイスを倒すのがキーだったのかもしれない。
「石川さんと私はここに残って警戒します。石川さん、中に気配はありませんね?」
「えー?私もですか?……あ、はい。無いです」
「うむ。任せる」
黄緑さんと石川さんは玄関で待機のようだ。
支部長も残っていいんですよ?
あ、睨まれた。
はい、進みます。
「こんなものかな?じゃあ始めようか」
病室に入ってペタペタと観測用の機械を張り付けられて治療開始となる。
「支部長、私達は病室の外で待機しましょう」
「「「「「え?」」」」」
霞さんの言葉に皆が耳を疑う。
「そうか?お前がいいならそうするが……」
支部長を引き離してくれたのかな?
今回、【聖女】2人掛かりでの治療、白石さんはそのオマケと支部長には説明してある。
白石さんが新しいジョブを取得していることを支部長は知らない。
(たぶん【悪女】になったんだよな?)
その辺は記憶が曖昧だ。
しっかり聞いていなかったのか、記憶が抜け落ちているのか……。
40階層に一緒に行ったのはちゃんと覚えてるんだけどね。
悪徳ポイントがどうのこうの言ってたのも聞いた気がする。
記憶がうまく統合されてないのか?
それとも戻った記憶に上書きされて消えたのか……。
「春樹さん、頑張ってくださいね」
「はい、だいじょ……」
「頑張るのは私達なんだから、私達を応援してよ!」
桑島さんが割って入る。
「そうですね。美雪、頑張って。冬海さん、春樹さんをお願いします。白石さんは……程々でお願いします」
最後に俺に目配せをして霞さんは病室を後にする。
(さて、ここからが本番だ)
……記憶が戻った演技、できるかな?
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