第345話 ミアさんのスケルトン
「まあ元気出せよ」
総司に慰められる。
出てきたマンティコアの巨体にビビッて何もできなかった……。
何もしないのは計画通りだったけど、ビビってる間に終わってしまったのだ。
それに比べて総司はすごい。
40階層のモンスターを一人で倒してしまったんだから……。
「うーん、なんかスキルポイントの下に悪徳ポイントっていうのが出てきたわ」
「悪徳ポイント……。聞いたことがありますね。悪いことをすれば貯まるのだとか……」
「じゃあこの悪徳ポイントを貯めて【ヒール・悪】を使えばいいわけね」
白石さんは無事にお目当のジョブが取れたようだ。
元々30階層の時点で選択肢に出ていたジョブのようなので、心配はなかったけどね。
「悪いことって具体的に何するんですか?」
「うーん……。なっちゃんお金貸してあげようか?」
「絶対嫌ですよ。好き好んで【悪女】からお金借りる人はいないでしょう……」
「大丈夫、大丈夫。ちょっと試しに貸すだけだから。あ、上がったわ!」
相川も向こうに加わって3人が新しく得たジョブから覚えられるスキルを精査している。
「肝心のバフの方はどうなんですか?」
「あるわよ、すごいのが。その名も【奇跡・偽】!これは間違いないなわね」
「いや、それ間違ってるじゃないですか!」
盛り上がってますね。
いいなぁリザルト。
俺は4つ目のジョブを取ってるからもうないんだよね。
スキルポイントも0。
いや、レベルが上がればスキルポイント入るのか……。
「春樹の気持ちはわかるぞ。俺もそうだったからな……」
総司がベテランの冒険者のようなことを言う。
じゃあ俺はその話を聞く新人冒険者か……。
「日程はどうしましょうか?梅本さんの検査の時に冬海さんに頼むつもりでしたが、梅本さんがいらっしゃらないのなら冬海さんに頼るのは難しそうですね。今や時の人ですから……。逆に手の空いた美雪に頼むしか……」
「一人と言わずに二人とも呼んじゃえばいいんじゃない?年末は本部の診療所もお休みでしょ?ウチはギリギリまで職員なら出入りできるし、2人とも呼んじゃいましょうよ」
「二人とも帰省とかするんじゃないですか?それよりもクリスマスなら休暇とか取れません?」
今回白石さんのジョブを取りに40階層まで行ったのは、俺の記憶を戻す為らしい。
記憶が戻れば総司みたいに戦えるんだろうか?
才能がないと言うのは平松さんどころか『剣聖ちゃん』からもお墨付きなので、俺の仕事は今日みたいに送り迎えだけなのかもしれない。
まあそういうのを蔑ろにしてはいけないっていうのが追放モノのお約束なんだけどね。
「あー、クリスマスは無理なのよ。ダンジョンデートをしようってカップルがいっぱい来て毎年怪我人も多くなるの。しかも今年は年末年始はダンジョンがお休みだから、お客さんが年末の挨拶に来ると思うし、大変なのよー。大体クリスマスに休みが取れるならこっちは手伝ってくれないでしょ?」
「冬海さんは来てくれそうですけど、監視されてそうですからね。そうなると年末ですか。私は入るの無理そうですね。ハル君をどうやって入れるんです?」
「年末になると支部長は『ダンジョンゲート』の前でずっと待機してるでしょうから、支部長には話すしかありませんね。万一のことを考えて雨宮先生にも。では日程を詰めるので、白石さんはスキルの練習と悪徳ポイント集めをお願いします」
悪徳ポイント集めとはなんぞや?
「なっちゃん、お金貸そうか?ちょうど手元に今週分の食費があるのよ」
「なんで私に言うんですか。渡辺さんに貸してくださいよ」
「渡辺さんはお金持ってるでしょ。それに女子高生に貸し付けるのが意味があるのよ。あ、また上がった。『剣聖ちゃん』来てくれないかしら?」
順調に溜っているようです。
「また賭け事ですか?まあ今回は大目にみますが……。ですがダンジョンの外で悪いことをしても意味はなさそうなので、注意してくださいね。あと捕まるようなこともです。犯罪にならない程度にお願いします」
「しばらく取り締まりが緩みそうね。みんな伝えないと!」
「まさかとは思いますがギャンブルがしたいだけでは?」
「もー、そんな訳ないでしょ。坊やの為よ!……あ、また上がったわ」
スキルは思い込みが大事、ということでお店の店員さん達の食事は食パンだけになった。
でも裏で
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「ミスった。『ドリル抜き手』はダメだったか……」
『アーマーショット』を使う際に手首を高速で捻ることで回転したガントレットがドリルとなって敵を襲う平松流の奥義なのだが、『剣聖ちゃんスケルトン』には通用しなかった。
ノーモーションで放てる『ロケット抜き手』だからこそ効果があったのだ。
一瞬手首を捻っただけで、警戒されて剣で受け流された。
まあ受けた剣は折れたのでその後なんとか押し切れたが、素手でも【飛斬】を撃ってきて少し削られた。
ふいーと息を吐いて座り込んでしまう。
霞さんの槍が銀色の綺麗な薙刀になったこと以外変わりはない。
何か打開策はないかとステータスを見ても変化なし。
明らかに41階層のスケルトンよりも強いここのスケルトン達だが、経験値は入っていないようだ。
あるいは死んだ瞬間に元に戻っているのか?
せめてスキルポイントが余っていればその検証も出来ただろうに……。
「あっ!クソッ!『チャージ・盾』『マジックシールド』!」
上から火球が落ちてくる。
座った瞬間これですよ。
幸いなことに俺の真上に落ちてきたので、盾で掻き消せた。
何かに触れて火球が爆発する前なら『マジックシールド』を使うことでノーダメージで消すことが出来るのだ。
でもイラっとしたので、落ちていた槍を拾って火球の飛んできた方向に投げる。
意味がないのはわかっている。
アイツは実体がないレイスと言うヤツだろう。
物理攻撃は効かないのだ。
『ピエエエエ』
甲高い鳥のような奇声を上げて何かが、いや、レイスが落ちてきた。
何が起こった?
槍が当たったのか?
何故?
どこか急所があるのか?
いや、それよりもコイツ……。
「レイスはミアさんのスケルトンだった!」
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