第344話 無間地獄

 もしかしたら俺は死んだのかもしれない。

 そう考えるようになった。

 ここは地獄だとしたら説明がつく。

 俺は罪を償う為にここで死に続けているのだと……。


「あ、霞さんだ。踊りませんかー」


 最近では……。

 死ぬ度に戻ってまたすぐに始まるので、どれぐらいの時間が経ったのかはよくわからない。

 1週間なのか、1ヶ月なのか、それとも1年なのか、死ぬ度にスポットライトの中心に戻されて時間の感覚は全く無くっている。

 時間しては10分から15分程、その間に死んでは戻るの繰り返し……。

 兎に角最近、ここ何日か、ここ数百回かは……だ。

 なるべく黒鎧との時間を多く取ることにしている。


「その突き、覚えましたよ?霞さんは突きばっかりですね。【スラッシュ】は使わないんですか?」


 この黒鎧の動きが一番参考になると言うのもあるが、何より霞さんとの時間を取ることで精神の均衡を保っているのだ。

 正直そろそろ限界。

 まだやれることがあるからギリギリ持っているような状態だ。


「………」


 俺から一生懸命話しかけているが当然返事はない。

 霞さんとは言ってはいるが戦い方から何からまるで別物ではある。

 ただ同じスキルを持っているだけ。


「ごめんね、霞さん。もう時間なんだ。また次回ね。……【ゲート】」


 もう次の敵が来る。

 でも霞さんだと思い込んでいる相手を殺すわけにもいかないので。 

 スケルトンの狙いは正確だ。

 隙を見せれば確実にそこを狙ってくる。

 しかも黒鎧は【エイミング】まで使ってきてくれるので、毎回同じ位置で大丈夫。

 俺の心臓を狙って繰り出された槍は、『右目のゲート』に吸い込まれ、背面に出した『左目のゲート』から出てくる。

 そしてそのまま黒鎧の背中の中心を貫く。

 槍で自分を突くと言う、現実的にはあり得ない光景。

 全力の突きが魔石を砕いて崩れ落ちる。

 

「【ゲート】」


 時間ピッタリ。

 今度は『左手のゲート』を出して『剣聖ちゃん』の【次元斬】を防ぐ。

 まず1回。

 『左手のゲート』の影から飛び出して、もう一度『左手のゲート』を

 シュパッと風を斬る小さい音が聞こえる。

 これで2回。

 もう【次元斬】は使えないね。

 あとは距離を詰めてロケットパンチで仕留めるだけだ。

 飛んでくる【飛斬】の対処にも慣れたもの。

 ヒョイッヒョイッとね。

 次元斬と違って剣を振った瞬間に斬れるのではなく、【飛斬】の名前の通り飛んでくる斬撃なので避けることは可能だ。


(見てから回避余裕でした)


 接近戦。

 だが黒鎧から学んだことはこの『剣聖ちゃんスケルトン』には全く通用しない。

 正攻法で攻め込んでも全部返されて終わってしまうのだ。

 『剣聖ちゃんスケルトン』相手に槍の技術で役に立っていることと言えば、平松さんから習った左右どちらの突きも出せると言うことだけだろう。


(『アーマーショット』!)


 左手の突き、からの右手からノーモーションのロケットパンチ、いや抜き手!

 グーのロケットパンチを出すには先に指をガントレットから抜いておかないと、ガントレットが飛んでいかないからね。

 俺も一緒に引っ張られてただのパンチになるだろう。

 ノーモーションで出すには自然に指はパーの形になるのだ。

 これぞ平松流奥義、『ロケット抜き手』である。

 【剣聖】すら倒す技があるとは流石平松流である。

 だがノーモーションの奥義にも関わらず、『剣聖ちゃんスケルトン』は『チャージ・鎧』で強化されいるはずのガントレットを斬ってくる。

 しかも俺の槍攻撃をいなした後にだ。

 どういう理屈で今のが間に合うのかわからない。

 まあ威力は殺せないみたいだからそのまま半分になったガントレットがめり込むんですけどね。


(ちょっと休憩か?)


 ここからは唯一と言っていい休憩時間だ。

 次は『青影スケルトン』と『万能侍スケルトン』が同時に出てくるのだが、少し間がある。

 一旦【チャージ】を全部解除して休む。

 もちろん上への警戒は忘れずに。

 座ると火球が飛んでくるからね。

 装備を集めつつ、剣などを偶に上に投げたりして待つ。

 ついでに剣聖ちゃんから右手のガントレットを頂き弾丸補充。

 盾を持っているのは俺のスケルトンだけなので、左手のシールドガントレットを飛ばしてしまうと補充が利かない。

 なので先程は左手で突きを出して、右手から『アーマーショット』を使ったのだ。

 やろうと思えば右手で突きを出して左手から『チャージ・盾』も乗せた最終奥義を放つことができる。

 平松流の基本的の動きを左右同じくできるようになった時、次のステップがあるとかなんとか?

 今のままだと左右対称にならないので、帰ったら右手の方もシールドガントレットにしてもらわないとね。


「帰ったら、か……。いや、ナーバスになるな」


 勝てば帰れると今は思おう。

 それに帰る方法が勝つだけとも限らない。

 闇の中に飛び込めば何かある可能性もある。

 勝つことを諦めて探すか?


「ダメだ、今は別のことを……」


 首を振って邪念を振り払う。

 平松流の最終奥義について考えよう。

 その正体はわからないが、右と左が同じようにって平松さんが口を酸っぱくして言っていたということは何かあるはずだ。

 恐らくだけど、右と左がない、左右対称の……。


「来たか」


 休憩終わりだ。





 もうダメかもしれない。

 総司に騙された。

 なんで俺に向かってウォータージェットが飛んでくるのか……。

 ちゃんとシールの向きで張り付けたじゃん!

 貼り付けるタイプなのになんでこっちに飛んでくるのかわからん。

 ……いや、杭とかシートにに貼り付けて使うヤツだからですよね。

 地面に張っとけってことか。


(なんか疲れた……。に癒されよう)


 

 出来てきた首無し鎧に平松流ドロップキック!

 右手のガントレットを奪う。

 ハイパーモードでザクっと『兜戦士』こと『俺のスケルトン』を倒してシールドガントレットも奪ったら霞さん待ちだ。


「霞さん!一本お願いします!」


 そういえば霞さんと出会った頃はこうしてよく模擬戦をしてた。

 なんとか足を上げさせようとしていたら、反対に脛にばかり攻撃をしてくるようになって……。

 最後に戦った時は足折られたね。

 ずいぶん前な気がする。

 今なら勝てるかな?


「………」


 返事はない。

 だが構えたということは勝負に応じると言うこと。

 会話成立ということにしておこうか。

 もし、俺が死んでいるなら現実世界はどうなっているんだろか?

 いつぞやに見た夢のように、霞さんが家で母親の相手をしているのだろうか?

 義理堅い霞さんらしい行動で十分にあり得る話だ。

 ここで勝ってももう戻る場所は……。


「あれ?霞さん、髪切りました?」


 黒鎧の雰囲気が変わった気がする。

 そういう変化に気が付いてあげられるようでないと……。

 まあスケルトンが髪を切るも何も、そもそも兜を被ってるんだけどね。

 でも違和感があるのは確かだ。

 どこだ?

 兜ではない。

 いつもは白石さんがヒントをくれるんだけど……。


「槍?槍だ。槍、変えました?」 

 

 霞さんが持っているのはいつもの青龍偃月刀チックな薙刀じゃない。

 テレビで見たことがあるような日本の薙刀を持っている。 

 ただ、まで総鉄製なのか、銀色に光り輝いている。

 ……終わらない地獄に光が差した。



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