第342話 十文字槍を使うトリプルランクの冒険者
「信用していない、の意味がわかりませんね。私に話せば私から春樹さんに伝えます。私に話すとはそういうことです。それが嫌なら私にも話さないことです」
いや、秘密って言ってるのに俺に言われてもね。
「それは困ったね。聞いてから判断してもらいたいものだけど……。春樹君には自衛隊との繋がりがあるって会長が言っててね。さっきまでは会長の与太話だと思っていたけど、彼の強さを見て僕もありえると思えてしまってね」
会長ってどこの会長ですか?
まさか女神愛好会の真の会長か?
近隣の学校だけでなく自衛隊にも会員がいるってことか……。
でもそれは俺と自衛隊の繋がりではないんですよ。
「おお、青のお眼鏡に適ったってことか?5人目はまさかの春樹か?」
おお?まさかのスカウト?
「それはない。5人目は少なくとも今の3倍の速さはあると思う。兎に角動きの速いヤツだった」
ないそうです。
「5人目は火魔法使いという話で、大々的に探していたのでは?やはり、当てにならない話でしたか」
あ、動画で募集してた火魔法を使う人ってサポートメンバーじゃなくて、5人目の仲間ってことか……。
「今日はその話をしにきたんだよ。渡辺さんの勧誘はもちろんだけど、5人目探しを手伝ってもらおうと思ってね。まあ50階層の話じゃなくて、そっちの話は聞かれてもいいかな?その内ネットを通しても呼び掛けるつもりだし」
いや、今海人と上原明日香が50階層に行かないって時点で聞いてはいけないと言うか、漏らしてはいけない話だよね?
『ブルーオーシャン』分裂とか大スキャンダルだ。
ここからお暇したいんだが、険悪な雰囲気の渡辺さんを置いていくのもよくない気がするし……。
「その話は俺も初耳だな。49階層までの護衛を募集してたんだよな?でも海も行かないとなると話は変わってくるか……」
「5人目の武器は槍。しかも十字の槍だった。槍に突かれれば一撃必殺。それどころか盾に攻撃しても攻撃した方が死ぬ。鎧は着ていなくて、【マリオネット】みたいなスキルで鎧を遠隔操作して襲ってくる」
「………」
襲ってくる?
でも探してるって言ってたよね?
そもそも、そこまでわかっていて個人の特定が出来ないのものなのか?
ダンジョンで襲ってくるような危険人物を仲間にしようとしているのか?
「なんだそりゃ?槍、盾、人形のジョブ持ちってことか?でも十字の槍、十文字槍って言ったら平松だよな?5人目は平松か?」
危険人物の正体はまさかの平松さん!
いや、幸也さんを倒してたし、50階層を狙える強さを持った人物なら平松さんか……。
当然と言えば当然かな?
「私もそう思ってたんだけど、前に本人がまだダブルになったばかりだって言ってた。さっき受付に座ってたのも見たけど、外程の威圧感は感じなかった。レベルは20くらいだと思う。今からレベル上げするなら時間が掛かり過ぎる。そんなに待つつもりもないから、多分違う」
「え?あいつ、ダブルなの?マジ?しかもレベル20って……。ダンジョンなら勝てるんじゃないか?ちょっと行ってくる!」
ちょっと行ってくるは死亡フラグ!
でもレベル20なら俺でも勝てるかな?
ちょっと逝ってきます!
「待った、待った。まだ話の途中でしょ。それに平松さんが5人目の可能性もない訳じゃないんだから、機嫌を損ねないようにね。それに一番重要な情報を聞いてからにしてよ」
確かに。
もう槍教えないとか言われても困るからね。
「重要な情報?」
「特殊スキルの話。それで【次元斬】を防がれた」
「………」
「ん?防がれたのか?躱されたんじゃなくて?マンティコアも真っ二つに出来る【次元斬】を、か?何でも斬れるんじゃねぇのかよ?」
「斬れなかった。たぶん【次元斬】じゃ【次元壁】も斬れないんだと思う。斬ろうと思えば斬れないことも無いんだろうけど、その先には攻撃は届かないから防がれるのは変わらない」
「その言い方だと【次元壁】じゃないってことだよな?そいつは特殊スキルで同じことが出来るってことか?」
「………」
「うん。でもそれだけじゃない。それを使って後ろから攻撃してくる。正体に気が付くまで何回も殺された」
「………」
殺された?
え?生きてますよね?
蘇るスキルとかあるの?
「待て待て待て待て。攻撃にも使えるのか?盾を出すスキルじゃないのか?しかも後ろからってなんだ?」
「僕も聞いた時は信じられなかったんだけどね。まあ千春が嘘をつく意味もないし、信じることにしたよ」
「だから、なんなんだよその特殊スキルって?」
そうそう、勿体ぶらないで教えて欲しい。
「『ゲート』を出す特殊スキルだと思う。目の前に盾のように『ゲート』を置いて【次元斬】を防いで、私の後ろにもう一枚出して攻撃してきた」
「っ!?」
ほえ?
「『ゲート』を出すって……。ありえるのか?仮にそうだとして、特殊スキルっていう根拠は?そういうジョブの可能性はないのか?」
「規格外すぎる。【次元斬】を防げるなら50ポイントのスキルのはず。槍に盾に【マリオネット】。ジョブを重ねて25ポイントだったとしても、使ってくるスキルが多すぎてとてもそんな余裕はない」
『剣聖ちゃん』が答える。
俺のも特殊スキルだしね。
まさか俺と同じスキルか?
そんなのに襲われてよく生きてましたね?
いや、殺されたって言ってたね。
しかも何回も……。
そんな奴が野放しなのも問題だけど、仲間にしようって発想がもっとわからん……。
「そんな特殊スキル聞いたことも無いからね。隠してるんだろう。そういう訳なんだけど、心当たりはないかな?」
青さんが渡辺さんと俺に聞いてくる。
「………さあ?」
「ないですね。そんな危ない奴、本当に仲間にして大丈夫なんですか?」
渡辺さんも俺も残念ながら心当たりはない。
「あっ!俺、心当たりあるかも!」
幸也さんが知っているようだ。
「本当かい?」
「いや、その特殊スキルの方はさっぱりなんだけどよ。十文字槍を使ってて、少なくともトリプルランクの知り合いが一人いるぞ!なあ春樹?」
「え?俺も知ってる人ですか?」
「っ!?」
十文字槍を使うと言えば平松さんだけどそうじゃない。
トリプルランクの危ない殺人者か……。
「あっ、わかった!アツシさんですか?」
「なんでだよ!アイツは別に槍のジョブじゃないだろ?」
そうか、【バーサーカー】と【斥候】だもんね。
あとは【剣士】とか言ってたかな?
槍のジョブも盾のジョブも持ってなさそうだ。
「うーん、俺の知り合いには居なそうですけど?」
「ミコちゃんだよ、ミコちゃん!」
いやいや、殺人犯ですよね?
いや、アツシさんにホの字だったのはまさか自分と同じ部分を感じて?
何それコワイ……。
「その人は今どこにいるの?見れば、戦ってみればわかるはず」
ええ?殺されるんですよね?
何故戦おうと思うのか……。
っていうか『剣聖ちゃん』に勝てるならミコさんが日本一ということでは?
「春樹、ミコちゃんは?神社か?」
「いえ、最近は見てないですね。空いた時間はアツシさんを探しに出てるみたいなんで。ミコさんの居場所なら俺よりも平松さんに聞いた方が早いですね」
よくよく考えればダンジョン内に神社を作ってるぶっ飛んだ人だからね。
何か宗教的に『剣聖ちゃん』のことを許せなかったのかもしれない。
「チッ、まったく、何が良くてアツシなんかの尻を追っかけてるのか……。それでアイツもどこいったんだか……」
「そのミコって人はどういう人なのかな?」
「平松の妹だよ。腕は立つな。外だと俺といい勝負をするくらいには強いぞ」
「なるほど、平松さんの妹か……。とりあえず平松さんのところに行ってみようか。彼とも直接話してみたいし。……あ、そうだ、春樹君」
「なんです?」
平松さんのいる協会の施設に歩きだした青さんが、振り返って俺に話しかけてきた。
「君の特殊スキルは何かな?」
「え?……【吸血】、ですけど?」
とっさにさっきの会話を思い出して嘘を付く。
秘密だからね。
「あ……。ごめん」
「春樹、お前……」
「やっぱり危ない奴だった!」
なんかもっとマイルドな設定を考えておくんだった……。
ミコさんよりヤバイ奴だと思われたかも。
「………。星野さん、ひとつ聞きたいのですが?」
「何?」
変な空気になり再び歩き出したところで、今度は渡辺さんが『剣聖ちゃん』に話しかけた。
「その槍使いに負けたのですか?」
「……今はもう負けてない」
「フッ、負けましたか。そうですか……。勝ちましたか……」
霞さんが満足そうに呟く。
「なんでうれしそう?」
「これは失礼しました……。私はミコさんには負けたことがないので」
ドキッとする。
何故か俺に向けてきたその笑顔に……。
いや、俺もミコさんには勝ったことがない……。
マウントを取られたのかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます