第317話 幼馴染は剣聖フラグ【剣聖ちゃん】その3

SIDE:星野千春(『剣聖ちゃん』)


(なんて美しい剣の軌道なんだろう……)


 見惚れながらも、その射線から身を避ける。

 別に自画自賛という訳では無い。

 は私のコピーではあるようだけど、私という訳ではないようだ。

 正直、私はあそこまで綺麗に剣を振ることは出来ない。

 私というよりも『北の剣聖』、あちらの【剣聖】に近い存在のように思える。

 まさに【剣聖】と呼ぶに相応しい、一切のブレのない力強い太刀筋だ。

 私のように速さのみを追い求めた歪な剣とは違う……。


(もう一つ……)


 二つ目の見えない斬撃を躱す。

 これでには決定打は無くなった。

 いや、私も相手には【次元斬】を使うつもりがないからかな?

 お互いに【飛斬】では致命傷にならないからね。

 それでも距離を詰める私には【飛斬】を飛ばしてくる。

 学習能力がないのとは違うだろう。

 にとってはなのだ。

 私はから、が最初の二振りで【次元斬】を使ってくることも、MPが足りなくてもう撃てないことも知っている。

 私も初見なら最初の一撃で死んでる、いや、からね。

 

(さあ、始めよう!)


 クロスレンジ。

 回避に徹して、お互いの剣が届くところまで距離を詰めた。

 直接斬撃を叩き込めば、例え『武器強化』が掛かっていたとしても斬れる。

 お互いの剣にも『武器強化』が掛かっているからね。


(私は!私はなんて強いんだ!)


 強い。

 一瞬でも気を抜いたら次の瞬間には真っ二つだ。

 でもこの瞬間が堪らなく楽しいのだ。

 まるで私の事を何でも知っている親友と一晩語り明かすような、そんな錯覚を覚える……。


(すごい!私、まだまだ強くなれる!)


 学ぶことが多い。

 は右も左も遜色なく振るう。

 剣の魅せ方、足の置き場所、頭の振り方……。

 全てが【剣聖】なのだ。

 あまりの美しさに見惚れて負けてしまうことが何回もあった。


(このは頂けないけどね)


 一瞬の隙を突いて鍔迫り合いに持ち込む。

 楽しかった時間ももう終わる。

 もうすぐ、が出て来る時間だ。

 その前に終わらせないといけない。

 勝ち方はわかっている。

 力は互角だけど、この子はスケルトン。

 体重が違う。

 鍔迫り合いに持ち込んでしまったら後は押し込むだけ。

 元から剣速だけは私の方が僅かに速い。

 体勢を崩したでは、もう勝負にならない。

 魔石のある位置に剣先が触れ、私の勝ち……。


(この勝ち方に気が付くまで何回も負けたんだけどね)


 崩れ落ちたを愛おしく思いつつも、備えて位置を変える。

 ……時間だが出てこない。

 いつもこうだ。

 上を気にして、油断してないぞという姿勢を見せながら呼吸を整える。


(来ないって分かっていれば返ってありがたいね)


 出てきた。

 【槍王】のスケルトンだ。

 そして一拍遅れて『忍者青影』のスケルトン。

 【将軍】という補助バッファー職の特性なのか、【忍者】という斥候職の特性なのかはわからないけど、この『青影スケルトン』は一人では出てこないんだよね。

 青先輩らしいと言いたいところだけど、あの人は5人揃わないと出てこなそうだから、やっぱりこのスケルトンも青先輩とは違う存在なのだろう。


(【飛斬】!三連!)


 ニンニンとポーズを取った『青影スケルトン』に上段、中段、下段と横一文字の【飛斬】を三つ飛ばす。

 回避不能の攻撃だけど、回避スキルでいつの間にか別の場所に……。


(でも残念でした)


 そこにはすでにもう一つ、縦向きの【飛斬】を

 これには対処できないので、縦に体が真っ二つ。

 体の中心にある魔石を狙ったから、立ち上がってくることもない。

 何回も戦ったからね。

 どういう動きをするのか、回避スキルを使った後にどこに出てくるのかも、すっかり覚えてしまった。

 戦っても大して強くはないんだけど、『槍王スケルトン』と二対一になるとこちらの分が悪い。

 それに今ので筋力の上級強化バフが『槍王スケルトン』に掛かったはずだ。

 耐久はともかく、敏捷まで上げられると勝ち目が無くなるので、早めに片付けるに限るね。


(来てるね!ここはバックステップ!)


 今の間に距離を詰めてきた『槍王スケルトン』。

 槍が距離を詰めてきたのに、剣の私が距離を取る……。

 と、今まで私がいた場所に二方向からが飛んでくる。

 最後の最後まで嫌がらせをしてくるのが斥候職です。


(この『槍王のスケルトン』と、どっちが強いかな?)


 今日は面白いモノを見た。

 幸先輩が、協会の職員に負ける動画だ。

 千葉支部に渡辺霞を倒しにいったみたいだけど、その前に別の職員に倒されてしまったのだ。

 確かに地上での立ち合いだったけど、幸先輩もクアドラプルの冒険者。

 ステータスだよりでここまで来た訳ではない。

 『万能職』の呼び名が示す通り武芸全般を熟すし、休日も隠れて刀を振ったりしている。

 何より、ダンジョンでの動きを体が覚えているはず……。

 にも拘らず、一瞬で二本。

 動きを制して何もさせなかった。

 きっとダンジョンの中でも相当強いに違いない。

 あの腕でまだダブルということはないだろう。

 渡辺霞に動画の槍使い。

 千葉支部に本部以上の手練れが揃っているというのも妙な話だ。

 何かあるに違いない。


(この『槍王スケルトン』。渡辺霞より、あの動画の人に近いね)


 先手、先手を取って私に何もさせないように立ち回る。

 渡辺霞はのスタイルだった。

 構えもなぎなたのソレ。

 渡辺霞は【槍王】というよりも【薙刀王】と言われた方がしっくりくるね。


今日も変わりなしか。じゃあ終わらせようか)


 あえて一歩下がる。

 下がればこちらの攻撃が届かないのをいいことに必殺の一撃を見舞ってくる。

 【エイミング】。

 だがさらに一歩引いて、ギリギリ範囲外へと逃げる。

 ここからは私の攻撃は届かない。

 『槍王スケルトン』は余裕を持って次の攻撃に移れる、そう思っているはずだ。

 ここで【飛斬】を撃ち込めば楽に勝てるだろう。

 でもそれでは技術の勝負で負けたことになる。

 【剣聖】が【槍王】に?

 そんな訳ないでしょう?


(確かに攻撃は届かない。貴方にはね)


 狙うは槍。

 素早く戻すのが基本だろうけど、狙った場所までは必ず到達するのが【エイミング】だ。

 一瞬の遅れが命取り。


「セィ」


 渾身の振り下ろしが槍に届く。

 しかし反発する!

 【受け流し】だ。

 真上からの攻撃にも拘らずスキルで押し返してくるのだ。


(【スラッシュ】!クソッ)


 使

 今日こそはスキル無しでもスキルごと斬ってやると思ってたのに……。

 押し切って槍を両断。

 普段は封印している【スラッシュ】を使ってしまったけど、こうなってしまえばこっちのモノ。

 短くなった槍では自分から距離を詰めてくるしかない。

 スキルを使わされた腹いせも兼ねてバラバラに切り刻んでやる。


(アレが来る!)


 次に出てくるのはアレ……。

 『裸スケルトン』だ。


(今の内に距離を詰めて出てきたところを叩く!)


 未だに正体不明だが、それは上にいる『火魔法使い』も同じ。

 まずは倒して先に進む。


(【次元斬】!)


 やった!

 コイツは毎回装備が違うけど、珍しく最初から鎧を着てきたね。

 でも【次元斬】で斜めに真っ二つ。

 出てきたタイミングだったからか、距離が近すぎたからか、【次元壁】も使えなかったみたいだ。


(兎に角、勝ちは勝ち。後は上のヤツが姿を現してくれれば……。え?)


 鎧のお腹から槍が飛び出してきて、私のお腹に突き刺さる。


(え?)


 何が起こったか分からないのに、もう一つ意味の分からないことが……。

 ずり落ちた鎧の中がなのだ。

 意味が分からない……。

 歩いて出てきたはずなのに……。


「うっ、うげ……」


 後ろに下がって槍をお腹から抜く。

 下がったのはいいけど、踏ん張りが利かずにそのまま後ろに倒れ込む。

 十字の槍だ。

 そう言えば幸先輩を倒した動画の人も十字の槍を使っていたね……。


(力が入らない……。今回も……ダメか……)


 視線を落とすと、目の前にはさっき斬り飛ばした『槍王スケルトン』の穂先が転がっている。


ならきっとスキルごと斬れたんだろうな……)


 灼熱の炎に飲み込まれて意識が途絶える……。



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