第318話 繰り返す夢

(平松流奥義、『チャージ・ドロップキック』!)


 出てきた首無し鎧にドロップキックを喰らわせる。

 やはり接合が甘いらしく、上半身部分だけが吹っ飛んで闇に消えて聞く。

 足のパーツが音立てて崩れる。

 『鎧操作』が切れたのだろう。

 ちなみに【チャージ・槍】は開放してないのでただのスーパーモードの飛び蹴りです。


(よし、これで出てきた瞬間に兜戦士に【チャージ・槍】を叩き込めば今まで通り……っ!?)


 暗闇の壁の向こうから十文字槍が飛び出してくる。

 何とか躱すが枝葉が少し掠って、右肘の辺りから出血する……。

 しかし、チャージ時間が短かったようでそれだけで済んだ。


(首無しの鎧を攻撃したせいで、こっちの位置を知られたのか?)


 闇の中から攻撃を仕掛けてくるのは卑怯じゃないか?

 怪我の程度を確認する為に引いたので、入ったきた瞬間という絶好の攻撃機会を逃す。

 兜戦士の装備は十文字槍にシールドガントレット、そして兜……。

 嫌な予感しかしない……。


(【ゲート】か?後ろ、回避!)


 正面を切ってくると思ったのに、まずは【ゲート】を使って死角からの攻撃が飛んでくる。

 後ろからの攻撃を何とか回避したが、一瞬視線を切った。

 その一瞬で距離を詰められている。


(速い!コイツ、やっぱりウルトラモードを……。【ゲート】!)


 目の前に迫った槍を咄嗟に『左手のゲート』で防いだ。

 『右手のゲート』は使ので閉じた状態の簡易【次元壁】だ。


(距離を。逃げっ……)


 直角な動きで、コの字を書くような動き。

 物凄い速度で、一瞬にして真後ろに回り込まれる。

 正面には自分で出した『左手のゲート』。

 避けようがない。


「ゴフッ」


 『左手のゲート』に縫い留められる形で背中に突きをもらう。

 しかし俺は高耐久、高HP。

 向こうもチャージ時間は1秒か2秒。

 これぐらいでは死なない。

 だから何度も……。


「ゴフッ、ゴフッ、ゴッ……」


 何度も突かれる……。

 痛い、痛い、痛い……。


(なんで俺、この夢見てるんだっけ?)


 霞さん、帰って来てないといいな……。

 寝ないって約束したのに……。





 


(んん?あれ?……痛いぞ?)


 頬に痛みを感じる。


(夢じゃない?)


 いや、いつも夢なのに痛みはリアルに感じてるじゃないか……。

 頬を抓ったのは自分だ。

 これは夢か?

 目が覚めたなら現実か?

 いや、兎に角チャージだ。


(【チャージ・槍・武器強化・槍】【チャージ・槍・魔力アップ】【チャージ・槍・耐久アップ】【チャージ・槍・腕力アップ】【チャージ・槍・敏捷アップ】)


 どういうことだ?

 何故またここにいる?


(待て待て、対策を……。【ゲート】!)


 思考が定まらない。

 でも視界を遮らない位置に『右目のゲート』を出して攻撃の準備をする。


(俺は起きたのか?)


 ここは夢の中だから起きてない、はず、そもそもなんでさっきを夢を見た?

 覚えてないぞ?

 霞さんがミアさんを迎えに行って、寝ないでくださいねって言われてて……。


(……その後どうなったんだっけ?)


 首無しの鎧が出てくる。

 こっちに向かってきているがコイツは無視でいい。

 どうせ何もできないんだ。

 そうだ、相川と鎧を動かす練習をしてて、それでウルトラモードを使って……。

 視界が真っ赤になって……、気絶したのか?


(ここだ!【ゲート】!『エイミング』!)


 兜戦士がこちらに入ってきた瞬間を狙い、ヤツの側面に『左目のゲート』を展開。

 それと同時に『右目のゲート』に向かって突きを放つ。


「ぎぎっ」


 ガツンとした衝撃と共に、……痺れた。

 『シールドショック』だ。

 盾で防がれて、電気ショックまで貰ったようだ。

 なんて反応速度だ。


(コイツ、最初からウルトラモードで入ってきてるぞ)


 兜戦士の動きが止まる。

 『チャージ盾』を掛け直しているのだ。


(ここか?え?ぐほっ)


 体がの字に曲がる。

 なんだ?

 兜戦士にばかり気を取られていたが、首無しの鎧とはまだ距離はあったはず……。

 視線を送ると確かに離れている。

 だが

 左手のシールドガントレットは兜戦士の左手についている。

 そして右手のガントレットは俺の腹だ。

 【チャージ・鎧・上・アーマーショット】……。

 だ。


(くっそ、まだ俺も使ったことなかったのに……)


 先に使われるとは。

 首無しの鎧は音を立てて崩れる。

 チャージが切れたのだ。

 一回きりの特攻攻撃……。

 中々の威力だったので、俺も膝を付く。


(ヤツは……)


 このチャンスに兜戦士が攻撃してこないのは変だと思えば、シールドガントレットの付いた左手で兜を触って動きを止めている。


(やっぱりか……)


 今度は『チャージ・鎧』を掛け直しているのだ。

 チャージが切れれば、必ず掛け直す。

 これは明確な隙だ。

 わかってはいたけど、が効いてて何もできない。


(【チャージ・鎧・防具強化・鎧・上】【チャージ・鎧・魔力アップ・上】【チャージ・鎧・耐久アップ・上】【チャージ・鎧・腕力アップ・上【チャージ・鎧・敏捷アップ・上】)


 ならばと、転がったを装着して俺も『チャージ・鎧』だ。

 これで槍と合わせてダブル、ハイパーモードになる。

 ダメージはある。

 それでも……。


(まだ負けてないぞ!)





 せめて装備が最初から互角だったら……。

 いや、兜戦士は槍の使い方はうまくない。

 スピードとパワーで押してくるだけで、十文字槍の特性を使った攻撃もしてこない。

 こちらはハイパーモードだったのにウルトラモードのヤツと互角とまではいかないがそれなりには戦えていた。

 【ゲート】を使った攻撃にさえ気を付ければどうにでもなる。

 寧ろ、ヤツが『ゲート攻撃』をしてきた瞬間がチャンスなのに……。

 なんで学生服にレンタルの槍なのか。


(最初からガントレットだけでもあればなぁ)


 それにしても2回続けて夢を見るとはね。

 どういうことなんだろうか?

 気絶したまま、日を跨いだのか?

 あるいは目が覚めたけどまた寝ちゃったとか?

 それは良くないな。

 確実に霞さんにバレている。


(怒ってるだろうな……)


 どうやって許してもらおうか?

 平松流の最終奥義を使う時が来たのかもしれない……。

 五体投地土下座。

 本家の五体投地と違うのは両手を広げて倒れ込むことだ。

 その姿は正に十文字槍。

 平松流の最終奥義に相応しい技である。


(逆に怒られますね)


 いや、怒っている分にはいいんだ。

 もしかしたら心配して泣いているかもしれない。

 霞さんはよく泣くからね。

 泣かせてるのは俺なんだけど……。

 いつも俺の為に泣いてくれている……。


(ごめんね、霞さん……)


 


「え?」



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