第302話 5人目のパーティーメンバー

(ん?音が変わった?効かないと見て別の技を出してきたか?)


 【ゲート】を使った防御の欠点は手応えが返ってこないこと。

 が剣を振る度に射線上に【ゲート】を出していたが、これが成功していたのかもわからない。

 しかし急に攻撃してきているのが音で分かるようになった。


(上、来たな!『エイミング』!)


 真上、火球に向かって

 レンタルの槍が火球の中心を貫通して大爆発を起こす。


(やったか?)


 だが手応えはない。

 槍のスーパーモードも継続したまま、には当たってないようだ。

 ほぼ真上からの火球だったので、そこにいるはずなのに……。

 火球の爆発が来る。


(【ゲート】!ってうお!?)


 槍を投げた右手を掲げたまま『右手のゲート』を出した瞬間、正面の『左目のゲート』を回り込んで相川のスケルトンが現れる。

 俺は武器を持ってない……。


(って思った?『チャージ・盾』開放!)


 『マジックシールド』で火球を消さなかったのは、この為だ。

 下から振り上げられるにシールドガントレットを振り下ろす。

 チャージしたMPは50。

 武器破壊のみならず右手も持っていく。

 しかし、浅かった……。

 肩の辺りまでは吹き飛んだけど、魔石までは届かなかったようだ。


(あっつ……、いっ!)


 爆炎が到達し、物凄い熱を感じた瞬間に、肩口からも痛みを感じる。

 斬られた?

 ……。


(『獣化』?爪か?)


 右肩から袈裟にバッサリ。

 斬られた痛みはそれほど感じないのに傷は深い。

 これはマズイ。

 耐久が220あってもお構いなしだ。

 槍が天井にでも届いたのか、ちょうど両方のスーパーモードが解除された瞬間で対応できなかった。

 HPは半分を切って、更に出血と周囲を焦がす炎のせいか減り続けている。


「【チャージ・た、グフォッ」


 盾だけでもスーパーモードをと思ってが、口から血を噴き出して上手くスキルが発動できない。

 それでもを左手で受け止めた。

 でもそれだけ。

 踏ん張りが利かずに後ろに倒れ込んだ。

 仰向けになり見上げた空には炎の塊。

 やっぱり空の敵にも当たってなかったようで、火球の第二射。


(相川ごとか?)


 と思ったが、相川のスケルトンの気配は暗闇にまで下がっていった。

 暗闇の中には炎は届かない?

 熱い、な……。





「あつつっ!はっ、夢、じゃない!いたい!痛いです!」


 目が覚める。

 右肩を触るけど、痛みはない。

 でも顔が痛いです。


「春樹さん!立ち合いをしましょう!」


 その前に手を離してください。

 起こしてくれた霞さんはあんまり機嫌のいい表情じゃないね。

 霞さんは『聖女様』はともかく『剣聖ちゃん』とは相性が悪い。

 喧嘩なってなければいいとか思ってたけど、我慢して帰ってきたのかな?

 それを俺との模擬戦で発散するようです。


「ええ?急に?まあいいですけど。俺もちょうど霞さんと模擬戦をしたいと思ってましたし……。あ、その前に一つ聞いてもいいですか?」


 夢に出てくる黒鎧を倒せているのは、【ゲート】による不意打ち攻撃だけだ。

 夢では何故かコピースケルトンは1体ずつしか出てこない。

 上の奴も中には入って来てないみたいだし。

 盾にMPをチャージする時間さえあれば相川のコピースケルトンも倒せていたはずだ。

 なんとか黒鎧相手の戦闘を引き延ばした上で勝ちたいところ……。


「……どうぞ」


 それと、もう一つ気になることがある。

 俺、霞さん、相川のコピーと来たら、次に出てくるのは総司のコピースケルトンだろう。

 それはいい。

 でも上にいる奴は誰なんだ?

 総司は炎の魔法は使えないはずだ。

 俺達のパーティーは今のところ4人。

 ミアさんも霞さんとパーティーを組んでいることになっているけど、ミアさんも火魔法は使わない。

 40階層で新たにジョブを得たとしてもそれはあくまでサブジョブ。

 あれほど威力のある魔法は撃てないはずだ。


「火魔法を使う冒険者に心当たりはありますか?物凄い強力な魔法を使う人です!」


 ダンジョンで見る夢。

 それは過去、現在、未来を見せることが多いという。

 筑前煮という前例もある。

 あれはもしかしたら5人目のパーティーメンバーなんじゃないか?


「むむむ?」


 何故かもう片方の手も頬に伸びてきて、俺の頬も伸びる。

 なんで?


「霞さん?」


「その女を探してどうするつもりですか?」


 女?知ってるってこと?


「パーティーに入ってもらおうかと……」


「パーティー!?よくも私にそんなことが言えますね!」


「いや、霞さん以外にはこんなこと言えませんよ」


 夢の話とか誰も信じないだろう。


「私にしか!?いくら私でも無制限に何でも許すという訳ではありません!」


 確かに。

 総司に続いて相川も俺の方で勝手に加入を決めたようなものだし……。

 今のところマンティコアでも4人で倒せてるし、これ以上人を増やす理由もないからね。


「そうですね。スミマセンでした。パーティーのことは忘れてください。でもその人がどういう人なのか教えてください」


 スキル構成とかがわかれば、攻略の糸口になるかもしれない。

 そもそも夢を攻略する意味もわからないけど、毎回死ぬ夢を見るのは問題だろう。

 ダンジョンで寝ないという平松流解決術も存在するが、それはそれ。

 今後夢でのパワーアップイベントが起こらなくなる可能性もあるし、あの夢自体がパワーアップイベントの可能性がある。

 5体の敵を倒した先に何があるのか気になるよね。


「まだ言いますか!よろしい、外に出なさい。その根性を叩き直してあげます。泣いたって許しませんからね!」


 模擬戦か……。

 勝ったら教えてくれるのかな?





「ふぇえーーん。ごめんなざーーい」


「ホラッ!もう治ったんだから泣かない!」


 白石さんが、泣き止ませようとする。


「そうですよ。もう大丈夫です。だから泣かないでください」


 立ち上がって何ともないことをアピールする。

 そう、怪我をしたのは俺です。

 足が折れました……。


「ごめんなざい、ごめんなざい、何でもしますから許じでぐだざい」


 じゃあ火魔法使いのことを……、とは言えない雰囲気。

 それに勝負は負けちゃったからね。

 脛への物凄い一撃だった。

 最初は霞さんが手加減してくれていたのか、思ったよりも戦えていた。

 平松さんの特訓の成果か、霞さんは戦い辛そうにしていた。

 武器も平松さんから貰った先が十字になってる棒だからね。

 それでも結局は霞さんの攻撃を左手で受けちゃったんだけど、そこから霞さんがスキルを使いだしたんだよね。

 左手は普段シールドガントレットが付いてるから、今の攻撃が一本かどうかから始まって、痛くないから大丈夫ですと言ったのも問題だった。

 勝負を再開したあとの霞さんはどんどん攻撃が鋭くなって、最終的にいつもの【受け流し】からの【打ち返し】のコンボを脛に受けて折れちゃいました。

 今までで一番鋭い攻撃だったのもそうだけど、痛くないって言ったから上級の武器強化が乗ってたんですよね……。


「フフフッ」


「ちょっと、なに笑ってるの!早く何とかしなさいよ!」


「いや、前にもこんなことあったな、と思いまして」


「あー、あったわね」


 あの時は三途の川まで行ってきたので、今回は足だけで済んでよかったよ。



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