第300話 受付嬢は負けフラグ【渡辺霞】その9

SIDE:渡辺霞(春樹の恋人)


 こんにちは。

 メインヒロインというとメインじゃないヒロインがいるようなので、オンリーワンヒロインの渡辺霞です。

 さてフォーメンションDということで地上から離れられない桜を振り払いつつ、ダンジョンに移動してきたところです。

 ダンジョン内にある協会の施設の二階ですね。


「それで、貴女の方の用事というのはなんですか?」


 迎えが来るまでここにいてもらいたいのですが、一応美雪の話を聞いておきましょう。


「決まってるじゃない!あのク〇ガキを懲らしめにきたのよ」


 熊ガキ?相川さんの事でしょうか?という冗談さておき、まあ大体の予想はついていました。

 この前の打ち上げ以降、春樹さんの話を馴れ初めから聞かせたのですが、美雪は春樹さんをよく思ってはいません。

 それもそのはず、話せないことが多すぎるのです。

 私に勝ったことはもちろん、一番格好良かった梅本氏バーサーカーに敗れて私が死にかけていたところに駆けつけてくれた時のこと……。


(誰も来てくれるはずのない絶望的な状況に、白馬に乗って颯爽と現れた私の王子様!ウィンク一つで梅本氏バーサーカーを蹴散らし、二人は手に手を取って爆発するダンジョンから大脱出!まるで映画のような出来事でした……)


 今思い出しても素敵です!


「ク〇ガキ?」


「そう、霞ちゃんに迷惑を掛けまくってる不良冒険者がいるの。そいつを退治しないと!」


 小娘が反応してしまいましたね。

 美雪からすれば、私の気を引くために春樹さんが危ないことをしたという理解なのでしょう。

 単独で20階層まで行って、帰って来れなくなった時のことを話してしまったのが失敗でしたね。

 お母様との初邂逅となった重要な場面でしたので話さない訳にはいかなかったのです。


(白石さんからお説教を受けたところは端折って、震えるお母様の手を私が握って安心させる場面は少し盛り過ぎてしまいましたね……。その後、爆発するダンジョンから帰還した春樹さんと抱き合う私に『貴方になら息子を託せる』と結婚の許しを貰った感動のシーンは映画化待ったなしです!)


「不良冒険者?ああ、もしかしてのこの前の子?」


 むむむ。

 やはり春樹さんのことを覚えていましたか。

 もう直接会うことはないと放置していましたが、危険度を床下から壁の一番下に上げる必要がありますね。


「そのために【剣聖】を連れてきたのですか?」


 確かに春樹さんを懲らしめるとなると【剣聖】が必要ですね。

 美雪、まさか春樹さんの強さに気付いて?


「初耳」


「そういう訳じゃないけど、その手があったわね。千春ちゃん、ちょっとその子に剣を教えて上げれないかな?もちろん真剣で!」


 違った?

 ではどうやって懲らしめるつもりだったのでしょうか?

 いえ、この娘は危険度Aランク。

 もっとも危険な二人の内の一人。

 そこにいるだけで男性を魅了してしまう『聖女様』でしたね。

 その魅力を使って春樹さんを篭絡するつもりなのでしょう。


(むむむむむー。春樹さんも春樹さんです!打ち上げの時もあんなにデレデレして!もしや、夢で逢っているのは美雪!?)


「前回それをやったら、渡辺霞に殺されかけた。ただ渡辺霞の許可が出たのなら吝かではない」


「残念ですが、あの方はダンジョンに行っているので会えませんね。一昨日来てください」


 春樹さんは美雪がダンジョンに入ってきたのに気が付いていれば、ダンジョンの奥に移動しているはず。

 一人でマンティコアと戦うなどという暴挙に出ていなければいいのですが……。


「なにそれ!日曜日なのに彼女を置いてダンジョンに行っちゃったの?信じられない!絶対別れた方がいいよ!」


「貴女が来たからです!それと、彼女ではなく婚約者です!」


 確かに美雪の言うことには一理ある。

 夏目さんと相川さんは朝からデートに行ったというのに、春樹さんはダンジョンで寝ていました。

 頬の一つも抓みたくなるというものです。

 いい機会なので小娘にも牽制を入れておきましょう。

 左手の薬指を掲げてを見せつけます。


「おー、婚約者……」


 フフン。

 あんなに素敵な婚約者がいて羨ましいでしょう?

 春樹さんは私のモノなので近づかないように!

 おや?


「ムムムー!何が婚約し……」


『あっ、大変なんです!通して!霞さーんフォーメーションAでーす!』


 むむ?

 この声は遠藤さんです。

 ドアの前で護衛に止めらたようで、叫んで知らせてくれました。


「フォーメンションA?って何?」


「会長です。態々貴女を迎えに来てくれたようですね」


 まったく、次から次へと……。


「「え゛」」


 ですがこの二人を連れ帰ってもらえるなら、それに越したことはありませんね。

 複数の足音が聞こえます。

 ゾロゾロと護衛を引き連れてやって来てくれたようですね。


「美雪君!無事かね!」


「会長!?どうしてここに?」


「もちろん君を迎えに来たんだよ。さあかえ……、渡辺霞か。なるほど、合点がいった。優しい君のことだ。彼女を止めに来たのだろう。いい機会だ、私からも言っておこう……。お前たちは外に出ていなさい。全員だ。星野君、君も出ていてくれないか?」


 私に何か言いたいことがあるのか、引き連れてきた護衛を部屋の外に出す。


「部屋の外でも聞こえるから意味ない」


「ぐぬぬ。ステータスか。まあいい。君にも話があった。週刊誌の件だ。だが、まずは……。渡辺君」


「何でしょうか?」


「君のしていることは犯罪スレスレだ。別れろとは言わん。だが、せめて来年までは、会うのを控えられんのかね?」


 春樹さんのことがバレている。

 この前の打ち上げの時にいた美雪の護衛からでしょう。

 小娘がいるからか、直接的な表現はしない。


「そんなー。会長、すぐに別れさせてください」


「まあまあ美雪君、こういう時は無理に別れさせようとすると返って意固地になるものだ」


 余計なお世話ですね。


「ご忠告痛み入ります、会長。ですが、私としては何ら恥じることをしているつもりはありません。しかしながら世間的に批判を受けることはわかっているので、秘密にはしているつもりです。どうかご協力のほど、願います」


「うーむ。わかっているならいいが、もしもの時は切り捨てる。そのつもりでいるように。では美雪君、帰ろうか。君の話は車中で聞くとしよう。星野君、立ちたまえ」


「私はまだ用事が済んでいない。帰るなら二人で帰って」


「何?君も千葉に用事が?まさか週刊誌の件と関係あるんじゃなかろうな?千葉支部は自衛隊と関係の深い地だ。また週刊誌に乗るなど、以ての外だぞ?」


「私が用があるのは【槍王】個人。美雪さんいう通り、不良冒険者も懲らしめておくからさっさと帰って」


「本当?ボコボコにしておいてね?」


「え?いや、そこまでしなくても……。星野君、穏便に頼むぞ?さ、美雪君、帰ろう」


 会長は美雪を連れ帰るのを優先する様で、美雪も渋々といった様子で会長の後に続きます。

 会長まで出張ってきて、ここまで大事になるとは思っていなかったようですね。

 ですが問題は……。


「今の言葉、どういう意味です?」


「二人を帰らせるための方便。そんなに怒らなくていい。それよりも答えを聞かせてほしい」


 小娘が残ったことですね。



~~~


すみません、今日は力尽きました。

明日には直すかと……

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