第299話 幼馴染は剣聖フラグ【剣聖ちゃん】その2
SIDE:星野千春(『剣聖ちゃん』)
「私をお呼びだとか?……桜、何をしているんです?離れなさい」
来た。
渡辺霞、【槍王】だ。
なるほど、地上でも中々出来るようだ。
キリッとした立ち振る舞い、所作にキレがある。
調べたところによれば、なぎなたの学生チャンピオンだったとか?
地上でなら私といい勝負が出来るかもしれない。
ますます欲しくなった。
一瞬だけ私を見たが、その後は意図的に私を見ないようにしている……。
「いえいえ、お気になさらず。私はいないものとして話を続けてください」
千葉の職員が美雪さんの足を揉みながら答える。
お茶を出すなり、肩を揉みましょうとか訳の分からないことを言い出したが、美雪さんがそれを当然のごとく受け入れたのにもビックリした。
……今は肩から足へと移動している。
『聖女様』なんて呼ばれているが、裏ではこうやって目下の者たちを顎で使っているのかもしれない。
私も人のことは言えないが、この人とは付き合い方を考え直した方がいいかもしれない。
なんか車の中でもゾワゾワしたし……。
「桜ちゃん、ありがとう。もう大丈夫だよ。じゃあ私は行くところがあるので……」
「待ちなさい!どこに行くつもりです?それに人が少ないようですが……。護衛はどうしたんです?」
席を立とうとした美雪さんを渡辺霞が咎める。
確かに。
千葉に行きたいと言い出したので流れで連れてきたけど、この部屋から出ていかれても困る。
この人は【聖女】。
その稀有な回復スキルを狙って、世界中から誘拐の標的にされているのだ。
それに今日の護衛は部屋の外で待機している熊ちゃんだけ……。
運転手もいるが、基本的には車から離れない。
熊ちゃは体は大きいけど、おっとりした性格で、さっきも車が発進してから美雪さんの護衛が付いて来ていないことに気が付いた。
ちゃんと訓練も受けているし、腕も経つようだけど、護衛が彼女一人というのは流石に不安だ。
私からは離れないようにしてもらいたい。
「えっと、……いません」
「いない?まさか抜け出してきたのですか?桜、本部に連絡を。それとダンジョンに詰めている自衛隊員にもこちらに来てもらってください」
「それならダンジョンに移動した方がいいのでは?ダンジョン内なら『剣聖様』もいらっしゃいますし、そちらの方が安全なはずです」
「むむむ。……仕方ありませんね。ダンジョンに移動しましょう。話はそちらで聞きます」
そうだね、足揉み職員の言う通りだ。
ダンジョン内なら例え戦車が来ても大丈夫だ。
でも大事にされても困るので口を挟む。
「本部に連絡は不要。お忍びで来たから、帰りもこっそり帰る。ここの職員は騒ぎすぎ」
「それは出来かねますね。帰るならお一人でどうぞ。美雪、行きますよ」
ようやく私の方を見た渡辺霞だが、私に敵意があるようだ。
美雪さんに対して大分怒っているようだし、連絡もせずに『聖女様』を連れてきたのが失敗だったみたいだね。
置いてくればよかったよ……。
「私も行く。今日は貴方に話があって来た」
「貴方が私に?私にだけですか?」
部屋から出ようとしていた渡辺霞が振り向いた。
すごい!
ビリビリする。
ダンジョンの外でもわかる明確な殺気。
(当たりだ!)
まずは彼女からと思っていたけど、もう一人を見つけられそうだ。
ここは千葉、もしあの噂が本当なら……。
ここまでの殺気見せる理由なんて他にないだろう。
私を殺してでも守らなければならない秘密……。
(隠しているんだ!異世界人を!)
私がダンジョンで見た夢に出てきたのは5体の敵。
最初は私の装備、スキルを使ってくる相手だった。
それを倒せるようになったのは最近のことだが、その後に『忍者青影』が出てきた時に気が付いた。
(これは50階層の夢なんだと……)
ダンジョンが良くない未来を見せることは間々ある。
起こることがわかっているので往々にして回避されるが、対策を打たなければ正夢となる。
ダンジョンは人類の味方だと言われている。
だから死ぬような危険が迫った時には夢で教えてくれるというのが、ネットなどでの言われているダンジョンの夢の在り方である。
ずっと良くない過去の夢を見せられ続けてきたから半信半疑だったけど、私はアレを50階層の夢だと断定して動くことにした。
(50階層のボスは自分のコピー。自分達を模したスケルトンだ)
今のところわかっているのは一緒に挑むことになるであろう5人の仲間のコピースケルトン……。
まだ全部は倒しきれてはいないが、出てきてる敵が5匹のスケルトンなので、それがそのまま仲間のヒントになる。
青影スケルトンを倒した後に出てきたの全身黒鎧のギザギザ刃の槍持ち。
そのギザギザ刃には見覚えがあったので、すぐに彼女のことだとわかった。
あの時の【槍王】だと。
でも私のコピースケルトンほど厄介ではなかったね。
青影スケルトンの支援が無くなれば倒すのに苦労はしない。
黒鎧よりも厄介なのは、姿を現さない魔法使いだ。
まだ姿を見ていないので誰だかはわからないけど、火の上級魔法【ブラストボール】を使ってくるのでジョブは【爆炎術士】とかだろう。
ただ、ありえない威力になっていたのでその最上位クラスの可能性がある。
ジョブ名は『爆炎聖』とか『聖炎術士』とかかな?
空にいるみたいだから明日香先輩かとも思ったんだけど、明日香先輩は火魔法は使えないからね。
いるはずの場所に【飛斬】を連射してるんだけど全く手応えはなくて、まだ倒したことはない。
牽制している限り魔法攻撃はしてこないので、残りのコピースケルトンを先に始末できればいいんだけど……。
(残っているのが一番ヤバイヤツ。裸のスケルトンだ)
こいつは兎に角動きが早い。
青影スケルトンよりも早い上に、向こうの攻撃は掠っただけでこっちには致命傷になる。
投げナイフでさえ、掠っただけの足が吹き飛んだのだ。
しかも最初は何も装備してないのに次々に色々な武器を使ってきたり、いつの間にか盾を装備していたりする。
(この盾が何より厄介)
反応速度が異常でどんな攻撃やフェイントを掛けても必ず盾を合わせてくる。
そして盾に私の剣が触れると目が覚める。
たぶん私は死んでいるのだろう。
耐久に振っていてもお構いなしだ。
意味が分からない。
何かのカウンタースキルなのだろうけど、ヒントすら得られないのだ。
(何より納得がいかないのが【次元斬】で斬れなかったこと……。【次元障壁】だった)
あれは海外の動画で見たことがある。
【広域盾士】のスキルポイント50技だ。
【次元斬】は最強のスキルだと思っていた。
あれに至るために毎日剣を振っているけど、私の生涯で【次元斬】に届くかどうか……。
(なのに防がれた)
最強の盾と言われている【次元障壁】。
最強の矛と最強の盾では軍配は盾に上がった……。
これは私の腕が未熟なだけかもしれない。
(いつか斬ってみせる!)
それに盾の出ていない所を狙えばいいのだ……。
だが裸スケルトンの動きはとても海先輩と同じ【広域盾士】とは思えないほど素早いのだ。
【次元障壁】以外にもスキルを使っている様子なので【次元障壁】を覚えられる上位の盾ジョブを重ねているのは間違いない。
【盾聖】を二つ重ねている?
そして更信じられないくらいの高レベルなのだろう……。
そんな奴いるのかと思ったら、裸というところで色々と繋がる。
(異世界人!)
千葉に現れたという異世界人は裸だったという。
異世界人ならあの尋常じゃない動きも、豊富なスキルも納得できる。
そして渡辺霞は何か知っている。
だけど、まずは……。
「さっきも言った。今日は貴方に用があって来た。渡辺霞、……貴方が欲しい」
「ダメー!絶対ダメー!」
美雪さんが間に割り込んで両手を振って視界を塞いでくる。
何この人?
やっぱり置いてくるべきだった……。
「私を『ブルーオーシャン』にと言うことですか?それとも新しいパーティーでしょうか?内部分裂しているという週刊誌の記事は本当だったようですね」
渡辺霞が美雪さんを気にもせずに答える。
今日発売の週刊誌の内容をもう知っているようだ。
殺気は止んだけど、依然として敵意はあるようだ。
興味が異世界人だはなく自分に向いていると知って和らいだようだ。
「あ?そういう意味?」
他にどういう意味が?
「ダメー!絶対ダメー!この人は千葉の専属なんです!絶対渡しません!パーティーを組みたいなら千葉に移籍してきて下さい!」
美雪さんの動きが止まったのに今度は足揉み職員が間に入ってくる。
何この人達?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます