第298話 フォーメーションZ
(コイツは出てきた瞬間やる!『エイミング!』)
もはやパターンと化した攻撃。
兜戦士が暗闇の中から現れた瞬間を狙う。
胸に【チャージ・槍】を叩き込んだら、後ろに倒れ込まないように左手を掴んでこっち側に引きずり出す。
(【チャージ・槍・武器強化】【チャージ・槍・魔力アップ】【チャージ・槍・耐久アップ】【チャージ・槍・腕力アップ】【チャージ・槍・敏捷アップ】)
次に備えて再びスーパーモードを発動させつつ、掴んだ左腕のシールドガントレットをスルっと引き抜く。
シールドガントレットの下から現れたのは細すぎる腕、ではなく、手の骨……。
骨、そう、コイツの中身はスケルトンなのだ。
これはこの前41階層を覗いた時にわかっていた。
41階層にいたゴブリンのスケルトンの気配の色が、コイツ等と同じ黒だったからね。
スケルトンの気配の色が黒なのか、将又アンデッドが黒なのかはわからない。
けど、コイツ等は俺達を模したスケルトンなのだと思う……。
(【チャージ・盾・防具強化・盾・上】【チャージ・盾・魔力アップ・上】【チャージ・盾・耐久アップ・上】【チャージ・盾・腕力アップ・上】【チャージ・盾・敏捷アップ・上】)
上を警戒しつつ、シールドガントレットを装着したら、盾の方も発動させてハイパーモードに。
万全の状態で黒鎧を迎え撃つ。
ガシャン、ガシャン、と。
黒鎧が一歩二歩と完全に暗闇から出てきたその瞬間を狙う。
(【ゲート】、からの『エイミング』!)
『右目のゲート』と『左目のゲート』を同時に使う。
一つは目の前に、もう一つは黒鎧の真後ろに!
狙いは魔石。
何回もミスして、ようやく『ゲート』を通しての距離感を掴んだ。
一瞬硬い手応えを感じたがそれを貫く。
霞さんの装備を使っているならスキルも霞さんと同じなのか、これは上級の防具強化スキルだろう。
兎に角硬い。
【チャージ・槍】に溜まっていたMPは僅かに5か6だった。
それでも何とか魔石へと槍の先が届く……。
「やっ……べ。【ゲート】!」
やった!と喜ぼうとしたのも束の間、真上から火球が迫る。
とっさに左手を翳して【ゲート】を出す。
うまいこと『左手のゲート』は地面と水平に展開してくれた。
これは初めてのことだ。
今までは縦に、地面と垂直にしか展開できなかったからね。
着弾した瞬間、この空間の温度が一気に上がる。
暑いじゃなく熱い!
焼ける……。
(【チャージ・槍・武器強化】【チャージ・槍・魔力アップ】【チャージ・槍・耐久アップ】【チャージ・槍・腕力アップ】【チャージ・槍・敏捷アップ】)
意味があるのかはわからないが三度【チャージ・槍】を起動して魔力防御を上げる。
『左手のゲート』で受けた火球の炎は部屋全体に広がった。
安全地帯は僅かに『左手のゲート』の真下だけ。
『右目のゲート』に飛び込んで、黒鎧のいた『左目のゲート』から出てきても危なかっただろう。
(何というクソゲー)
判断ミスでもある。
あれが魔法なら『マジックシールド』で消し去れたはずだ。
何のために盾を奪ったのかと問いたい。
そして依然として、上から火球を落とした相手は姿を見せない。
(でも、それでも初めて黒鎧を倒すことが出来た)
兜戦士からシールドガントレットを奪うことを思いついたのはよかったが、ハイパーモードになっても五分と言ったところだったで、戦いに熱中すると火球にやられて振出しに戻っていた。
そんなことの繰り返しだったが、黒鎧は【ゲート】を使った攻撃には対応できないようだ。
(次は何が出る……)
視界から炎が消え、代わりに現れたのは盾無しの剣士だった。
防具はいつもの装備じゃないけど、あの剣は相川の剣だ。
相川は何気なく入ってきたかと思うと、そのまま何気なく剣を振った。
まだだいぶ距離はある。
10メートル……。
それでも反応した。
勘だったのか、何だったのか、相手の剣の軌道の射線上、体との間に盾を滑り込ませた。
……でもそれだけだった。
あっけなくシールドガントレットは両断され、俺の左手も落ちる。
そして俺も落ちていく。
見れば右手と槍はもう地面。
槍も盾も体から離れているのに何故かハイパーモードは継続しているようで、ゆっくりと俺と左手は地面に向かって落ちていく。
下半身はそのまま、胸から上が真っ二つにされたのだ……。
まだHPが残っているからか、意識はある。
そこに火球が降ってくる。
容赦ないな。
相川は後ろに飛び退いて、暗闇の中に戻る。
(あっつ!)
ハイパーモード中で魔法防御が上がっているせいか、いつもより長く燃えている気がする。
しかも分かれているはずなのに、下半身が燃える痛みまで感じる。
(なんというクソゲー……)
それにしても相川のスケルトン、強すぎないか?
【チャージ・盾・上】の防御はあらゆる攻撃を弾き返すはずだ。
単純に上級のスキルな分、【チャージ・槍】よりも強いはず……。
にも拘らず、発動すらせずに両断された。
あれが【アイドル】のスキルなのか?
火球の主も含めて、俺のスケルトンが一番弱いんですが……。
︙
︙
「イデデデッ」
痛みで目が覚める。
ここは倉庫の二階。
目の前には霞さん……。
霞さんが俺のほっぺを抓っている。
「おや、起きましたか」
ちょっと言葉に棘があるね。
「あの、手を……」
しかも手を放してくれない。
俺の耐久は220もあるので、ちょっとやそっとじゃ痛いなんて感じないはずなんですが……。
「随分楽しそうな夢を見ていたようなのでつい……。最近はいつも寝ていますね。参考までにどのような夢を見ていたかお伺いしても?」
そう言いつつも手は放してくれない。
これはついではないですね。
「これは誰にも言わないでほしんですけど……」
「むむむ。人には言えない夢と言うことですか?まさか誰かとイチャイチャする夢を見ていたのでは?相手は誰です?言いなさい!まさか、めが……」
「大変、大変、たいへーん!」
霞さんが両手を使いだして俺のほっぺが大変なことになったその時、白石さんが倉庫に入って階段を駆け上がってくる。
「むむむむー」
扉の向こうを気にしつつ、両手の力は緩むことはない。
もげっ……。
「たいへーん!フォーメーションZよー!大変なのー!」
「なんですって?敵襲ですか?」
白石さんが飛び込んできて、なんとかゼットという言葉を聞いた途端に霞さんがパッと両手を放した。
「敵襲?何ですかそれは?ゼットっていうのは?」
「『剣聖』襲来の対応フォーメーションです。白石さん、数は?『ブルーオーシャン』全員ですか?」
それは敵襲じゃないですね。
「『ブルーオーシャン』は『剣聖ちゃん』だけ、でもフォーメーションDも発動したの!だから大変なのよ!」
「D!?みゆ……、美雪も来ているんですか?二人で?他に要人は無しですか?」
大声を出しそうになった霞さんは何とか堪えて小さい声で話し直す。
桑島さんは超VIPな護衛対象なので、千葉にいると知られるのもマズいからだ。
「そうなの、二人だけなの!『剣聖ちゃん』が来たと思ったら護衛が美雪ちゃんだったのよ!」
「むむ?逆では?美雪の護衛として『あの小娘』が随伴してきたのでは?」
【剣聖】のジョブが出るってことは、純粋に剣の腕が高いどころか常人にはたどり着けない聖域にあることを意味する。
例え地上であったとしても、銃でも使われない限りは無敵の存在だろう……。
「違うの、違うの。護衛が美雪ちゃんだったのよー」
何言ってんだこの人は?
桑島さんは運動は苦手ってテレビで言ってたし、護衛としては役に立たないのでは?
「むむむむむ?よくわかりませんが、わかりました。兎に角対応しましょう。春樹さんはこのままここに待機でお願いします。何かあれば白石さんが知らせに来てくれるはずなので、私がいいと言うまではここから出ないように。もし美雪がここに近付くようなことがあれば奥に逃げてください」
【ゲート】を使って奥にってことですね。
じゃあフル装備だね。
でも行先が40階層か41階層しかないんですが?
41階層に飛んでから39階層に戻ろうか……。
「私、次はミアちゃんの所に行くから。『剣聖ちゃん』も美雪ちゃんもまだ地上で林さんが足止めしてるはずだから急いでね!」
「私も行ってきます。春樹さん、どうかご無事で……」
心配してくれるのはありがたいけど、あの二人が俺に用があるとは思えない。
寧ろ霞さんの方が『剣聖ちゃん』と仲が悪いから心配なんですが……。
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