第295話 校長「おはようございます、会長」

『トップ層のパーティーは全て新しいパーティーだということはご存じですか?』


 今日一日色々あったが、家に帰ってきて霞さんと夜の電話中だ。


「あれ?『ブルーオーシャン』は最初期からある、青さんと海人さんが作ったパーティーですよね?」


『お二人はそうですが、他のメンバーは違いますね。同じ大学で冒険者サークルのメンバーではありましたが、それぞれ別のパーティーに所属していて、残った戦闘職があの5人ということになります。サークルの代表がダンジョンでお亡くなりになり、ほぼ解散状態になった後に、今のメンバーを引き抜いて出来たのが『ブルーオーシャン』……。いえ、この事件は春樹さんの方がお詳しいですね……』


 ん?


「いや、そのサークルの代表が云々っていうのは聞いたことがあるくらいで、詳しく知りませんね。『剣聖ちゃん』と古田さんを別のパーティーから引き抜いてきたのは知ってますけど……」


『え……?あ、いや、今の話は忘れてください。話を戻しましょう!とにかく、結成時のメンバーが全員残っているパーティーは、トップ層にはないという話です』


 逆に気になるんですが……。


「そう言えば相川の親父さんのところのも、槇原さんは後発組でしたか?」


 トップ層と言えば熊親父。

 あんなんでも本部では『ブルーオーシャン』に次ぐパーティーのリーダーだったりするからね。


『そうですね。元々は私と同じく野良のパーティーで活動してたのですが、ダンジョン内で相川氏に助けられたらしく、それが切っ掛けで相川氏と懇意になったのだとか……』


 ダンジョンで女の子を助けて仲良くなるヤツ!

 男の子憧れのシチュエーションですね。


(どこかにピンチの女の子が落ちていないかな?)


『槇原先輩もなぎなたの達人ですし、他のメンバーも全員が別のパーティーのエース格だった人ですね。トップ層のパーティーはどこもそうです。強い人達が元々いたパーティーを抜けて出来上ったパーティーとなります』


「え?じゃあ元のパーティーはどうなるってるんですか?」


『欠員を補充して活動を再開するパーティーもありますが、大体は解散ですね。あとは野良のパーティーに参加したり、力量の合う者同士でパーティーを組んだり、もしくはそのまま引退したりですね……。何が言いたいのかと言うと、力量の合わない者同士でパーティーはうまくいかないということです』


 世知辛い話だけど、30階層を越えるとそうなんだろうね。

 トリプルランクでも金属のゴーレムには歯が立たないっていうこともしばしば……。

 トリプルランクのパーティーの大多数が20階層台をメインの狩場に移している。

 行くにはパーティーの力量を合わせるってことか。

 それにしても他のパーティーって結構エグイことしてるんだね。

 脱退や引き抜きが日常なら、追放も普通なのだろう。

 その内、第二第三の梅本さんがですね……。


「それと今回のサプライズと何の関係が?」


 そう、今は総司の言っていた、っていうやつを聞いていたところなのだ。

 それが何故かパーティーの脱退とか解散とか不穏な話になってしまった。


『現状、私たちのパーティーは春樹さんの力が飛び抜けていて、私達はそれにおんぶに抱っこの状態です。このままでは4年を待たずに解散してしまう危険がある、そう思っていました。夏目さんとの友情に関して私が口を出す筋合いではないのはわかっています。ですが、テスト期間中に一人で『符術』の練習をしている夏目さんを目撃してしまいまして……。相川さんを交えた話し合いをした結果、自分達の力を示すために今回の逆サプライズに至りました』


 アイツはテスト期間中に何やっとるんじゃい。


「キャリーなんて言葉もあるし、今はまだレベル上げの段階では?」


『もうレベルも十分追いつきましたし、40階層までキャリーだなんて聞いたこともありませんね。その発言自体がすでに異次元です。もっと自分のすごさに関心を持ってください』


 そうかな?

 海外の大富豪が大金を払って軍隊を動かして、40階層をクリアしてから冒険者を始めたっていうのは有名な話だ。

 俺達もここからスタートですよ。


「まあ、40階層に着いちゃったし、あとはゆっくりやるだけなので杞憂ですね。それにあの二人はともかく、霞さんもですか?霞さんは十分強いじゃないですか……」


 少なくとも霞さんには力を証明する必要なんてないと思うけどね。

 に俺は手も足も出なかった訳だし、ハイパーモードを使っても怪しいと思う。

 が何なのかはわからないけど、俺や霞さんを模しているのは間違いない。

 そう考えると、本気で戦ったら霞さんに勝てないんじゃないかな?

 逆に俺の方が自信無くなります……。


『前回サプライズを仕掛けられた時にその考えは消えましたね。地上にマンティコアを落とす……、春樹さんにはその必要すらなかったのですから。……私は必要ないのではないかと不安にもなりますよ。それにあの毒を受けたのも私を守ってのことです。私は春樹さんを守ると誓った身なのに、いつも守られてるのは私の方……。少なくともあの蛇を倒せることは証明したかったです』


 それで風車だったのかな?

 見事過ぎて、平松さんに教えてもらうより、霞さんの実演を一回見る方が勉強になったね。


「毒は俺のミスなので、気にされても困ります。それに、守ってほしいから霞さんと一緒にいる訳じゃありませんよ?霞さんと一緒にいられないならダンジョンに行くのやめますから」


『それでも……です。必要とされたいんです。ダンジョンの中でも、外でも……』


「必要ですよ。霞さんが……。ダンジョンの中でも外でも……」


『ならもっと言葉にしてください……』


 ダンジョンで十分やりましたよね?

 そういう問題じゃない?

 外でもってことね……。

 夜遅くまで電話は続いた……。

 テスト明けだし、少しくらいいよね?


「相川の新ジョブ……」


『スキルポイントが足りていないそうで……』


「霞さんの方……」


『おや、気付きませんでしたか?私は『甲冑強化』で防御力を……』


「あ、俺も鎧強化できそうなので……」


『ミアさんをどうやっておびき出すか……』


「霞さんが不在のフリをしてゴーレムを運び出す……」


『では平日ですね。有給がそろそろ尽き……』





「おはようございます、会長」


 ホゲッ。

 朝、登校してきたら掃除をしていた人物が挨拶をしてきた。


「お、おはようございます。


 校長が!

 挨拶はいいよね。

 掃除の手を止めてお辞儀までしたのも良しとしよう。

 も目上なのに礼儀が正しくて大変よろしい。

 だが、『会長』はダメだ会長は!

 どうなってるんだこの学校は……。


「かいちょーー!大変なことになりましたぞーー!」


 教室に入る前にダンジョンオタクのオタに呼び止められる。


「なんだ?50階層でも攻略されたか?あと、会長って呼ぶな」


 50階層はまだ誰も攻略してない、帰還者が一人もいないボスエリアだ。

 最近では挑んだって話も聞かなくなってきたね。

 もしかしたら『ブルーオーシャン』が挑戦を発表したとかかな?


「残った最後のファンクラブが傘下に入ると言ってきました!」


 ダンジョンの話はどうした?

 お前はダンジョンオタクだろうに……。

 ファンクラブっていうのは学校の女神こと水木沙織のファンクラブの事ですね。


「あれ?この前の四つで全部じゃなった?」


「いえ、それはファンクラブですな。我らが愛好会を含めて五つあったのですが、今は一つに……。ですが、今回恭順の意思を示してきた最後のファンクラブは、なんと、教師のファンクラブなのですぞ!」


「犯罪者集団じゃん!」


 なんと、じゃねぇ。

 それは許されんだろう……。


「いえ、そうではないのです。某も噂でしかその存在を知らなかったのですが、今回代表のミスター・オノと話した結果、それを未然に防ぐ会なのだそうです……」


 ミスター・オノ……、学年主任が主犯、じゃなくて代表か……。

 オタに寄れば、美人過ぎる水木に教師が変な気を起こしたり、職権を乱用して接近したりしない為の組織らしい。

 構成メンバーは男性職員全員。


「それで校長に挨拶されたのか……」


 徹底した教育が行われ、背いた者はこの学校をクビになるのだとか……。

 まあクビは普通か。


「以前より会長の清廉潔白な理念に感銘を受けていたらしいのですが、昨日、幹部達が直接会長にお会いして軍門に下る決意が固まったとのことです」


「昨日あそこにいたの幹部かよ!?」

 

 その理念とやらが女神愛好会とかいう謎の組織に通ずるモノがあったらしく、傘下に収まった、と。

 通りで最近生徒だけじゃなくて、教師まで俺を会長呼びしてくる訳だよ。

 それにしても校長が代表じゃないのな……。

 活動方針として、水木の受ける授業はなるべく女性教師が担当することになっているらしく、元々は俺達の学年だけの組織だったらしいけど、他の学年の先生が授業を担当することもあるので、調整の為に組織が大きくなっていったんだとか。

 今や校長を含め、教師や警備から用務員さんまで学校にいる大人の男全員が会員なのだとか。

 恐るべきは水木か学年主任か……。


「校長さえも傘下に入りました。これにより、会長はこの学園を統べる支配者となった訳ですな」 


 なんか不穏なことを言ってますね……。



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