第294話 好きなジョブ

 霞さんが調子悪いとか、何か変な物を食べたとか思った奴はダンジョンの外に出ろ。


「でも安定性を考えて武器強化のある槍職にした方がいいって言っていませんでした?どうして急に?どこか具合でも悪いんですか?」


 俺も出る!


「先日の昇格作戦の時に色々と思うことがありました。好きなジョブに就けた方、出なかったので渋々他のジョブに就いた方、誰かの為に目当てのジョブを諦めた人もいましたね……。効率や、安定性だけではない、ジョブを選ぶ為の理由……。受付に座っていてるだけではわからないことでした……」


(諦めたのは鋏を使っていた方の服屋のお姉さんだね)


 一回で選べなかったんだよね。

 本当は戦闘職になりたくて、【双剣士】っていう強力なジョブも出ていた。

 鋏のお姉さんは上位ジョブになったら服屋さんをやめて冒険者に専念する、そう約束して針のお姉さんと二人でお店を始めたらしい。

 行きの道中でも、針のお姉さんともこれが最後の冒険になるかもって話をしていた……。

 でも、ジョブ選択画面が出た時に急に選べなくなったそうだ。

 針のお姉さんと服屋さんを続けたい、それが本当の気持ちだったんだって。

 結局、鋏のお姉さんは【革細工士】の上位ジョブに当たる【名工士】になってしまった。

 帰り道、二人はずっと喧嘩してたけど、針のお姉さんはどこか嬉しそうだった。


「彼女達とは長い付き合いですが、みんながあんなに笑っているのを見たのは初めてかもしれません。あの子たちのことを、いいえ、冒険者のことを理解できていなかったんですね。私は本当にダメな職員です……。ですが、春樹さんのお陰で変わることが出来そうです。私をダンジョンに連れ出してくれたこと、トリプルランクにしてくれたこと、みんなの上位ジョブ獲得に尽力してくれたこと、すべてに感謝しています。ありがとうございます」


 霞さんが綺麗なお辞儀をする。

 霞さんは変わってない。

 冒険を始めたばかりの頃、いつもこうやって綺麗なお辞儀で送り出してくれていた。

 最初から俺達のことを、冒険者のことを心から心配してくれている。

 それだけは本当のことだ。


「頭を上げてください。あの人達をトリプルランクにしたのは間違いなく霞さんの力ですよ」


「いいえ、全て春樹さんあってのことです。ですから!あの子達が好きなジョブを選んだのに、春樹さんが好きなジョブになれないのはおかしいでしょう?だから春樹さん、好きなジョブを取ってください」


 ここで話が繋がるのか……。


「そうよ。これは私達からのサプライズ、プレゼントなんだから!喜ぶものを渡したいに決まってるでしょ!さっさと好きなの選びなさいよね」


「まあこのサプライズには別の意味もあったんだけどな」


 サプライズの意味?

 総司が意味ありげなことを言う。


「あ、それはまだ内緒!私はまだ満足してないんだからね!次は私の番なんだから!」


 またやる気なのかよ……。

 ミアさんへのサプライズの時は警戒しないとな。


「まだお決まりでないならゆっくり考えて下さい。私達はマンティコアの解体をしていますので。もちろん、【突撃鎧士】でなくても構いませんよ?私の為に【槍聖】になってくれても、それが春樹さんのなりたいジョブなら大歓迎です」


「出てませんね」


 特に増えては無いみたいだ。


「残念です」


 魅力的な笑顔でそういうと、霞さんは振り向いてマンティコアの死骸に向かう。


「マンティコアってどの部分売れるんだ?」


「売れないでしょ、秘密なんだから。でも爪と牙なら持って帰ればミアさんが何か作ってくれるんじゃない?」


 総司と相川も続く。

 いや、選べと言われてもね……。



『獲得可能ジョブ』


【強化戦士】

【超槍士】

【多重槍士】

【不動盾士】

【広域盾士】

【突撃盾士】


【探知士】

【追跡士】

【隠形士】

【レンジャー】

【幻影士】

【暗殺者】


【星読士】

(【ストーカー】)


【バーサーカー】

【突撃鎧士】


『次へ』



 ……増えてないね。

 今日はマンティコアは倒さない予定だったからまだ決めてなかったんだよね。

 【超槍士】か【多重槍士】の二択で今日の夜の電話で霞さんと相談して決めるつもりだったのだ。

 でも好きなジョブでいいと言われたら……。


(【突撃鎧士】だな)


 これが俺らしいと霞さんも言ってくれた。

 ハイパーモードより先があるのなら、その先を見てみたい。



名前:春日野 春樹

ジョブ:【突撃盾士】【突撃鎧士】new【突撃槍士】【斥候】

Lv:44


HP:3299/3300

MP:520/880

腕力:176

耐久:220

敏捷:154

魔力:88


スキル:【ゲート】【チャージ・盾・上】【チャージ・盾・防具強化・盾・上】【チャージ・盾・腕力アップ・上】【チャージ・盾・耐久アップ・上】【チャージ・盾・敏捷アップ・上】【チャージ・盾・魔力アップ・上】【チャージ・盾・上・シールドショック】【チャージ・盾・上・マジックシールド】【チャージ・槍】【チャージ・槍・武器強化・槍】【チャージ・槍・腕力アップ】【チャージ・槍・耐久アップ】【チャージ・槍・敏捷アップ】【チャージ・槍・魔力アップ】【チャージ・槍・エイミング】【気配遮断】【気配察知】【索敵】【夜目】


スキルポイント:13


 よし!

 スキルも覚えたいところだけど、ボス部屋でやることじゃないからね。

 解体を手伝おう。


「もういいんですか?」


「はい、【突撃鎧士】にしました」


「ありゃー、渡辺さんの言う通りだったね。【突撃盾士】を重ねると思ったのになー」


「ええ?【忍者】はどうした?【幻影士】じゃなくていいのかよ!?」


 【忍者】出てたらわからなかったね。

 総司は中々俺のことをわかってるが、もう【突撃鎧士】にしてしまっからね。

 、【忍者】春影は幻の存在になってしまったのだ。


「手伝います。何をすれば?」


「爪を探していますが、バラバラで使い物にならなそうですね。そこに置いてある鍵爪を仕舞ってください」


 『左手のゲート』を出して、マンティコアの羽についていた鍵爪を倉庫に送る。

 マンティコアは四本足なのに羽にも爪が付いてるんだね。

 まあ尻尾にはもう一個頭がるし、気にしてもしょうがないね。


「コイツって蝙蝠の羽なんだね。おっしーなぁ。グリフォンの羽で作った羽毛布団って一億円もするらしいよ」


 顔から牙を抜いてきた相川が仕舞わなかった羽の部分を見ていう。


「一億!やばいな」


 一億の布団で見る夢はどんな夢なのか……。

 グリフォンはどこのダンジョンだったかな?


「一億って言えば『ブルーオーシャン』の動画見たか?バイクも持ち帰ったら一億で売れるらしいぞ」


 おい、総司!

 霞さんの前で『ブルーオーシャン』の話題は……。


「企業側が依頼として出した金額なので、実際にはもっと低いでしょうね。協会に持ち込んだのなら半分くらいでしょうか?どちらにしても千葉支部では買い取れませんね」


 普通の反応!

 『剣聖ちゃん』の名前を出さなければセーフらしい。


「それでも5000万!ねえ、この後41階層に行ってみようよ。見るだけ、見るだけでいいからさ」


「秘密だから売却不可ってさっき自分で言ってただろ。お?これって、爪だよな?あー、ダメっぽいな。それにしてもすごい威力だ。これでいくつMPを使ったんだ?」


 飛び散ったマンティコアの肉片から爪の欠片を見つけたが、小さすぎて武器なんかには使えなそうだ。


「1400だな。その内半分が【創水】だから【水圧】の方は700になる。それでも一撃じゃ倒せなかったな。チクショーだぜ」


「いや、十分だろ。ただ棒の高さが足りなかったんじゃない?頭に直撃させてたらもっとダメージ入ったかもな」


 足は千切れ飛んでいるのに、頭にはダメージがないように見える。


「そこは私の作戦ミスです。角度を付けていたので頭にも届いていたハズなのですが、思った以上にマンティコアの魔力が高くて水魔法が弾かれてしまったようです。解決法としては春樹さんの仰った通り、杭を長くして頭に集中させることですね」


 魔力は値はそのまま魔法防御力だ。

 マンティコアは地上にいればそれほどの脅威ではないのは、魔力に特化したステータスだからだろう。

 工事現場のコーンより大きい氷の塊を一分間以上も撃ち続けたのも納得だ。

 水魔法というか、【水圧】での攻撃は少し離れただけで威力は下がる。

 その少しの威力低下で高い位置のマンティコアの皮膚は貫けなかったという訳だ。

 ちなみに総司の符術で致命傷を与えられなかったら即撤退の予定だったらしい。

 あの状態なら押せばいけると判断し、見事に撃破してみせたけどね。


「ハルくーん!ここから下に【ゲート】って出せるー?」


 41階層を諦めていない相川が崖を見下ろしている。



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