第290話 ピポパポン

『3年A組、相川夏希さん、今すぐ職員室に来るように。3年A組、相川夏希さん、今すぐ職員室に来るように』


 ペポパポンっと校内放送。

 木曜日、その日の授業ももう1時限というところで、相川が呼び出された。


「うわ、だっる。なんだろ?とりあえず行ってみる」


「「「いってらー」」」


 相川を見送ったのはいいけど、思い当たる節が多すぎる。

 家出してること、ダンジョンに住んでること、……冒険者をしてることもか?

 冒険者は進路としての選択肢になるので見逃されてるけど、アルバイト的な目的なら校則違反ということになる。

 そういえば昨日は宴会の席にもいたね。

 でも呼び出されたのは相川だけだから違うか……。


(まあ、相川は普段から呼ばれることも多いから大丈夫だろ)


 この時はそう思っていた……。


「春樹ぃ、ほら、もう一回ちゃんと見てくれ。100点だよ!俺、人生で初めて100点取ったよー」


 くっそ、俺は98点だった。

 総司に負けるとは……。


「うぅ、てぇてぇ。これも春日野君が一生懸命勉強を教えていたおかげだね。二人一緒に卒業できそうだね。うぅ、よかった、よかった」


 相馬さんも泣いてます。

 3年間頑張って勉強を教えた俺のお陰……、って訳では無いんだよなぁ。

 まあ教科書丸暗記作戦の成果だね。


『キーンコーンカーンコーン』


 休み時間が終わった。

 相川は次の授業に間に合わなかったね。


「あれ?また100点?春日野君、今回かなり上位なんじゃない?」


 はい、今度は俺が100点です。

 これヤバイね。

 そう、100点なのだ……。

 テストはほぼ返ってきたけど、今回の結果はかなり良い。

 ライセンスが返ってくるどころか、東の方の大学にも行けるんじゃないか?

 いや、ここからは西だけど……。

 願書はまだ間に合うけど、後でのことを考えるとやり過ぎは良くない。

 それにお義父さんと同じ大学に行かないとダメだからね。


「やったぜ。これなら期末0点でも追試なしだー」


「ええ?総司君、今回私よりも成績良いんじゃないの?」


 総司の意外な高成績にクラスが沸く……。





『キーンコーンカーンコーン』


 相川は授業が終わっても戻ってこなかった……。


「春樹どうする?俺は相川待ってるけど……」


「いや、俺も待ってるよ」


 ホームルームには戻ってくるんじゃないかな?


「じゃあ私は二人を観察してるわ。あ、時間あるなら図書室に来ない?みんな喜ぶわよ?今年に入ってから全然来てくれなくて、みんなネタ不足なのよー」


 後藤先輩のいない図書館に行ってもね。

 去年は何も知らない不良グループの先輩たちが出入りしてたからネタには困ってなかったのに、今年は男子が寄り付かないないらしい……。


「みんな、放課後のホームルームは無しにします!春樹君、ちょっと来て下さい。夏目君も……」


 担任が入ってきて、ホームルームの中止を告げるとともに、廊下に呼ばれ、そのまま階段まで連れて行かれた。


「何です?」


 担任の坂本先生は、教員歴3年目の女性。

 細身でいつもパンツルックなスーツ姿の英語教師だ。

 去年も副担任ということで俺のクラスを受け持っていたが、今年は担任に昇格したのだ。

 相川はこの先生のことが嫌いらしく、寝たフリを心配して声を掛けてくれる先生をいつもガン無視してたね。


「相川さんが大変なの。私、どうしたらいいかわからなくて……」


 教師にも手に負えないことを俺に相談されても困るが、相川のことは放っておけないからね。


「あ、相川に何があったんです?」


 慌てる総司。

 しかし、一体何をしたのか……。

 熊親父でも攻めてきたかな?

 先生は周囲を窺い、誰もいないことを確認してから口を開く。


「……カンニングを、……疑われてるの。本人は否定してるわ。証拠もないし……。でも急に成績が上がったのはおかしいって他の先生が言い出してね。春樹君に限ってはそんなことないと思うけど、夏目君の成績も上がってるし、二人なら何か知ってるかもって思って……」


 ありゃー、……。


「でもなんで相川だけ?」


 順番か?

 俺は大丈夫そうだけど、総司はこの後呼ばれる可能性があるね。


「相川さんね、英語以外は100点で今回のテストで1位になりそうなの。英語も間違ってたのはリスニングだけ。授業を聞いてない相川さんがこんなに成績が良い訳がないって……」


 マジで?

 アイツが俺より成績が良いってどういうこと?

 納得いかん!


(ってバレたらなっちゃうんだろうなぁ)


「春樹、どうしよ?どうしたらいいんだ?でもカンニングはしてないから大丈夫だよな?な?何とかしてくれよ」


 仕方ない、平松流の奥義を見せましょうか。

 しかし呼ばれたのが相川の方で良かったね。

 総司だと無理な手が今回は使える。


「行きましょうか。職員室ですか?」


「春樹君!!生活指導室よ。お願い、無実なら救ってあげて」


 無実かどうかは置いておいて、本当にカンニングしてないならイケるだろう……。





「しつれーしまーす」


 ノックの後に声を掛けて、返事を待たずに生活指導室に入る。

 

「なんだ?今取り込んでいるから、後にしろ」


「ハル君!?総司も!」


 部屋の中心に相川が座っていて、周りを取り囲むように教師陣が座っている。

 圧迫面接ってヤツですね。


「待ってください。まずは春樹君の話を聞いてください。相川さんの件について、証言をしてくれるそうです」


 担任が俺を追い返そうとした体育教師を止める。


「ほう?聞いたか、相川。お前がカンニングしたって証言してくれる生徒が出てきたぞ。もうあきらめろ」


「やってないって言ってるでしょ!バーカ!アンタ、間違いだったら土下座してもらうからね」


 先生に向かってバカはダメだと思います。


「なんだと、コイツ、口の利き方を……」


「先生、落ち着きなさい!……君は春日野君だね。君が来たということは相川さんの無実を証言するつもりだね。どうでしょう先生方?私は彼の話を聞いてみたい」


 真ん中に座っていた学年主任の先生が、体育教師を止める。

 ウチのクラスは担当してないが、英語の教師でテストを作ったのもこの先生のはずだ。

 名前はミスター……なんだっけ?

 向こうは俺を知ってるのに、俺は名前を覚えていないっていう、失礼な話です。

 スイマセン……。


「ほう、彼が。僕も聞いてみたいです」


「ああ、例の……。いいでしょう、聞きましょう」


「私からもお願いします」


「チッ、まあ先生方がそういうなら」


 よくわからないけど、他の先生たちも同意して俺の話を聞いてくれることになった。

 オウボウだー!の声はなくてよかった。

 流石学年主任、人望がある。

 いや、霞さんもアネゴさんも人望はあるんだよ?

 ちょうどいいし、英語から行きますか……。

 標的はもちろん体育教師。


「まず、相川はカンニングを疑われているようですが、それは間違いです」


「なんでそう言い切れる!見ていたとでも言うのか?テスト中にっ!」


 体育教師が喰いついてくる。

 やり易くて助かる。


「俺が勉強を教えたからです」


「誰が勉強を教えてもこんなに一気に成績が上がる訳がないだろう!お前が教えて先生たちよりも結果が出るなら教師はいらないんだよ!」


 上がっちゃったんだよなー。

 俺が教えたわけじゃないけどね。


「第一問……」


 クイズ大会の始まりです。



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