第6話 ダンジョン民営化

「さて、帰る前に……」


 ゴブリンの死体を何とかしなければ。

 モンスターの死体は周囲に誰もいなければ5分ほどでダンジョンに吸収される。

 剥ぎ取り終えたモンスターの死体は目立たないところに寄せておくのがマナーとなるが、この場所は『1階層のゲート』から見えない側の木の陰となるので移動の必要はないだろう。

 そして、ゴブリンの価値ある部位は魔石のみとなる……。

 魔石は心臓の右側、体の中心にあるらしい……。


「やるか……。」


 ……槍でゴブリンの死体をひっくり返して、心臓の辺りを刃でグリグリして魔石を取り出した。

 ……詳細は割愛する。


「帰って、初換金かな?」


 地球にダンジョンが現れたのは今から10年前の1月1日グリニッジ標準時で0時丁度。

 グリニッジ標準時と日本標準時の時差はプラス9時間なので、日本だと1月1日の午前9時だろう。

 後に『ダンジョンゲート』と呼称される空間の亀裂のようなものが世界各国の首都に同時に出現した。

 そしてその『ダンジョンゲート』の向こう側は全く別の場所に繋がっていたのだ。

 これに対し日本政府は直ぐ様周囲を封鎖し、自衛隊による調査を開始する。

 判明する驚愕の事実。

 ゲートの向こう側は地球上のどこでもないということ……。

 空は見えていたがGPS等が効かず、夜には星空が見たことも聞いたこともないものであった為そう推測されたのだ……。

 環境は地球に似ているが未知の植生、そして非常に凶暴な未知の生物が存在すること。

 襲って来た未知の生物を身を守るために自衛隊は返り討ちにした。

 持ち帰ったその死体を調べたところ、未知の生物の体の中には魔石が存在することがわかる。

 ダンジョンにいるこれらの生物たちは食事を摂らない。

 これが未知の生物の動力源である、と地球の研究者たちは断定する。

 そして、すぐにエネルギーを取り出す技術が開発されたのだった。

 魔石はダンジョンの外に出すとただの石と変わらない。

 だが、ダンジョン内なら電気を作り出すことができるらしく、各ダンジョンに作られた魔石発電所により、外の世界、地球上の電力も今ではこの魔石無しでは回らなくなっている。

 折しも、世界的に石油の値段が高くなっていた時期だった……。

 世界中で魔石の採取が始まった。

 小さな国にもダンジョンはある。

 今まで外国に頼っていた電力を国内で生産することが出来る。

 各国が競ってダンジョン攻略をし始めた。

 日本でもより多くの資源(魔石)を、ということで5年前にダンジョン管理の民営化、つまり一般市民にダンジョンが解放されたのだった。


「これが魔石か」


 ゴブリンの青い血を持参したタオルで拭き取り、親指の程の魔石を眺める。

 この大きさで1個100円。

 電力的にも乾電池4個分といったところか。

 もっと奥の階層に行けばより強力なモンスターがいて、その分大きく高純度の魔石を体内に持っているらしい。

 取り出せるエネルギーが大きければ大きいほど高く売れる。

 それが冒険者のメシの種と言う訳だ。


「そういえば最初にモンスターを倒すと必ずレベルが上がるんだっけ?」


(【ステータス】)



名前:春日野 春樹

ジョブ:なし

Lv:2

HP:10/20

MP:4/20

腕力:2

耐久:2

敏捷:2

魔力:2


スキル:【ゲート】



 レベル2。

 ステータスも1ずつあがっている。

 HPの最大値は20になっているが現在値は10のままだ。

 レベルが上がっても回復はしない『仕様』らしい。


「MPが減ってる……。【ゲート】使ったのも6回だったかな?これ、1回1消費ならMPは気にせず使えそうだな」


 それにしても、声を出して【ステータス】と言わなくても見れたな。

 じゃあなんで林さんが講習の時に声を出させたのか考えてみると、ステータスを確認したことを確認したのだろう。

 ちなみにステータスは他人からは見えない。


「俺のも言わなきゃ誰もわからない訳だ」


 そう、特殊スキルを他人が勝手に知ることはできない。

 本人からの自己申告以外ないのである。



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