第7話 帰ってどうする?
1階層に戻ってきた。
今は地上に繋がる『ダンジョンゲート』のある冒険者協会の建物の中にいる。
ざっと見回すが林さんはいない。
よく考えたら林さんは地上の方の協会支部の受付にいた。
午前中はそちらにいたのだから午後からもそちらだろう。
時刻は午後1時前。
「そういえば昼飯食ってないな。」
ダンジョン内にある食事処に行ってみようか。
ダンジョン内の受付に向かい、レンタルした槍を預けよう。
こちらの受付嬢は眼鏡をかけた黒髪ロングの美人さん。
ネームプレートを確認。
お名前は渡辺霞さんです。
笑顔は見られませんでしたが、キビキビした対応でスムーズに槍を預けられました。
ちなみに冒険者ライセンスを作ったときに俺専用のロッカーというか武器置き場が割り振られたらしい。
武器は外に持ち出せないので帰りに必ず預けなければいけないからだ。
他のダンジョンに武器を移したいときは支部に申請してお金と丸1日以上の時間を掛けて運んでもらわなければならない。
この武器の制約により、冒険者は支部の移動というかちょっと出張みたいなことができない。
これも千葉ダンジョン過疎化の一因なのよ。とは林さん談である。
ダンジョン1階層にはモンスターは出ないので丸腰でも大丈夫だ。
厳密にはモンスターは出るが全部捕まえてある。
モンスターは死ぬと時間経過でランダムな場所にリポップする。
千葉ダンジョンの1階層に出現する素手のゴブリンは全部捕まえて壁際にある自衛隊の施設で隔離されている。
これにより各地にあるダンジョンの1階層では、戦えなくともライセンスさえ持っていれば施設の利用やショッピングができるのだ。
隔離施設だが偶にモンスターがお亡くなりになるので、その時は自衛隊による捕り物があるらしい。
施設と言えば建物の中に人が一人でも居れば、中の物と建物はダンジョンに吸収されないらしい。
しかもこの1階層の建物はすべて繋がっている仕様なので、24時間誰かしらは居るはずなので消えませんよとのこと。
他のダンジョンから運ばれてきたというモンスターを食材にしている店の前を通る。
店の前に今日の定食と書かれているとんかつ定食と思しきサンプルに500円の値段が。
「マジか。学校の食堂より安いぞ。」
何の肉かはわからない。なぜなら名前はとんかつ定食ではなく今日の定食だからだ。
しかし俺も今日から冒険者だ。覚悟を決めよう。
意外にも店内には結構客がいた。
1人だからカウンターの様な席に座れたがテーブル席の方は満席だった。
過疎ダンジョンと言っても冒険者がゼロと言う訳ではないらしい。
「マジか。学校の食堂より旨いぞ。」
ちなみにメニューを見たらとんかつの肉はワイルドボアという猪の肉だった。
千葉ダンジョンにはいないモンスターだ。
こういう素材が有効活用できるモンスターがいるダンジョンはきっと過疎ではないのだろう。
食事を終えた俺は『ダンジョンゲート』のある建物に向かう。
「……。」
昼飯を食べたおかげか少し落ち着いた。
「帰ってどうする?」
林さんに会ってなんて言うつもりだったんだ?
「今日はゴブリン1匹倒したので帰ります。か?まだ2時にもなってないぞ。」
カッコ悪いところは見せたくないな。
ちょっと林さんに背中を押してもらおうと思って戻ってきただけだ。
……
「もう少しだけ一人で頑張ってみるか。」
渡辺さんのいる受付に向かう。
「預けていた武器の引き出しをお願いします。」
ライセンスを渡すと渡辺さんは裏に引っ込み槍を持ってすぐ戻ってくる。
「槍の利点は、その間合いの広さにあります。2階層のゴブリンは棍棒を持っていますが、背は低く間合いという意味ではひどく狭いです。間合いを制するものが戦いを制する。つまり圧倒的有利ということです。また、槍の神髄は突くことではありません。突き、叩き、払い、斬る。全てができるのが槍の強みです。色々試してみてください。」
「え?」
急に饒舌に話しかけてくる渡辺さん。
「大丈夫。貴方ならできます。」
槍を預けた時と同じでそこに笑顔はなく真顔のままだ。
「あっ。」
槍を預けに来た俺はどんな顔をしていたのだろうか?
今はどんな顔をしているのだろうか?
「行ってきます。」
思わぬところで背中を押されてしまった。
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