第5話 かわいい女の子かと思った?

「やばい、『ゲート』隠さなきゃ……」


 どうやって?


(消えろ、消えろ)


 念じてみると目の前にあった左手から出した『スキルのゲート』が消える。


「よし。次、あっちもだ……」 


 振り返ると木の陰にあったはずの右手から出した『スキルのゲート』も消えていた。

 同時に消えたのかな?

 片方を消したら繋がってるから両方消えるとか?


「危ない、危ない。……ん?ずいぶん小さいな。子供か?」


 いや、未成年はダンジョンに入れないはずだぞ。


「じゃあ、女の子……。」


 背の低い女の子かな?

 でも髪の毛がないな、しかも全身緑色?

 向こうもこちらに気が付いたようで目が合う。

 

「ッッ、ゴブリン!!」


 やばい。

 思わず両手を目線の高さまで上げる。

 何も持ってない……。

 丸腰だ。

 さっきスキルの検証をするために槍を木に立て掛けたんだった。

 やばい。やばい。

 ゴブリンが走って向かってくる。

 距離はもう10mを切ってる。

 後ろを向いて俺も走る。

 槍まで5m。

 走る。

 全力だ。

 左手で槍を手に取って……。


「【ゲート】」


 右手を前に出して『スキルのゲート』を出して飛び込む。

 あ、これもやばい。

 1個しかゲート出てないぞ。

 でももう止まれない。


(ぶつかる!)


 思わず目を瞑る。

 ぶつか……ってない?

 目を開けるとゴブリンの後ろ姿。

 俺はさっきの左手の『スキルのゲート』の位置から出てきたようだ。

 ゴブリンは目の前で俺が消えて、そして急にゲートが現れて、驚いて立ち止まっている。

 レンタルした槍は十分長い。


(届く。心臓か?首か?どっちを狙う?)


 両手で槍を持って一歩踏み込んで突く。


「グェッ」


 レンタルした槍は貫通して柄の部分まで刺さっている。

 迷った所為か槍は首と心臓の丁度間に刺さったらしく即死していない。


(あれ?軽い?)


 槍を持ち上げる。ゴブリンの身長は120センチメートル程。

 その体はガリガリで簡単に持ち上がった。

 ステータスによる補正の影響か?

 レベル1でも力は上がっているようだ。


「グエッ。グエッ」


 ゴブリンは足をバタバタさせ、持っていた棍棒を手放して槍を掴もうとする。

 しかし体の前から飛び出しているのは刃の部分だ。

 うまく掴めていない。

 刃を掴もうとして手から血を流す。


「………」


 やがて刃を掴もうとしていたゴブリンの両腕がダラリと下がる。


「……死んだ、のか?」


 ゴブリンを地面に落として槍を引き抜く。


「ゴブリンの血は青かった」


 人類最初の冒険者が言ったとか言わなかったとか……。


「………」


 放心状態だ。

 でもビックリしただけ……。

 急に出てきたゴブリンにもビックリしたが、それを容赦なく突き殺した自分にもビックリしている。

 ゴブリンの死体を見てみる。

 苦悶の表情で白目だ。

 特に何も感じないな。

 気持ち悪いとかもだ。

 ああ、すごい顔してるな、くらいしか……。

 最初にモンスターを殺してしまったショックでそのまま冒険者をやめてしまう人は多いらしい。

 だが、実際殺してしまったことではなく、そんなことが出来てしまった自分にショックを受けたのかもしれない。 

 今の俺の様に……。


「さて、どうするか……」


 もちろん冒険者を続けるかどうするかではない。

 俺は大丈夫だ、大丈夫なはず。

 でもこの後、今日はどうするかだ……。

 ゴブリンの死体を再び見やる。

 ゴブリンの強さは10歳の子供くらいのだと言われている。

 身長は120センチメートル程、体重は20キログラム前後だとか。

 それが武器を持って襲ってくる。

 殺意を持って……。


(大したことはなかったな。取り乱す必要はなかった。前もって心の準備が出来てれば、正面から戦えたはずだし、今みたいな気持ちにならなったのかもな……)


 スキルの検証に気を取られていて、心の準備が出来てなかっただけ、そう自分に言いきかせる。


(こいつを問題なく倒せたんだから、次の階層に進んでも問題はないな……)


 2階層では棍棒を持ったゴブリンしか現れない。

 それも一匹ずつで、複数では行動しないらしい。

 2階層では居眠りでもして不意打ちをされない限りは命は危険はないとのことだ。

 これが3階層になると小さなナイフを持ったゴブリンが現れるので注意が必要になる。


『今日は3階層には行かないで下さいね』


 林さんが別れ際にそんなことをいっていたな……。

 なんだか会いたくなってしまった。

 『一階層のゲート』が目に付く。


「……帰るか」



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