第3話 特殊スキル【ゲート】
講習が全て終わり、時刻は午前11時を過ぎたところ。
俺は再び地上の冒険者協会支部からダンジョンの1階層に戻ってきた。
そして2階層に繋がる『ゲート』を目指して歩いている。
ここ、千葉ダンジョンの1階層は草原エリア。
今は昼だから太陽が見えているが、外の時間に連動して夜にもなるらしい。
月の満ち欠けまで一緒だが、星空(星座)は地球のものとは全く別物だそうだ。
地上からダンジョンに潜るための『ゲート』は『ダンジョンゲート』と呼ばれているが階層またぎの『ゲート』は繋がっている階層の名前で呼ぶのが一般的だ。
1階層から2階層に向かっているので、今探しているのは『2階層のゲート』ということになる。
スキルの『ゲート』と混同しやすいので今後は『ダンジョンゲート』、『2階層のゲート』、そして『スキルのゲート』と呼んでいこう。
(とは言ってもまだ『スキルのゲート』は使ったことも無いんだけどね……)
ともあれ1階層で『スキルのゲート』を検証せずに『2階層のゲート』を探している大きな理由は人の目である。
林さんも特殊スキルは人に教えちゃだめだよ的なことを言っていた。
この千葉ダンジョンは日本でも有数の過疎ダンジョンではあるが、1階層には冒険者協会の各種施設の他、ダンジョン関連の企業の施設(分かりやすくいうと武器屋等)、それと自衛隊の施設などがあり、人の出入りが結構あるのだ。
しかし2階には人はいない。
過疎の理由は電車一本で協会の本部がある東京ダンジョンに行けて、普通はそこで冒険者登録するからだ。
本部の方は1階層の施設がかなり充実していて、生産職の冒険者のお店からデパートまであり、更に最近では海外の冒険者が使っている大手武器メーカーが進出してきているとかなんとか……。
毎日多くの冒険者が集まって来ているので、一人で行っても即席のパーティー募集に参加すればすぐにパーティー組んで冒険が出来るのだ。
『人が多いほど安全、逆に少ないと危険、だからますます過疎る。負のスパイラル……』
林さんが遠い目をしながら言っていた。
林さんはこの千葉ダンジョンが過疎っていることを憂いているようだ。
「『2階層のゲート』発見」
整備された道を歩いて15分程、一本道だったので発見と言うよりは到着と言ったところだな。
1階層だけは『2階層のゲート』に向かって地面が舗装されているのだ。
目の前には空間の亀裂のようなもの……『2階層のゲート』がある。
『ダンジョンゲート』と同じく高さ2メートル程で歪な菱形の様な形をしていて横の幅は一番広いところで1メートル。
断面は黒で、向こう側である2階層の様子は見えない。
指を当ててみると最初だけ触れたような感触はあったが、その後は空を切るようになり一切抵抗は感じない。
顔が通り抜ける時は一瞬視界が真っ暗になるが、すぐに元に戻った。
地上からダンジョンに入った時と一緒である。
「ここが2階層か。1階層との大きな違いはところどころに木が生えていることかな。誰もいなさそうだけど、一応木の陰でやろう。」
一応モンスターは出るらしいので、武器はレンタルしてきた。
ちゃんと槍だ。
林さんがオススメしていたので借りますねと宣言してしまったのだ。
でもこれはパーフェクトコミュニケーションだった。
林さんはこれにニッコリ笑顔で返してくれた。
一応モンスターが出るというのは、奥の階層に進むほどモンスターは沢山出てくるので、2階層は一番出現率が低いという意味だ。
ほとんど出ない、探すのが大変といった感じらしい。
「あの木の影がよさそうだな」
ゲートから近い太めの木を選んで、『1階層のゲート』から見えない位置取りをする。
これで人が『1階層のゲート』から出てきても大丈夫だ。
周囲に人影もないことを確認。
大丈夫そうだな。
検証開始といこう。
右手を突き出して……。
「【ゲート】」
右手の前に空間の亀裂ができる。
発動したようだ。
ちなみにスキルの発動に発声は必要ない。
心の中で唱えるだけでもスキルは発動するらしい。
「ちょっと大きいか?」
出てきた『スキルのゲート』は長方形だ。
高さは2メートル、幅も1メートル。
菱形だった『ダンジョンゲート』や『2階層のゲート』と比べると面積で倍はありそうだ。
「ドアみたいだな……って固い。なんで?」
黒い表面部分を指で押してみるが、分厚いコンクリートの壁みたいな感触が返ってくる。
強めに押してもビクともしない。
この『スキルのゲート』の向こう側に何かあるのかな?
「あ、何もないのか!」
そりゃそうだ。
地上の『ダンジョンゲート』はダンジョンの『ダンジョンゲート』に繋がっている。
1階層にある『2階層のゲート』は2階層にある『1階層のゲート』にだ。
つまり今この『スキルのゲート』の先には何もない……どこにも繋がっていない、と言うわけだ。
「なるほど、なるほど。……で?どうしたらいいんだ?」
繋がっていないから効果を発揮しない。
「……なら繋げればいい、か?」
もう一個出るのか?
今出ている『スキルのゲート』の左側に今度は左手を出す。
「【ゲート】」
スキルの発動に発声は必要ない。(2回目)
先程と同じように空間の亀裂……というか長方形なので最早ドアの様なものが現れる。
2枚目のドア。
1枚目のドアも消えていない。
恐る恐る左手の指を新しくできた方の『スキルのゲート』に当てる。
スッと何の抵抗もなく抜ける。
「うおっ」
右の『スキルのゲート』から指が生えてきたのに驚く。
グニャグニャと指を動かしてみると、右の『スキルのゲート』から生えている指がグニャグニャと動く。
間違いなく自分の指だ。
「おおお、成功した」
左手をそのまま突っ込んで、頭も通してみる。
一瞬視界が暗くなるが、明るくなったと思えば視界が切り替わって右の『スキルのゲート』から頭を出している状態だ。
左の『スキルのゲート』に自分の下半身と頭以外の右半分が見える。
「なにこれ。コワッ」
今、自分の足を掴んだらどうなるのか?
この状態でスキルが解除されたらどうなるのか?
それを考えたらちょっと怖くなって『スキルのゲート』を完全に通り抜ける。
「フゥ……」
左の『スキルのゲート』から入って、右の『スキルのゲート』から出れた。
「これが俺の特殊スキルかー。……ゲートじゃん」
スキル欄に【ゲート】って書いてあったが本当に『ゲート』だった。
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