第3話 1日目・九竜雷乃
女の価値は横にいる男を見ればわかる、芸能界で誰かが言っていた。
つまりアタシのママは世界最高のママで、その夫ってことは世界最高のパパで、その娘のアタシは世界最高ってことになる。
だからアタシが成功するのは当然。一般人とは素のスペックが違う格が違う。スタートラインが違うし、努力の質も量も違うし、もちろん身につき方も違う。六年生にもなって三角形の面積も求められない雑魚と、IQ測定不能のアタシとでは同じホモ・サピエンスかも怪しいわ。
今日までにアタシが子役として稼いだ額は五億六千五百万円。一般人が一生どころか二生かけても稼げない額を、アタシはこの五年間で稼いできた。一年生のときに出たテレビドラマ『娘への手紙』で新人女優賞と助演女優賞を、二年生のときに出た映画『入道雲の下で』で主演女優賞を、三年生から出てる『翼学院』のCMを中心にCM女王、四年生から出てる深夜のバラエティ番組『出ルトコ行クトコ!?』にレギュラー出演、五年生からは冠番組のネットラジオもやっている。
そんなアタシに釣り合う男は中々芸能界にも見つからなかったけど今日運命的な出会いをしたわ。
高身長高学歴高戦闘力高ルックス高実家、貴方よ陰山先生! なのに……
「なのに、邪魔なのよ、北風さん?」
「あ、あの、わたしなにかしちゃいました?」
お前が陰山先生に色目使ったからだろうがこのクソ■■■がぁ!
ハッ! いけない、冷静に、そう冷静に。天才子役であるアタシだけれど、ガキ■■■にナメた口聞かれるのだけはプッツンしやすいのが唯一の欠点ね。
「別に、ただお話がしたいなと思って。」
「あの、それでなんで廃工場に……?」
「アタシのファンの持ってる不動産なの。ここなら邪魔が入らないでしょう?」
「あの、この鉄パイプとか金属バットとか持ったオジサンたちは……?」
「アタシのファンである雷乃親衛隊なの。これなら邪魔が入らないでしょう?」
「あの、なんで殺気立ってるんですか?」
なんでなんでうるせえんだよ■■■がぁ! テメエは赤ずきんちゃんかぁ!?
冷静にって思っても頭にくる。普通分かれよ、放課後にクラスメイトに呼び出されて、助け呼んでも誰も来ない所に武器持ったオッサンに囲まれてんだぞ。どんなに勘が悪くてもビビるだろうが!
しゃあねぇ、跡が残りやすくなるが、少し壊すか。
「ねぇみんな、紹介するわ。こちら北風さん。アタシのクラスに転校してきたんだ。ちょっと緊張してるみたいだからさ、『マッサージ』してあげて。」
「え、それは……」「さすがにまずいんじゃ……」「ノータッチで行きませんか雷乃様……」
はああああっ! 無能! グズ! ■■■! この状況作っておいて何怖気づいてんのよ! ちょっとトラウマ植え付けるぐらいどうってことないでしょこの■■■■予備軍どもが! 凶器持って集まってる時点でヤバイって気づけよ!
しかたない、こうなったらアタシが直接〆る。そのあとコイツらにもやらせて共犯にしてやるわ。
「そうね……ところで、北風さんって、格闘技をやってるって──」
隙ありっボケェ! 金的で■■■使いモンにならなくしてや──うぇ!?
アタシのキックが、太腿に挟まれて、ちょっとまさかコイツ。
「──聞いたんだけど、本当みたいね。すご〜い、格闘家みたいに止めたぁ〜……」
「ありがとうございます。もしかして、九竜さんも武術の心得が?」
「ええ、そうね、エクストリームマーシャルアーツを少し。」
コ、コイツ……! なんて太腿してんのよ。足が、全く動かない。コイツの筋肉、アスリートのを触ったときみたいな感触がする。柔らかいのに硬い。とっさに格闘家って言ったけど否定しないし、間違いない、格闘技やってる。
「あの……なにか気にさわったのなら謝ります。でも、わたしはこういうことはしたくないんです。修行も一人でやりたいんで、腕試しとかもえんりょしたいんです。」
そんな少年マンガみたいな動機で呼び出すわけ無いだろアンタ自分をマンガの主人公かなんかだと思ってんじゃない?
主人公はアタシ、この九竜雷乃! ク・リュ・ウ・ラ・イ・ノ! 身長132センチ、体重33キログラム、スリーサイズは上から70・49・69のBカップ。芸能界で空前絶後のプロポーションに百年に一度と言われるルックス、測定不能のIQと動画サイトの総再生数200万の歌唱力のこのアタシこそが主人公なのおいちょっと待て帰ろうとするな! まだアタシの回想シーンの途中だろうが!
あったまきた! その無防備な背中にスタンガン喰らわせたあたたたただ痛い!? 腕が、捻り上げられ、なにっ!?
「それはダメだろ。」
お前は……!
「鉄本……! くん……!」
「凶器は無しだ。」
「なんの話ぃ……? 見ての通り、ただの使い捨てカメラだけどぉ……?」
鉄本星龍、ヤクザの不登校児がなんで。いや、今はそれよりもスタンガンをごまかさないと。パット見はカメラに偽装してるけどバレたらアタシのキャリアに傷がつく。
「それより、この手、この手を離してくれないかしらぁ?」
「ああ、お前がコイツを殺す気を失くすならな。」
「なにか勘違いしてるみたいだけど、そんな怖いことする気ないよぉ。ねぇみんな?」
頷けボケ共。
よし、親衛隊なんだから少しぐらい役に立て。
とにかくこの状況はマズい。放課後に転校生を廃工場に連れ込んで大人と取り囲んでる上にスタンガンまで持ってるとか、バレたらヤバい。なんとかコイツを黙らせる、よし、まずは鉄本から〆る。
「そうか……なら、いい。コイツはオレが、殺す。」
「えっ。」
えっ。
「北風龍子……お前は、オレが殺す。」
「……九竜さん、どういうことでしょう?」
アタシに聞いてどうすんのよそんなこと。
なんなのコイツ、いやなんなのコイツら。頭格闘家に頭ヤクザとかありえないっつーの。
「邪魔するなよ。お前にもコイツを狙う理由があるんだろうが……手を出すなら先に潰す。」
「鉄本くん、どうして二人はわたしを狙うんですか?」
「……報酬目当てだ。お前をぶちのめせば景品が手に入る。」
「なるほど、だれかに頼まれたってことですね? さっきのは私を守ったんじゃなくて、九竜さんの邪魔をしたっていうことですか。」
「ああ。アイツが武器を使おうとしたから止めた。それはルールに反する。」
おいお前らアタシ抜きでドンドン話を進めんな。北風は〆たら景品が出るとかなんの話だよ。主人公を差し置いてストーリーを進めるんじゃねえ。
「……ずっと気になってました。東京に来てから殺気を感じることに。」
「「横浜な。」」
「すみません横浜に来てから殺気を感じることに。九竜さんたちが狙ってたってことですね。」
なんの話かついてけないど、ここは話を合わせておかないと主人公らしくないわね。それっぽいセリフ言っときましょう。
「アタシは狙っていないわ、アタシはね……」
「……どういうことです?」
「フフフ、さあ?」
どういうこともなにもわかんないわよ適当に意味深なこと言ってるだけだし。
「九竜……何を考えている?」
「アナタは自分がすべきことを考えたほうがいいんじゃないかしらぁ? アナタの敵は誰か、それはアナタもわかっているでしょう?」
「……」
あ、適当に喋ってたらなんか論破できた。コイツらの事情とかぜんぜんわかんないけど、なんかカッコよく締めれたしこのままハケましょう。
「気をつけたほうがいいわ。上はアナタたちが思っているよりも怖いところだから……」
そして背中を向けてクールに去る。
「今日は集まってくれてみんなありがとう。また遊びましょう?」
よし、解散、解散!
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