メスガキ編③

時には空を飛んだり、時にはカブトムシをしゃぶったり、岡を失った喪失感を抱えながらも、ただがむしゃらに歩みを進め、あれから無数の試練を受けてきた俺たちは心身ともにボロボロになっていた。

しかし、その全てを苦労し乗り越えてきた俺たちは、どこか満ち足りた顔つきになっていた。


そして、今、俺たちは開けた場所に家々が建ち並ぶ、メスガキの集落に辿り着いていた。

原始的な暮らしをしている彼女らを眺めると、ゼロ歳から百歳まで、様々な年代のメスガキがいるようだ。


「あっ❤︎人間だ❤︎」


「本当だ❤︎」


こちらに気付いたメスガキが一斉にこちらへ向かってくる。


「な、なんだ?」


身動きする暇もなく、俺たちはあっという間に無数のメスガキに囲まれてしまう。


「あはっ、またロリコンが釣られてきたんですけど❤︎」


「臓物引っこ抜いちゃう?❤︎引っこ抜いちゃう?❤︎」


メスガキらが密集し、濃く甘い臭いが鼻腔をつく。

ああ、このままでは。


「あ、ああ、エクスタスィーーー!」


「何事じゃ、おぬしら!」


「あっ、ロリババさま❤︎」


「ロリババさま❤︎ロリババさま❤︎」


俺がほぼイきかけたタイミングで、誰かの声が響く。

すると、周りにいたメスガキたちはロリババ様と口々に言いながら、誰かの元へと寄っていく。

そこには、着物を着た黒髪ぱっつんロングの少女がいた。



あれから、ロリババ様とやらに案内された俺たちはメスガキ集落の中で一際大きい家屋に招かれ、茶の間で話を聞いていた。


「ここは儂が所有する山でのう、始まりは、この山に一人のメスガキが迷い込んだことじゃった。現代はメスガキに厳しい時代じゃ。しかし、儂は人間社会で居場所を失った此奴らを見ておると、じっとしてはおれんかった。そして、メスガキたちが安心して暮らせる場所を作ったんじゃよ」


まるでメスガキが人間じゃないかのような話だ。


「で、あんたは何者なんだ?」


「それは秘密じゃ。で、おぬしらは何用でここに来たんじゃ?」


今まで空気だった田中さんが口を開く。


「あ、あの、ここでメスガキ病を治せるって聞いたんです。だから、私の友達を治してもらいたくて」


「ふむ、そうか。確かに、それを治す方法がここにはある。しかし、その前に一つ聞きたいのじゃが、おぬしがメスガキ病にかかった原因は何なんじゃ?」


「は?❤︎言いたくないんですけど❤︎」


「あ、あのっ、この子が好きな人に彼女ができちゃって、それでこうなったんです」


「ふむ、やはりそうか。いや、なに、ここ最近メスガキ病にかかってここに来るものが多くてな。まぁ、よい。それでは、早速向かうとするかのう」


「どこに?」


「わからせの間、にじゃ」



廊下を歩き辿り着いた先は、上部に注連縄が飾られた木製の両開きの扉が待ち構えていた。

そのいかにもな雰囲気に一行は固唾を飲む。


「準備はよいか?」


「いいですとも」


ロリババアが扉に手をかけると、鈍く低い音がし扉が開く。

そこは、灯篭の明かりだけが灯る薄暗い和室。

真ん中には机と座椅子がポツンと鎮座しており、そして、その右横には布団も用意されている。


「ここで、何をするって言うの」


「そうか。メスガキ、わからせる、そしてこの部屋の様相から導き出される答えは一つ!セッ―――」


「そうじゃ!進◯ゼミじゃ!」


「は?」


皆、間の抜けた顔でポカンとしている。


「なんじゃ、その顔は。ほれ、そこの机の上に教材があるじゃろ。あれを最後まで解いてもらうことによって、メスガキをわからせられるんじゃ」


わからせって、そういうことかよ。


「じゃあ、その布団は?」


「質の良いわからせには適度な休息が必要なんじゃ。強引にやってしまうと後遺症で人を小馬鹿にする部分が残ってしまうからのぅ」


なんじゃそりゃ。


「と言うわけで、ほら、元に戻りたいのならさっさとするのじゃ。しっかり時間をかけねば治らぬからな」


「あの、私、みくるちゃんと一緒にいてもいいですか?」


「なぜじゃ?」


「その、ただ、心配なんです」


ええ子やなぁ。


「別に助けなんて必要ないんですけど❤︎」


「そんなこと言わないで。邪魔はしないようにするから」


「ふむ、本来なら一人しか入れないのじゃが、仕方ないのぅ。今回だ特別に許可してやろう」


田中さんは何と友達想いなんだろうか。

まったく、俺の彼女に相応しいぜ。



そうして、二人をわからせの間に残した後、その隣の和室でだらだらと過ごすことになった俺たちは、何とも嬉しいおもてなしの饅頭とお茶をいただき、のほほんとした時間を過ごしていた。


「しかし、なんじゃのぅ、最近の若者はそんなに恋愛が上手くいっとらんのかのぅ」


「あっ、ちんちん取れちゃった」


「ふんっ、私の勝ちね」


「パパ、もう一回やろ?」


「おぬしら、少しは年寄りの話に付き合わんか!」


「そう言われても、恋愛弱者の俺たちには付き合えない話だし」


「かぁー!これだから最近の若者は、すぐに自分にレッテルを貼って諦めるんじゃから!よいか、人生とは守りに入ったらいかんのじゃ!傷つくことを怖れずに進まなければ何も手に入れることはできんのじゃ!よいか、男なら金玉じゃ―――」


遂に、年寄り特有の長い説教が始まってしまう。

標的は俺だけ、他の二人はこちらを無視し茶をすすりながら尿路結石について談笑してる。

あいつら、何気に仲が良いな。


「おい、真面目に聞かんか!」


しかし、そんな長話に付き合うつもりはない。

ここはおばあちゃんをなだめる作戦でいこう。


「おばあちゃん、もう寝る時間ですよ」


「おぉ、ん?そうじゃったかのぅ。でも、まだ飯を食っとらんでな」


「ご飯はおととい食べたでしょ。はい、はんぺん」


「おお、これはふかふかでええのぅ。それに、お腹が空いたら食べることもできるしのぅ」


「ほら、最近の若者も捨てたもんじゃないでしょ」


「そうじゃな。ん?これ、はんぺんじゃのうて死んだ爺さんのふんどしじゃないかのぅ。青春の香りがするんじゃが」


その時であった。


「助けて~❤︎」


緊張感のない気の抜けたメスガキの助けを求める声が部屋の向こうから聞こえてきた。


「これ、無視してもいい奴?」


「駄目に決まっておろう!きっと何かあったのじゃ!」


立ち上がりバタバタと走るロリババアに続き、俺たちも押さない駆けない騒がないの精神でついていく。

そして、扉を開けるとそこには、壁に追い詰められた涙目のメスガキと、その前に息を荒くした田中さんが立っていた。

勉強していたんじゃないかと机の上を見ると、そこには全身が火照りくしゃくしゃになった、絶頂の余韻に浸りビクンビクンする教材の姿があった。


「どうしたんだ」


「花子ちゃん、ちんちんが生えてる~❤︎」


「は?」


言葉の意味を理解するよりも早く、皆の視線は田中さんの股間へ。

生えてない、というより、ジャージを着ているため、見えるはずもない。


「い、今は収納してあるの❤︎」


「何を馬鹿な」


しかし、メスガキのこの怯えよう、到底嘘をついているとは思えない。


「ちーちゃん、田中さんに生えているかどうか確認してもらってもいいか?」


「な、なんで私がそんなこと!」


「もし生えていなかったら、俺の場合は犯罪になるだろ?」


「嫌に決まってるじゃない!私の可憐さにアレが暴発するかもしれないのに!」


「はぁ、もういいよ」


そんなやり取りをしていると、田中さんは観念したかのようにそう呟く。

しかし、その声は低く、まるで、いや、男性そのものの声質だった。


「お前……」


「バレてしまっては仕方がない。そうだよ、俺は男だよ」


「騙していたのか、いや、それよりもなぜ、こんなことを」


「俺はな、メスガキわからせ百連発をすることが夢だったんだ。いや、夢というよりも、もうそれでしか興奮できない体になったんだ。理由か?気になるみたいだな。そう、あれは三年前の、雪が降りしきる凍てついた夜の事だった」


「いや、興味ないです」


「回想カットビィーム!!」


「―――だから、俺は恋する女をメスガキに変え、百人メスガキができるまで山で寂しく暮らしていたロリババアに送り込んでいたんだ。そして、海野みくる、お前でようやく数がそろったというのに」


なんてことだ。

俺たちはまんまとコイツの手のひらで踊らされていたのだ。

そして何より、またしても、ことごとく、普通の女の子とラブコメをする俺の計画はぶち壊されたのだ。


「……しかし、失態だったな。メスガキ山の試練を乗り越えるためにお前らに助けを求めたんだが、ここで邪魔をしてくるとは」


田中のターゲットがメスガキからこちらへ。

おそらくは邪魔者を排除してから、ゆっくりとわからせを楽しむつもりなのだろう。

もう、どうでもいいから早く終わらせたい。


「四対一だぞ。諦めるんだな」


「こう見えても俺は特殊部隊メロンパンの出身なんだぞ。小娘数人にひ弱な男ぐらい、問題にすらならないね」


訳のわからないことを言いやがって。

その時、俺の中の理性の糸がプツンと切れた。


「もう男でもいいや」


「おい、聞いているのか?死にたくなかったら、ってオイ!」


彼に近づき、攻撃をかわしながら両腕を掴み足を引っかけ強引に押し倒す。


「お、おいっ、やめろ!何を考えている!俺は男なんだぞ!」


「うるせぇ!男だって女として扱えばメスになるんだよ!!」


しかし、そこで初めて気づく衝撃の事実。


「お前これ、ジャージじゃなくてボディペイントじゃねか!もう我慢ならねぇ、この変態野郎が、くらえ!獅子炎牙・我王拳ッ!!」


「ぐわぁーーーーーー!!」


俺の炎の牙を纏った拳を田中の顔面にぶち込むと、彼はぴくりとも動かなくなった。


―――これにて一件落着。

田中は愛護動物虐待の罪で逮捕され、メスガキたちもロリババアのおかげで快方に向かっているようだ。

こうして、MNK部における二回目の依頼もなんとか解決したのであった。


この件で、俺が海野みくるに惚れられたのはまた、別のお話。

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