メスガキ編②
さて、気を取り直して歩みを進める一行であったが、早速、怪しげなものを発見する。
変哲のない山道に木製の立て札があり、そこには第一の試練と記載してある。
そして、そのすぐ傍には上半身だけのマネキンが設置してあった。
「これは、メスガキ囁きASMR!」
「知っているのか、真白」
「うむ。あのダミーヘッドの耳元で囁き全国の引きこもりを絶頂させなければ、どこかのASMR系ユーチューバーから抽選で一人が絶命するという狂気の試練!」
なんて、はた迷惑な話なんだ。
「あはっ❤︎こんな試練、ちょう余裕なんですけど~❤︎」
我こそはと海野みくるが前に出て、ダミーヘッドの横に近づく。
そして。
「楽〇カァードマァァァン!!」
「あっ、ごめん❤︎CMはいっちゃった❤︎」
メスガキが口を開いたと思えばどこからともなく爆音で鳴り響く某CM。
全国の引きこもりは心臓マヒを起こし死んでしまった。
「ま、ある意味、絶頂だよね❤︎」
「まったくもう、これだから。いいわ、私が手本を見せてあげる!古から代々伝わる最強ヒロインのツンデレが、ポッと出のメスガキなんぞには負けないってところを見せてやるわよ!」
今度は野薔薇さんが前に出るも、嫌な予感しかしない。
「うっふ〜ん、あっは〜ん、いやん、ソコはさわっちゃや〜ん。あぁん、あぁん、せくし〜」
くねくねしながら呪詛を唱える野薔薇さん。
後日、これは何のつもりだったのか尋ねたところ、ASMRなんてエロいことを言っておけばいいでしょ、との答えが返ってくるのでした。
*
「なにあれ?」
気を取り直して山道を進み、少しだけ開けた場所に到着した時。
この山にいるのは俺たちだけだと思っていたが、そこには見知らぬ人々の群れができており、彼らは拳を突き上げ何かを応援している。
その集団から少し離れた場所には先ほどと同じように立札があり、目を凝らすとそこには第二の試練と書いてあった。
「ここが次の試練みたいだな」
「なにしてんの、あれ」
「見に行ってみるか」
近づくと、人々は円を囲むように並んでいたため、強引にすいませんと言いながら割り込む。
そして、視線を円の中央に向けると、なんとそこにあったものは、二匹の鮭が交尾している姿だった。
「頑張れ!その腰振りで世界の理を覆すんだ!」
「前人未到の新しい未来はすぐそこだ!」
皆が思い思いに声を上げる中、鮭の横にもう一つの立て札があり、それを見ると鮭の子作りを応援しようと書いてある。
思わず、俺の口から常識が溢れる。
「いや、魚なんだから交尾で子供はできないだろ」
その瞬間、水を打ったように皆の声援は途絶え、腰を振るのをやめた鮭がこちらに視線をよこす。
そして、鮭が喋った。
「よくも、よくもそんなことが言えたものだな、ヒューマン!俺たちだって、冷たい水の中でぶっかけ卵をするよりなぁ、肌を重ねて愛を紡ぎたいんだ!性の悦びを知りたいんだ!この熱い想いが、お前にはわからないのか!」
その鮭の言葉を受け、俺の頭に稲妻が走る。
そうだ、何を常識を語っていたんだ、俺は。
世の中を変え未来を切り拓くのは、いつだって前例のない型破りな行動だったはずじゃないか。
「悪い、俺が間違っていたよ。本当に悪かった。お前たちのその輝かしい姿に、嫉妬していたのかもしれない。……こんな俺でも、お前らを応援してもいいかな」
「……こいよ」
「ああ!」
俺も群衆に混ざり、腰振りを再開した二匹に向け声を張り上げる。
「「「こ・う・び!!こ・う・び!!ガンボレこうび!!ぬっぽし!!」」
「かぁ〜!これが産みの苦しみってやつかい!?」
今まで、こんな一体感を感じることがあっただろうか。
種族を越えたコミュニケーション、まさに今ここが世界の中心だ。
「って、なんで童貞の俺が鮭の交尾なんて応援してんだ!!」
「だぁ〜りぃん、準備できたよ〜」
「私が用意したんだから、感謝しなさいよね!」
離れた所で我関せずと焚き火をしていた岡たちの呼びかけに正気を取り戻し、群衆から抜け出て彼女らの元へと戻る。
そして、そこには野菜が入った鍋が設置されていた。
あ、そろそろ昼食の時間か。
*
「ふぅ〜、食った食った」
腹ごしらえを済ませた俺たちは再び歩みを進める
初めて食べたが、石狩鍋とは美味いものだな。
そして、次から次へと厄介なことだが、第三の試練が現れる。
今までの経験により、ここは先に立て札に注目したいところだが、それよりも目の前にいる人物に視線が引き寄せられてしまう。
左から、四つん這いのおっさんに座る女子小学生、ピンポンダッシュの素振りの練習をする子供、見るだけで腹が空く白くツヤツヤし丸みを帯びた牡蠣、上半身裸の老婆が並んでいるのだ。
「これで、何をしろっていうんだ」
「パパ、ここに解答欄があるよ」
真白の指差す先、立て札にメスガキクイズと書いてあり、解答欄が用意されている。
「なぁんだ❤︎こんなの簡単じゃない❤︎子供騙しも大概にしろっつーの❤︎」
「パパ、左からメスガキ、クソガキ、ナマガキ、干し柿、だね」
真白がそう言うからには間違いないのだろう。
しかし、こんな簡単な問題を試練にするだろうか、と言う違和感は拭えない。
だが、他に答えも思いつかないため、立て札にぶら下がった紐付きのペンを手にし、ペン先が解答欄に触れた瞬間。
―――脳内に鋭い閃き。
「ちょっと待てよ」
「どうしたの?」
「岡、上着を脱げ」
「ダダダダダ、ダーリン!?な、何を言ってるの!?そりゃ思春期の男子なんてお猿さんみたいなものだけど、まさかこんな、野外プレイなんて!」
「いいから、その上のジャージを脱げと言っているんだ」
「やだ、男らし。ああ、まさか、こんなところで花を散らすことになるなんて。でも、ようやく私の願いが叶うのね。あっ、勝負下着にすればよかったな」
岡から脱ぎたての上のジャージを預かる。
彼女が下に着ていたシャツにうんこの絵柄がついていることには突っ込まないでおこう。
「ちょっと❤︎ナニするつもりなの❤︎」
「よく考えたら、試練という割に随分と簡単な問題だと思わないか?そう、これは単純なものじゃない。思い返せば、ここに来るまでいくつもヒントが転がっていたんだ」
そう言いながら、上半身裸の老婆に近づく。
「ひゃ、ひゃだ、ワタシを襲う気でひょう、エロ同人みたいに」
ババァが何やら呟いているが気にしない。
「そう、俺が出した答えはこれだ!」
俺は、岡のジャージを老婆に着せた。
「お年寄りは、大事にな」
しかし、どこからかブッブーという不正解音が鳴り響く。
そして、老婆が鬼の形相で怒り出す。
「アンタ、まだちょっとしか生きていない乳飲子のくせに、人生の大先輩に余計な気を使うんじゃないよ!!」
「お、おい、俺は親切心でな」
「それなら、人肌で暖めんかい!こんな布切れを着せて良い気になるんじゃないよ!人様の気持ちも推し量らずに自分だけが気持ちよくなる、そんなクソガキは殺してやる!」
どこからともなく人の身長ほどもある包丁を取り出す老婆。
ああ、俺の人生はこんなところで終わるのか。
「死にさらせーーー!!」
「二トントラックじゃーーー!!」
「ウギャーーー!!」
これまた、どこからともなく現れた岡が運転するトラックに衝突したババアが爆発四散する。
そして、平和は訪れ、トラックから降りた岡が一言。
「ダーリンのことは、私が守るから」
髪をファサッとかき上げポーズを決める岡。
しかし、その隣にはポリスメンがいた。
「はい、無免許運転と殺人の容疑で現行犯逮捕ね」
「そんなプレイは望んでないんですけど」
国家権力には逆らえない。
「ダーリン、面会、よろしくね」
「ああ。必ず会いに行くよ」
そのまま、パトカーに乗せられた岡は遠くに消えていった。
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