メスガキ編①

「なんだって?」


先日のMNK部の活躍により青葉学園に受け入れられた俺たちの元には、生徒らのお悩みがじゃんじゃん舞い込んできていた。

なんてことはなく、より孤立し白い目で見られるようになってしまったため、活動を進めることが難しくなっていた。

そんな矢先、我が部室に二人組の人物が訪れていた。

これまた、厄介そうな生徒が。


「今、巷で実しやかに囁かれてる噂があるでしょ?」


「噂?」


「知らない?メスガキ病の話」


すると、短い黒髪の両端をサクランボのヘアゴムで縛り女児服を着た生徒?がグイッと前に出る。


「ププッ。おにいさんってば、何にも知らないんだ❤︎アタマヨワヨワなのかな❤︎それとも、童貞なのかな~❤︎」


「それは関係ないだろ!」


「ムキになってる~❤︎図星だったのかな~❤︎」


「ええい!一々ハートをばらまくな、うっとおしい!」


「おにいさんってば、愛をばらまくことが世界平和の第一歩だってこと、知らないんだ~❤︎ざぁこ❤︎ざぁこ❤︎」


「岡、後は頼んだ」


傍にいた岡をぐいと引っ張り、メスガキの前に立たせる。


「ダーリン、面倒なことを押し付けないでよ!」


「頼む、俺はもう、この世界に疲れたんだ」


「ありゃりゃ、そりゃしょうがないわねぇ。よしっ!メスガキ、私が相手だ!」


「あっ❤︎おねえさんのこと知ってる〜❤︎頭がおかしい人でしょ〜❤︎それでメインヒロインやるには無理があるんじゃない?❤︎」


「殺してやる!!」


予想通り、激しい言い合いを始める二人。

さて、メスガキのターゲットが岡に移ったところで。


「しかし、メスガキ病なんて本気で言っているのか?」


「メスガキ病、それは恋の病から発展した病気である」


「知っているのか、真白」


「うむ」


メスガキを連れてきた彼女に語り掛けたつもりだが、某世紀末覇者のように濃い顔をした真白が物知り顔で語りだす。


「メスガキ病、それは素直になれない女子の恋心が変質して発症する病気である。詳しい原因は解明されていないが、女児服を身に纏い言葉の語尾にハートをつけ人を小馬鹿にするように性格が書き換わる恐ろしい難病だ」


「なるほどねぇ、そいつは大変だ」


岡と出会った時から、俺は常識が通用しない世界に迷い込んでしまったのだろう。

そうじゃなければ説明がつかないことばかりだ。


「ちょ、ちょっと、皆、落ち着いて!今から私たちがここに来た事情を話すから!」


「あはっ❤︎こんな小さな女の子にペースを乱されるなんて、大人なのに恥ずかしいんだ~❤︎」


「同い年でしょーが!」


「はいはい、それで、その事情とは?」


「う、うん。あ、まずは自己紹介から始めるね。まず、私の名前は田中花子で、問題のこの子が海野みくるっていうの。私たちは二年生だから、皆とは同級生だね。で、みくるちゃんがこうなった理由は、この子の幼馴染が原因なの」


「幼馴染?」


「うん。みくるちゃん、ずっと、その幼馴染に恋心を寄せていたんだけど―――」


「はぁ?❤︎あんなナヨチン、好きになるわけないんですけど~❤︎」


「で、でね、長年片思いが続いたけど、遂にその幼馴染に彼女ができちゃったの。それで、ショックのあまりに寝込んだ後、こうなっちゃった」


こうなっちゃったって。


「無理を言っているのはわかってるけど、お願い!どうにかしてこの子を元に戻したいの!」


中々に難易度が高そうな依頼。

それに、これが病気だとするなら素人が手を出さずに医者にでも任せておいた方がいいだろう。

しかし、片割れの女の子は随分と普通じゃないか。見た目も黒髪ショートヘアに顔も特に特徴がない、いわゆるモブ顔だ。

今の俺にとっては狙い目、これはお近づきになるチャンスか?


「わかった、俺が力になろう」


「あっ、ダーリンってば、また手頃そうな女を見つけたからってイイ顔しようとして!そうはさせないわ!」


「ええい、俺を邪魔するならキスするぞ!」


「すればいいじゃない!」


そしてキス顔で待機する岡。

おかしい、こう言えばコイツは照れて引っ込むはずだったのに。

……いいのか、本当にキスするぞ


「よし、むちゅ〜」


俺は目を瞑り唇を尖らせ岡の顔に目掛けて前進する。

そして、ついに唇が触れた。


あれ、女の子の唇って随分と硬いんだな。

それに、ちょっとガサガサしてるし熱も感じない。

まぁ、現実はこんなものなのかもしれない。


「で、病気って言うくらいなら、もう病院には行ったの?」


「それが、病院に行こうって言うと、激しく抵抗されちゃって」


「だってぇ〜、病院って薬漬けにされてエッチなことをされちゃう場所でしょ〜❤︎やだやだ❤︎キメセクなんてしたくないんですけど❤︎」


背後から聞こえる会話。

目を開けると、そこには壁があった。

もういいや、このまま壁とイチャイチャしよう。


人差し指で壁の敏感な部分に触れる。

心なしか、壁の木目が頬を赤らめたように見える。


「ほら、遠慮しないで。気持ちいいトコを言ってごらん。……うん、そうか。でも、そこはいじめてあげない」


「何をやっているのかしら」


「気にしたら負けでしょ。で、病院がダメなら、他にあてはあるの?」


「それなら、メスガキの森に行くしかないだろう」


「あ、電波ちゃん」


さて、俺抜きで話が進んでいるようだが、どうするべきか。

主人公抜きの物語なんて

恥を忍んで俺も加わるか。


『ふ〜ん、私より、あんな奴らを選ぶんだ』


身体の向きを皆の方へ変えようとした途端、すぐそばで声が聞こえた。


「って、おいおい、なに嫉妬してんだよ。心配しなくても、俺の一番はお前だけだよ」


仕方ない、彼女の機嫌を損ねたら建物が崩壊するかもしれないからな。

皆のためにも、ここは壁と思う存分楽しもう。


―――そして、彼女とひとしきりイチャイチャした後、振り返ると部室には誰一人として残っていなかった。



休日、俺はこの町唯一の駅、青葉駅のバス停前に佇んでいた。

あの後、寂しく帰宅した俺の元に岡から一通の連絡があり、そこには『動きやすい服装で青葉駅前に集合』と簡潔なメッセージが送られてきた。

それ以上のことは聞かされておらず、おそらくはあのメスガキを元に戻すために何かをするのだろうが、しかし。

あの時の彼女らの会話を思い出すと頭に浮かぶ、メスガキの森という強烈な単語。

嫌な予感しかしない。

前向きに、皆の私服姿が見れるのなら悪くはない、と考えようとしても、これから先に待ち受ける恐ろしい現実が、そんな青少年の淡いピンクの心を打ち砕く。


「だぁーりぃーん!」


その聞き馴染んだ大声に顔を上げると、なんと、そこには学園指定の赤ジャージに身を包んだ集団がこちらへ来ていた。

岡、野薔薇さん、真白に田中さんとメスガキの五人。

よく見ると、メスガキのジャージには無駄にフリルが施されており、その異様な集団は周囲の注目を集めている。

あれでは、シャツに長ズボン姿の俺が余計に目立ってしまう。

こっちに来ないでほしい。


「ちょっと、奥さん、あれ、この前のテレビに出てた」


「ああ、あの学園の。えんがちょ、えんがちょ」


近くの主婦も陰口を叩く始末。

このまま逃げてしまおうか、なんて考えるも、彼女らはこちらに到着してしまった。


「おはよ、ダーリン」


「おはようごぜーます。あの二人は来ていないのか」


「淫魔は出稼ぎに、関西弁はお笑い修行の旅に出たわ」


俺も、適当な理由をつけて欠席すればよかったな。


「で、これからどうするんだ?」

 

「メスガキの森に行くのよ」


「一体なんなんだ、それは」


「メスガキの森、それは社会で居場所を失ったメスガキたちが訪れ身を寄せ合う場所と聞く」


昨日からずっと濃い顔をしている真白が語り出すも、その物言いはまるで人間ではない生き物の話をしているようだ。


「まさか、コイツもそこに捨てていくって話じゃないだろうな」


「いや、メスガキの森に行ったメスガキが正常になって帰ってきたとの噂も聞いている。それが無理でも、メスガキの生態を知るいい機会だ。行ってみる価値は十分あるだろう」


「なんじゃそりゃ」


そんな馬鹿げた話をしていると、バスが到着する。


「ま、詳しい話はバスに乗ってからにしましょ」


そう言い、岡がバスに一番に乗り込む。

どうしてこいつはこんなに乗り気なのだろうか。


「おにいさん、なにぼさっとしてんの❤︎はやくイけ、イっちゃえ❤︎」


メスガキに急かされ、俺も乗車する。


その時、俺は気づくべきだったのだ。

こんな休みの日だというのに、目の前のバスに乗車する人が俺たちしかいなかったことに。



目的地へ到着しバスから降車すると、目の前には巨大な山が聳え立っていた。

この山の名前は禿山というらしい。

一説では山の中から、頭スカスカ❤︎、髪の毛ぺったんこ❤︎、このハゲェー!!といった声が四六時中響くため、この名がつけられたと謂れている。


そして、この山の中腹にメスガキたちが暮らす場所があるのだという。


「さあ、気を引き締めていくわよ」


そして、いよいよ山道に足を踏み入れる一行。

すると。


「待てい、ダーリン隊員!そんな恰好で来るなんてふざけているのかね!」


「な、何だよ急に」


いざ出発せんと隊員たちが心意気を改めたところ、岡隊長の怒声が響きわたる!


「あの伝説の生き物、メスガキングを捕獲しようというのに、命知らずにもほどがある!大体、山に入るというのにTシャツ姿とは!ほら、これをやるから身につけるんだ」


岡隊長の手に握られていたのは迷彩柄のベレー帽とレザーの指抜きグローブだった!

これが渡されるということは、隊員に対する最大限の信頼の表れである!


「おい!今回はマジでこのノリでいくのかよ!」


「何をおかしなことを言っているのだ!死にたいのか!」


これはメスガキの森の怪しい妖気の仕業なのか、正気を失ってしまったダーリン隊員!

早速、MNK部探検隊に内部崩壊の危機が訪れる!

さあ、岡隊長はどんな行動に出るのか!


「ダーリン隊員!!」


言葉などいらない、私たちには必要なのは心と心のぶつかり合いだと言わんばかりの、岡隊長の強烈なハグ!


「ぐわぁあああああああ!」


「あれは、断骨砕筋抱擁拳!!まさか、この時代にこれほどの使い手がいたとは……」


「こ、こんなの、ハレンチ!ハレンチよ!」


「さっさとして欲しいんですけど❤︎」


さあ、隊員たちとの絆も深まったところで、冒険の序曲の始まりである!

MNK部探検隊を待ち受けるものは一体何なのか、心して刮目せよ!

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