メスガキ編

「なんだって?」


先日のMNK部の活躍により青葉学園に受け入れられた俺たちの元には、生徒らのお悩みがじゃんじゃん舞い込んできていた。

なんてことはなく、より孤立し白い目で見られるようになってしまったため、活動を進めることが難しくなっていた。

そんな矢先、我が部室に二人組の人物が訪れていた。

これまた、厄介そうな生徒が。


「今、巷で実しやかに囁かれてる噂があるでしょ?」


「噂?」


「知らない?メスガキ病の話」


すると、短い黒髪の両端をサクランボのヘアゴムで縛り女児服を着た生徒?がグイッと前に出る。


「ププッ。おにいさんってば、何にも知らないんだ❤︎アタマヨワヨワなのかな❤︎それとも、童貞なのかな~❤︎」


「それは関係ないだろ!」


「ムキになってる~❤︎図星だったのかな~❤︎」


「ええい!一々ハートをばらまくな、うっとおしい!」


「おにいさんってば、愛をばらまくことが世界平和の第一歩だってこと、知らないんだ~❤︎ざぁこ❤︎ざぁこ❤︎」


「岡、後は頼んだ」


傍にいた岡をぐいと引っ張り、メスガキの前に立たせる。


「ダーリン、面倒なことを押し付けないでよ!」


「頼む、俺はもう、この世界に疲れたんだ」


「ありゃりゃ、そりゃしょうがないわねぇ。よしっ!メスガキ、私が相手だ!」


「あっ❤︎おねえさんのこと知ってる〜❤︎頭がおかしい人でしょ〜❤︎それでメインヒロインやるには無理があるんじゃない?❤︎」


「殺してやる!!」


予想通り、激しい言い合いを始める二人。

さて、メスガキのターゲットが岡に移ったところで。


「しかし、メスガキ病なんて本気で言っているのか?」


「メスガキ病、それは恋の病から発展した病気である」


「知っているのか、真白」


「うむ」


メスガキを連れてきた彼女に語り掛けたつもりだが、某世紀末覇者のように濃い顔をした真白が物知り顔で語りだす。


「メスガキ病、それは素直になれない女子の恋心が変質して発症する病気である。詳しい原因は解明されていないが、女児服を身に纏い言葉の語尾にハートをつけ人を小馬鹿にするように性格が書き換わる恐ろしい難病だ」


「なるほどねぇ、そいつは大変だ」


岡と出会った時から、俺は常識が通用しない世界に迷い込んでしまったのだろう。

そうでなければ説明がつかないことばかりだ。


「ちょ、ちょっと、皆、落ち着いて!今から私たちがここに来た事情を話すから!」


「あはっ❤︎こんな小さな女の子にペースを乱されるなんて、大人なのに恥ずかしいんだ~❤︎」


「同い年でしょーが!」


「はいはい、それで、その事情とは?」


「う、うん。あ、まずは自己紹介から始めるね。まず、私の名前は田中花子で、問題のこの子が海野みくるっていうの。私たちは二年生だから、皆とは同級生だね。で、みくるちゃんがこうなった理由は、この子の幼馴染が原因なの」


「幼馴染?」


「うん。みくるちゃん、ずっと、その幼馴染に恋心を寄せていたんだけど――」


「はぁ?❤︎あんなナヨチン、好きになるわけないんですけど~❤︎」


「で、でね、長年片思いが続いたけど、遂にその幼馴染に別の彼女ができちゃったの。それで、ショックのあまりに寝込んだ後、こうなっちゃった」


こうなっちゃったって。


「無理を言っているのはわかってるけど、お願い!どうにかしてこの子を元に戻したいの!」


中々に難易度が高そうな依頼。

それに、これが病気だとするなら素人が手を出さずに医者にでも任せておいた方がいいだろう。

しかし、片割れの女の子は随分と普通じゃないか。

見た目も黒髪ショートヘアに顔も特に特徴がない、いわゆるモブ顔だ。

今の俺にとっては狙い目、これはお近づきになるチャンスか?


「わかった、俺が力になろう」


「あっ、ダーリンってば、また手頃そうな女を見つけたからってイイ顔しようとして!そうはさせないわ!」


「ええい、俺を邪魔するならキスするぞ!」


「すればいいじゃない!」


そしてキス顔で待機する岡。

おかしい、こう言えばコイツは照れて引っ込むはずだったのに。

……いいのか、本当にキスするぞ


「よし、むちゅ〜」


俺は目を瞑り唇を尖らせ岡の顔に目掛けて前進する。

そして、ついに唇が触れた。


あれ、女の子の唇って随分と硬いんだな。

それに、ちょっとガサガサしてるし熱も感じない。

まぁ、現実はこんなものなのかもしれない。


「で、病気って言うくらいなら、もう病院には行ったの?」


「それが、病院に行こうって言うと、激しく抵抗されちゃって」


「だってぇ〜、病院って薬漬けにされてエッチなことをされちゃう場所でしょ〜❤︎やだやだ❤︎キメセクなんてしたくないんですけど❤︎」


背後から聞こえる会話。

目を開けると、そこには壁があった。

もういいや、このまま壁とイチャイチャしよう。


人差し指で壁の敏感な部分に触れる。

心なしか、壁の木目が頬を赤らめたように見える。


「ほら、遠慮しないで。気持ちいいトコを言ってごらん。……うん、そうか。でも、そこはいじめてあげない」


「何をやっているのかしら」


「気にしたら負けでしょ。で、病院がダメなら、他にあてはあるの?」


「それなら、メスガキの森に行くしかないだろう」


「あ、電波ちゃん」


さて、俺抜きで話が進んでいるようだが、どうするべきか。

恥を忍んで俺も加わるか。


『ふ〜ん、私より、あんな奴らを選ぶんだ』


身体の向きを皆の方へ変えようとした途端、すぐそばで声が聞こえた。


「って、おいおい、なに嫉妬してんだよ。心配しなくても、俺の一番はお前だけだよ」


仕方ない、彼女の機嫌を損ねたら建物が崩壊するかもしれないからな。

皆のためにも、ここは壁と思う存分楽しもう。


――そして、彼女とひとしきりイチャイチャした後、振り返ると部室には誰一人として残っていなかった。



休日、俺はこの町唯一の駅、青葉駅のバス停前に佇んでいた。

あの後、寂しく帰宅した俺の元に岡から一通の連絡があり、そこには『動きやすい服装で青葉駅前に集合』と簡潔なメッセージが送られてきた。

それ以上のことは聞かされておらず、おそらくはあのメスガキを元に戻すために何かをするのだろうが、しかし。

あの時の彼女らの会話を思い出すと頭に浮かぶ、メスガキの森という強烈な単語。

嫌な予感しかしない。

前向きに皆の私服姿が見れるのなら悪くはない、と考えようとしても、これから先に待ち受ける恐ろしい現実が、そんな青少年の淡いピンクの心を打ち砕く。


「だぁーりぃーん!」


その聞き馴染んだ大声に顔を上げると、なんと、そこには学園指定の赤ジャージに身を包んだ集団がこちらへ来ていた。

岡、野薔薇さん、真白に田中さんとメスガキの五人。

よく見るとメスガキのジャージには無駄にフリルが施されており、その異様な集団は周囲の注目を集めている。

あれでは、シャツに長ズボン姿の俺が余計に目立ってしまう。

こっちに来ないでほしい。


「ちょっと、奥さん、あれ、この前のテレビに出てた」


「ああ、あの学園の。えんがちょ、えんがちょ」


近くの主婦も陰口を叩く始末。

このまま逃げてしまおうか、なんて考えるも、彼女らはこちらに到着してしまった。


「おはよ、ダーリン」


「おはようごぜーます。あの二人は来ていないのか」


「淫魔は出稼ぎに、関西弁はお笑い修行の旅に出たわ」


俺も、適当な理由をつけて欠席すればよかったな。


「で、これからどうするんだ?」

 

「メスガキの森に行くのよ」


「一体なんなんだ、それは」


「メスガキの森、それは社会で居場所を失ったメスガキたちが訪れ身を寄せ合う場所と聞く」


昨日からずっと濃い顔をしている真白が語り出すも、その物言いはまるで人間ではない生き物の話をしているようだ。


「まさか、コイツもそこに捨てていくって話じゃないだろうな」


「いや、メスガキの森に行ったメスガキが正常になって帰ってきたとの噂も聞いている。それが無理でも、メスガキの生態を知るいい機会だ。行ってみる価値は十分あるだろう」


「なんじゃそりゃ」


そんな馬鹿げた話をしているとバスが到着する。


「ま、詳しい話はバスに乗ってからにしましょ」


そう言い、岡がバスに一番に乗り込む。

どうしてこいつはこんなに乗り気なのだろうか。


「おにいさん、なにぼさっとしてんの❤︎はやくイけ、イっちゃえ❤︎」


メスガキに急かされ俺も乗車する。


その時、俺は気づくべきだったのだ。

こんな休みの日だというのに、目の前のバスに乗車する人が俺たちしかいなかったことに。



目的地へ到着しバスから降車すると、目の前には巨大な山が聳え立っていた。

この山の名前は禿山というらしい。

一説では山の中から、頭スカスカ❤︎、髪の毛ぺったんこ❤︎、このハゲェー!!といった声が四六時中響くため、この名がつけられたと謂れている。


そして、この山の中腹にメスガキたちが暮らす場所があるのだという。


「さあ、気を引き締めていくわよ」


そして、いよいよ山道に足を踏み入れる一行。

すると。


「待てい、ダーリン隊員!そんな恰好で来るなんてふざけているのかね!」


「な、何だよ急に」


いざ出発せんと隊員たちが心意気を改めたところ、岡隊長の怒声が響きわたる!


「あの伝説の生き物、メスガキングを捕獲しようというのに、命知らずにもほどがある!大体、山に入るというのにTシャツ姿とは!ほら、これをやるから身につけるんだ」


岡隊長の手に握られていたのは迷彩柄のベレー帽とレザーの指抜きグローブだった!

これが渡されるということは、隊員に対する最大限の信頼の表れである!


「おい!今回はマジでこのノリでいくのかよ!」


「何をおかしなことを言っているのだ!死にたいのか!」


これはメスガキの森の怪しい妖気の仕業なのか、正気を失ってしまったダーリン隊員!

早速、MNK部探検隊に内部崩壊の危機が訪れる!

さあ、岡隊長はどんな行動に出るのか!


「ダーリン隊員!!」


言葉などいらない、私たちには必要なのは心と心のぶつかり合いだと言わんばかりの、岡隊長の強烈なハグ!


「ぐわぁあああああああ!」


「あれは、断骨砕筋抱擁拳!!まさか、この時代にこれほどの使い手がいたとは……」


「こ、こんなの、ハレンチ!ハレンチよ!」


「さっさとして欲しいんですけど❤︎」


さあ、隊員たちとの絆も深まったところで、冒険の序曲の始まりである!

MNK部探検隊を待ち受けるものは一体何なのか、心して刮目せよ!



さて、気を取り直して歩みを進める一行であったが、早速、怪しげなものを発見する。

変哲のない山道に木製の立て札があり、そこには第一の試練と記載してある。

そして、そのすぐ傍には上半身だけのマネキンが設置してあった。


「これは、メスガキ囁きASMR!」


「知っているのか、真白」


「うむ。動画配信サイトに接続されている、あのダミーヘッドの耳元で囁き全国の引きこもりを絶頂させなければ、どこかのASMR系ユーチューバーから抽選で一人が絶命するという狂気の試練!」


なんて、はた迷惑な話なんだ。


「あはっ❤︎こんな試練、ちょう余裕なんですけど~❤︎」


我こそはと海野みくるが前に出て、ダミーヘッドの横に近づく。

そして。


「楽〇カァードマァァァン!!」


「あっ、ごめん❤︎CMはいっちゃった❤︎」


メスガキが口を開いたと思えばどこからともなく爆音で鳴り響く某CM。

全国の引きこもりは心臓マヒを起こし死んでしまった。


「ま、ある意味、絶頂だよね❤︎」


「まったくもう、これだから。いいわ、私が手本を見せてあげる!古から代々伝わる最強ヒロインのツンデレが、ポッと出のメスガキなんぞには負けないってところを見せてやるわよ!」


今度は野薔薇さんが前に出るも、嫌な予感しかしない。


「うっふ〜ん、あっは〜ん、いやん、ソコはさわっちゃや〜ん。あぁん、あぁん、せくし〜」


くねくねしながら呪詛を唱える野薔薇さん。

後日、これは何のつもりだったのか尋ねたところ、ASMRなんてエロいことを言っておけばいいでしょ、との答えが返ってくるのでした。



「なにあれ?」


気を取り直して山道を進み、少しだけ開けた場所に到着した時。

この山にいるのは俺たちだけだと思っていたが、そこには見知らぬ人々の群れができており、彼らは拳を突き上げ何かを応援している。


その集団から少し離れた場所には先ほどと同じように立札があり、目を凝らすとそこには第二の試練と書いてあった。


「ここが次の試練みたいだな」


「なにしてんの、あれ」


「見に行ってみるか」


近づくと人々は円を囲むように並んでいたため、強引にすいませんと言いながら割り込む。

そして、視線を円の中央に向けると、なんとそこにあったものは、二匹の鮭が交尾している姿だった。


「頑張れ!その腰振りで世界の理を覆すんだ!」


「前人未到の新しい未来はすぐそこだ!」


皆が思い思いに声を上げる中、鮭の横にもう一つの立て札があり、それを見ると鮭の子作りを応援しようと書いてある。

思わず、俺の口から常識が溢れる。


「いや、魚なんだから交尾で子供はできないだろ」


その瞬間、水を打ったように皆の声援は途絶え、腰を振るのをやめた鮭がこちらに視線をよこす。

そして、鮭が喋った。


「よくも、よくもそんなことが言えたものだな、ヒューマン!俺たちだって、冷たい水の中でぶっかけ卵をするよりなぁ、肌を重ねて愛を紡ぎたいんだ!性の悦びを知りたいんだ!この熱い想いが、お前にはわからないのか!」


その鮭の言葉を受け俺の頭に稲妻が走る。

そうだ、何を常識を語っていたんだ、俺は。

世の中を変え未来を切り拓くのは、いつだって前例のない型破りな行動だったはずじゃないか。


「悪い、俺が間違っていたよ。本当に悪かった。お前たちのその輝かしい姿に、嫉妬していたのかもしれない。……こんな俺でも、お前らを応援してもいいかな」


「……こいよ」


「ああ!」


俺も群衆に混ざり、腰振りを再開した二匹に向け声を張り上げる。


「「「こ・う・び!!こ・う・び!!ガンボレこうび!!ぬっぽし!!」」


「かぁ〜!これが産みの苦しみってやつかい!?」


今まで、こんな一体感を感じることがあっただろうか。

種族を越えたコミュニケーション、まさに今ここが世界の中心だ。


「って、なんで童貞の俺が鮭の交尾なんて応援してんだ!!」


「だぁ〜りぃん、準備できたよ〜」


「私が用意したんだから、感謝しなさいよね!」


離れた所で我関せずと焚き火をしていた岡たちの呼びかけに正気を取り戻し、群衆から抜け出て彼女らの元へと戻る。

そして、そこには野菜が入った鍋が設置されていた。

あ、そろそろ昼食の時間か。



「ふぅ〜、食った食った」

 

腹ごしらえを済ませた俺たちは再び歩みを進める

初めて食べたが、石狩鍋とは美味いものだな。


そして、次から次へと厄介なことだが、第三の試練が現れる。

今までの経験により、ここは先に立て札に注目したいところだが、それよりも目の前にいる人物に視線が引き寄せられてしまう。

左から、四つん這いのおっさんに座る女子小学生、ピンポンダッシュの素振りの練習をする子供、見るだけで腹が空く白くツヤツヤし丸みを帯びた牡蠣、上半身裸の老婆が並んでいるのだ。


「これで何をしろっていうんだ」


「パパ、ここに解答欄があるよ」


真白の指差す先、立て札にメスガキクイズと書いてあり解答欄が用意されている。


「なぁんだ❤︎こんなの簡単じゃない❤︎子供騙しも大概にしろっつーの❤︎」


「パパ、左からメスガキ、クソガキ、ナマガキ、干し柿、だね」


真白がそう言うからには間違いないのだろう。

しかし、こんな簡単な問題を試練にするだろうか、と言う違和感は拭えない。

だが、他に答えも思いつかないため、立て札にぶら下がった紐付きのペンを手にしペン先が解答欄に触れた瞬間。

――脳内に鋭い閃き。


「ちょっと待てよ」


「どうしたの?」


「岡、上着を脱げ」


「ダダダダダ、ダーリン!?な、何を言ってるの!?そりゃ思春期の男子なんてお猿さんみたいなものだけど、まさかこんな、野外プレイなんて!」


「いいから、その上のジャージを脱げと言っているんだ」


「やだ、男らし。ああ、まさか、こんなところで花を散らすことになるなんて。でも、ようやく私の願いが叶うのね。あっ、勝負下着にすればよかったな」


岡から脱ぎたての上のジャージを預かる。

彼女が下に着ていたシャツにレッドスネークカモンの絵柄がついていることには突っ込まないでおこう。


「ちょっと❤︎ナニするつもりなの❤︎」


「よく考えたら、試練という割に随分と簡単な問題だと思わないか?そう、これは単純なものじゃない。思い返せば、ここに来るまでいくつもヒントが転がっていたんだ」


そう言いながら、上半身裸の老婆に近づく。


「ひゃ、ひゃだ、ワタシを襲う気でひょう、エロ同人みたいに」


ババァが何やら呟いているが気にしない。


「そう、俺が出した答えはこれだ!」


俺は、岡のジャージを老婆に着せた。


「お年寄りは、大事にな」


しかし、どこからかブッブーという不正解音が鳴り響く。

そして、老婆が鬼の形相で怒り出す。


「アンタ、まだちょっとしか生きていない乳飲子のくせに、人生の大先輩に余計な気を使うんじゃないよ!!」


「お、おい、俺は親切心でな」


「それなら、人肌で暖めんかい!こんな布切れを着せて良い気になるんじゃないよ!人様の気持ちも推し量らずに自分だけが気持ちよくなる、そんなクソガキは殺してやる!」


どこからともなく人の身長ほどもある包丁を取り出す老婆。

ああ、俺の人生はこんなところで終わるのか。


「死にさらせーーー!!」


「二トントラックじゃーーー!!」


「ウギャーーー!!」


これまた、どこからともなく現れた岡が運転するトラックに衝突したババアが爆発四散する。

そして、平和は訪れ、トラックから降りた岡が一言。


「ダーリンのことは、私が守るから」


髪をファサッとかき上げポーズを決める岡。

しかし、その隣にはポリスメンがいた。


「はい、無免許運転と殺人の容疑で現行犯逮捕ね」


「そんなプレイは望んでないんですけど」


国家権力には逆らえない。


「ダーリン、面会、よろしくね」


「ああ。必ず会いに行くよ」


そのまま、パトカーに乗せられた岡は遠くに消えていった。



その後、時には空を飛んだり、時にはカブトムシをしゃぶったり、岡を失った喪失感を抱えながらも、ただがむしゃらに歩みを進め、あれから無数の試練を受けてきた俺たちは心身ともにボロボロになっていた。

しかし、その全てを苦労し乗り越えてきた俺たちは、どこか満ち足りた顔つきになっていた。


そして、今、俺たちは開けた場所に家々が建ち並ぶ、メスガキの集落に辿り着いていた。

原始的な暮らしをしている彼女らを眺めると、ゼロ歳から百歳まで、様々な年代のメスガキがいるようだ。


「あっ❤︎人間だ❤︎」


「本当だ❤︎」


こちらに気付いたメスガキが一斉にこちらへ向かってくる。


「な、なんだ?」


身動きする暇もなく俺たちはあっという間に無数のメスガキに囲まれてしまう。


「あはっ、またロリコンが釣られてきたんですけど❤︎」


「臓物引っこ抜いちゃう?❤︎引っこ抜いちゃう?❤︎」


メスガキらが密集し濃く甘い臭いが鼻腔をつく。

ああ、このままでは。


「あ、ああ、エクスタスィーーー!」


「何事じゃ、おぬしら!」


「あっ、ロリババさま❤︎」


「ロリババさま❤︎ロリババさま❤︎」


俺がほぼイきかけたタイミングで誰かの声が響く。

すると、周りにいたメスガキたちはロリババ様と口々に言いながら、誰かの元へと寄っていく。

そこには、着物を着た黒髪ぱっつんロングの少女がいた。



あれから、ロリババ様とやらに案内された俺たちはメスガキ集落の中で一際大きい家屋に招かれ、茶の間で話を聞いていた。


「ここは儂が所有する山でのう、始まりは、この山に一人のメスガキが迷い込んだことじゃった。現代はメスガキに厳しい時代じゃ。しかし、儂は人間社会で居場所を失った此奴らを見ておると、じっとしてはおれんかった。そして、メスガキたちが安心して暮らせる場所を作ったんじゃよ」


まるでメスガキが人間じゃないかのような話だ。


「で、あんたは何者なんだ?」


「それは秘密じゃ。で、おぬしらは何用でここに来たんじゃ?」


今まで空気だった田中さんが口を開く。


「あ、あの、ここでメスガキ病を治せるって聞いたんです。だから、私の友達を治してもらいたくて」


「ふむ、そうか。確かに、それを治す方法がここにはある。しかし、その前に一つ聞きたいのじゃが、おぬしがメスガキ病にかかった原因は何なんじゃ?」


「は?❤︎言いたくないんですけど❤︎」


「あ、あのっ、この子が好きな人に彼女ができちゃって、それでこうなったんです」


「ふむ、やはりそうか。いや、なに、ここ最近メスガキ病にかかってここに来るものが多くてな。まぁ、よい。それでは、早速向かうとするかのう」


「どこに?」


「わからせの間、にじゃ」



廊下を歩き辿り着いた先は、上部に注連縄が飾られた木製の両開きの扉が待ち構えていた。

そのいかにもな雰囲気に一行は固唾を飲む。


「準備はよいか?」


「いいですとも」


ロリババアが扉に手をかけると、鈍く低い音がし扉が開く。

そこは、灯篭の明かりだけが灯る薄暗い和室。

真ん中には机と座椅子がポツンと鎮座しており、そして、その右横には布団も用意されている。


「ここで、何をするって言うの」


「そうか。メスガキ、わからせる、そしてこの部屋の様相から導き出される答えは一つ!セッ――」


「そうじゃ!進◯ゼミじゃ!」


「は?」


皆、間の抜けた顔でポカンとしている。


「なんじゃ、その顔は。ほれ、そこの机の上に教材があるじゃろ。あれを最後まで解いてもらうことによって、メスガキをわからせられるんじゃ」


わからせって、そういうことかよ。


「じゃあ、その布団は?」


「質の良いわからせには適度な休息が必要なんじゃ。強引にやってしまうと後遺症で人を小馬鹿にする部分が残ってしまうからのぅ」


なんじゃそりゃ。


「と言うわけで、ほら、元に戻りたいのならさっさとするのじゃ。しっかり時間をかけねば治らぬからな」


「あの、私、みくるちゃんと一緒にいてもいいですか?」


「なぜじゃ?」


「その、ただ、心配なんです」


ええ子やなぁ。


「別に助けなんて必要ないんですけど❤︎」


「そんなこと言わないで。邪魔はしないようにするから」


「ふむ、本来なら一人しか入れないのじゃが、仕方ないのぅ。今回だ特別に許可してやろう」


田中さんは何と友達想いなんだろうか。

まったく、俺の彼女に相応しいぜ。



そうして、二人をわからせの間に残した後、その隣の和室でだらだらと過ごすことになった俺たちは、何とも嬉しいおもてなしの饅頭とお茶をいただき、のほほんとした時間を過ごしていた。


「しかし、なんじゃのぅ、最近の若者はそんなに恋愛が上手くいっとらんのかのぅ」


「あっ、ちんちん取れちゃった」


「ふんっ、私の勝ちね」


「パパ、もう一回やろ?」


「おぬしら、少しは年寄りの話に付き合わんか!」


「そう言われても、恋愛弱者の俺たちには付き合えない話だし」


「かぁー!これだから最近の若者は、すぐに自分にレッテルを貼って諦めるんじゃから!よいか、人生とは守りに入ったらいかんのじゃ!傷つくことを怖れずに進まなければ何も手に入れることはできんのじゃ!よいか、男なら金玉じゃ――」


遂に、年寄り特有の長い説教が始まってしまう。

標的は俺だけ、他の二人はこちらを無視し茶をすすりながら尿路結石について談笑してる。

あいつら、何気に仲が良いな。


「おい、真面目に聞かんか!」


しかし、そんな長話に付き合うつもりはない。

ここはおばあちゃんをなだめる作戦でいこう。


「おばあちゃん、もう寝る時間ですよ」


「おぉ、ん?そうじゃったかのぅ。でも、まだ飯を食っとらんでな」


「ご飯はおととい食べたでしょ。はい、はんぺん」


「おお、これはふかふかでええのぅ。それに、お腹が空いたら食べることもできるしのぅ」


「ほら、最近の若者も捨てたもんじゃないでしょ」


「そうじゃな。ん?これ、はんぺんじゃのうて死んだ爺さんのふんどしじゃないかのぅ。青春の香りがするんじゃが」


その時であった。


「助けて~❤︎」


緊張感のない気の抜けたメスガキの助けを求める声が部屋の向こうから聞こえてきた。


「これ、無視してもいい奴?」


「駄目に決まっておろう!きっと何かあったのじゃ!」


立ち上がりバタバタと走るロリババアに続き、俺たちも押さない駆けない騒がないの精神でついていく。

そして、扉を開けるとそこには壁に追い詰められた涙目のメスガキと、その前に息を荒くした田中さんが立っていた。

勉強していたんじゃないかと机の上を見ると、そこには全身が火照りくしゃくしゃになった、絶頂の余韻に浸りビクンビクンする教材の姿があった。


「どうしたんだ」


「花子ちゃん、ちんちんが生えてる~❤︎」


「は?」


言葉の意味を理解するよりも早く、皆の視線は田中さんの股間へ。

生えてない、というより、ジャージを着ているため見えるはずもない。


「い、今は収納してあるの❤︎」


「何を馬鹿な」


しかし、メスガキのこの怯えよう、到底嘘をついているとは思えない。


「ちーちゃん、田中さんに生えているかどうか確認してもらってもいいか?」


「な、なんで私がそんなこと!」


「もし生えていなかったら、俺の場合は犯罪になるだろ?」


「嫌に決まってるじゃない!私の可憐さにアレが暴発するかもしれないのに!」


「はぁ、もういいよ」


そんなやり取りをしていると、田中さんは観念したかのようにそう呟く。

しかし、その声は低く、まるで、いや、男性そのものの声質だった。


「お前……」


「バレてしまっては仕方がない。そうだよ、俺は男だよ」


「騙していたのか、いや、それよりもなぜ、こんなことを」


「俺はな、メスガキわからせ百連発をすることが夢だったんだ。いや、夢というよりも、もうそれでしか興奮できない体になったんだ。理由か?気になるみたいだな。そう、あれは三年前の雪が降りしきる凍てついた夜の事だった」


「いや、興味ないです」


「回想カットビィーム!!」


「――だから、俺は恋する女をメスガキに変え、百人メスガキができるまで山で寂しく暮らしていたロリババアに送り込んでいたんだ。そして、海野みくる、お前でようやく百人目だったというのに」


なんてことだ。

俺たちはまんまとコイツの手のひらで踊らされていたのだ。

そして何より、またしても、ことごとく、普通の女の子とラブコメをする俺の計画はぶち壊されたのだ。


「……しかし、失態だったな。メスガキ山の試練を乗り越えるためにお前らに助けを求めたんだが、ここで邪魔をしてくるとは」


田中のターゲットがメスガキからこちらへ。

おそらくは邪魔者を排除してから、ゆっくりとわからせを楽しむつもりなのだろう。

もう、どうでもいいから早く終わらせたい。


「四対一だぞ。諦めるんだな」


「こう見えても俺は特殊部隊メロンパンの出身なんだぞ。小娘数人にひ弱な男ぐらい、問題にすらならないね」


訳のわからないことを言いやがって。

その時、俺の中の理性の糸がプツンと切れた。


「もう男でもいいや」


「おい、聞いているのか?死にたくなかったら、ってオイ!」


彼に近づき、攻撃をかわしながら両腕を掴み足を引っかけ強引に押し倒す。


「お、おいっ、やめろ!何を考えている!俺は男なんだぞ!」


「うるせぇ!男だって女として扱えばメスになるんだよ!!」


しかし、そこで初めて気づく衝撃の事実。


「お前これ、ジャージじゃなくてボディペイントじゃねか!もう我慢ならねぇ、この変態野郎が、くらえ!獅子炎牙・我王拳ッ!!」


「ぐわぁーーーーーー!!」


俺の炎の牙を纏った拳を田中の顔面にぶち込むと、彼はぴくりとも動かなくなった。


――これにて一件落着。

田中は愛護動物虐待の罪で逮捕され、メスガキたちもロリババアのおかげで快方に向かっているようだ。

こうして、MNK部における二回目の依頼もなんとか解決したのであった。


この件で、俺が海野みくるに惚れられたのはまた、別のお話。

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