迷走編

「さてと、キャラも出揃ったことですし、そろそろ本格的にダーリンの攻略を始めますか」


小鳥の囀りが響く何気ない時間が流れる教室。

その空気を裂くように隣の席の岡が唐突に呟く。

あまりの衝撃的な発言に、俺は突っ込まずにはいられない。


「ちょ、ちょ待てよ。前回はいい感じに終わったのに、どうしてまた場をかき乱すようなことを言うんだ」


「は?いい感じに終わったから、ここからスタートするんでしょ?ま、ダーリンがどうしてもって言うなら、今回で終わらせてもいいんだけど?」


そう言いながらいきなりキス顔でこちらに迫ってくる岡。

その唇に対して、俺はちょうど手に持っていた自分自身の夢と希望を投げつける。


「しょっぱクサッ!!ダーリン、一体何をしてくれやがったの!」


「あまずっぱいだろーが!!」


「こんなことされたら、責任を取ってもらうしかないわね!ダーリン!結婚を前提に籍を入れてください!!」


「それじゃあいきなり結婚じゃねぇか!いきなりス〇ーキでももっと猶予があるわ!」


「なに、その例え。ツッコミのキレが悪くなったんじゃない?」


ああ、なんてことだ。

前回の件で流れが変わったと思っていたのに、またいつもの日常が戻ってきてしまった。

もう、諦めるしかないのか?

いや、当初の目的を忘れるな、俺はもう一度初心に帰りネタキャラ以外の清楚キャラを恋人にしなければならないのだ。


「あら、呼んだかしら?」


そう考えていると、机の下、俺の股の間からひょっこりと蓮さんが顔を出す。

それだけで周りの男子生徒の何人かは死んだ。


「なにしてんですか」


「ちょっとナニをね。それより、清楚キャラが必要なんでしょう?私が正に適任だと思うのだけれど」


どうしてこいつらはナチュラルに俺の思考を読んでくるんだ。


「出たわね、この淫乱ピンクが!アンタは青少年に害を与えるモブキャラなんだから大人しくしてなさいよ!」


「あら、負けヒロインの鳴き声はキンキンして耳障りね。殺しちゃおうかしら」


早速、俺の存在を無視して二人の喧嘩が始まる。

ここ最近、二人は顔を合わせる度に言い争いをしている。

ただの諍いなら、女の子同士でイチャイチャして可愛いもんですね、なんて軽く流せるのだが、飛び交う言葉には全く可愛げがなく、間に挟まれる俺は疲労困憊だ。


「相変わらずやなぁ。それで、アンタはどうするんや?この争いに終止符を打つのはアンタしかおらへんのやで」


「これはこれは。悪友ポジでメインヒロインの情報を提供してくれる南出くんじゃないか。わかりやすい状況説明をありがとう」


「な、なんやねん、オマエ」


物欲しそうに顔を突っ込んできた南出を適当に右から左へ。

しかし、彼女の不用意な発言で彼女らの矛先は俺へ向く。


「そう、そうよ。これも全部、ダーリンがハッキリしないのが悪いんだわ!ダーリンが私に結婚しようって一言言ってくれれば、三角も四角も丸く収まるのに!」


「丸くなったらそのまま下り坂を下って墓場へ直行じゃないか。お、今のはなかなか上手いことを言えたんじゃないか」


「バカ!私と結婚したら毎日がエブリデイでソーハッピーよ!さぁ、こんな美少女と高校で付き合って健全なお付き合いをし行き遅れることもなく結婚できる権利を見逃すな!」


「可哀想に。こんな女と結婚しても六畳一間のボロ屋で惨めな思いをするだけよ。ほら、私を選んだ方がお金に困らないし働かないで遊んでいてもいいし、夜の性活も充実したものになるわよ」


「はっ!!そんな甘い言葉を吐いて、どうせダーリンを性奴隷にするつもりなんでしょ!男を精気を吸うだけの食糧としか見てないくせに!」


言い争いを続けながらも、さっさとどっちにするか選べと圧をかけてくる二人。

最初からこいつらとはそんな関係にはならないとはっきり伝えているというのに、いい加減、うんざりしてきた。


「ほらほら、どうするんや?クラスの連中もいい加減どっちか選べってイライラしてるで」


「なんでクラスの奴らからまで」


「うるさいからちゃう?」


ああ、どいつもこいつも俺の苦労を知らずに好きかって言いやがって。


「さぁ、ここが年貢の納め時、ダーリン、どっち!?」


「当然、私よね?」


「うるせぇぇぇぇぇ!!」


遂に、俺の中の怒りが爆発した。

俺の怒声に静まり返る教室。

だが、そんな状況にも構わず自分の椅子に立ち片足を机に乗せ、こぶしを作り涙を流しながら熱く演説する。


「俺たち青少年が求めるのは学生にしか出来ないような、お茶の間で流しても恥ずかしくない甘酸っぱい青春だろーが!それなのになぜ、こんな中年の不倫現場みたいな修羅場を味合わなければならないのだ!」


俺の声帯は熱を持ち、舌が更に回転し始める。


「俺を嘲笑しているそこの君も、呆れ顔のそこの君だって、誰もが心の底では素敵な恋を求めているはずだろ!俺たちはまだ若い!妥協せずに理想の恋を追い求めていいんだ!そうだろ!?」


「ダーリン、理想とは実現しないから理想なのだよ」


「ええい、うるさい!手に入れることができないと諦め理想を追いかけることもできない妥協した人生に何の意味がある!俺の心臓は動いている!身体だって自由に動かせる!ここにあるのはその事実のみ!ならば、俺は、俺たちは、なんだってできるはずだ!それを遠くから笑う奴らも、この恋路を邪魔する輩もキッキングホースラプソディー!」


これを機に、教室内が段々と熱気を帯び、そうだそうだと非モテ男子生徒からちらほらと声が湧き上がる。

俺はそれに同調し、さらに心の内をぶちまける。


「毎朝起こしに来てくれて、陽だまりの中を同じ歩幅で歩き登校してくれる幼馴染!」


「「「YEAH!!!」」」


「自分よりよっぽど大人びて頭もいいけど、ちょっと天然で俺にだけ隙を見せてくれる先輩!」


「「「YEAHァ!!!」」」


「クールで毒舌だけど、特定のイベントをきっかけに春の雪解けを見せてくれる後輩!」


「「「YEAHァァ!!!」」」


「普段は男友達みたいな仲だけど、ふとした瞬間に意識して少しずつ二人で恋の階段を昇っていく同級生!」


「「「イ゛エ゛ア゛ァァァ!!!」」」


「この数年間は、そんなワンピースを手に入れることが出来る、貴重で掛け替えのない時間なんじゃい!!それをこんな頭のおかしいやつらに邪魔されてなるものか!!同志よ、今こそ立ち上がる時だ!俺が、この俺たちが!この灰色の校舎を桜色に変えるのだ!」


歓声、励ましの声、岡の俺に対する罵声、蓮さんの笑い声、カメラのフラッシュとシャッター音が入り交じり、教室内は騒然となる。

他のクラスの生徒が廊下側から覗きに来るほどだ。


「よし、そうと決まれば、まずはそこらの工業に嘆願書を出しメイドロボをここに入学させるんだ!生徒とロボの交流は情操教育によく、またロボのデータ収集にも役立つとかなんとかで!え?メイドロボなんていない?現実を見ろって?バカヤロウ!そうやって保守的になって大海原に漕ぎ出さないから新時代に置いて行かれるんだ!!」


俺自身、何を言っているかわからなくなってきており、熱は冷めずわちゃわちゃとした状況がいつまでも続いている。

しかし、それも朝礼のチャイムと担任の一声で幕を閉じた。



「ノヴァえもん、こんなことがあったんだけどさ、俺はどうすればいいと思う?」


「そんな話をするために、ここに来たわけ?」


昼休みの教室からこっそりと抜け出し野薔薇さんがいる部室へ一人で訪れ、今朝起きたことをざっくりと彼女に話した。

彼女は相変わらず興味なさげに頬杖をつき窓の外を眺めている。


「なんかこう、人生を一発逆転する道具とか出してくれないかなって。もう藁にも縋る想いなんだよ」


「はぁ。なんでこんな奴と知り合ったんだろ。ツンデレを気取っていれば青春群青劇に勝手に巻き込まれると思ってたのに」


「なんだって!それは、俺の目標と同じじゃないか!!」


彼女がボソッと呟いた驚愕の事実。

俺とは手段は違うものの目指すべきが同じだとは、これは今すぐにでも手を組まなければいけない。


「そうと決まれば話は早い!野薔薇さん、俺と一緒に全米が感動する学校生活を創り上げようじゃないか!」


「イヤ。ギャグマンガのキャラとなんて関わってられないわ」


「どんな物語だって日常パートはギャグが含まれるじゃん!」


そう反論すると、深くため息を吐く野薔薇さん。

この前の出来事からすると彼女もこちら側の人間だと思うのだが。


「アンタ、自分の胸に手を当てて考えなさいよ。まともな恋愛ストーリーとはかけ離れたことをしているじゃない。異常者の中心にいる異端児、それがアンタの世間の評価よ」


「ああ、あの太った子供のことか」


「それは肥満児!」


「じゃあ、ジャングルで筋肉ムキムキのおっさんが戦うやつ?」


「それはジュ〇ンジ!!ほら、いきなりこんなボケをするなんて、アンタは根っこの部分からズレてんのよ!!」


やっぱり、彼女が普通の生徒だったらこんな律儀にツッコんではくれないだろう。

いや、脱線したな。


「とにかく、俺は普通の友達を作って普通の恋愛をしようと思っているのに何もかもが裏目に出ているだけの、普通の生徒なんだぜ」


「類は友を呼ぶって言うじゃない」


「いや、俺は誰とでも楽しく話せる天才なんだ」


「主体性がないとも言えるわね」


「まったく、ああ言えばfor you forever for you。ぷんすかぷん」


そんなに突き放さずに、素敵な青春を送るためにも協力しあったほうが効率がいいだろうに。

いや、これもツンデレなりの愛情表現なのか?


「まったく、普通になりたいのなら、まずはそのおかしな言動をどうにかしたらいいのに」


「うっ」


その何気ない一言で、中学生の頃のトラウマが蘇る。


「な、なによ」


「中学の時、つまらない生徒ランキングで常連一位だったことを思い出したわ。隣の席の女子も、普通はつまらないランキングの一位になったって事実で笑えるのにキミだと全く笑えないのは逆にすごいね、って言うてましたわ」


「そ、そんなことを言われても」


「ちょっと変わった言動をすれば変な奴しか寄ってこないし、普通になったらなったでつまらない奴扱いされる。これはもうあれか!身内ネタやくだらないことで笑いを取る口も頭も軽いチャラチャラした奴になれって言うことか!ポケットからキュンです!」


「落ち着きなさいよ!」


結局、逃げ込んだ先でもオチのつかない話を延々と続け、この状況の解決の糸口すら見つからなかったのである。



翌日。

今日も今日とて重たい気持ちを抱えずるずると登校すると、校舎の玄関口でいつもとは違う光景が繰り広げられている。

そこにいる生徒らは誰もが何かの紙を手に持ち、様々な反応を見せている。

だが、取り立てて気にする事でもないのでそのまま玄関から校舎へ入ると、その生徒らが一斉に俺へと視線を寄こす。

一気に緊張が高ぶり何事かと思案していると、皆が持っている紙と同じであろう物が床に落ちていたため、それを拾い上げ読み始める。

学生新聞と書かれたそれには。


『灰色の校舎に一陣の新しい風!!低俗化し性欲に埋もれた現代の恋愛を引き上げ輝きを蘇らせる男、現る!!』


仰々しいタイトルで始まる一面には、昨日俺が教室で演説していた姿が写真となりでかでかと貼り出されている。

内容は、ざっと目を通しただけでもわかるくらい、俺が熱く語った内容に衣をつけ油で揚げ胃もたれするくらい誇張された文章になっている。

なるほど、視線の原因はこれだったのか。

俺はすぐさま、道行く生徒らに新聞を配るふざけた生徒を見つけ出し、後ろから声をかける。


「号外!号外よ!!あっ、あなたも新聞が欲しいの?ほら、ここに写っているのは私のダーリンなの~!よろしくね~!」


「おう、誰の許可を得てそんなことをしとるんや。出るとこ出てもええんやぞ」


「ああ、お兄さん、私をナンパするなんてお目が高いわね!でも、私には有名人の彼がいるから、ごめんね~、ってあれ、ダーリン?」


その正体はなんと、岡だった。


「これは、お前の仕業か」


「へ?いや、違うわよ。新聞部が配ってたから手伝っているだけで」


そういえば、昨日の演説中にシャッターを切られていたような。

この学校に新聞部が存在することすら知らなかったため、特に気にはしていなかったが。


「そいつらはどこにいる」


「そ、そんな怖い顔をしないでよ。ほら、あそこにいるじゃない」


岡が指差す方向には廊下で控えめに新聞を配る、おさげに丸眼鏡、一眼レフを首に提げた小柄な女生徒がいた。

なんてわかりやすいんだ。


「うむ、よろしい。それと、これは回収するぞ」


「ああ、外堀を埋めるチャンスだったのにぃ」


岡が持つ新聞を全て強奪し、諸悪の根源の元へ。


「あ、あの、これ、お願いします。あっ、あ、あの、これ」


「ホッホッホ。お嬢さん、ちょっといいいかな」


「ひゃっ、ひゃい!」


声をかけて一瞬でわかる彼女の人見知り加減。

加えて、プルプル震えるこの小動物のような風体に油断してしまいそうだが、コイツは他人の許可もなくこんなものを刷る極悪人だ、油断せずに行こう。


「なぁ、俺の顔を見て、何か言うことはないか?」


「へ、へぇえ?あ、あの、特に可もなく不可もなく、人の記憶に一番残りにくい顔ですね?」


その言葉に、俺は怒りを抑えることだけで精一杯になる。


「ふっ、ふっ、ふぅう」


お、落ち着くんだ俺。

怒鳴れば委縮しそうなタイプの彼女だ、真面目に話をするならあくまで紳士的にいかなければ。


「そ、そうじゃなくてだな、この新聞を刷ったアンタが俺を知らないわけがないだろう?」


「え?あ、あぁ!四十竹さんですね!今回はお世話になりました!あっ、もしかして、お礼を言いに来てくれたんですか!?いや、いいですよ~、僕は新聞部として当然のことしたまでで~」


「礼なんて誰が言うか!お前、これで俺が喜んでいるとでも思っているのか!」


「ひゃっ!!ええええ、えっと、違うんですか?」


これはまた、強敵の予感。


「色々と言いたいことはあるが、そもそも俺の許可もなくこんなものを作っていいと思っているのか?」


「ぼ、僕、こう見えてもジャーナリストになりたくて、近年のマスコミの模倣から始めようと思ったんです!」


「悪いところだけ真似しようとするなよ!」


しかし、既にばら撒かれ人の目に触れてしまった事実はどうしようもない。

ここは大人らしく、最低限の質問だけで済ませよう。


「はぁ。そういえば、名前を聞いてなかったよな」


「あっ、これは失礼しました!僕の名前は多聞新たもんあらたです。新聞部の部長をやっています」


こうして話す分には至って普通の生徒に見えるが、例に漏れずコイツも変人なんだろう。


「で、どうしてこんな新聞を刷ったんだ?」


「そ、それはですね、ここは普通の学校過ぎていいネタを書けずにくすぶっていたんですけど、なにかと話題の四十竹さんがなにやら大きなことを巻き起こそうとしているじゃありませんか。業績不振の部と錆付き始めたジャーナリズム魂を復活させるためにも、こんなチャンスは見逃せなかったんです」


「いや、俺は普通で平凡なただの高校生だが?イケメンすぎるのが玉に瑕だが」


「またまたご不遜を~」


冗談で言っているような顔には見えない。

まさか、既に周りからは俺も悪目立ちする変人の仲間だと思われているのか。


「いやいや、それだったらもっといい相手がいるだろ!ほら、あそこにいる岡椎名の存在は知っているだろ!」


「だ、だめです。発禁になっちゃうので。彼女が入学したての頃、色々やらかしていたことを記事にしたら反省文を百枚書かされました」


「じゃ、じゃあ、あの有名な蓮咲姫さんは知っているだろ!彼女も叩けばいくらでも埃が出てくるぞ!たぶん!」


その名前を聞いた途端、何も言わずに震え青ざめる彼女。

余程怖い目に合ったのか、この件にはあまり触れないほうがよさそうだ。


「で、でも、四十竹さんは言っていたじゃないですか。この校舎を桜色に変えるって。それなら、こじんまりとやるより大々的に発表して皆を巻き込んだ方がいいかなって思って」


「いや、それはただの勢いというか言葉のあややっていうか、めっちゃホリデイなんですけどぉ」


「あっ、それ面白いですね。記事にしていいですか」


「やめてくれ」


これは、収拾をつけるのは難しそうだ。

しかし、希望的観測で言えば人の噂も七十五日、誰も俺に興味なんてないだろうし、このまま放っておいても問題ないかもしれない。

そう思っていた矢先。


「あっ、いた!!」


見知らぬ男子生徒たちが集団でぞろぞろと俺の前にやってくる。

どいつもこいつも目を血走らせて、いやな熱気と狂気をまとっている。


「な、なんだなんだ」


いきなりの出来事に慌てていると、その集団は俺に目掛けて一糸乱れぬ敬礼をする。

新聞部の彼女もこれはスクープだとシャッターを切っている。


「この新聞を読んだとき、隊長の雷鳴のごときお言葉に、この身は裂かれる思いでした!我々に必要だったのは、隊長のような先陣を切って勇気を与えてくれるお方だったのです!」


「いや、まずは説明をしてくれ。わけがわからないんだが」


「あっ、紹介が遅れました。私たちは、チャラ男ビッチ女を絶対殺す騎士団です!!この腐れ切った世界に真実の愛をもたらさんとする隊長と共に戦うために、こうして駆けつけました!!」


次から次へと、まったく退屈しない人生ですね!

さて、どうやってこの事態を切り抜けようか。


「何をやっているのかしら?」


「あっ、ああ、あれは!!」


そう考えていると厄介なことに蓮さんもやってきてしまう。

そうだ、面倒なことは彼女に押し付けてしまおう。


「丁度いいところに。こいつら全員、蓮さんの親衛隊だってさ。よかったな、朝食バイキングじゃないか」


「た、隊長、なにを!?」


「あなたね。そんなに私のことを嫌わなくてもいいじゃないの。せっかく、この新聞を読んで感動していたところなのに。なんだかんだ言いながら、あなたもまさか、私と同じ目標を持っていたなんて」


「同じ目標?何の話だ」


「この世界を、ピンク色に染め上げるのでしょう?あれだけ性に興味が無いふりをしていたのに、まさか大衆の前でこんなことを宣言するなんて。さすがは私が見込んだ男だわ」


「俺は桜色としか言っていないぞ!」


全く、この純な思いを爛れた性欲と一緒にしないでほしい。

そう会話をしていると、なんちゃら騎士団とやらの一員が割り込んでくる。


「我らの隊長と何を仲良さげにしているのだ!この、ビッチの総本山、蓮咲姫め!!」


「あら、随分と失礼ね」


「我らの隊長を惑わそうたってそうはいかないぞ!俺たちが相手だ!!」


呆れ顔でこちらへ振り向く蓮さん。


「あなた、付き合う友達は選んだ方がいいんじゃない?」


「友達でも何でもありません」


「今こそ隊長にカッコイイ姿を見せる時だ!!ものども、かかれぃ!!」


こちらの事情などお構いなしに男たちが一斉に蓮さんに襲い掛かる。

しかし、彼女は少しの動揺も見せず、その集団に投げキッスをした。


「「「ぐわぁああああああああ♡♡♡」」」


男たちは次々と倒れ、誰一人として立っている者はいなかった。

ここまで来るとただのギャグだな。


「さあ、あなたはどうするのかしら?」


「いや、俺は関係ないんで、この辺で失礼します」


「つまらないわね。少し、強引に行ってみようかしら」


何を思ったのか、強烈なピンクのオーラを放ちながらにじり寄ってくる蓮さん。

やだ、こんな朝っぱらからナニを考えているのかしら。


「やめろ、俺は暴力なんて振るいたくないんだ」


「なら、男が女をわからせる手段は一つね」


「―――ああ、そうだよな」


彼女はおもむろに制服のボタンに手をかけ始める。

対する俺は、右手をズボンに突っ込み、硬いイチモツを取り出し彼女の前に掲げて見せた。

それは、昆虫の形を模した玩具だった。


「チャージ五回!!ノーエントリー!!ノーオプションバトル!!うおおおおおおおおおお!!」


さすがの彼女も目を丸くして硬直しているが、俺は構わずにチャージを始める。


「いくぜ!!俺のサウザンドルビーシャイニーデイズ!!チャージッ、インッ!!」


サウザンドルビーシャイニーデイズは勢いよく俺の手から飛び立ち、一直線にサキュバスの下へ向かう。

俺の純粋な想いを乗せて、今こそあの悪魔を貫くのだ!


「ふんっ!!」


某プロ野球選手のレーザービームを彷彿とさせるスピードで飛んでいく俺のサウザンドルビーシャイニーデイズは蓮さんの拳に砕かれ、虚しくもバラバラに空中分解していった。


「あっけないわね」


「さらばだ!」


「あっ」


俺のサウザンドルビーシャイニーデイズが生み出したわずかな隙に踵を返し、蓮さんの二の句も待たず、いつの間にかできていた野次馬の群れを掻き分け急ぎ自分の教室へ向かう。

こんなことをしている場合じゃない。

あんな新聞が配られた上にこんな騒ぎを起こしてしまっては、余計に悪目立ちしてしまう。

今、俺がとれる最善の手段は教室の片隅で事態が落ち着くのを大人しく待つことだ。

大丈夫だ、きっと時間が解決してくれるはずだ。

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