サキュバス編

「はぁ」


一つ溜息をつき、登校する。

憂鬱だ。

岡から距離を置くどころか、彼女を中心に周りを巻き込んで、おかしな青春を形成してしまっている。

このままでは逃げ場がなくなり彼女らとの付き合いをだらだらと続けてしまうことになりそうだ。

空はどこまでも青くどこまでも飛んでいけそうなのに、現実は灰色のコンクリの上を這いずるばかり。


「ちょっと、いつまで私を待たせるつもりなの?」


「え?」


声がする方に注意を向けると、通学路の途中、なぜか野薔薇さんが不機嫌そうに立っていた。


「待たせるって、何か約束でもしてたっけ」


「はぁ?まだ寝惚けてんの?ほら、早くいかないと遅刻するわよ」


そうして強引に俺の手を引き学校へ向かう彼女。

どうなってんだ、どこかでフラグでも立っていたのか?

いや、昨日、馬鹿馬鹿しい劇を繰り広げただけだろう。

それとも、清楚さんが言った通り、本当にあんなことで好感度が上がってしまったのだろうか。


驚きのあまり俺は何も言えずに、そのまま彼女に身を任せ歩き続ける。

それは、校門をくぐり生徒が増えてきたにも関わらずに続き、彼女が手を放す様子もない。

ちょこちょこ向けられる好奇の視線の中、玄関に着くと彼女からようやく解放される。

と思いきや、上履きに履き替えた後、すぐにまた手を引かれ教室へ向かうこととなる。

ここで俺は言い知れぬ恐怖を感じながらも少しだけ嬉しくなっていた。

自分の部屋のディスプレイの前でいつも思っていた、こんな青春があったらいいのに、がここには詰まっていた。


教室に着くと、あたかもこれが当然だと言わんばかりに俺の隣の岡の席に座る野薔薇さん。

彼女は別クラスのはずだが、その堂々とした姿はこちらの認識が間違えているのではないかと思うほどだ。

朝日に照らされた隣の席の金色のツインテール。

ああ、これをまさか、現実で見ることができるとは。


「な、なに見てるのよ」


「あ、ごめん。見惚れてた」


「は、はぁ!?ば、バカ、いきなり何言ってんのよ!」


今はただ、この状況がどんな理由により構築されたのか、そんなことを無視してでもこの時間に浸っていたい。


「ちょっと、これはどういうことよ!なんで私の席にツンデレがいるわけ!?」


そこへちょうど現れた岡が声を上げる。


「はぁ?何言ってんの、元からここは私の席でしょ。優からも何か言ってやってよ」


「そうだぞ、お前が誰かは知らないが、おかしなことを言うのはやめてくれ」


「な、なんなの、あんたら」


「あ、あのね」


現実逃避していると、申し訳なさそうに清楚さんが話しかけてくる。


「その、千棘ちゃん、精神が不安定な状態で昨日の劇をやったから、現実とフィクションが曖昧になっているみたいなの。なんで優くんもそうなっているかは知らないけど」


確かに、よく見たら野薔薇さんの目が虚ろだ。


「何だっていい!ギャルゲ生活を送るチャンスだ!」


「そうはさせないわ!」


岡は野薔薇さんの背後に回り、パコンと彼女の頭を叩く。


「おいっ!」


「こういうのは大体、叩けば治るから」


軽く叩いたとはいえ暴力はいかんぞ。

それに、そんな昭和のテレビのように簡単に治れば苦労しないだろう。

叩かれ首をすくめた野薔薇さんが少しの沈黙の後に顔を上げると、その目から光は失われ、より一層闇が深くなっていた。


「ねぇ、ほら、見てよ。アンタが長い髪、好きだって言ったからここまで伸ばしたのよ」


彼女はツインテールをほどき、長い髪を持ち上げこちらへと見せつける。

おめでとう!ツンデレはヤンデレに進化したぞ!


「ちーちゃん、ハウス」


「また会いに来るからねぇ、うふふふふふ」


ちょっと心配になってきたな。



お昼休み。

自分の席で弁当を広げると、いつも通り岡が机をくっつけてくる。


「さぁ、今日こそは念願のあ~んをしてもらうわよ」


「お前、こんな人前でそんなことしてる奴を現実で見たことあるのか?」


「そんな常識に囚われちゃ、メインヒロインにはなれないんでね。それじゃあ、まずは私から。はい、あ~ん」


そうして彼女の弁当に詰められた冷めたおでんの大根を箸で掴み差し出してくる岡。

しかし、こんなアツアツでもないものを渡されても笑いにつながらないだろう。

まったく、岡は爪が甘いな。

ここは俺がお手本を見せて彼女の芸人魂を復活させメインヒロインなんて忘れさせてあげようじゃないか。


「しょうがね~なぁ。一回だけだぞ?あ~ん」


口を開くと口内によく味が染みた冷たい大根が放り込まれる。

よし。


「アァッツウゥゥゥ!!」


「え?」


「ホハホハホハッ!アッフイ、アッフイ!く、口ん中にマグマ、マグマが入っとるやないか!これはエライコッチャ!」


岡に白い目で見られる。


「さぁ、次はお前の番だぞ」


「いや、いいです。今、百年の恋も冷めちゃいました。このおでんみたいに」


こんな恥ずかしい思いをしたんだ、岡にもこの気持ちを味わってもらおう。

奇遇にも俺の弁当の中身もおでんだったため、その中から卵を取り出し彼女の口元へ。

そんなやり取りをしていると、急に教室内が騒然とし始める。


「なんだ?」


「人気者の私が特定の男とランチタイムしてるからじゃない?モテる女はつらいな、ふがぁ」


「はい、そうっすね」


岡が話し切る前に、その減らず口に卵をねじ込む。

そして、皆が注目している教室後方の扉へと俺も目を向けると、そこには別クラスから来たと思われる女生徒が立っていた。

サイドダウンのピンク髪をした、明らかに異質なオーラを放つ美しい女性。

あと、その、大変下品ですが、ふふふ、お胸が大変大きくていらっしゃる。

その姿を見ると、芸能人を前にしたような皆の反応もわからないでもない。

彼女は何か探すように教室内を見渡し、遂に足を踏み入れる。


まぁ、俺には関係ないかと視線を戻す。

しかし、ここで異変が。

突然、誰かの喘ぎ声が聞こえ始めたのだ。

驚き再び振り向くと、先ほどのモデル級の女性が歩くと、その近くにいるクラスメイトが男女問わず絶頂していく。

何が起こっているんだ?


「ねぇ、あなた、最近話題の童貞生徒って誰か知ってる?」


耳を澄ますと彼女は誰かを探しているようだ。

童貞と聞こえたのは、聞き間違いだよな。

すると、隣のメガネ君が彼女の前に立ちはだかる。


「おやおや、この頭脳明晰の僕に目をつけるとはお目が高い、メガネクイッ。誰にも穢されていないこの身体、滅茶苦茶にしていいんです!」


「あなたは、違うわね。邪魔しないでくれる?」


メガネ君の頬に軽く触れる彼女。


「んほうぅっ♡久々の登場なのに、出番がこれだけなんてぇぇぇ♡♡♡」


たったそれだけでメガネ君は昇天した。


「ちょっと、あれ、ダーリンを探しているんじゃないの?」


「どどど、童貞ちゃうし。いや、ちょっと待て、高校生なら誰だってそうだろう」


「はいはい。でも、結構ピンチじゃない。あの女の目、狩人の目をしているわ」


「なにを狩るんだよ」


「もちろん、童貞を」


まさか、そんなエロ漫画の世界じゃあないんですから。

そう他人事だとへらへらしていると。


「ちょっといいかしら?」


「ん?」


俺の目の前で彼女は立ち止まり、艶のある声で話しかけてくる。


「あなたかしら、最近、悪目立ちしている童貞陰キャっていうのは。ふふっ、おいしそうね」


ゾゾゾと背中をナメクジが這うような悪寒。

これは、笑い事ではなさそうだ。


「いきなり来てなんでしょうか。というより、どちらさんでしょうか」


「あら、私も結構有名になったと思っていたけど、まだまだみたいね。私、蓮咲姫はすさきと申します。よろしくね」


「あ、はい、これはご丁寧にどうも。俺は四十竹優です、よろしくお願いします」


ピンク色のオーラを纏った淫魔のような女性。

それにしても、蓮咲姫とは変わった名前だな。

ん?蓮咲姫、はすさきさん。

はすさき。

マイネームイズさきはす。

さきはす、サキュバスじゃねぇか!


「どう?私とイイコトしてみない?」


「いや、いきなりすぎるでしょ」


おいおい、一体どうしちまったんだ、俺は異世界にでも迷い込んだのか?

去年は何一つとしてこんなイベントは起きなかったというのに。

大体、どうして俺の周りの女性はこんなにも頭のおかしいやつらばかりなんだ。

頭を悩ませていると、岡が俺らの間に立ちはだかる。


「ふん、甘いわね。ダーリンをそんじょそこらの生徒と同じにしてもらっては困るわ。彼はね、アニメとゲーム三昧の毎日でリアルな性は受け付けない体になっているのよ!」


「いや、ここも二次元だから全然いけると思うけど」


「うるさーい!童貞の癖に妙に手慣れたエスイーエックスをするエロゲ系主人公が!私はあんたをそんな風に育てた覚えはありません!」


このまま岡と馬鹿な掛け合いを続ければ、蓮さんとやらは退散してくれるだろうか。

だが、彼女は相変わらずの微笑みでこちらを見つめている。


「ふふっ、面白いカップルね」


「いや、付き合ってないから」


「ダーリン、ここは嘘でも付き合ってるって言いなさいよ!食べられちゃうわよ!」


「別にいいわよ、恋人がいるのならそれはそれで余計に燃えるわ」


そう言うと更に俺への距離を詰める蓮さん。

淫乱カウンターが振り切れるほどのこのピンク色のオーラ。

俺、駄目かもしんない。


「悪いな、俺は心に決めた人がいるんだ。大丈夫、キミならいくらでもイイ男を選び放題だからさあふん」


なんとかして彼女を遠ざけようとしていると、彼女は突然、椅子に座る俺をその豊満な胸で抱き締めた。


――ここは、どこだろう。

暗く温かい海の中に居るような、ずっと浸っていたい感覚だ。

だが、それも長くは続かず、俺は海から引き上げられる。

眩しく騒がしい世界、そして俺はすぐに何かに包まれた。

皆の泣き声の中で産声を上げながら。


「ま、ママぁ」


「あら、甘えん坊さんね」


「なにやってんのよっ!」


産まれた時の感情に浸り赤ん坊に退化していた俺だったが、唐突に聞こえた岡ではない誰かの怒声とともにサキュバスの抱擁がぱっと解かれる。

その刹那、衝撃と共に俺は吹き飛ばされた。


「ぐえ」


甲高い怒鳴り声とこの身に感じる鋭い痛み、間違いない。


「ち、ちーちゃん!?」


そこには仁王立ちをした野薔薇さんの姿があった。

どうやら怒り心頭の彼女に蹴りをかまされたようだ。

これは、カオスなことになってきたぞ。


「随分と危ないことをするじゃない」


「あんた、他人の男に手を出しておいてタダで済むなんて思っていないでしょうね」


「まぁ、草食系っぽいのに二股だなんて中々やり手なのね」


ああもう、説明するのも面倒くさい。


「仕方ないわ、ここは素直に退散しましょう」


どう収拾をつけようかと悩んでいたところ、意外にも蓮さんは素直に退散していく。

しかし、俺はここで気づくべきだったのだ。

去り際の彼女の瞳が怪しく光っていたことを。



次の日の朝。

今日は野薔薇さんに出会うことなく登校する。

時間が経つにつれて次第に快復に向かっているのだろう。

ホッとしたような、少しだけ寂しいような。

そんな煮え切らない気持ちで玄関の下駄箱を開く。


「ん?」


上履きの上に白い封筒がある。

裏を返すと、そこには赤いハートマークのシールが貼られている。

まさか、これは、ラブレターか!?

いや、喜ぶのはまだ早い。

最近の非日常的な出来事の連続を鑑みると、これも何かの罠の可能性も十分ある。


しかし、とりあえず、中身を読まないことには始まらない。

俺は手紙を手にしそそくさとトイレへ向かい個室に入る。

早速、封筒を開くと、中には薄ピンクの便箋が収められていた。

そこには可愛い丸文字でこんなことがしたためられている。


『はじめまして。突然こんな手紙を書いてごめんなさい。でも、もうこの気持ちを抑えることができませんでした。単刀直入に書きます。あなたのことが好きです。ずっと、入学した時からあなたのことを見ていました。物憂げな姿も、つまらなさそうに窓の外を見つめる姿も、そんな、誰よりも優しかったあなたを。だから、友達からでもいい、もし私に会ってくれるのなら、今日の昼休みに校舎裏に来てください。』


う~ん、手紙を入れる下駄箱を間違えたんじゃないのか、これ。

しかし、文頭にはしっかり俺の名前が記されている。

……むふっ。


上機嫌になった俺はトイレから勢いよく飛び出し、雨に唄う名作映画の名シーンのように踊りながら廊下を進み教室へと向かう。

最近、自分の大事な羞恥心のタガが外れているような気もするが気にしない。

人生を彩る出来事はこのくらいの心構えでいないと見逃してしまうのだから。

最初と性格が全然違うなんてツッコミは駄目だぞ。



岡や南出に悟られないようにウキウキを抑えながら過ごし、ようやく待ちに待った昼休み。


「ちょっと、どこ行くのよ」


「悪い、下痢だ」


「あっ、はい」


授業終わりにいきなり立ち上がる俺を不思議に思った岡が話しかけてくる。

だが、ここまで言えばこれ以上追及されることはない。

俺は急いで校舎裏に向かった。



青い空の下、肌を撫でる風が草木を揺らしている。

祝福を謳う小鳥の囀りに身を委ね、俺は今この生命を鮮明に感じている。

胸いっぱいに空気を吸うと春の瑞々しい香りが全身を巡っていく。

さぁ、心の準備は整った。

いつでも来るがいい。


「あっ」


「うふふっ」


なんと、そこに現れたのは蓮さんだった。

まさか、ここまでしつこいとは。

昨日の恐怖心も新しく逃げたい気持ちは山々だが、将来の恋人のためにも退くわけにはいかない。


「あの、今からここで青春の一大イベントがあるんで、別の場所に行ってもらってもいいっすか。ほんと、これが終わった後ならいくらでも付き合いますから」


「え?あなた、勘違いをしていないかしら」


「は?……ま、まさか」


「あの手紙を出したのは私よ」


俺はショックのあまり泣き崩れる。


「よくも騙したな!!騙してくれたなぁ!!」


「あら、騙すだなんて人聞きが悪い。あの手紙の内容は本当よ」


「そんなわけない!読んでた時は浮かれて気づかなかったが、あんな薄っぺらい内容で誰かを好きになるわけないだろ!お前はそうやって男の純情を弄んできたんだな!」


「私、誰かに好きって言ったことなんてないわよ」


「嘘をつくなっ!こんなの、あんまりだ。俺だって、生きているんだぞ、玩具じゃないんだぞ!」


四つん這いになった体勢のまま泣きわめく俺。

いや、ショックは大きいが、今はこの場を切り抜けることを考えなければならない。

諦めるな、気持ちを切り替えるんだ。

そうだ、前向きに考えろ。

これだけ個性的な奴らと関わってきたんだ、俺の女性に対する経験値だって相当上がっているはず。

ここを乗り越え普通の女生徒にアプローチすれば新たな道が開けるかもしれない。

俺は決死の力で立ち上がる。


「そんなに深く考えずに、お試しで付き合ってみればいいじゃない。私、特定の誰かと恋仲になったことなんてないの。きっと、皆の羨望の眼差しを集めちゃうわよ」


「バカヤロウ!数多の恋愛ゲームをクリアした俺が、自分のステータスのために誰かと付き合うわけないだろうが!!」


「な、なに本気になってるのよ」


「くそ、どいつもこいつも頭のおかしいやつらばかり集まりやがって!俺はただ何気ない話をしながら一緒にお昼とか下校デートとかしたいだけなのに!もう怒ったぞ、俺は帰る!」


「いや、逃がさないわよ」


彼女の強力な腕力に引っ張られ校舎の壁に押し付けられたと思えば、そのまま壁ドンされる俺。

男の癖に情けない、なんて考える余地がないほど彼女の力は常軌を逸している。

この細い腕のどこにこんな力があるのか。


「どうしてそんな必死に逃げようとするのかしら。本当に聞き分けの悪い子ね。このまま犯しちゃおうかしら」


「あの、レイプは立派な犯罪だって、知ってます?」


「大丈夫よ、終わった後はみんなアへ顔になるのだから。知らない?アへ顔は究極の和姦って言葉」


「し、知りません」


ええい、こうなったらヤケだ。


「あ、歯にネギが挟まってますよ」


「えっ、うそっ!」


もちろん嘘だが、思春期の女性には絶大な威力だ。

口を抑えた彼女の隙をついて壁ドンから抜け出し逃走する。

そして全力疾走して校舎裏から脱出しようとするも。


「待ちなさい」


蓮さんに先回りされ、足を絡め取られ今度は強引に地面へ押し倒される。


「まったく、レディにあんな失礼な嘘をつくなんて、覚悟はできているのかしら?」


顔が近い。

悔しい、でも興奮しちゃう。


「嫌だ!死にたくなーい!」


「大丈夫、優しくするから」


ああ、父さん、俺、こんな形で童貞を失いたくないよ。


『――息子よ、聞くがいい』


突然、どこからともなく声が聞こえ、真っ白になった脳内に父さんの姿が浮かんでくる。


『ピンチのようだな。私が、この状況から救われる方法を教えよう』


もしかして、バトル漫画よろしくありがたい助言でもくれるのか?


『逆に考えるんだ、やられちゃってもいいさと』


父さん!?


『大体、父さんは今まで生きてきてこんなうらやまけしからんな経験はしたことがないんだぞ。それなのにお前ときたら、なんの努力もなくこんなおいしい思いをしやがって』


と、父さん!?


「あら、抵抗しないってことは、そういうことでいいのかしら」


現実逃避している間に、どんどんと顔の距離を詰めてくる蓮さん。

作戦変更だ、多少強引でもやってやれ!


「どうせ、何やっても無駄だしな」


「ふふっ、素直な子は好きよ」


そして、俺の身体をいじろうと手を伸ばしてくる彼女。

しかし、俺はそれに待ったをかける。


「待ってくれ、俺、初めては男らしく女性の服を脱がせてから始めたいんだ」


「そう?意外と積極的なのね」


彼女の気が緩んだことを確認し、その服を脱がそうと首元のシャツのボタンに手を伸ばした。

と見せかけ、俺は彼女の制服の襟を思い切り掴んだ。


「巴投げ~!」


「きゃっ!」


華麗な巴投げで彼女を投げ飛ばし、再び逃走する。

そしてついに、校舎裏からの脱出に成功する。

これ以上、彼女が追いかけてくる様子もなく上手く脱出できたようだ。

女性に乱暴するのもどうかと思うが、レイプされそうになったのだからこのくらいの抵抗は許してくれ。



「はぁ~」


心身ともに疲弊した俺はぐったりと机に突っ伏し午後を過ごした。

腹痛でぐったりしていると勘違いされたのか、岡もいつになく大人しかった。


「ダーリン、大丈夫?私に何かできることとか、ある?」


「いや、大丈夫。ありがとう」


やめてよ、今優しくされたら好きになっちゃうじゃん。

それに、蓮さんに比べたら岡の方がまだマシに思えてしまう。

ああ、とりあえず、岡と付き合えばあの悪魔からは逃げ切れるんじゃないのか。

いや、待て待て、正常な考えができなくなっているぞ。


「もう帰るわ」


「う、うん。送っていこうか?」


「いや、大丈夫」


そうして席から立ちあがった時。


「お、おい、あれ」


帰宅間際のクラスメイトたちが急に怯え慌て始める。


何事かと皆の視線を辿ると、教室の入り口にどす黒いオーラを纏った蓮さんが立っていた。

その圧にあてられ、クラスメイトの皆は急ぎ次々と反対の扉から退室していく。

そして、肝心の蓮さんは笑顔を貼り付け無言で俺を目掛けて早足で歩いてくる。


「お、岡、助けてくれ」


最後の望みとそう話しかけるも、素知らぬ顔で帰ろうとしていた岡。


「おい、俺を見捨てるのか!さっきはあんなに優しかったのに!」


「私、まだ死にたくないもの!」


「俺がここで死んだら、お前はもうメインヒロインになれないんだぞ!」


「ダーリンがいなくなったらそれはそれで第二第三の主人公が現れるもんでしょ」


「薄情者ぉー!」


「随分と、楽しそうなことをしているわね」


そんなやり取りをしている間に俺の下へ辿り着いた蓮さん。

こわい。


「さっきは随分と手荒な真似をしてくれたわね」


「ごべんなざいぃぃ」


お前が言うな、とツッコミたかったが、頭より先に身体が屈してしまい土下座してしまう俺。


「別に、怒っている訳じゃないのよ。乱暴なのも嫌いじゃないし。でも、あそこまでしたのなら責任は取ってもらわないとね」


「いやいや、こんなクソDV男は放っておいて、新しい恋を見つけに行きましょうよぉ。大体、なんでこんな冴えない男を標的になさるのですかぁ」


自分で言って情けなくなったが、これだけ人気のある彼女がどうしてここまで俺に執着するのか気になる。


「う~ん、あなたに分かりやすく例えるなら、そうね。ゲームをクリアした後、やることがなくなったからキャラ図鑑を埋めようとしてる、ってところかしら」


「あ、すっごくわかりやすい。じゃなくて、ただの暇つぶしじゃないか!」


「あの、なにがあったか知らないけど、一旦落ち着こう?」


人生の終わりが刻一刻と近づいている中、さっきまでアワアワしていた清楚さんが気を使って割り込んでくれる。

ああ、救いの女神、結婚してくれ。


「あなたは、ああ、清楚さんね。噂は兼ね兼ね聞いてるわ。ずっとお友達になりたいと思っていたの」


「え、えっと、今はそんな状況じゃ」


「でもごめんなさい。先に彼と話をつけないといけないから」


「は、はい」


いつものように暴走して場をかき回すこともなく、あっけなく撃沈する清楚さん。

今の蓮さんの圧力にはそれだけの凄みがある。

――もう、終わりだ。

頼みの綱が切れ全てを諦めかけた時、騒々しい音を立てながら煙を巻き上げ、俺の前に何者かが現れた。


「優!助けに来たわよ!」


「ち、ちーちゃん!?ど、どうして」


「今度は私が守る番だからっ!」


「ちーちゃん……」


再び、野薔薇さんが来てくれる。

しかし、彼女の脳内ではどのような物語が醸造されているのだろう。

助けてくれるのはありがたいが、先に病院に連れて行ったほうがいい気がする。


「あんたが何者かは知らないけど、コイツに手は出させないわよ!」


「あら、それは誤解だわ。先に手を出されたのは私なのだけど」


「いや、嘘をつくんじゃ」


「あんなに痛くされたんだもの。責任を取ってもらおうと思ってね」


その言葉を聞いた途端、野薔薇さんがこちらを振り向き俺を問い詰める。


「ちょっと、どういうことよ!あんたまさか、私というものがありながらあのビッ、うっ」


野薔薇さんがこちらを向いた隙を狙い、蓮さんがこちらへ一瞬で近づく。

そして、膝から崩れ落ち意識を失う彼女。

どうやら、成功率が極めて低く危険度が高い首への素早い手刀を一発で決められたようだ。

俺でなきゃ見逃しちゃうね。


「さぁ、観念しなさい」


「ちょい待ちぃや!」


次に現れたのは、何故か制服のボタンを外し始めている南出だった。

まったく、頼もしい奴らだぜ。


「そんな童貞を相手にするより、ウチのほうがええで?本場関西仕込みのツッコミを見せてやるで!カッコ性的な意味でカッコ閉じる!」


いいぞっ、思い返せばお前はいつも俺の味方だったな。

南出、俺はいつだってお前を応援しているぞ。


「抱けぇ!!抱けっ!!抱けーっ!!」


「よっしゃぁ!よいこのみんなは今すぐ読むのをやめるんやで!」


蓮さんに勢いよく近づいていく南出。

しかし、その健闘も空しく顎に鋭いジャブを入れられ前のめりに倒れる南出。

居合の達人が放った一振り、ガンマンの目にも見えない銃撃、それらを連想するほど冷たく重い命を奪う技。

思わず俺は震えあがる。

だが、その悪寒とは別に、二人の屍を前にして俺の心には熱い怒りが湧き出していた。

付き合いが長いわけじゃない、それでも、俺たちは友達だった。

これからも日常を共に過ごしていく友だった。

心臓の鼓動が全身に響き血液を巡らせていく。


「清楚さん、ふ、二人をたのむ」


倒れた二人を彼女に任せ、足に力を込めて一気に踏み出す。

初っ端からトップスピードで、俺は、全力で逃げた。


「なんでやねん!」


南出の力を振り絞ったツッコミが聞こえるも、振り返らずに教室の外へ。

廊下、玄関、校門、それらが残像となって消えていく。

このまま家に帰ってもいいが、彼女のことだ、これは好機と俺の部屋へと乗り込んでくるだろう。

そう走りながら思考を巡らせ、俺が行きついた先はこの町の交番だった。

息を切らし駆け込んだため、慌てた様子で警官がこちらへ話しかけてくる。


「どうした、何か事件か!」


「え、えぇ、ぜぇ、そうなんですよ、はぁ、俺、殺されそうに」


「あ、咲姫ちゃんじゃないか!!」


唐突に警官が上げた声に後ろを振り向くと、そこには息を切らすこともなく平然とした様子で蓮さんが立っていた。

この化け物が。

しかし、このお巡りさんの反応はどういうことだろうか。


「久しぶりじゃないか!ああ、公務中でなければ、いや、公務なんてどうだっていい!咲姫ちゃん、本官の夜の警棒が限界であります!」


「あら、焦らないの。あなたは公僕らしく尻尾を振って待っていればいいの」


「ブヒィィィィ」


言い表せぬ恐怖を感じた俺は急いでその場を離れる。

そして、横っ腹を痛めながら次に向かった先は商店街。

今はちょうど仕事終わりの人や学生たちで賑わっている時間帯だ。

さすがにここなら、彼女も下手なことはできないだろう。


「はぁ、はぁ」


「兄ちゃん、大丈夫かい」


膝に手をつき息を整えていると、筋骨隆々で高身長のスキンヘッドオヤジに話しかけられる。

彼は確か、この商店街で有名な八百屋マッスルの店主だ。


「だ、大丈夫です」


「あら、鬼ごっこはもう終わりかしら」


再び、後ろに蓮さんが現れる。

ここまでは予想済みだ。

だが、こう人が多くては何も手は出せまい。


「おっ!おうっ、咲姫ちゃん、久しぶり」


「ええ」


「相変わらず別嬪さんだな。どうだい、久々におじさんのズッキーニを味わってみないか」


「ごめんなさい、今はこっちの彼に用があるの」


「かぁ~っ!羨ましいねぇ。よっしゃ、兄ちゃん、ニンニクでも買っとくかい?なんてな!」


そう言ってガハハと笑うおっさん。

本当に、この蓮咲姫という人物は何者なんだ。


「おじさま、ちょっと相談なのですけど、ここのお部屋、貸してもらえます?」


俺の腕を掴みおっさんにそう告げる彼女。


「ぬわーっ!」


「きゃん!」


命の危機に瀕した俺は空いた手で蓮さんのわき腹を軽く突く。

パッと腕が解放されたので、その瞬間を見逃さずに走り出す。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


心の底から叫び声をあげ、俺は走る。

ここは、俺の知っている世界じゃない。

思えば岡と出会ってから、この世界は急におかしくなり始めた気がする。

何事もなくつまらなかったあの頃の世界が、今ではとても愛おしく感じる。


そして、どれだけ走っただろうか。

夕日に照らされた見知らぬ河川敷で、心臓が破裂しそうになっている俺は仰向けに倒れこんだ。


「ここで、終わりかしら?」


「ああ、ゲームオーバーだ」


疲れで弛緩した俺の身体に、当然のように現れ自らの身体を重ねてくる蓮さん。

その感触、うっすらと汗をかいてより強くなった匂い、彼女の全てが俺を狂わせる。


「安心して、あなたはじっとしているだけでいいから」


俺の両手に指を絡める彼女。

そして、彼女の唇が近づいてくる。

みんな、さよなら。


その時、不思議なことが起こった。

俺は全てを諦め目を閉じていたが、何も起こらず川のせせらぎが響いていた。

どういうことかと目を開くと、彼女は大きく目を見開き硬直していた。

その視線を追うと、なんと、彼女の右手の上に可愛らしいアマガエルが乗っかていた。


「ゲコッ」


「いやぁぁああああ!」


バッと俺から離れ、目にも留まらぬ速さで地平の彼方へと走っていく蓮さん。

助かったのか?


地面を見つめると、そこには誇らしそうにしたアマガエルがいる。

そんな、そんな小さい身体で、あの強大な悪から俺を助けてくれたのか。

なんと、勇気と気品に溢れた姿だろうか。


「あ、愛しているぞぉーーー!!」


俺は泣きながら愛を叫んだ。



今、俺の机の上には虫かごがある。

土と申し訳程度の草が入った、愛しのカエルちゃんの住処が。

もちろん、霧吹きも忘れちゃいない。


昨日の出来事で本当の愛を見つけた俺は、つい学校にあの時のカエルを連れてきてしまった。

命名、ボナンザ。

クラス中から横目で歪なものを見るようにチラチラと注目されているが、これであの魔の手から逃れられるのなら安いものだ。


「ちょ、ちょっと、そんな気持ち悪いものを持ってこないでよ」


愛しのボナンザと見つめ合っていると、隣の岡がとんでもない声掛けを行ってしまう。


「あ"あ"ぁん!?俺の愛しい人に対してなんつったよ!」


「ヒイィィィ」


落ち着け。

事情を知らない彼女には何も理解できないだろう。


「ゴホンッ、紹介しよう、俺の恋人ボナンザだ。可愛いだろう?」


「なにいってんだこいつ」


「この子と俺はきっと、前世で恋人同士だったんだ。来世でも一緒になろうって、こうして会いに来てくれたんだ」


「だめだこりゃ。くふぅ、普通の主人公だと思って手を出したのに、ここまでイかれてたなんて」


「なんとでも言え、俺はこいつと一緒に生きていくんだ」


よよよと泣く岡を気にもせず、愛しのボナンザを眺める。

緑のつやつやした肌にくりくりした大きい目。

ああ、一生見つめていたい。


しかし、ホームルーム間近に現れた担任のヒゲ先に目をつけられる。


「お前、なに持ってきてんだ」


「恋人です」


「はぁ?許可もなしに生き物なんて持ち込むな。没収」


「ボナンザァァァァァ!!」


俺の叫びは虚しくこだました。



昼休み、蓮さんから身を守る手段を失った俺たちは今、文芸部で作戦会議をしている。

題して、『現代に現れたサキュバスから身を守ろう!』の会である。


「なんでわざわざここでやんのよ!」


「蓮さんから身を隠す場所がここしか思いつかなくて」


俺と岡、南出が押しかけ、野薔薇さんは大変ご立腹である。


「え~でわでわ、あの蓮咲姫とかいうサキュバスにどう対処するか考えていきたいと思う」


「はぁ、別に気にしなきゃいいじゃない。たかが女生徒一人でしょ」


「あいつが登場してから私の影が薄くなってるのよ!由々しき問題だわ!」


確かに、彼女が現れてから岡と過ごす時間は極端に減っている。

本来なら喜ぶべきところだが、事態が事態なだけに解決しなければどのみち終わりだ。


「しかし、どうしようか。カエルが弱点みたいだから、そこを責めるか?」


「別にいいけど、誰がやるの?下手なことしたら後が怖いわよ」


「そりゃもちろん、南出が。お前なら彼女に責められるのも快楽になるだろ?」


「ウチをなんやと思っとるんや!こう見えてもアレは未経験なんやで!」


へぇ。


「いや、そんなことはどうでもええねん!ウチに秘策があるんや!」


そうして南出の口から出た作戦は不安要素が満載の作戦だった。

しかし、他の案も思い浮かばないので、いやに自信満々の彼女に賭けるしかない。


「放課後、あそこにあの悪魔を誘導するで」



放課後、俺は蓮さんがいるクラスの前に立っている。

特定の場所におびき出す、それだけでも一筋縄でいかないだろう相手。

今まではただ逃げ回るだけだったが、今回はあえてこちらから攻め入らなければならない。


しかし、震える身体に喝を入れ深呼吸をし息を整えいざ行かんと足を踏み出したところで、蓮さんのクラスメイトと思われるガチムチ男生徒から話しかけられる。

早速のイレギュラーだ。


「貴様、見ない顔だがここに何用だ」


「何って、ただ蓮さんに会いに来ただけだ」


「ムッ!?咲姫様に用だと?貴様、咲姫様とどういう関係だ!」


なんだこれは。

もしや、昨日の交番や商店街で見たような異常な事態が、このクラスでも起きているのか。

それを確かめるためにも、そうっと入り口に立ち塞がるガチムチの脇から中の様子を覗くと、そこは。

教室の後方に歴史やファンタジーでしか見ないような、あまりにも異質な玉座があった。

そこには足を組んで肘置きを使い頬杖をつく蓮さんが座っている。

そして、その前には男女問わずの生徒らが群れており、彼女の足元には何人かの生徒が跪いている。

夕日が差し込む教室と言えば青春の常套句だが、この教室においてはそんな要素が全く存在しない。

眩暈がしてきた。


「咲姫様との謁見は予約制だ。この予約表に記入してまた後日来るがいい。今だと、百日は待つな」


ああもう、めんどくせぇ。


「お邪魔します」


「あ、おい、貴様!!」


ガチムチの脇をスッと抜け教室内へ。

こうなりゃヤケだ、向こうのペースに飲まれる前に行ってやれ。


「なんだお前、列に並べ!」


「不敬罪だぞ!」


蓮さんに近づくほどに群がる生徒たちから怒声が上がる。

だが、そんなものもお構いなしと強引に群れを掻き分け彼女のもとへ。


「あら、あなたから来てくれるなんて意外ね。カエルでも持って復讐しに来たのかしら」


「そんなことしたら後が怖いからな。丸腰だよ」


「そう、せっかく強引に襲う口実ができると思ったのに。ちょっと残念だけど賢明な判断ね」


「何もなくとも、強引だろう」


そこまで話したところで、彼女の元に跪いていた生徒が立ち上がり、いきなりこちらの胸倉を掴みかかってきた。

それに続き、他の取り巻きも俺を囲むように立ちはだかる。

おいおい、そんなことをされたら、陰キャの俺の足は生まれたての小鹿のように震えちまうぜ?


「お前、なに咲姫様に馴れ馴れしく話しかけてるんだ。殺されたいのか?」


「なななな、何を仰いますか。そんな物騒な」


一人ならまだしも、こう囲まれてしまっては突破するのも難しい。

しかし、ここまできて尻尾を巻いて逃げるのも格好悪い。


「おい、とにかくつまみ出せ、痛みつけても構わん」


「そうだな。二度とこんな馬鹿げたことを」


「――黙りなさい」


周りが一気に静まり返る。

静かだが全身を震わすほどの圧がある一言。

その蓮さんのたった一言で、教室内の全員が誰一人として口を開くことはなくなった。

今までの怒気とは違う、殺気を孕んだ恐ろしい雰囲気だ。


「いつまで彼の胸を掴んでいるの?あなた、殺されたいのかしら?」


「ももも、申し訳ありませんでしたぁっ!!」


酷く青ざめた様子で俺を解放する男。

怒られた当事者でなくともちびりそうなこの迫力、やはり、下手なことをして彼女の怒りを買ったら絶体絶命だ。

ああ、さっきの意気込みも委縮し、俺の足は早々に撤退を選んでいる。


「お取込み中みたいなんで、また日を改めます」


「気にしなくていいわ。せっかくあなたが来てくれたんだもの、おもてなしさせてちょうだい」


「い、いや、お構いなく」


「そう。で、何用かしら?」


「きょ、今日はその」


恐怖でうまく口が動かず吃ってしまう。

ええいままよ。

自分の頬を叩き再び喝を入れる。


「ふふっ、かわいいわね」


「お、おほん。単刀直入に言うと、蓮さんと放課後デートをしたいなぁなんて」


「あら。あれだけ嫌がっていたのに、どういう風の吹き回しかしら?」


「もう逃げ切ることは不可能だとわかったんだ。だから、いっそ向き合うことにしたんだ。俺たちが友達になれば、あんな無茶なこともできなくなるだろ?」


「純粋ね。でも、あなたと私が対等だと思ってもらっては困るわね。私は狩人、あなたは獲物、その関係が覆ることはないわ」


「ふっ。こんなにイケメンなのに童貞な俺に不思議な魅力を感じたのかもしれないが、まさかそこまで思っていてくれたとは、罪深い男だぜ」


「イ、イケメン?あなたのお家には鏡がないのかしら。ただ、私にとって都合がいいチョロそうな人だったから狙っただけなんだけれど」


哀れなものを見る目で見られる俺。

くそ、どうやら雑談をしていても平行線のままのようだな。

そうだ、こんな時のために強力な助っ人が用意されていたではないか。


「ちょっと失礼」


俺は後ろを向き携帯を取り出し、別室で待機しているはずの岡に連絡を取る。

彼女も自分の存在意義のために、なんとかして蓮さんを討伐しようと協力してくれているのだ。


「もしもし、岡か。早速お前の出番だ」


『ふふん、ついに私の活躍の場ができたってわけね。ポッと出の奴なんかには及ばないメインヒロインの地力を見せたるわい!』


ピッと通信が切れるや否や、教室の外からドドドドドとけたたましい音が鳴り響く。

そして、岡がミサイルのようにここへ飛び込んでくるのだろうと思いきや、一時してバコンッと扉を激しく開ける音が、なぜか遠くで聞こえた。


「待たせたわね、ダーリン!」


続いて、廊下の方から壁一枚挟んだような音量で岡の叫び声が聞こえた。

あいつ、教室を間違えたな。

そしてもう一時して、俺らがいる教室の扉をガラガラと開けて入ってきたのは顔を真っ赤にした岡だった。


「し、失礼しまう。あうぅ」


「岡、お前……」


「やめて、何も言わないで」


すっかり意気消沈し、トボトボとこちらに近づいてくる岡。

周りの生徒らの間にも微妙な空気が流れている。

これは期待できそうにない。


「なにやってんだ、ここ一番なのにこんな恥ずかしいミスをするなんて」


「あうぅぅ、はい、そうですね。今日はもう帰ってもいいっすか。もう家に帰って布団被って悶えたい気分と言いますかぁ、そんな感じでぇ」


「待て待て!もしお前が助けてくれるのなら、メインヒロインっぽいイベントをやると約束しよう!一回だけだが!」


「いや、もう無理ですぅ。思春期の女の子には耐えられない恥ずかしさなんでぇ、ごめんなさいぃ」


そのままトボトボと教室を後にする岡。

取り残された俺は、どうすればいい。


「それで、どうするの?」


こちらをニヤニヤした顔でこちらを眺める蓮さん。

ああ、くそ、段々腹が立ってきたぞ。

どうしてこんなことで俺が一々頭を悩ませなければならないんだ。

もう考えるのも面倒くさい、男なら強引にいったれや!


「こうするんだよ!」


「あら」


蓮さんの腕を掴み強引に引っ張る。

ここで抵抗されるかと思いはしたが、彼女は椅子から立ち上がり素直に俺に身を任せている。

このまま、南出の作戦のポイントまで連れて行ってやろう。


「こんなことされたの、初めてだわ。あなたは、私にいくつもの初めてをくれるのね」


「あーあー、聞こえなーい」


無駄に精神をすり減らしたくはないので、何も聞こえないふりをして蓮さんと教室から飛び出し廊下をツカツカと歩く。

取り巻きの群衆たちが妨害しなかったのが幸いだ。


「それで、私はどこに連れていかれるのかしら」


「着いてからのお楽しみだ」


そして、下駄箱前に到着したところで。


「おう、四十竹。ちょうどよかった、このカエル持って帰れ。もう学校に持ってくるんじゃないぞ」


一旦、蓮さんの手を放し応じると、そのままヒゲ先は俺にボナンザが住む虫かごを手渡し去っていった。


「あ、あなた、それは」


「あ、いや、俺はほら、いきものがかりだから」


「そんな係、この学校にあったかしら?」


「ダーリンダーリン心の、扉をこわしてよ~」


「は?」


「なんでもないです」


誤魔化すために岡のネタを拝借するも、なにも伝わらなかった。


「まったく、そうまでして私を遠ざけたかったの?」


「そんな人聞きの悪い。見てよこの愛らしさ、誰だって好きになっちゃうぜ」


そうして何気なしに虫かごの蓋を開ける。

すると、何を思ったのかボナンザは世紀の大ジャンプを披露した。

着地点は、蓮さんの額。


「あっ」


時間が止まったように硬直した彼女は、そのまま膝から崩れ落ち声もなく気絶した。

やっちゃったよ。

ボナンザはそのまま玄関から外へと消えていった。

ありがとうボナンザ、短い間だったけど、キミのことは一生忘れない。


「あ~」


これは、どうしたものか。

とりあえず、今日のところは南出の作戦は中止か。

今回の作戦のために交換した連絡先から、彼女に電話する。


『はぁ?どういうことやねん!!こっちは既にバーガーを千個作ってもらってるんやで!料金もあの悪魔に押し付けようと思うてたのに!』


「悪い」


『ちょい待ち――』


強引に通話を切る。

そう、今回の作戦はあのハンバーガーショップのサイコパスな店員に蓮さんをぶつけるというものだったのだ。

目には目を、歯には歯を、あの店員から彼女へトラウマを植え付けてもらい、また彼女に襲われそうになった場合は宅配であの店員を呼び出すという、南出の経験から産み出された作戦。

今思い返せば滅茶苦茶なものだが、あの煮詰まった会議ではそれがベストに思えていたのだ。


「はぁ」


やはり、ここで無茶をするよりは、彼女と仲良くなる作戦を練ったほうが一番現実的な気がする。

獲物に情が沸いて狩ることができなくなる、そんな感動話でお決まりの展開を期待しよう。

ということで、仕方がない、俺が責任をもって彼女を自宅にまで送り届けるか。

家の場所はわからないが、この街に根を張った彼女のことだ、道行くおじさんらに聞けばわかるだろ。


そうと決まれば、早速俺の上着を彼女の腰に巻きおんぶする。

男性諸君、女性になれていない俺がどうしてこんな積極的なことができるのか不思議だろう。

普通なら保健室にぶち込むなり教師に任せておけばいいだろうと、常識的に考えるとそうなる。

でも、憧れがあるじゃん?

女生徒を背負って帰るなんて青春じゃん?

退屈な日常から抜け出すには、自分で行動しなけりゃならないんだぜ?


「おふっ」


なんて格好つけてみたはいいものの、彼女の柔らかい感触に今にも爆発してしまいそうになる。

加えて鼻腔をくすぐる甘い匂いだ、俺のマグナムが火を吹くぜ、なんちゃって。

我慢我慢、俺が今背負っているのはただの大きいマシュマロだと思おう。


平静さを努めて保ち校舎の外へ。

こちらに視線を向ける、ちらほらいる生徒たちから驚きや好奇が漏れているのでそそくさと無心で足を動かす。


そして、あてもなくぶらぶら歩くこと二十分程度だろうか。

そこらの人に尋ねれば、誰かしら蓮さんのことを知っているだろう、彼女をこうして背負っていれば誰かからアプローチがあるだろうと思っていたが、収穫なし。

昨日の交番にも誰も居らず八百屋も休業していたため、行く当てを失った俺は途方に暮れながら疲労を抱え歩き、偶然にも再び、あの夕日差し込む河川敷を訪れる。


「ぐえっ」


突然、蓮さんが首に腕を回し軽く絞めてくる。


「これはいったい、どういうことかしら。返答次第では、ただじゃおかないわよ」


目覚めた蓮さんにそう耳元で告げられる。

首に冷たいナイフを突きつけられたような感覚。

ここで言葉を間違えたら、俺は死ぬだろう。


「いや、違うんすよ。カエルの件は、完全な誤解でして、へぇ、偶然ああなったんですよぉ。で、本当に申し訳ないなってことで気絶されたあなた様を家まで送ろうとしてたんですけど、その、家の場所知らなくて。蓮さんは顔が広いから適当にその辺の人に聞いて回ればわかるかなぁって算段でして、へい。あ、でも、目覚めたんならもう大丈夫っすね。すぐ下ろすんで失礼しました」


そうして急ぎ腰を下ろすも、なぜか彼女は降りる様子がない。

無理やり下ろそうとしても、首に回した腕を離してくれそうにもない。


「そう。それなら、責任をもって最後まで送ってもらおうかしら」


「いやいや、そんな、俺みたいな下っ端がお姫様を背負うなんて、分不相応でさぁ」


「いいから、言うことを聞きなさい」


「……はい」


俺、情けない。

一時の感情に流されてこんなことをするから、こうなるんだぞ俺。

そうして再び歩き出すと、彼女は耳元で話し出す。


「でも、不思議ね。あんなに私のことを避けていたのに、こんなことをするなんて」


「いや、言ったじゃないか、向き合うことにしたって。それに、俺が襲われないようにする作戦も思いついたし」


「どんな作戦かしら」


南出考案のものとは別の、俺なりに彼女の被害から逃れる方法。

彼女には下手に隠し事をするよりも、いっそ全てを正直に話してしまった方がベターだろう。


「蓮さんは、人生に退屈してたんだろ?ゲームをクリアした、なんて言ってたけど、退屈だからいろんな奴に手を出している」


「そうね」


全ての人類を手玉にとれそうな彼女の高スペックさをもってすれば、さぞやこの世界はヌルゲーに違いない。


「さっきのクラスを見て思ったけど、蓮さんには対等な人がいないんだ。友達ゼロ人状態、ボッチ陰キャだった俺と同じだ。それじゃあ、この世界がつまらないのは当然だ」


「……そうね」


「それなら、簡単な話、対等な友達を作ってしまえばいい。だから、俺が協力してやるよ。自分のためにも、世の童貞諸君のためにも」


落とし所としてはこんなもんだろう。

彼女の友達という高いハードルも、清楚さんにでも頼めば簡単に越えてくれそうな気もするし。


「あなたが友達になるという選択肢はないのね」


「そりゃ、あんなことをされた後ですから。それに、俺はユニコーンだし」


「あら、心外ね。私、処女なのに」


「うっそだぁ」


さて、話も一通り終わったところで、蓮さんに自宅への道案内をお願いし歩き出す。

幸い、進む方向はあっていたようで、日が落ちる前には到着できそうだ。


「それにしても、あなたは何も聞かないのね」


「何を?」


「私のこととか。普通、あんな常識外れのことをしていたら気になりそうなものだけれど」


岡との出会いによってだいぶ感覚が麻痺しているため、アニメの中の出来事のようにおかしな出来事もスッと受け入れている自分がいたのは確かだ。

それに。


「いい男の条件ってのは、例え、レディにどんな事情や過去があろうと受け入れることだからな」


「それはそれで寂しいわね。女心のわからない独りよがりな考えだもの」


「やめろ、その言葉は俺に効く」


せっかく格好つけて発言したのに、予想外の反撃を食らうなんて。


「別にいいわ。私のことを勝手に話すから、気にしないでちょうだい」


「えぇ……」


彼女を背負った状態では耳をふさぐこともできず、勝手に話が耳に入ってくる。


「私ね、物心ついた時から人の顔色を窺って生きていたの。きっかけは覚えていないけど、親や友達、先生にも、とにかく感情を押し殺してね。元々、引っ込み思案で大人たちの存在も怖かったし、それが私の処世術だったの」


「はぁ」


「でも、ある日、私が小学生の頃ね、街中でSMプレイをしている男女を見かけたの。女王様と四つん這いの半裸のおっさんがね。で、そのおっさんていうのが、学校で偉そうにしていた教師だったの」


とんでもない話だな。


「それを見て、今まで大人に怯えて生きていたのが馬鹿馬鹿しくなってね。で、色々と学んでいくと、こんな金と性欲に塗れた人間たちに、なんで媚びを売って生きていたんだろうって結論に至ったの。同時に、そんな大人たちしかいないこの世界に対して虚しさを感じたけどね。それで、むしろ私が人間を使う側になろうって思ったの」


「それはまた突飛ですなぁ」


色々とツッコミたいこともあるが、そっとしておこう。

掘り下げるとより一層ドロドロしたものが飛び出てきそうだ。


「かなりざっくりと話すならこんなところね。あなたは、どう思った?」


「どうって、ただめんどくさいなぁと」


「あら、普通だったらここで同情なり称賛なりしてもらえるのだけど」


「伊達にボッチはやってねぇぜ!」


自分で言って悲しくなる。

ほら、変なこと言うから蓮さんも黙っちゃった。


「……ねぇ、あなたが生きている世界は、どんな場所なのかしら」


俺の発言が場を冷やしたのかと思えば、急に何かを思い詰めた神妙な雰囲気で問いを投げかけてくる彼女。

だが、その意図するとことはなんとなく理解できる。


「そりゃあ、ギャグと悲嘆に満ちたロクでもない場所だよ」


「それは、とても楽しそうね。ねぇ、私もその世界へ連れて行ってくれないかしら」


「好きにすればいいと思うけど。まぁ、蓮さんはギャグと作風が違いすぎるから居心地悪いと思うが」


「そう。それなら、強引にでもあなたの世界に踏み入って私色に染めようかしら。そうね、このままホテルにでも行ってみない?」


首に回された手に力が込められ、思う存分に豊満な体が押し付けられる。


「や、やめろっ!変なことしたら公衆便所にでも置いていくぞ」


「あん、それはそれで興奮するわね」


やだ、ド変態じゃないですか。


そんなこんなでワーキャーやっていると、長い旅も終わりついに終着点へ。

辿り着いたのは、この街で一際目立つ高級住宅街、タワーマンションが立ち並ぶコンクリートジャングル。

ここへ近づくにつれ街並みのシャレオツ感が増し嫌な予感はしていたが、やはり彼女はどこかのご令嬢か裏の世界の住人なのかもしれない。


「本当にここであってるんです?」


「ええ。ほら、あの一際高いマンションね。素敵なおじさまに一部屋買ってもらったの」


「は、ははは」


とんでもない現実に乾いた笑いしか出てこない。

とにかく、ここは人通りも多く女性を背負っている姿はかなり目立っているため、さっさと彼女をあそこに送り届けて帰ろう。


「よし、着いたぞ」


そして、ようやくゴールへ。

このままタワマンの豪華絢爛で格式高いエントランスに入る度胸はないので、玄関口で背負った蓮さんを降ろす。


「最後まで送ってくれないのね」


「勘弁してくれ。ここが限界だ」


「意気地なし」


ここでまた無茶振りされたらどうしようかと思ったが、素直に背中から降りてくれる彼女。

ふう、男として一皮むけた気がするな。


「んじゃ、そういうことで」


「ええ、また明日。ふふっ、明日がこんなにも待ち遠しいのは初めてだわ」


「うえへぇ~い」


本来なら諸手を挙げて喜ぶセリフだが、事情が事情なだけに変な声しか出てこない。

そうして俺は、彼女に背を向け手をひらひらさせ、さっさと帰路についたのだった。



次の日の昼休み。

文芸部の部屋に岡、南出、蓮さん、清楚さん、野薔薇さんが集まる中、俺らはランチタイムを送っている。

孤独な蓮さんのために清楚さんと友達つくろう大作戦を開催し、俺はさっさとドロンするつもりで邪魔が入らない人気のない場所を選んだつもりだが、余計なものまでついてきてしまった。

いや、晴れ空が覗く部室で長机を囲み皆と過ごすなんて、まるで上等な青春物語だと喜ぶべきところだが、今日に限っては和気藹々とはならずギスギスした空気が流れ続けている。


「はい、優ちゃん、あ~ん」


「え、い、いや、でへへ」


「ちょっとダーリン、なにデレデレしてんのよ!そんなに好きなら私がやってやるわ!ほら、あ~ん!」


「ふがっ」


岡から無理やり口にちくわぶをねじ込まれる。

なぜ、ちくわぶなんだ。


「乱暴ね。ねぇ、こんなうるさいだけの女より、私と付き合った方が楽しいと思うわよ」


「いや、付き合ってな」


「はぁ!?エロいことしか能がないあんたなんて、ニキビ面の中学生かスキニ―ジーンズ大学生か中年のおっさんぐらいにしか需要はないでしょ!ダーリンの奥手童貞ユニコーンオタク具合を舐めないでもらえるかしら!」


「心外ね。私、結構名のある大人の手綱も握っているから、エロ以外も何でもしてあげられるわ。それに、お金だっていくらでもあるし、将来の進学も就職も融通利かせてあげるわよ」


「そういう裏に脂ぎったおっさんの顔がちらつくだけで萎える男だってことすらわからないのね。ゴートゥーヘゥル」


岡と蓮さんは水と油のようで、部室に集まってからは対面でずっと言い争いをしている。

その引き合いに出されイジられる俺はたまったもんじゃない。


「へっ、どうせあんたなんて、今後の展開で無茶をやるために用意された某警察漫画の黄色スーツポジみたいな都合のいいキャラなんだから、大人しくしてなさいよ」


「あらあらあらあら、第一話で外見すら描写されなかったモブキャラに言われたくありませんわ」


「ハッ、これだから性欲に頭を支配されて低能は。あれはね、読者が理想のヒロイン像をメインヒロインである私に投影できるようにした全く新しい手法なのよ!」


いや、単に忘れていただけだと思う。


とにかく、どうにかしてこの場を収めたいが、清楚さんはなぜか二人の喧嘩をニコニコしながら眺め、南出は大量のハンバーガーに埋もれて真っ白に気絶している。

肝心の野薔薇さんは、窓の外を眺めて我関せずだ。

ここに無理やり押し掛けたんだもん、仕方ないよね。


「いたいいたい」


「ふんっ」


二人の間であたふたしていると、急にわき腹をつねられる。

隣を向くと、こちらを見向きもしない野薔薇さんが手を出していた。


「ちーちゃん……」


「デレデレしないでよ、バカ」


別にデレデレはしてないっすけど、ちくしょう、嫉妬するなんて可愛いじゃないか。

いや、ちーちゃんまで参戦すると収拾がつかないので、さっさと病院に行ってほしいのだが。


「まぁまぁ、いいじゃないですか。せっかくこうやって皆と集まれたんだから、これから仲良くしよ?」


口を挟んだのは相変わらず笑顔の清楚さん。

状況はどうあれ孤立していた岡と蓮さんがこうして皆といる、それが嬉しいのだろう。

そうだな、これはこれで悪くはない。


ただ、俺はここで立ち止まるわけにはいかない。

当初の目的を忘れるな、俺はこの岡椎名から逃げなければならないのだ。

この状況を楽しい、なんて思ってなし崩しに受け入れてしまえば、きっと後悔する時が来る。

俺が望む未来は普通の恋をして嬉しいことも悲しいことも織り交ぜた静かな人生を送ることなのだから。

というわけで。


「んじゃ、皆仲良くなれったってことで、俺のお役目はご免かな。これから色々大変なこともあるだろうけど、仲違いせずに頑張るんだぞ。それじゃあ、健闘を祈る!」


「は?何言ってんの?」


その質問に答えることもなく、部屋を後にする。

励めよ、うら若き乙女たちよ。

第一部、完。

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