委員長編

「ふわぁ~あ」


朝。

気怠げにふにゃふにゃ声で目覚めた私の名前は岡椎名!

私立青葉学園に通う、今をトキメク高校二年生、世界で一番可愛いけどちょっぴりドジな女の子!

なんて言っている間に本領発揮、目覚まし時計を見ると完璧な寝坊!

急いで世界が羨むワガママボディに如何にもラブコメアニメ風のカラフルでフリフリした制服を着込むと、最強ヒロインの爆ッ誕!

そうして食パンを咥えたまま学校へ向かって走り出すの!


「いっけな~い、遅刻遅刻~!」


朝の通学路、風に吹かれ走る私の姿はまさに、メインヒロイン!

私の物語はここから始まるの!

そうら、おあつらえ向きに目の前には丁字路。

このまま突っ込めば、あのパッとしない冴えない主人公にぶつかるイベントが起こるはず。

根拠なんてないけど、この世界はきっとそういう風にできている。

そう、私をメインヒロインへと導くように!

さあ、突撃じゃ!



いつもの朝、いつもの通学路を歩く。

だが、今日の俺は一味違う。

いつもより早起きし朝風呂からの髪をセット、朝食はステーキを喰らった。

今の俺は肉食系男子。

肩で風を切って意気揚々と歩くその姿には昨日の弱々しさは全くない。

新学年早々からつまづいてしまったが、ここからまた俺の春がスタートするのだ。

彼女が俺の隣の席だという悍ましい現実に目を背けながらも。


「うっ」


通学路の途中、住宅街の丁字路に差し掛かろうとした所で急に背中に悪寒が走る。

普段と変わった様子もない光景。

目の前にはサラリーマンっぽい小太りのオッサンが歩いているだけ。

それなのに、俺の足は歩みを止める。

その瞬間。


目の前のオッサンに、左から猛スピードで出てきた物体が勢いよくぶつかった。


「ごふぁっ!」


「イッターい!」


衝突し停止したその物体は、昨日出会った岡だった。

何も見なかったことにして別の道を選びたいが、ここから迂回すると確実に遅刻だ。

仕方がない。

覚悟を決めた俺は、尻餅をつく彼女の前を全力疾走した。

ちなみに、ぶつかったオッサンは空の彼方へと消えていった。


「あっ!」


彼女の前を横切る時に気づかれたようだが、構わず走り続ける。

どうして俺がこんなことをしなければならないのだろう。

今までの平々凡々な日常はどこにいったのだろう。

そう自問自答を繰り返していると、背後からドドドという騒々しい音が近づいてくる。


「待てやゴラァ!」


後ろを振り向くと、鬼の形相をした岡椎名が食パンを咥えたまま追いかけてきた。


「ウワーッ!」


俺は人生で初めて、心の底から叫び声をあげる。


『お母さん、どうして僕に優なんて名前をつけたの?また友達から女みたいって笑われちゃった』


『それはもちろん、あなたに幸せになってほしいから』


『よくわかんない』


『人が幸せになる近道はきっと、皆に優しくすることだから』


―――くそ、変な走馬燈が走ったじゃねーか。

そうして、命懸けの逃亡劇は教室に着くまで続いた。



全力疾走のおかげで疲れきった俺は教室に着くなり自分の机に突っ伏すも、ほとんど同じタイミングで左隣の席に着いた岡は、平然と何事もなかったかのように座っている。

よし、これ以上彼女から被害を受けないように、ホームルームまでこの体勢で過ごそう。


「やだぁ、見てアレ、新学期早々、寝てるヤツいるんだけど」


「実はアレ、寝てないんだよ。友達がいないから、ああやって自分の殻に閉じこもって過ごしてるの」


え、俺のこと?

教室で一人弁当を食べていた時も、暇な時はとにかく読書して時間を潰していた時も、こんなことを言われたことはなかった。

今になって振り返ると正にボッチ陰キャ街道まっしぐらの行動、いや、それでも、そんな、ふぐぅ。


「隣にいる美少女と仲良くすればいいのにねー」


「あんな美少女の隣に座れるチャンス、掴まない理由がないのにねー」


「って、お前かよ!」


「いやんっ♪」


一人芝居中の岡椎名にツッコミを入れる。

ちょっとだけ泣きそうになったじゃないか。


「もう、どうしてそんなに私と関わるのを嫌がるのかなぁ。出会った時はあんなにときめいた顔をしていたのに」


「あの時は俺もどうかしてたんだ。あんなイかれた言葉に耳を貸すなんて」


昨日の彼女の第一声を思い出す。

進級して少しだけ浮ついた気分になっていた朝礼前のこと。

隣の見知らぬ女生徒に話しかけられ胸が高鳴るも、それはすぐに警鐘へと変わる。


『はじめまして、私は岡椎名。キミ、ここは初めて?ああ、緊張しなくてもいいわ、わからないことがあれば、これから私が教えてあげるから。それと、今から実戦に入るけど、あなたのことは私が守るから安心してね』


これ、間違っているよね。


「ヒロインっぽいでしょ?」


「いや、最初は親切にしてくれるけど、後々黒幕だと判明するキャラだろ。そもそも、世界観が違うんだよ」


「じゃあ今からやり直すわ」


「いや、いい」


俺の言葉を無視し、彼女は咳払いを一つし口を開く。


「ねぇ、キミ、納豆のタレのどこからでも切れますがどこからでも切れない顔をしているね。一目惚れしました、好きです、付き合ってください」


うんざりした俺は彼女の戯言を無視して、右隣の刈り上げおかっぱ丸渕メガネの男子生徒に話しかける。


「なぁ、昨日のテレビ見た?クソ面白かったよな、教育番組の身近なもので世界を創ろうってやつ」


「え、えぇ?」


「特に割り箸とティッシュで天地創造した時とか、めちゃくちゃ熱かったよな」


「そ、そうですね、個人的には、卵レンチンのビックバンが好きでしたが」


なに言ってんだコイツ。

ああ、俺は知らない人にこんな馬鹿なことを話す性格ではなかったのに、彼女に毒されはじめているのか。

青春がクラウチングスタートの構えをとって俺から離れようとしている光景がまざまざと思い浮かぶ。


「もう、私を無視するなんて照れ屋さんなんだから。逃さんぞ」


誰か助けて。



岡の言動に気を揉みながら時間の経過に身を任せていると、担任の教師が入ってくる。

無精髭を生やした中年の先生、通称ヒゲ先である。

一年の時とは違う担任だが生徒からの評判も良く、ものぐさだが人当たりの良い教師で有名だ。


助かった。

岡もある程度の常識はあるようで、ホームルームや授業の際には大人しくしている。


そして、そのまま一限目に突入。

内容はオリエンテーションであるため、そのまま担任のヒゲ先が取り仕切る。


「それじゃあ、まずはクラス委員でも決めるか」


ほほう、いきなりそう来たか。

過去の俺ならこんなもんは関係ないと独り窓の外を眺めていただろう。

しかし、今回は違う。

岡椎名の魔の手から逃れるためにも、ここで一歩踏み出さなければならないのだ。

どんな委員でも基本は委員長と副委員長のペアになる。

そう、ここで勇気を振り絞り他の女生徒と仲良くできれば、岡椎名のルートから逃れることもできるはずだ。

いや、男子生徒でもいい、とにかく、彼女以外の生徒と過ごす時間を得なければならない。


ヒゲ先が黒板につらつらとクラス委員の種類を書き連ねていく。

その間、生徒らが自由に話し出している。

その中でも耳を傾けるべきは、アレだろう。


「華恋ちゃんは、やっぱり学級委員長?」


「そんな、私はいいよ~」


友人と談笑する彼女の名前は清楚華恋せいそかれん

名前からもわかる通り絵に描いたような黒髪ロングの優等生で、去年は別クラスだった俺ですらその存在を知っているほどだ。

彼女が仮に何かの委員になるとすれば、そこが狙い目。

あの人柄なら俺のような奴とも仲良くしてくれるはずだ。


「何見てんの?」


「話しかけるな、俺は今、人生の分岐点に立っているんだ」


「ははーん、さては、あの清楚キャラに惹かれたな?でも、委員長キャラって大体没個性だよね」


「全ての委員長に謝れ」


いかん、ツッコミを入れている場合ではない。

淡々と話を進めるヒゲ先の言葉に集中する。


「まずは学級委員からか。まぁ、こんなめんどくさい役はやりたくないだろうから、適当でいいぞ」


クラス全体の空気は既に清楚さんを推す気で満ちている。

これは、彼女自身の内心とは関係なく周りの期待に押し潰され作り笑いでその役を受けるような、恋愛ゲームでよくあるパターンではないだろうか。

そうだ、ここで俺が立候補すれば、あの人私を庇ってキュンッ、となるのではないのか。

そして、ついでに副委員長が彼女になれば文句なし。

神様、勇気をください。

ボッチインキャの俺に、この鉛よりも重い腕を天へ伸ばす力をください!


「はい!私が委員長に立候補します!副委員長はこの四十竹優で!」


こいつ、やりやがった。

俺がしどろもどろしている合間に隣で勢いよく立ち上がり立候補する岡。

それに、わざわざ俺を指差し、こちらまで巻き込んで。


「よかったな、四十竹くん。今日からキミが副委員長だ」


「ええぇ」


現実逃避した俺は隣のメガネくんに話しかける。

いや、ふざけている場合ではない。

断固として拒否しなければ。

どうしようか頭を悩ませると、救いの手を差し伸べるようにヒゲ先が岡へと言葉を投げかける。


「お前みたいな問題児を委員長にできるわけないだろうが。去年もお前の行動にどれだけ振り回されたと思っているんだ」


「なんとまあ、聞きました奥さん!この教師にあるまじき発言!公平じゃない、平等じゃない、基本的人権を求めます!」


「はいはい、じゃあ、学級委員長は清楚でいいな」


「は、はい、大丈夫です」


そのまま、流れるように副委員長も清楚さんと仲が良い生徒に決まってしまう。

ヒゲ先が彼女の暴走を止めてくれたのはよかったが、俺の計画は早々に砕けてしまった。

加えて、これによって周りの生徒は俺が岡椎名と知り合いであると認識したかもしれない。

以降、次々と委員が決まる中、俺は絶望に沈むのであった。


「はぁ、残念。しょうがない、ダーリン、二人でいきものがかりでもやろっか?」


「この学校にそんな係はない」


「羽ばたいたーらー、戻らなーいといってー」


勘弁してくれ。



一限目が終わり、授業間の休憩時間。

俯き意気消沈していると、後ろの席から声をかけられる。


「なあなあ」


背中を叩かれたため振り向くと、そこにはギャルっぽい女性がいた。

まったく交流もない見知らぬ生徒だ。


「あんたら、随分おもろそうな話してたやん」


「は?」


「いやいや、アンタと隣の彼女さんのやりとり、はたから見てめっちゃ笑えたで。特に、僕の乳首が取れちゃった、のくだりな」


「いや、そんな会話はなかっただろ」


「あはは、ああ、はぁはぁ、気持ちえぇ。久方ぶりのツッコミ、たまらへん」


白目を剥き痙攣する、関西弁を話すこれまた危険そうな生徒。

いや、現実と妄想が混ざった岡椎名よりかは幾分マシだろうか、いや、そんなことはない。

しかし、これは、チャンスか?

彼女と仲良くなれば、岡と距離を置けるかも。

あ、俺、感覚麻痺してる。


「せや、友達になろうや。一年間暇でしゃあなかったけど、ようやくボケとツッコミ担当を見つけたわ」


「えぇぇ」


「よっしゃ、ウチの名前は南出弥音みなみでみおんや。アンタは?」


「いや、まだ何も」


「ダメーッ!」


勢いよく岡椎名が割って入ってくる。

もしや、俺が他の女性と話しているのを見て嫉妬でもしたのか?

ははは、可愛いやつめ。


「なんで駄目なんだよ。コイツと仲良くなるつもりはないが、誰と仲良くしようが俺の勝手だろ」


「馬鹿!不用意に関西弁キャラなんて出したら本場の関西人から、このエセ関西弁腹立つなぁ、この作者殺ったろ、てなっちゃうでしょ!」


俺のピュアな感情を返せ。


「ようわからんけど、そっちの椎名ちゃんも仲良くしようや。噂は聞いとったで」


「あ、ダーリン、私、今、気付きました。関西弁キャラは字面だけ見るとガラの悪いヤクザみたいですねぇ」


「誰がダーリンだ」


「もう、無視せんといてや」


痺れを切らしたのか南出が立ち上がり、岡の側へと向かい、その手を取った。


「ほんま、黙ってればええ顔にええスタイルしてるし、なぁ。あ、いや、ウチおもろいやつも好きやからそのまんまで全然かまへんけど」


「な、なに?なんなの?」


関西女の様子がおかしい。

彼女が岡へ向ける視線に妙に熱がこもっている。

まさか。


「あっ、そっち?」


「せや、なんか文句あるんか」


「いや、むしろ応援してる」


来た、千載一遇のチャンス!

このまま二人が付き合ってしまえば、俺の平凡な学園生活が戻ってくるだろう。


「まって!何勝手に話進めてんの!モブキャラと恋仲になるメインヒロインなんて聞いたことない!ダーリン、助けて!」


「ん?やっぱり二人は付き合ってるんか?」


「そのような事実は天地神明に誓って、ございません」


「嘘だっ!私の心と体を散々弄んでおいて!」


珍しく動揺している岡。

こんな性格をしておいて押しには弱いのかもしれない。


「よかったじゃん、念願のメインヒロインになれて」


「はい、え~タイトル変わりまして、関西弁女子と私が恋に落ちるわけなんてない!をお送りします、ってバカ」


「あはははは、ようわからんけど完璧や」


それでは、二人を邪魔しても悪いのでトイレにでも行こうじゃないか。


「メガネくん、トイレに行こう」


「ぼぼぼ僕にそんな趣味はありませんよ!」


「なんでやねん」


あれ、隣の彼も結構個性的なのか?

俺の周りは変な奴らばかりだな。

仕方なく席から立ち上がり教室の外へ一人で向かう。


「まって!私をおいていかないでよ!」


南出にガッチリとロックされた岡を放置して、俺はその場から離れた。



授業中はそれほど問題ないが、合間の休憩時間になればアイツらがやってくる。

そんな地獄のような時を経て昼休み。

こんなことが毎日続くなら俺の身が持たないだろう。

かと言って、強く拒否することのできないこの貧弱精神。

ぐぬぉお。


頭を抱えていると、ガンッと甲高い音が響く。

音の正体は、隣の岡が俺の机に自分の机を激しく寄せた音だった。


「ダーリン、一緒に食べよ!アーンとかしてあげるから」


「出会って二日目でそんなことをする奴がいるか。そんなんヒロインじゃなくて、ただのビから始まってチで終わるアレだろうが。ヒロインはなぁ、奥ゆかしくサラダなんかを率先して取り分けてくれるような清楚キャラじゃなきゃだめなんだよ」


「え、なに語りだしてんの。キモッ」


「なんでそこで普通の反応をするんだよ」


岡椎名という人物が全く理解できない。


「でも私、めげません。メインヒロインの形はどれだけあってもいいと思います。ええ、ええ。今は多様性の時代ですからね」


「お邪魔するで~」


どうやってこの場から逃げるか考えている時、南出が後ろから強引に割り入ってきた。


「ああん?邪魔するなら帰って~。ほら、ぶぶ漬けどす!」


「あっついわ!」


どこからともなく取り出されたぶぶ漬けを南出に投げつける岡。

付き合いきれない俺は早々に南出に席を譲り、弁当を携えて外を目指す。


「譲るから、好きにやってくれ」


「なんや、話がわかるやっちゃな」


「ちょ、ダーリン、それはないっすよ~!第一話で他人の手でヴァージンを散らすヒロインなんて見たくないでしゅお~」


「おっ?そっちの話題もいけるクチなん?よっしゃ、ウチのゴッドハンドをお見舞いしたるで!」


揉みくちゃになっている二人を無視して教室を後にする。

さて、どこに行こうか。

食堂で一人弁当を広げるのはハードルが高く、便所飯なんてのは持っての他。

それならば導かれる答えは一つ、校舎裏だろう。



人気が全くない校舎裏。

殺風景かと思いきや校舎の反対側、フェンスの手前に木々が生えており、涼しげで緑が映える中々悪くないスポットだ。

ヤンキーがいないかが唯一の懸念点だったが、それもなさそうだ。


「はぁ」


まさか、進級してすぐにあんな目に合うとは思いもしなかった。

アイツがいなければ、きっと今頃は多くの友人たちと食卓を囲んでいたに違いない。たぶん。

傷心したまま弁当を開け食事を始める。

ああ、母さん、この弁当、なぜだかいつもよりしょっぱいよ。

このままだと塩分とストレスで高血圧になっちゃうよ、なんて、ハハハ。


馬鹿みたいなことを考えていると、木々のせせらぎの中に足音。

もしかして、先公か。


「あの、いきなりごめん。四十竹くんだよね?少し、お話いいかな」


その衝撃たるや頭を長ネギでひっぱたかれたよう。

目の前にはあの、見目麗しい清楚華恋が立っていた。


「その、岡さんのことで話があって」


「あばばばばば、な、なんでせう」


岡のこと?

いや、それ以前に、全く頭の処理が追い付かない。


「隣、座るね」


「どどど、どうぞ」


我ながら気持ち悪い反応をしてしまう。

岡が相手なら、こんなに緊張することもないのに。

いや、それは決して、俺があちら側の人間であるということではない。


「あのね、今日の岡さんと君の様子を見ていろいろと思うことがあって」


なんだろう、岡と彼女は知り合いなのか。

しかし、茶化すことのできそうにないこの雰囲気、切り替えてちゃんと会話をしなければ。


「それで、どうして俺に話を?」


「私ね、できればクラスのみんなと仲良くしたいんだ。でも、去年から岡さんは皆から腫れもの扱いされていて、あまりいい空気じゃなかったから。あ、いじめられていたとかじゃないからね」


腫物扱い、そりゃそうだ。


「ああ、同じクラスだったのか」


「うん。だから、岡さんと仲良くしている人に話を聞いてみたいと思って」


なるほど、彼女はクラスの雰囲気を気にしていたのか。

それで、珍しく岡と一緒に騒いでいる俺に解決の糸口を見出したと、そんな所か。

さすが委員長、なんていい娘なんだ。


「あ、そういえば、自己紹介がまだだったね。私、清楚華恋っていいます」


「これはご丁寧にどうも。四十竹優です」


「よろしくね」


ああ、俺が求めていたものはこれだよ。

この青春が始まりそうな空気感。

岡絡みであることが唯一の難点だが、ようやく、まともな知り合いができた。


「それでね、四十竹君がよければ、彼女に私を紹介してくれないかな」


「あー、いや、どうだろうか」


「何か問題があるの?」


「たぶん、清楚さんが思っているほど簡単な話じゃないよ。アイツは他人よりちょっと変わっているとか、そんなレベルじゃないんだ」


「うん、それでも構わない」


揺らぎないその強い眼差し。

ああ、彼女の優しさは五臓六腑に染み渡るようだ。

惚れてまうやろ。

しかし、どうやって紹介するか。

素直にこの話を持ち出しても、岡が素直に従うとは考えにくい。

あ、それならば。


「わかった。俺もまだそんなに仲が良いわけじゃないからどうなるかわからないけど、やってみる」


「うん、ありがとう」


その後、他愛もない話をして時間を潰し、清楚さんとタイミングをずらして校舎裏を後にした。

それにしても、岡以外とも案外普通に話せるじゃないか、俺。

未来は明るいな。



幸福な昼休みを終え教室に戻ろうとした途端、全身を突き刺すほどの殺気が全身に迸る。

何事かとおずおず中を覗くと、そのドス黒いオーラを放っていたのは岡だった。

いや、あくまでも比喩だが、彼女が怒っているのはわかる。

そして、周りの生徒は怯え震え、南出は自分の席で真っ白になって気絶している。

何が起きたのか。

もしや、俺がアイツと一緒に飯を食べずに放置したことが原因か。


「あ、四十竹くん、あれって」


声をかけられた方を振り向くと、先に教室に戻っていた清楚さんが教室前の廊下で戸惑っていた。

それならば、ここは男を見せなければいけない。

もしかしたら、岡の怒りの矛先は俺ではないかもしれないし、何とかなるだろ。


「俺に任せとけ」


俺は急いで踵を返し、購買部へ向かう。

恋愛ゲームで培ったイケメンらしい行動で対応すれば、ゲーム脳のアイツも鎮まるかもしれない。

その一縷の希望を求め購買部で適当なジュースを買う。

確認もせずに急ぎ買ったものはメロンジュース(生ハム入り)。

いや、そんなことはどうでもいい。

とにかく、授業が始まる前にあの場を収めなければ。


早足で教室に戻り、意を決して中に入る。

歩みを進め岡に近づくほどに身体が引きちぎれそうだが、泣き言を言っている場合じゃない。

清楚さんのためにも、明るい未来のためにも、俺がこの世界の救世主とならなければならないのだ。


「あの、岡さん?」


岡に近づき声をかけるも、反応はない。

ここで退くな、下の名前を呼ぶくらいの根性を見せろ。

手に持ったドリンクを彼女の頬にピトッと触れさせ名を呼ぶ。


「椎名」


そうすると、彼女は首だけを二百七十度ほど動かしギギギとこちらを振り向いた。

その形相は般若を妬みと嫉みで百年ほど煮込んだようだ。

こいつは本当に人間なのだろうか。

いや、地球外生命体に違いない。


ああ、足が震えてきやがった。

恋愛ゲームの全ての主人公よ、俺に力を分けてくれ!


「悪かったよ。その、人前であんなこと、恥ずかしくて出来なくてさ。お詫びにこれやるから許してくれ」


「明日」


「え?」


「明日、一緒、ランチ」


「わかったよ。ごめんな」


闇が晴れたようにパッと岡の笑顔が戻り、空気が弛緩する。

ああ、やったよ、世界中の皆。


「もうダーリンったら、恥ずかしいならそう言ってくれればいいのに~。じゃあ、明日は人気の少ないところで一緒に食べましょ。チウチウチウチウ、ぶへぇ」


渡したジュースを飲み吐き出しながらも笑顔の岡。

状況がどんどんと悪い方向へ進んでいるような気もするが、精神衛生上、現実を直視しないほうがいいだろう。


母さん、俺、不登校になりそうだよ.



放課後。

清楚さんに岡を紹介する時が来た。

人気のあるところは避けたいので、清楚さんが待機する空き教室に岡を誘導する算段だ。

一番の不安要素だった南出も、昼休みの件からずっと気絶しているため邪魔されることはないだろう。


「なあ、話があるんだが」


「なになに、放課後デート?そしてそのまま朝までコース?ヤッベ、興奮してきたわ」


「いちいち暴走するなよ。ほら、昨日、空き教室で話したろ。またあの場所に来てほしいんだ」


「やだ~、ダーリンのエッチッチ!校内でなんて、エロゲのやりすぎだから~!」


軽く話しかけただけでこの始末。

ぶん殴りたいな、こいつ。


「いいから、来るか来ないかを聞いているんだ」


「あなたの行く先が、例え冥府魔道だったとしても、私はこの命を賭して付き従います」


「うわ、ラスボス前にヒロインから言ってほしいセリフランキング第七位のやつじゃん。いや、ちゃうねん、もう来ないならいいわ」


「優ちゃん、そんなこと言わないの。ちゃんとお母さんもついていくから」


「キャラが迷走してるぞ、おまえ」


とりあえずは了承は得たと考えていいだろう。

詳しい内容はあえて話さずに席から立ち上がり空き教室へ向かうと、彼女も勝手についてくる。

なんだかんだ言いながら、扱いやすい性格をしているな。


「ところで、気になっていたんだが、岡は俺のことをどう思っているんだ?いきなりダーリンなんて呼んで、引っ叩きたくなるんだが」


ふと、廊下を歩いている途中、今まで疑問に思っていたことを岡に投げかけてみる。

彼女のイかれたノリに圧倒されて基本的なことを聞くことを失念していたが、もしかしたら、本当に彼女が俺に一目惚れでもして、行動こそおかしいものの彼女なりに接近しようと努力している結果なのではないのかと。

それ次第で、俺も今後の対応を真剣に考えることになるだろう。


「えー、いきなりなんですかー。そりゃまぁ、好きですよー、はい。うん、たぶん好きです」


「あっ」


「いや~、ぶっちゃけ、私がメインヒロインになれれば相手は誰でもいいっていうか、ダーリンは女性経験がないからちょろそうだな~ってわけで、はい」


いや、本気で惚れられても困るのでこれでいいだろう。

嫌なところを突かれて泣きそうだけど気にしない、うん。


「えっ、なに泣いてんの?」


「俺、ウェットアイなんだ。ドライアイと逆のやつ」


「あ、はい」


所々で普通の反応をするのは本当にやめてほしい。

それにしても、コイツがなぜメインヒロインなんぞにこだわるのか、いい機会だから聞いてみるか。


「なぁ、そもそも、なんでお前はメインヒロインになるなんて訳のわからんことを言っているんだ」


「あ、それ聞いちゃう?確かに、読者の皆さんも私の行動原理がわからずに戸惑っていたでしょうし、ここらで明かしときますかね。あっ、残念、私への好感度がまだ足りませんでした」


「そのノリ、皆飽きてるぞ」


「物語が終わるまでこの調子でいきますよ、私は」


そんな下らない話をしていると、目的地へ到着し、そのまま教室の中へ入ると先に待機していた清楚さんが顔を覗かせる。

当然、誰もいないと思っていただろう岡は面食らっている。


「なに、これはどういうこと?」


「単刀直入に言うと、清楚さんがお前と仲良くしたいみたいなんだ。だから、その紹介で」


「トホホ~、もうガチレズはこりごりだよ~」


「いや、そんなんじゃないから」


南出のせいで変な勘違いをしているようだ。


「ごめんね、こんなところに呼び出して」


「はぁ、まあいいっすけど」


早速、清楚さんに声を掛けられるも珍しくタジタジした様子の岡。

まともな人間と話すのは苦手なのかもしれない。

いや、俺もまともですけど。


「で、何用で?」


「その、突然だけど、岡さんと友達になれればと思って」


「あ、ごめんなさい。それではさようなら」


「待て待て待てい!」


そそくさと教室から出ていこうとする岡を慌てて止める。

なんだコイツ、急にコミュ障みたいになりやがって。


「せっかくボッチのお前と友達になるって言ってくれているんだぞ。あの、清楚さんが、お前なんかと」


「同情で仲良くしてもらっても嬉しくない!それに、私と友達になりたいなんて、きっと裏があるに違いないわ!」


「なんだ、自分がヤバい奴だって自覚があったのか」


「うるさーい!」


唐突な大声で辺りは静まり返る。

その言葉を発したのは意外にも清楚さんだった。


「え?」


「さっきから二人だけでイチャイチャして、私を置いてけぼりにしないでほしいな!」


「あ、あの、清楚さん?」


「椎名ちゃんも、友達になるくらい別にいいじゃない!どうしてそんなに嫌がるの!?」


「え、えぁっす」


ぷりぷりと怒り、こちらが口を挟む暇もないほどまくしたてる清楚さん。

まさか彼女にこんな一面があったなんて。

しかし、ここまでして岡と仲良くしたい理由とは。


「せ、清楚さん?ちょっと落ち着いて」


「キミも、どうしてさん付けなんて他人行儀なのかな!」


「いや、いきなり陰キャオタクにそんなこと言われましても、ハードルが高いといいますか」


「一緒に昼食を食べた仲じゃない!」


背筋に冷や汗が一筋。


「ダーリン?どういうこと?」


普段と比べ五段階ぐらい低い声で俺に問いかける岡。

別に、後ろめたく思う必要はない、ここは強気でいこう。


「ふん、別に俺とお前は恋人でもないし、関係ないだろ」


なぜか訪れる沈黙、そして。


―――岡椎名は目を見開き、静かに涙を流し始めた。

は?

突然のことに清楚さんも面食らったようで何も言えずにいる。

そして、慌てた俺は訳も分からず言い訳をする。


「い、いや、清楚さんとは今日会ったばかりだし、彼女がお前と仲良くしたいっていうから、その相談をしていただけで、決してやましいことがあったわけじゃ


「ちょろ」


「は?」


いまだに涙を流す彼女から、おかしな言葉が聞こえた気がするが。


「今、ちょろって言わなかったか」


「あっ、いや、涙が流れ音じゃない?ちょろちょろ~って」


そうして明後日の方向を向きながらへたくそな口笛を吹き誤魔化す岡。

そして、後ろ手を組んでいた彼女の後ろから落ちたのは、大量の目薬だった。

いや、目薬を差す暇なんてなかったはずだが。


「おまえ」


「いやだなぁ~、ちょっとした冗談じゃないですか。あっ、実は私もウェットアイで~」


「もう!私を無視しないでほしいな!」


再び二人の世界に入りかけた俺たちにしびれを切らしたのか、清楚さんが再び声を上げる。


「そんなこと言われましても、この茶番を見たら私とあんたが仲良くできないってわかるでしょ」


「だから、せめて皆とも普通に話せるぐらいの関係になってほしいの!そうやって空気を読まずに暴走してクラスの雰囲気が悪くなる、そんなのはもうこりごりなの!」


「うっ。でもぉ、別に皆と仲良くしたいとも思わないしぃ、我が道を征く、みたいな感じでぇ」


「そんな子供みたいなことを言わないの!」


「ヒィィィィィィィィィィィ」


これに関しては時間をかけなければ解決しない問題で、こんな所で言い合っても平行線だ。

仕方ない、この場は俺がなんとかして収めるしかなさそうだ。


「と、とにかく、岡も、清楚さんととりあえず友達になるということでいいな」


「ぐぬぬ。でも、このギャグ空間でこのキャラは扱いにくいような」


「そんなもん、俺らが気にすることじゃないだろ」


「うえへぇ~ん」


べそをかきながら、観念したのか大人しくなる岡。

これで事態が好転すればいいが、どこか一抹の不安は拭えない。


「椎名ちゃん、これからよろしくね」


「はぁ。コンゴトモ、ヨロシク」



それから、これまた唐突なことながら清楚さんの提案で、岡との親睦会も兼ねてハンバーガーショップを訪れることになった。

委員長だけなら両手をあげて歓喜するが、岡がいる時点で碌なことにはならないだろう。

しかし、今までボッチだった身としては少しだけ興奮するシチュエーションである。


そして今、俺は店内のカウンターで皆の分の食べ物の注文をしている。


「すみません、ポテトとおすすめのドリンクを三つずつ」


「おすすめですと、ビッグバーガーになります」


「いや、ドリンクを頼んだんですけど」


「お客さん、ハンバーガーなんて飲み物みたいなもんですよ。巷では飲めるハンバーグなんてものもありますからね」


なんだこの店員。


「いや、いいです。じゃあ、これでお願いします」


メニューを指さしドリンクを選ぶ。

バーガーショップにきてメインを頼まないのも気が引けるが、夕食前だから仕方がないだろう。


「ご一緒にビッグバーガーセットはいかがですか」


「いらんわ!」


注文を終え、二人がいる席へと着く。


「ごめんね、注文任せちゃって」


「もーまんたい」


ほんま、委員長は気遣いができるええ子やで。

それに比べて岡は委員長が苦手なのかいつまでもムスッとした顔をしている。


「お前はいつまでふてくされているんだ」


「ダーリンに呼び出されたと思ったら、まさか私をこんな策に陥れるためだったなんて。ピュアな心が傷ついちゃった」


「まぁ、それは悪かったと思うが」


「まさか、こんな清楚ビッチにたぶらかされる男だなんて思ってもいなかったな」


「口を慎めよ」


ほんとにこいつは、恥も外聞もないのか。

そんなやり取りをしていると、委員長がふふっと笑みをこぼす。


「やっぱり、二人って仲良しなんだね。噂通り、付き合っているのかな?」


「いや、付き合ってないからね。コイツとは知り合ってまだ二日目だからね。それより、もうそんな噂が流れてんの?」


「だって、椎名ちゃんと仲良く話す人なんて今まで誰もいなかったし」


俺も人のことは言えないが、こいつはそこまで悲しい生活を送っていたのか。


「やめて!その炊き出しのご飯を落としちゃったホームレスを見るような憐みの目をするのは!」


なぜ、そんな限定的な例えをするんだ。


「でも、そんな私の前に彼は颯爽と現れました。そして、こんな私に手を差し出し、私に新しい世界を見せてくれたのです。私の世界を変えてくれたのです。そして、いつからか二人は愛し合うようになったのです」


「捏造よくない」


「照れちゃって、も~」


「本当にそれでいいのか?ラブコメはヒロインと恋仲になった時点で、物語の終わりが近くなるんだぞ」


「うっ」


どうやら意図していなかったようだな。

これで岡の攻勢が弱まればいいが。


「そうですね、近頃は個別ルートじゃなくて共通ルートを一生楽しんでおきたいなんて若者が多いからですね。悲しいですね」


「あ~、その気持ちなんとなくわかるわ」


こんなこと、委員長の前で話すことじゃないな。


「えっと、つまり、二人は仲が良い友達ってことでいいのかな」


「違います。俺の人生の敵です」


「友達以上恋人未満、絆の強さは前世で生き別れた恋人が来世で結ばれるくらいです」


「そ、そうなんだ」


食い違う意見に困惑している委員長。

そんな中でタイミングよく、店員が注文したものを運んでくる。


「お待たせしました。ビッグバーガー千個、お持ちしました」


「は?」


「四十竹くん、それはさすがに頼みすぎじゃ」


「キャラが弱いからって、いきなりドッキリ企画なんかやられても」


「そんなんしてねーよ」


「すみません、ちょっとしたお茶目です」


どうやらただの冗談だったようで、店員が持つトレイを見ると注文した通りのものがあった。

そんな茶目っ気いらない。


「まったく、なんなんだよこの店は」


「変な店員さんだったね。それじゃあ、お近づきの印に乾杯でもしよっか」


「あ、ああ」


各々、飲み物を手に取り、乾杯をしようとしたところで。


「まてまて~い!」


声がした隣の席に目を向けると、そこにはなぜか南出と、教室で俺の右隣の席だった眼鏡君がいた。


「なあなあなあ!さっきからウチらもいるんやけど無視せんといて~な!」


「そうです、心外です!」


「どっから湧いたんだよ」


突然の意識外からの登場に、あの岡ですら驚きを隠せないでいる。


「椎名ちゃん、ウチを置いていくなんて薄情やんか~。あ、店員さん、ビッグバーガー千個!」


「かしこまりました、ビッグバーガー千個はいりまーす!」


居酒屋かよ。


「で、こそこそと三人で何してたん?」


「そうですね、僕も気になります」


「いや、普通に話してるけど、そっちのメガネは誰なの?」


「ふっふっふ、この僕を知らないとは。四十竹くん、僕のことを皆に紹介してください」


「え、えっと。あ、志〇新八君?」


「って、オイイイイイイイ!!」


「うわっ」


これをリアルでやる奴がいたとは、恥ずかしすぎる。

そして、俺の周りには変な奴が多すぎる。


「隣の席なのに、僕の名前を知らなかったんですか!」


「いやだってそんな、ねぇ?」


「どう見たってモブキャラだし、こんな形で登場するなんて、ねぇ」


岡が歯に衣着せずに発言をする。

それにしても、あの岡が珍しく常識的な発言をする時が来るとは。


「はぁ、悪かったよ。で、名前はなんていうんだ?」


「志村新一です」


「紛らわし」


「謝れぇぇ!名前だけでツッコミキャラにされる全国の志村新一さんに謝れぇぇ!!」


「このノリを現実でやる奴ってどう思う?」


「まぁ、若気の至りですよ。そっとしといてやろう」


そう言って俺は眼鏡君に毛布をそっと掛ける。


「あっ///」


なに照れてんねん。

そんな馬鹿げたことを続けていると、さっきから委員長が置いてけぼりにされていることに気づく。

俺はこいつらとは違うぞ、ということで軽くフォローを入れる。


「あ、清楚さん、ごめん。騒がしかったよね」


「別に、いいですよ。みんなで仲良く私を仲間外れにして、とっても楽しそうでした。岡さんにも友達がたくさんいて安心しました」


あれ、笑顔なのに背後に黒いオーラが見えるぞ。


「ちょっと待ってよ、このガチレズとクソ地味眼鏡となんて仲良くないから。ぺっぺっ」


ああ、早々にこの場から去りたくなってきた。

委員長と一緒に抜け出すことはできないのだろうか。


「そんなことより、あんた清楚ちゃんいうんやろ、知ってるで。お近づきになれて幸せやわ~。このあとホテルいかへん?」


「おい、いい加減に」


南出が見境なく委員長にまで攻め入ろうとし、俺がそれをかっこよく止めようとしたところで。


「お待たせしました。ビックバーガー千個です」


「は?」


複数の店員が大量のバーガーを運んでくる。


「ちょちょちょ、さっきのはただの冗談やんか」


「あ、そうですよね。食べ盛りの学生さんがこの程度で満足しませんよね。ビッグバーガーをもう千個追加で!」


「ウボァー!」


南出に千個のバーガーの雨が降る。

そして、店員らは素早くキッチンに戻っていく。


「……もう、出よっか」


「そうだな」


清楚さんの鶴の一言で、俺たちは会計を済ませ店の外に出る。

さらば、南出。



夕暮れに染まる商店街。

街の人々が行き交う中で、俺たちは何ともいえない空気を抱え立ち尽くしている。


「……とりあえず、岡も清楚さんも、これからよろしくってことで」


「う、うん!そうだね」


前向きに考えよう。

この清楚さんとの交流をきっかけに、これからはギャグ空間ではない、まともなラブコメ生活を送れるようになるんだと。


「それじゃあ、帰ろっか」


そして、ぎこちない様子で俺たちはその場を解散した。


「って、オイィィィ!僕のこと、忘れてませんかー!」

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